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6.女王の棲み処
中層 ―大救出劇―
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群がっていた巨蟻の群れは、パルネが中級広域魔法で薙ぎ倒した。
そしてその魔法により凍り付き低温帯と化した洞穴の影響で、後続は完全に断たれていた。更にジャイアントアント達は、メニーナ達の正確な位置も完全に見失っている様だった。
それを利用して……って訳じゃないだろうけど、力尽き倒れたパルネを抱え、メニーナ達はその場より逃走し身を隠していたんだが。
「ヤバいよ、メニーナっ! こいつ等、どんどん集まって来るっ!」
如何に低温に弱い巨蟻族とは言え、それ以外の所では自由に動けるのはまぁ……道理だよな。何よりここは、奴らの巣なんだから。
そんな所で、しかも氷の影響を受けていない場所で休んでいたら、そりゃあいずれは巨蟻族に見つかろうってもんだ。
それでもメニーナ達には、ここから逃げ出す事なんて出来ず。
「わ……私も戦うから、何とかこいつ等を追い払って!」
メニーナも参戦を余儀なくされていたんだ。
彼女達が守るようにして戦う背後の横穴には、意識なく横たわるパルネの姿があった。
魔法の使い過ぎで極度の疲労状態となったパルネは、荒い息を吐いて苦しそうにしている。
その状態が何を表しているのか、経験のある者ならばすぐに察しが付いただろう。本来冒険をしている者達ならば、一度は経験している事でもあるんだからな。
しかしメニーナ達には、その経験が圧倒的に少ない。それにこればっかりは、言って話したところで注意出来る事でも無いからな。
だからまぁ、こんな危機的状況に陥っている訳だが。
「ど……どうしよう、メニーナ! このままじゃあ……」
戦いながらも、ルルディアの表情はもはや半泣きだ。そしてメニーナの方も、そんなルルディアを叱咤出来る状況じゃない。
本当にこのまま策も無いようなら、メニーナ達はここまで。俺が出て助け出す……って事も考えてたんだけど。
「おいっ! 何やってんだ!」
「あ……あんた達っ!?」
気持ちが折れれば、それはそのまま戦力の低下に繋がる。弱気となっていたメニーナ達では、如何に強いとはいえ数に圧されてやられていただろう。
そんな劣勢な彼女達の救援に入ったのは、誰あろうクリーク達だったんだ! まぁ俺は知ってた訳だけどな。
「あの…‥だ……大丈夫ですか!?」
メニーナ達に加勢に入ったクリークに続き、ダレンも戦闘に加わりながら彼女達の身を案じている。この辺は、性格が表れてるなぁ。
「もぅ、数が多いわね! イルマはあの倒れてる子の様子を! すぐにここから離れるわよ!」
「分かりました!」
戦いに参加しようとするソルシエは、悪態をつきながらもテキパキと指示を与える。
戦いの場において仕切るのは、後衛のリーダーである彼女の仕事だからな。そして、この指示も随分と正確になってきている。まだまだ言葉足らずなんだが……成長しているなぁ。
「クリーク! ダレン! それと……嬢ちゃんたち! 私が後ろを黙らせるから、追撃はしないでね!」
「おうっ!」「わかりましたっ!」「だ……誰がお嬢ちゃんよっ!」「わ……分かったっ!」
ソルシエの指示に一部不満はあったようだけど、概ね賛同の声が聞こえて来た。メニーナの抗議を無視したソルシエは、そのまま呪文の態勢に入る。
「我に敵意を向ける者ども! その怒りを鎮めて、静かに眠りに着きなさい! ……眠りの雲!」
ソルシエの選んだ魔法は、初級呪文でも初歩の初歩、「眠りの雲」の呪文だった。これはそのまま魔法名通り、範囲内の敵を眠らせる魔法だ。
もしも先ほどメニーナ達が相手にしていた数の敵が相手なら、この魔法も意味はないな。多少敵を眠らせた程度では、後から湧いてくる巨蟻族に対処出来ないからだ。
でも今は、パルネが付近の敵を根こそぎ倒したおかげで、迫って来る蟻の数もそう多くはない。それに彼女達は、この場で全滅を狙っている訳じゃあ無いだろう。
ソルシエの魔法が発動し、今クリーク達が相手にしているよりも後ろの魔物は全て動きを止めてしまった。恐らくだが、「眠りの雲」が効いたんだろうな。
それと殆ど同時に、クリーク達もそれぞれ相手にしていた労務蟻を片付けた。襲って来ていたのが兵隊蟻でなくて助かったな。
「クリーク、ダレン! あの倒れている子を抱きかかえて、すぐにここから逃げ出すわよ! ……イルマ?」
「ええ! このまま、あちらの方へと後退しましょう!」
「え……ええっ!? あっちって、パルネが凍らせちゃった方じゃあ!?」
「だから良いんです! 巨蟻族は、好んでは寒い所に近付きませんし、襲って来ても動きは鈍くなります! とにかく急いで!」
こうしている間にも、他の階層やエリアから蟻の群れは押し寄せてくるだろう。確かに、撤退するなら今しかない。
「う……うん!」
街の時とは違い随分と真剣な顔と声をしたイルマにそう告げられ、メニーナも反論の気勢を削がれたみたいだ。ルルディアに至っては、かなり素直に従っている。
そしてパルネを抱えたクリーク達は、まだ凍ったままの洞穴へ向けて走り出したんだ。
先ほど戦闘を行っていた場所とクリーク達がこの階層に到達した場所、ちょうどその中間地点で全員が足を止め眠り続けるパルネの容体を見ていた。
「ね……ねぇ? こんな通路の真ん中で足を止めてて大丈夫なの?」
そこは、メニーナの言った通り大きな通路の真ん中だった。普段ならば、多くの蟻たちが行き来している事が容易に想像出来る場所でもある。
「お前、さっきのイルマの話を聞いてなかったのか? あいつ等は寒い処が苦手なんだよ。だからここなら、すぐに大群で押し寄せて来る事は無いって判断なんだよ」
不安そうに問い掛けるメニーナに、クリークはどこかぶっきら棒に答えていた。普段なら、ここからまたギャアギャアと口論が始まる処なんだろうけど。
「そ……そう。……あの、パルネは?」
今の彼女は、意気消沈している。クリークの軽口よりも、パルネの状態が気になって仕方が無いんだ。
「大丈夫よ、メニーナちゃん。今『魔力の呼び水』を飲ませたから」
アイテム「魔力の呼び水」は、魔力の自然回復量を僅かに向上させるものだ。まだまだ金銭的に裕福でない彼等には、一気に失われた魔力を回復させるような道具は到底買えない。
せいぜいが周囲の魔力吸収量を補助するものか、ほんの僅かだけ回復させる事の出来るアイテムを用意するので精一杯だろう。
それでも、魔力の枯渇したパルネには効果覿面だったようで。
「う……ううん」
パルネを案じるメニーナにイルマが答えたその時、パルネが軽いと息を吐きながら目を覚ました。どうやら先ほどまでと違い、気怠そうではあっても辛そうな表情はしていないようだ。
「パ……パルネッ!」「メニーナちゃん!?」
そんなパルネにメニーナが嬉々として声を上げ抱き着き、状況が今一つ理解できないパルネも驚いていた。
「……しっかし、回復アイテムも用意していないなんて。……死にたいのか?」
暫くして落ち着きを取り戻したメニーナ達に、クリークが呆れたような声を上げていた。それに対して、メニーナ達は歯噛みするも反論出来ないでいたんだ。
それもその筈で、彼女達の身に付けている袋の中には、主に水と食料しか入っていなかったんだからな。これには俺もビックリ仰天だ。
どうやらメニーナ達は、回復全般はパルネの魔法に頼るつもりだったらしい。と言うか、回復が必要だって事も念頭に無かったみたいだな……ったく。
「えっらそうに。あんただって、イルマが用意してなきゃ大したもん揃えられないでしょ?」
「ぐ……ぐぅ」
そんなクリークに向けて、ソルシエが彼の頭を小突きながら注意する。それに対してクリークは、まさに「ぐうの音も出ない」ってやつだ。……まぁ本来の意味は兎も角として、「ぐう」は出してたけどな。
「ま……まぁまぁ、ソルシエさん。そ……それも含めての〝パーティ〟なんですから」
そしてそれを、ダレンが仲裁に入る。ここ最近では、この一連の流れが「お約束」となっているらしい。
「……そうなの?」
でもそんな事に詳しくないメニーナ達はそのやり取りをキョトンとして見守り、ルルディアは割と真面目な顔でクリークに向けて質問していた。
「ま……まぁ、イルマに頼ってるのは間違いないな! なんせ、俺たちじゃあ何買うか分かったもんじゃねぇしな! なっ、ソルシエ!」
「まぁねぇ。あたし等じゃあ必要なものを買いそびれたり、いらない物を買っちゃったりしちゃうのは認めるわ」
ルルディアの純粋な視線が痛かったのか、クリークは苦し紛れにソルシエへと話題を振り、ソルシエはシレッと認めて答えていた。
「うふふ」「……あは」
その場にそぐわないやり取りにイルマが笑みを見せ、それを見たメニーナ達にも漸く笑顔が戻って来たんだ。
そしてその魔法により凍り付き低温帯と化した洞穴の影響で、後続は完全に断たれていた。更にジャイアントアント達は、メニーナ達の正確な位置も完全に見失っている様だった。
それを利用して……って訳じゃないだろうけど、力尽き倒れたパルネを抱え、メニーナ達はその場より逃走し身を隠していたんだが。
「ヤバいよ、メニーナっ! こいつ等、どんどん集まって来るっ!」
如何に低温に弱い巨蟻族とは言え、それ以外の所では自由に動けるのはまぁ……道理だよな。何よりここは、奴らの巣なんだから。
そんな所で、しかも氷の影響を受けていない場所で休んでいたら、そりゃあいずれは巨蟻族に見つかろうってもんだ。
それでもメニーナ達には、ここから逃げ出す事なんて出来ず。
「わ……私も戦うから、何とかこいつ等を追い払って!」
メニーナも参戦を余儀なくされていたんだ。
彼女達が守るようにして戦う背後の横穴には、意識なく横たわるパルネの姿があった。
魔法の使い過ぎで極度の疲労状態となったパルネは、荒い息を吐いて苦しそうにしている。
その状態が何を表しているのか、経験のある者ならばすぐに察しが付いただろう。本来冒険をしている者達ならば、一度は経験している事でもあるんだからな。
しかしメニーナ達には、その経験が圧倒的に少ない。それにこればっかりは、言って話したところで注意出来る事でも無いからな。
だからまぁ、こんな危機的状況に陥っている訳だが。
「ど……どうしよう、メニーナ! このままじゃあ……」
戦いながらも、ルルディアの表情はもはや半泣きだ。そしてメニーナの方も、そんなルルディアを叱咤出来る状況じゃない。
本当にこのまま策も無いようなら、メニーナ達はここまで。俺が出て助け出す……って事も考えてたんだけど。
「おいっ! 何やってんだ!」
「あ……あんた達っ!?」
気持ちが折れれば、それはそのまま戦力の低下に繋がる。弱気となっていたメニーナ達では、如何に強いとはいえ数に圧されてやられていただろう。
そんな劣勢な彼女達の救援に入ったのは、誰あろうクリーク達だったんだ! まぁ俺は知ってた訳だけどな。
「あの…‥だ……大丈夫ですか!?」
メニーナ達に加勢に入ったクリークに続き、ダレンも戦闘に加わりながら彼女達の身を案じている。この辺は、性格が表れてるなぁ。
「もぅ、数が多いわね! イルマはあの倒れてる子の様子を! すぐにここから離れるわよ!」
「分かりました!」
戦いに参加しようとするソルシエは、悪態をつきながらもテキパキと指示を与える。
戦いの場において仕切るのは、後衛のリーダーである彼女の仕事だからな。そして、この指示も随分と正確になってきている。まだまだ言葉足らずなんだが……成長しているなぁ。
「クリーク! ダレン! それと……嬢ちゃんたち! 私が後ろを黙らせるから、追撃はしないでね!」
「おうっ!」「わかりましたっ!」「だ……誰がお嬢ちゃんよっ!」「わ……分かったっ!」
ソルシエの指示に一部不満はあったようだけど、概ね賛同の声が聞こえて来た。メニーナの抗議を無視したソルシエは、そのまま呪文の態勢に入る。
「我に敵意を向ける者ども! その怒りを鎮めて、静かに眠りに着きなさい! ……眠りの雲!」
ソルシエの選んだ魔法は、初級呪文でも初歩の初歩、「眠りの雲」の呪文だった。これはそのまま魔法名通り、範囲内の敵を眠らせる魔法だ。
もしも先ほどメニーナ達が相手にしていた数の敵が相手なら、この魔法も意味はないな。多少敵を眠らせた程度では、後から湧いてくる巨蟻族に対処出来ないからだ。
でも今は、パルネが付近の敵を根こそぎ倒したおかげで、迫って来る蟻の数もそう多くはない。それに彼女達は、この場で全滅を狙っている訳じゃあ無いだろう。
ソルシエの魔法が発動し、今クリーク達が相手にしているよりも後ろの魔物は全て動きを止めてしまった。恐らくだが、「眠りの雲」が効いたんだろうな。
それと殆ど同時に、クリーク達もそれぞれ相手にしていた労務蟻を片付けた。襲って来ていたのが兵隊蟻でなくて助かったな。
「クリーク、ダレン! あの倒れている子を抱きかかえて、すぐにここから逃げ出すわよ! ……イルマ?」
「ええ! このまま、あちらの方へと後退しましょう!」
「え……ええっ!? あっちって、パルネが凍らせちゃった方じゃあ!?」
「だから良いんです! 巨蟻族は、好んでは寒い所に近付きませんし、襲って来ても動きは鈍くなります! とにかく急いで!」
こうしている間にも、他の階層やエリアから蟻の群れは押し寄せてくるだろう。確かに、撤退するなら今しかない。
「う……うん!」
街の時とは違い随分と真剣な顔と声をしたイルマにそう告げられ、メニーナも反論の気勢を削がれたみたいだ。ルルディアに至っては、かなり素直に従っている。
そしてパルネを抱えたクリーク達は、まだ凍ったままの洞穴へ向けて走り出したんだ。
先ほど戦闘を行っていた場所とクリーク達がこの階層に到達した場所、ちょうどその中間地点で全員が足を止め眠り続けるパルネの容体を見ていた。
「ね……ねぇ? こんな通路の真ん中で足を止めてて大丈夫なの?」
そこは、メニーナの言った通り大きな通路の真ん中だった。普段ならば、多くの蟻たちが行き来している事が容易に想像出来る場所でもある。
「お前、さっきのイルマの話を聞いてなかったのか? あいつ等は寒い処が苦手なんだよ。だからここなら、すぐに大群で押し寄せて来る事は無いって判断なんだよ」
不安そうに問い掛けるメニーナに、クリークはどこかぶっきら棒に答えていた。普段なら、ここからまたギャアギャアと口論が始まる処なんだろうけど。
「そ……そう。……あの、パルネは?」
今の彼女は、意気消沈している。クリークの軽口よりも、パルネの状態が気になって仕方が無いんだ。
「大丈夫よ、メニーナちゃん。今『魔力の呼び水』を飲ませたから」
アイテム「魔力の呼び水」は、魔力の自然回復量を僅かに向上させるものだ。まだまだ金銭的に裕福でない彼等には、一気に失われた魔力を回復させるような道具は到底買えない。
せいぜいが周囲の魔力吸収量を補助するものか、ほんの僅かだけ回復させる事の出来るアイテムを用意するので精一杯だろう。
それでも、魔力の枯渇したパルネには効果覿面だったようで。
「う……ううん」
パルネを案じるメニーナにイルマが答えたその時、パルネが軽いと息を吐きながら目を覚ました。どうやら先ほどまでと違い、気怠そうではあっても辛そうな表情はしていないようだ。
「パ……パルネッ!」「メニーナちゃん!?」
そんなパルネにメニーナが嬉々として声を上げ抱き着き、状況が今一つ理解できないパルネも驚いていた。
「……しっかし、回復アイテムも用意していないなんて。……死にたいのか?」
暫くして落ち着きを取り戻したメニーナ達に、クリークが呆れたような声を上げていた。それに対して、メニーナ達は歯噛みするも反論出来ないでいたんだ。
それもその筈で、彼女達の身に付けている袋の中には、主に水と食料しか入っていなかったんだからな。これには俺もビックリ仰天だ。
どうやらメニーナ達は、回復全般はパルネの魔法に頼るつもりだったらしい。と言うか、回復が必要だって事も念頭に無かったみたいだな……ったく。
「えっらそうに。あんただって、イルマが用意してなきゃ大したもん揃えられないでしょ?」
「ぐ……ぐぅ」
そんなクリークに向けて、ソルシエが彼の頭を小突きながら注意する。それに対してクリークは、まさに「ぐうの音も出ない」ってやつだ。……まぁ本来の意味は兎も角として、「ぐう」は出してたけどな。
「ま……まぁまぁ、ソルシエさん。そ……それも含めての〝パーティ〟なんですから」
そしてそれを、ダレンが仲裁に入る。ここ最近では、この一連の流れが「お約束」となっているらしい。
「……そうなの?」
でもそんな事に詳しくないメニーナ達はそのやり取りをキョトンとして見守り、ルルディアは割と真面目な顔でクリークに向けて質問していた。
「ま……まぁ、イルマに頼ってるのは間違いないな! なんせ、俺たちじゃあ何買うか分かったもんじゃねぇしな! なっ、ソルシエ!」
「まぁねぇ。あたし等じゃあ必要なものを買いそびれたり、いらない物を買っちゃったりしちゃうのは認めるわ」
ルルディアの純粋な視線が痛かったのか、クリークは苦し紛れにソルシエへと話題を振り、ソルシエはシレッと認めて答えていた。
「うふふ」「……あは」
その場にそぐわないやり取りにイルマが笑みを見せ、それを見たメニーナ達にも漸く笑顔が戻って来たんだ。
応援ありがとうございます!
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