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6.女王の棲み処
中層 ―猛進の代償―
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戦闘を極力回避する方向で、クリーク達は順調に奥へと歩を進めていた。これは、正に地下迷宮を進むのに最適な手段と言って良いな。
「……前方のあの角に兵隊蟻が2匹潜んでいますね」
こまめに広域探知を使っているイルマが逸早く敵の存在を察知し、それをクリーク達に伝える。それを聞いて彼らは、グッと身構えてイルマの指示を待っていた。
「……へぇ」
そんな彼らの動きを見て、俺はまたまた感嘆の声を上げちまっていた。
いやぁ……「男子三日会わざれば刮目して見よ」とは言うけど、本当にちょっと見ないとあっと言う間に成長するんだなぁ。……涙出て来た。
あのクリークやソルシエが、猪突猛進せずにイルマの考えを待つなんて以前では考えられない行為だ。
「……すぐ近くにも蟻の群れが潜んでるみたい。ここは少し戻って、別の道を進みましょう」
周辺を探知して出したイルマの決断に、クリーク達は頷いて応じそのまま来た道を引き返していく。
万事がこんな調子だから、その進行スピードはすこぶる遅い訳だが。……でも、一方ではこれが正解だ。
何が起こるか分からない魔物の巣窟では、無理をせずに進むのが一番だからな。
こうしてクリーク達は、ゆっくりとだけど地下3層、4層と大した疲労もせずに進んで行った。
一方、それとは正反対に爆進していたのは言うまでもなくメニーナ達だ。彼女達は、目にした巨蟻族をとにかく薙ぎ倒していった!
その快進撃は凄まじく、このまま最下層まで行っちまうかと思われたんだが……。
「いっやあぁぁっ!」「……凍氷魔法」「はあぁぁっ!」
次々と集まって来る労務蟻と兵隊蟻をメニーナ、パルネ、ルルディアは次々と葬っていった。
一気に進み俺の印が入った石を回収しつつ、彼女達はすでに数層を踏破していた。
彼女達の技量をもってすれば、これまでの階層に出現するような巨蟻族は相手にもならないだろう。でもそれも、個々での戦闘力を考えた場合であり。
「ちょ……ちょっと、メニーナ。こうも後から湧いて来てるんじゃあ……」
「あ……あれれ? も……もしかして、もう息が上がっちゃったの?」
「ば……馬鹿にしないでよねっ! こ……これくらい、どうって事ないんだからねっ!」
波状攻撃なんて生温いほどの大群で襲い掛かられ続ければ、体力がまず続かないだろう。
体力の減少は、集中力に影響する。集中力が散漫となれば。
「あ……あれ?」
これまで殆ど1撃で倒してきたジャイアントアントも、軽く往なせなくなってしまうんだ。それでもそれが致命的な事にならないのは幸いだけど、更に体力の消耗は早くなる。
「……厳なる凍土よ……顕現せよ。……数多の敵を……この氷原の贄とする。……凍原氷突曠野」
メニーナとルルディアの疲労を感じ取ったパルネが、迫りくる巨蟻の群れに向けて魔法を放った! これまでの初級魔法じゃあなく、より広範囲を強力に攻撃できる中級範囲魔法!
魔族の使う原初なる魔法は、人族のそれよりも遥かに強力だ。それを才能のある者が使えば、その威力は筆舌に尽くし難くなる。
……まぁ、彼女の年齢やレベルにしてはって事なんだが。
「ちょ……パルネェ! やり過ぎじゃない?」
「ウゥッ! 寒い!」
メニーナとルルディアの眼前には、無数のジャイアントアントを氷像として、凍てついた白の世界が巣穴の奥まで続いていた。ざっと見える範囲全てが氷に被われており、動くものがすぐには見つけられない程だった。
「……あ」
メニーナが呆れたような声音でパルネの方を見やると同時に、脱力したような声を出したパルネが片膝をつく。
「ちょ、ちょっとパルネ!? どうしたのさ!?」
これにはルルディアも驚き彼女の身を案じていた。強力な魔法で魔物を一掃した直後なだけに、その異変に彼女達は慌てるしか出来なかったんだ。
2人に案じられたパルネだけどすぐにそれに応じることが出来ず、ただ荒い息を繰り返すだけだった。
ちょっと考えれば分かる事なんだが、彼女が跪かねばならぬほどとなったのは、パルネもまた極度の疲労に襲われた結果だ。
そりゃあ、あれだけ強力な魔法を惜しげもなく、立て続けに使っていれば息も切れるだろう。
武器で戦ってきたメニーナやルルディアだって疲労の色を濃くしているんだから、パルネだって例外じゃあない。単純に、武器で戦うか魔法に依るものかって違いなだけだ。
でも、武器で戦うのとは決定的に違う処が魔法にはある。
それは、力の放出が一気に行われるって事だ。
「と……とにかく、どこか休めるところを探さないと」
「や……休めるところってどこさ!?」
心配するメニーナとルルディアに、パルネはまともに答える事も出来ない。それほどに、先ほどの魔法は消費が激しかったんだ。
いや……それは少し表現が違うか。
これまでにパルネは、消耗を考えずに魔法を乱発し続けて来た。実はそれが、豊富な魔力を保有する彼女だからこそ起こり得る落とし穴だった訳だが。
無策な魔法の使用は、パルネ自身も気付かぬ内に己の魔力や精神力を消耗させていたんだ。
そして、決定的となった中級範囲魔法。中級の中でも初歩ではあるんだろうけど、それでも今の彼女には十分に負担の強いられる魔法だ。
それを火急の事態だったとはいえ放っちまえば、残る僅かな魔力すら根こそぎ消費しちまう。それが今のパルネの状態を引き起こした原因って訳だ。
そして、考えなしの進軍は退避を難しくさせちまっている。
安全地帯を把握しながら進んで来なかった事で、こう言った不意の事態に対処のしようが無くなるんだ。
「と……とにかく、パルネは私が背負うから、あんたは後ろを見ておいて!」
「わ……分かった!」
普段はギャアギャアと言い争う2人だけど、こういう時の自然な共闘も子供ならではだなぁ。
いざとなれば俺が出て行くって考えていたんだけど、これはまだ手を出すのは早過ぎるかもな。
こう言った緊急事態の対応も、今回の競争に託けて確認しておきたい部分でもあったんだ。なんせメニーナ達は、元々からそれなりの強さを持っているからな。
ちょっとやそっとではピンチになってくれない彼女達にも、これは良い経験になる筈なんだ。
「こ……この横穴なら休めそう」
「私は、外を見ておくから」
パルネが倒れた地点から随分と移動して、メニーナ達はすぐに行き止まってはいるが身を隠すには丁度良い横穴を見つけたみたいだ。
パルネの行動は褒められたものじゃあ無かったけど、唯一評価出来る点は途切れず迫りくる巨蟻の群れを分断した事だろうか。
仲間がやられた処へ殺到する習性を持つ巨蟻だが、あれほど広範囲に群がった蟻たちが一瞬で息の根を止められたんだ。外敵の正確な居場所を把握するのは困難で、それがメニーナ達の後退を助けた事になる。
ここでメニーナ達は、ジャイアントアントの巣穴に入って初めて休息を摂る事になった。
巣穴を奥へと進んで行くと、その規模はだんだんと大きくなる。
大きくなれば巨蟻との遭遇も少なくなるか……と言えばそんな事は無く、むしろ頻度は高くなるから不思議だな。
―――地下5層。
ここから先は、クリーク達も初めてとなる領域だろう。
巨大な巣穴に対してジャイアントアントの参戦が早くなると言う事は、それだけの数が犇めいているって訳だ。
ここまで大した消耗もなく進んで来れたクリーク達だけど、流石にこの先はそうも行かないだろう。
「……おい、何だか寒くないか?」
慎重に進むクリークは、真っ先にその場の異変に気付いた。
昆虫の生態を汲む巨蟻族は、基本的には寒さに弱い。この巣穴にしても、入り口からここまで寒いと思えるような処はなく、むしろ熱く感じていた事だろう。
「……そ……そう言えば」
「確かに、やけに冷えるわねぇ」
それでも、今彼らは明らかに気温の低下を実感していた。それどころか、寒いと感じてさえいるのだ。
「……これって!?」
そしてイルマは、広域探知を使用した直後に驚きの声を上げたのだった!
「……前方のあの角に兵隊蟻が2匹潜んでいますね」
こまめに広域探知を使っているイルマが逸早く敵の存在を察知し、それをクリーク達に伝える。それを聞いて彼らは、グッと身構えてイルマの指示を待っていた。
「……へぇ」
そんな彼らの動きを見て、俺はまたまた感嘆の声を上げちまっていた。
いやぁ……「男子三日会わざれば刮目して見よ」とは言うけど、本当にちょっと見ないとあっと言う間に成長するんだなぁ。……涙出て来た。
あのクリークやソルシエが、猪突猛進せずにイルマの考えを待つなんて以前では考えられない行為だ。
「……すぐ近くにも蟻の群れが潜んでるみたい。ここは少し戻って、別の道を進みましょう」
周辺を探知して出したイルマの決断に、クリーク達は頷いて応じそのまま来た道を引き返していく。
万事がこんな調子だから、その進行スピードはすこぶる遅い訳だが。……でも、一方ではこれが正解だ。
何が起こるか分からない魔物の巣窟では、無理をせずに進むのが一番だからな。
こうしてクリーク達は、ゆっくりとだけど地下3層、4層と大した疲労もせずに進んで行った。
一方、それとは正反対に爆進していたのは言うまでもなくメニーナ達だ。彼女達は、目にした巨蟻族をとにかく薙ぎ倒していった!
その快進撃は凄まじく、このまま最下層まで行っちまうかと思われたんだが……。
「いっやあぁぁっ!」「……凍氷魔法」「はあぁぁっ!」
次々と集まって来る労務蟻と兵隊蟻をメニーナ、パルネ、ルルディアは次々と葬っていった。
一気に進み俺の印が入った石を回収しつつ、彼女達はすでに数層を踏破していた。
彼女達の技量をもってすれば、これまでの階層に出現するような巨蟻族は相手にもならないだろう。でもそれも、個々での戦闘力を考えた場合であり。
「ちょ……ちょっと、メニーナ。こうも後から湧いて来てるんじゃあ……」
「あ……あれれ? も……もしかして、もう息が上がっちゃったの?」
「ば……馬鹿にしないでよねっ! こ……これくらい、どうって事ないんだからねっ!」
波状攻撃なんて生温いほどの大群で襲い掛かられ続ければ、体力がまず続かないだろう。
体力の減少は、集中力に影響する。集中力が散漫となれば。
「あ……あれ?」
これまで殆ど1撃で倒してきたジャイアントアントも、軽く往なせなくなってしまうんだ。それでもそれが致命的な事にならないのは幸いだけど、更に体力の消耗は早くなる。
「……厳なる凍土よ……顕現せよ。……数多の敵を……この氷原の贄とする。……凍原氷突曠野」
メニーナとルルディアの疲労を感じ取ったパルネが、迫りくる巨蟻の群れに向けて魔法を放った! これまでの初級魔法じゃあなく、より広範囲を強力に攻撃できる中級範囲魔法!
魔族の使う原初なる魔法は、人族のそれよりも遥かに強力だ。それを才能のある者が使えば、その威力は筆舌に尽くし難くなる。
……まぁ、彼女の年齢やレベルにしてはって事なんだが。
「ちょ……パルネェ! やり過ぎじゃない?」
「ウゥッ! 寒い!」
メニーナとルルディアの眼前には、無数のジャイアントアントを氷像として、凍てついた白の世界が巣穴の奥まで続いていた。ざっと見える範囲全てが氷に被われており、動くものがすぐには見つけられない程だった。
「……あ」
メニーナが呆れたような声音でパルネの方を見やると同時に、脱力したような声を出したパルネが片膝をつく。
「ちょ、ちょっとパルネ!? どうしたのさ!?」
これにはルルディアも驚き彼女の身を案じていた。強力な魔法で魔物を一掃した直後なだけに、その異変に彼女達は慌てるしか出来なかったんだ。
2人に案じられたパルネだけどすぐにそれに応じることが出来ず、ただ荒い息を繰り返すだけだった。
ちょっと考えれば分かる事なんだが、彼女が跪かねばならぬほどとなったのは、パルネもまた極度の疲労に襲われた結果だ。
そりゃあ、あれだけ強力な魔法を惜しげもなく、立て続けに使っていれば息も切れるだろう。
武器で戦ってきたメニーナやルルディアだって疲労の色を濃くしているんだから、パルネだって例外じゃあない。単純に、武器で戦うか魔法に依るものかって違いなだけだ。
でも、武器で戦うのとは決定的に違う処が魔法にはある。
それは、力の放出が一気に行われるって事だ。
「と……とにかく、どこか休めるところを探さないと」
「や……休めるところってどこさ!?」
心配するメニーナとルルディアに、パルネはまともに答える事も出来ない。それほどに、先ほどの魔法は消費が激しかったんだ。
いや……それは少し表現が違うか。
これまでにパルネは、消耗を考えずに魔法を乱発し続けて来た。実はそれが、豊富な魔力を保有する彼女だからこそ起こり得る落とし穴だった訳だが。
無策な魔法の使用は、パルネ自身も気付かぬ内に己の魔力や精神力を消耗させていたんだ。
そして、決定的となった中級範囲魔法。中級の中でも初歩ではあるんだろうけど、それでも今の彼女には十分に負担の強いられる魔法だ。
それを火急の事態だったとはいえ放っちまえば、残る僅かな魔力すら根こそぎ消費しちまう。それが今のパルネの状態を引き起こした原因って訳だ。
そして、考えなしの進軍は退避を難しくさせちまっている。
安全地帯を把握しながら進んで来なかった事で、こう言った不意の事態に対処のしようが無くなるんだ。
「と……とにかく、パルネは私が背負うから、あんたは後ろを見ておいて!」
「わ……分かった!」
普段はギャアギャアと言い争う2人だけど、こういう時の自然な共闘も子供ならではだなぁ。
いざとなれば俺が出て行くって考えていたんだけど、これはまだ手を出すのは早過ぎるかもな。
こう言った緊急事態の対応も、今回の競争に託けて確認しておきたい部分でもあったんだ。なんせメニーナ達は、元々からそれなりの強さを持っているからな。
ちょっとやそっとではピンチになってくれない彼女達にも、これは良い経験になる筈なんだ。
「こ……この横穴なら休めそう」
「私は、外を見ておくから」
パルネが倒れた地点から随分と移動して、メニーナ達はすぐに行き止まってはいるが身を隠すには丁度良い横穴を見つけたみたいだ。
パルネの行動は褒められたものじゃあ無かったけど、唯一評価出来る点は途切れず迫りくる巨蟻の群れを分断した事だろうか。
仲間がやられた処へ殺到する習性を持つ巨蟻だが、あれほど広範囲に群がった蟻たちが一瞬で息の根を止められたんだ。外敵の正確な居場所を把握するのは困難で、それがメニーナ達の後退を助けた事になる。
ここでメニーナ達は、ジャイアントアントの巣穴に入って初めて休息を摂る事になった。
巣穴を奥へと進んで行くと、その規模はだんだんと大きくなる。
大きくなれば巨蟻との遭遇も少なくなるか……と言えばそんな事は無く、むしろ頻度は高くなるから不思議だな。
―――地下5層。
ここから先は、クリーク達も初めてとなる領域だろう。
巨大な巣穴に対してジャイアントアントの参戦が早くなると言う事は、それだけの数が犇めいているって訳だ。
ここまで大した消耗もなく進んで来れたクリーク達だけど、流石にこの先はそうも行かないだろう。
「……おい、何だか寒くないか?」
慎重に進むクリークは、真っ先にその場の異変に気付いた。
昆虫の生態を汲む巨蟻族は、基本的には寒さに弱い。この巣穴にしても、入り口からここまで寒いと思えるような処はなく、むしろ熱く感じていた事だろう。
「……そ……そう言えば」
「確かに、やけに冷えるわねぇ」
それでも、今彼らは明らかに気温の低下を実感していた。それどころか、寒いと感じてさえいるのだ。
「……これって!?」
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