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3.聖霊神殿へ
魔王の威厳
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考えてみれば、魔王城にメニーナたちを連れてくるのは初めての事だよなぁ。
もっとも、メニーナやパルネには魔王城に来て貰う必要なんて無かったし、ルルディアに至ってはつい先ほど一緒に行動する事が決まったんだ。初めて来るのも当たり前なんだけどな。
「……うっわあぁっ! ここが……魔王様のお城かぁっ!」
「お……大きい。それに……綺麗……」
今俺たちは、魔王城正門の前に立ってこの巨城を見上げていた。
初めてやって来る魔王城を前にしてメニーナは声を上げて感動を表しているし、パルネは独り言ちたまま絶句している。ルルディアに至ってはあんぐりと口を開けたまま声も出せないみたいだ。
この魔王城は、名前こそ「魔王城」と如何わしい (人族視点)が、その外見は荘厳で美しい。多分、人族の世界を探してもここまでの城は無いだろうなぁ。
そんな壮麗な城を前にして、驚嘆しない方がどうかしてるってもんだよな。
「さぁ、ここでいつまでも突っ立ってても仕方ないからな。早速、中へ入ろう」
この城は芸術的にも心を打つ形容をしている。純粋に綺麗だと感じてしまえば、いつまでも見ている事が出来るかも知れないな。
でも、俺たちはここに城を見物しに来た訳じゃあ無いからな。
「はぁい」「……はい」「はい!」
殆ど同時に3人は声を上げ、その返事を聞いた俺は魔王城の巨大な正門を押し開いたんだ。
俺がこの魔王城を攻略していた時は、わざわざ階段を昇っていたっけ。
そうして途中の部屋の入口を守る「巨石の門番」を倒し、部屋を守護する十二魔神将を倒していったんだ。
だから1部屋攻略するごとに一旦戻って回復する必要があり、やたらと時間が掛ったっけ。
でも、今はそんな事を気にする必要はない。
既に十二魔神将はおらず、各部屋の前に設置されていたゴーレムも撤去されている。
普通に階段を使っても、半刻もあれば魔王の間まで辿り着けるだろうけど。
「……みんな、俺の近くに。これから、一気に魔王の間に飛ぶからな」
俺がそう声を掛けると、3人の少女たちは俺にヒシっとしがみ付いて来た。
メニーナとパルネは転移の呪法も初体験と言う訳ではないだろうに、やはり初めて来る魔王城って場所に緊張しているのかもな。……ルルディアからはそんな雰囲気は察せられず、表情も満面の笑みなのが気になるんだが。
「……飛ぶぞ」
俺はそれだけを口にし、直後には俺たちの身体はその場所から消え去っていたんだ。
移動は、ほんの一瞬で終わる。
体感時間なんて、瞬きをする間よりも短いだろうな。
「うっわあぁっ!」
「……綺麗な場所」
「……すごい」
そうして転移した先で、メニーナたちは目の前の光景に再び絶句してしまっていたんだ。
眩しいと感じる程の白い空間。壁や床に使われている石材は透明感さえ覚える白で統一されており、神聖な荘厳ささえ醸し出していた。
そんな白色の空間に、ひときわ異彩を放つ……深紅の玉座。
縁取るように金色が誂えられたその王座の背もたれは、天井にまで届かんとばかりに伸びている。
その様子が、まるで純白の紙に血を一滴垂らしたようで……幻想的だ。
「あ……あれ? あそこ……」
「誰か……いますね」
「……あれは?」
とても現実味を感じさせない空間に、やはり夢幻を思わせる存在が玉座に腰かけていたんだ。
夕闇を切り取ったような赤紫色の長い髪に、黝簾石を嵌め込んだかのような青紫色の瞳。
絵画にある女神が抜け出て来たように整った顔立ち。
やや小麦色をした肌は艶があり美しく、彼女の美貌を何ら損なうことは無い。
今はゆったりとした王衣を身に纏っていて分かり辛いが、その衣装の下には見事なプロポーションが隠されている事を俺は知っている。
彼女専用と言って良い聖霊鎧「黒霊鎧」は、その性能こそ俺の持つ「聖霊の鎧」と同等だけど、露出度で言えば断然向こうの方が上なんだ。
始めて相対した時に見たけど……目のやり場に困ったよなぁ。
そんな完璧美女と言って良い人物……この城の主、魔王「リヴェリア・ソシエル・カサルティリオ」は、深く玉座に腰かけて俺たちに優しい笑みを向けていた。
「よく来たな、勇者よ。そして少女たちよ、来城を歓迎する」
まるで竪琴を奏でたような美しい声が部屋いっぱいに木霊する。別に彼女は大声を上げた訳でもないのに、その良く通る澄んだ声は魔王の間の隅々にまで届いたんだ。
「忙しい中、度々申し訳ない」
唖然として声も出せないメニーナたちに代わって、俺は魔王リリアにペコリと頭を下げて挨拶をした。俺と違って彼女は魔界統治の為に政務も熟さなければならないから、忙しいと言ったのは決して社交辞令でも何でもない。
「気にする必要なんてない。勇者の所用は何よりも優先される事だからな」
鷹揚に頷いた魔王が、俺に向けてそう返答する。その頬がやや赤くなっているのは、もはやデフォルトと言って良いんだが。
「……むぅ」
いつの間にか再起動を果たしたメニーナが、何やら怪訝な顔をしてリリアを上目遣いに見つめていた。
気付けば、パルネとルルディアも似たような表情をしている。
魔王リリアの言動に、何か不審な点でもあったのか?
「3人の少女たちとは初対面だったな。私が、この魔界を統べる魔王リヴェリアだ」
王座に座っているんだ。そんな事を言わなくとも、普通なら理解出来る事だろう。
でもメニーナたちは、今の今までその事を失念していたのか。
「ま……魔王様っ!?」
メニーナの上げた声を皮切りとして、途端に跪き平伏したんだ。当然の事だけど、魔界での魔王の威厳と言うのは相当に行き届いているみたいだなぁ。
「少女たちよ、楽にすると良い。そして、1人ずつ名乗りなさい」
普段の魔王リリアからは想像もつかない事だけど、為政者を熟す彼女はいつも俺に接する様な言葉遣いでも雰囲気でも無かった。
目の前に跪くのはまだ幼い少女だというのに、それでも与える威圧感は半端ないものだった。
まぁよく考えればそれも当然だよな。
俺なんかはリリアと出会ったのが戦いの場であり、そこでは互いに対等の立場だったんだ。
戦い止んで話し合い協力する事が決まった今でも、俺たちの力関係は均等が取れている。
だからリリアも俺に対しては部下や臣下、臣民に接するみたいな態度や話し方を取らないんだろう。
でも、メニーナやパルネにルルディアは違う。
彼女達は間違いなく魔界の住人であり、そこにはリリアとの明確な上下関係があるんだ。
ここで親し気に接すれば、他の者に示しがつかないのは間違いない。
そうなれば、魔王リリアに対して軽んじる風潮も出て来るかも知れない。
その結果、最悪の場合リリアは余計な争いに身を投じ、無駄な流血を流させる事になるかも知れないからな。
……まぁ、これは少し飛躍しすぎた考えなんだけど。
兎も角、上下のけじめは確りとつけないといけない。だからリリアは、メニーナたちに王として話し掛けているんだろう。
「メ……メニーナです!」「……アカパルネと申します」「ル……ルルディア……です」
リリアに促されて、3人は三者三様に自己紹介をした。
元気だけど上がっているメニーナ、感情を読ませない静かで落ち着いたパルネはまぁいつも通りなんだが。
ルルディアは、どこか委縮している風にも見える。
怯えてるってのとはちょっと違うけど、何か気になる事でもあるのか? なんて考えていたら。
「……メニーナと……アカパルネ、ルルディアか。……ルルディア、其方の行為に対する責任は保護者であったアヴィドなる者にあった。その者も死して罪を贖ったのだから、其方が気に掛ける事は何もない」
「は……はい」
そうか……。ルルディアは、これまでに行ってきた事を咎められると思ってたんだな。
考えてみれば、魔王は統治者でありこの世界の法そのものだからな。俺は気にしていなくっても、魔王は問題とするかも知れなかったんだ。……これは、俺の配慮が足りなかった。
でもそれも、魔王の赦しを以て帳消しとなった。
ルルディアの顔からも懸念が消え、この場には一旦和んだ空気が流れていたんだ。
もっとも、メニーナやパルネには魔王城に来て貰う必要なんて無かったし、ルルディアに至ってはつい先ほど一緒に行動する事が決まったんだ。初めて来るのも当たり前なんだけどな。
「……うっわあぁっ! ここが……魔王様のお城かぁっ!」
「お……大きい。それに……綺麗……」
今俺たちは、魔王城正門の前に立ってこの巨城を見上げていた。
初めてやって来る魔王城を前にしてメニーナは声を上げて感動を表しているし、パルネは独り言ちたまま絶句している。ルルディアに至ってはあんぐりと口を開けたまま声も出せないみたいだ。
この魔王城は、名前こそ「魔王城」と如何わしい (人族視点)が、その外見は荘厳で美しい。多分、人族の世界を探してもここまでの城は無いだろうなぁ。
そんな壮麗な城を前にして、驚嘆しない方がどうかしてるってもんだよな。
「さぁ、ここでいつまでも突っ立ってても仕方ないからな。早速、中へ入ろう」
この城は芸術的にも心を打つ形容をしている。純粋に綺麗だと感じてしまえば、いつまでも見ている事が出来るかも知れないな。
でも、俺たちはここに城を見物しに来た訳じゃあ無いからな。
「はぁい」「……はい」「はい!」
殆ど同時に3人は声を上げ、その返事を聞いた俺は魔王城の巨大な正門を押し開いたんだ。
俺がこの魔王城を攻略していた時は、わざわざ階段を昇っていたっけ。
そうして途中の部屋の入口を守る「巨石の門番」を倒し、部屋を守護する十二魔神将を倒していったんだ。
だから1部屋攻略するごとに一旦戻って回復する必要があり、やたらと時間が掛ったっけ。
でも、今はそんな事を気にする必要はない。
既に十二魔神将はおらず、各部屋の前に設置されていたゴーレムも撤去されている。
普通に階段を使っても、半刻もあれば魔王の間まで辿り着けるだろうけど。
「……みんな、俺の近くに。これから、一気に魔王の間に飛ぶからな」
俺がそう声を掛けると、3人の少女たちは俺にヒシっとしがみ付いて来た。
メニーナとパルネは転移の呪法も初体験と言う訳ではないだろうに、やはり初めて来る魔王城って場所に緊張しているのかもな。……ルルディアからはそんな雰囲気は察せられず、表情も満面の笑みなのが気になるんだが。
「……飛ぶぞ」
俺はそれだけを口にし、直後には俺たちの身体はその場所から消え去っていたんだ。
移動は、ほんの一瞬で終わる。
体感時間なんて、瞬きをする間よりも短いだろうな。
「うっわあぁっ!」
「……綺麗な場所」
「……すごい」
そうして転移した先で、メニーナたちは目の前の光景に再び絶句してしまっていたんだ。
眩しいと感じる程の白い空間。壁や床に使われている石材は透明感さえ覚える白で統一されており、神聖な荘厳ささえ醸し出していた。
そんな白色の空間に、ひときわ異彩を放つ……深紅の玉座。
縁取るように金色が誂えられたその王座の背もたれは、天井にまで届かんとばかりに伸びている。
その様子が、まるで純白の紙に血を一滴垂らしたようで……幻想的だ。
「あ……あれ? あそこ……」
「誰か……いますね」
「……あれは?」
とても現実味を感じさせない空間に、やはり夢幻を思わせる存在が玉座に腰かけていたんだ。
夕闇を切り取ったような赤紫色の長い髪に、黝簾石を嵌め込んだかのような青紫色の瞳。
絵画にある女神が抜け出て来たように整った顔立ち。
やや小麦色をした肌は艶があり美しく、彼女の美貌を何ら損なうことは無い。
今はゆったりとした王衣を身に纏っていて分かり辛いが、その衣装の下には見事なプロポーションが隠されている事を俺は知っている。
彼女専用と言って良い聖霊鎧「黒霊鎧」は、その性能こそ俺の持つ「聖霊の鎧」と同等だけど、露出度で言えば断然向こうの方が上なんだ。
始めて相対した時に見たけど……目のやり場に困ったよなぁ。
そんな完璧美女と言って良い人物……この城の主、魔王「リヴェリア・ソシエル・カサルティリオ」は、深く玉座に腰かけて俺たちに優しい笑みを向けていた。
「よく来たな、勇者よ。そして少女たちよ、来城を歓迎する」
まるで竪琴を奏でたような美しい声が部屋いっぱいに木霊する。別に彼女は大声を上げた訳でもないのに、その良く通る澄んだ声は魔王の間の隅々にまで届いたんだ。
「忙しい中、度々申し訳ない」
唖然として声も出せないメニーナたちに代わって、俺は魔王リリアにペコリと頭を下げて挨拶をした。俺と違って彼女は魔界統治の為に政務も熟さなければならないから、忙しいと言ったのは決して社交辞令でも何でもない。
「気にする必要なんてない。勇者の所用は何よりも優先される事だからな」
鷹揚に頷いた魔王が、俺に向けてそう返答する。その頬がやや赤くなっているのは、もはやデフォルトと言って良いんだが。
「……むぅ」
いつの間にか再起動を果たしたメニーナが、何やら怪訝な顔をしてリリアを上目遣いに見つめていた。
気付けば、パルネとルルディアも似たような表情をしている。
魔王リリアの言動に、何か不審な点でもあったのか?
「3人の少女たちとは初対面だったな。私が、この魔界を統べる魔王リヴェリアだ」
王座に座っているんだ。そんな事を言わなくとも、普通なら理解出来る事だろう。
でもメニーナたちは、今の今までその事を失念していたのか。
「ま……魔王様っ!?」
メニーナの上げた声を皮切りとして、途端に跪き平伏したんだ。当然の事だけど、魔界での魔王の威厳と言うのは相当に行き届いているみたいだなぁ。
「少女たちよ、楽にすると良い。そして、1人ずつ名乗りなさい」
普段の魔王リリアからは想像もつかない事だけど、為政者を熟す彼女はいつも俺に接する様な言葉遣いでも雰囲気でも無かった。
目の前に跪くのはまだ幼い少女だというのに、それでも与える威圧感は半端ないものだった。
まぁよく考えればそれも当然だよな。
俺なんかはリリアと出会ったのが戦いの場であり、そこでは互いに対等の立場だったんだ。
戦い止んで話し合い協力する事が決まった今でも、俺たちの力関係は均等が取れている。
だからリリアも俺に対しては部下や臣下、臣民に接するみたいな態度や話し方を取らないんだろう。
でも、メニーナやパルネにルルディアは違う。
彼女達は間違いなく魔界の住人であり、そこにはリリアとの明確な上下関係があるんだ。
ここで親し気に接すれば、他の者に示しがつかないのは間違いない。
そうなれば、魔王リリアに対して軽んじる風潮も出て来るかも知れない。
その結果、最悪の場合リリアは余計な争いに身を投じ、無駄な流血を流させる事になるかも知れないからな。
……まぁ、これは少し飛躍しすぎた考えなんだけど。
兎も角、上下のけじめは確りとつけないといけない。だからリリアは、メニーナたちに王として話し掛けているんだろう。
「メ……メニーナです!」「……アカパルネと申します」「ル……ルルディア……です」
リリアに促されて、3人は三者三様に自己紹介をした。
元気だけど上がっているメニーナ、感情を読ませない静かで落ち着いたパルネはまぁいつも通りなんだが。
ルルディアは、どこか委縮している風にも見える。
怯えてるってのとはちょっと違うけど、何か気になる事でもあるのか? なんて考えていたら。
「……メニーナと……アカパルネ、ルルディアか。……ルルディア、其方の行為に対する責任は保護者であったアヴィドなる者にあった。その者も死して罪を贖ったのだから、其方が気に掛ける事は何もない」
「は……はい」
そうか……。ルルディアは、これまでに行ってきた事を咎められると思ってたんだな。
考えてみれば、魔王は統治者でありこの世界の法そのものだからな。俺は気にしていなくっても、魔王は問題とするかも知れなかったんだ。……これは、俺の配慮が足りなかった。
でもそれも、魔王の赦しを以て帳消しとなった。
ルルディアの顔からも懸念が消え、この場には一旦和んだ空気が流れていたんだ。
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