ギリギリ! 俺勇者、39歳

綾部 響

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3.聖霊神殿へ

彼女達の職業

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 ヴィス様の合図から、メニーナたち3人に対する「レベル付与の儀」は終了したみたいだった。
 自らの身体から発していた光が消えて、メニーナたちはキョトンとしている。何が起こったのか、すぐには分からないみたいだな。
 そりゃあ、そうかも知れない。レベルを与えられたからって、劇的に変化を遂げるって訳じゃあ無いからなぁ。

「あ……あの、ゆうしゃさまぁ? 一体……?」

 頭にハテナの文字を浮かべながら、メニーナが俺の方へと振り返った。
 まぁ俺やヴィス様は彼女達がどうなったのか……これからどうなるのかを知ってるけど、この3人は分からないんだから説明が必要だな。

「お前たちには、ヴィス様より『レベルの奇跡』を付与されたんだ。これで、今後は更に強くなれるかもな」

 それでも今ここで経験を積むだとかレベルを上げるとか、それによる能力の補正だなんだなんて説明しても、多分彼女達には理解出来ないだろう。だから俺は、かなり掻い摘んだ説明をしたんだ。
 そして、今の彼女達にはその説明だけで十分だったみたいだ。

「これでもう、強くなれるの!? ゆうしゃさまみたいに!?」

「……ああ、頑張ればな」
 小難しい事は言わずに、簡単で分かりやすい説明を与えてやればメニーナたちにはそれで十分みたいだしな。

「……うん。……頑張る」

「……任せて」

 子供には「強い」ってワードで納得させられるからな。細かい説明は後ですればいい話だし。

「……メニーナ、アカパルネ、ルルディア。……己の内に目を向けてみて下さい」

 勿論、レベルが付与されて全く変化がないってことは無い。
 人族の場合、レベルの恩恵を受けるのは大抵が少年時代で成長期でもある。だから、レベルを与えられると同時に、自分の身に付けたい職業クラスを決めたりも出来るんだが。

「……あれ? 私、頭の中に『双剣士』って言葉が浮かんでくるよ?」

「……私は……『秘術師』」

「……私は『槍闘士』だ」

 既に50年からの年月を生きている彼女達は、精神的に未熟でも肉体的にはある程度出来上がっている。それは、これまでの戦いを見れば分かる事だな。
 だからもう、得意とする戦闘スタイルが出来上がっているんだ。

「……それがその……あなた達の……職業クラスです。これまでの行動で最も適していると思われるものが示されていると思うのですが……。も……もしも不満なら、今から変える事も出来ますよ?」

 その説明を、ヴィス様が丁寧にメニーナたちへとしてくれた。……まぁもっとも、それだけ言われてもピンとこないだろうなぁ。

「ゆ……ゆうしゃさまぁ? 『双剣士』……って?」

 困惑気味に問い掛けて来たメニーナだけど、その瞳には好奇心と喜びが滲み出ている。今は嬉しくって仕方ないってのが勝ってるのかもな。

「『双剣士』ってのは、字で書くと『剣を2本両手に持って戦う者』ってなるな。普通で考えれば戦士は剣と楯を構えるんだけど、双剣士は楯の代わりに剣を持つんだ。防御力は劣るけど、その分攻撃力は随一だ」

 双剣士は単純に見れば、剣を2本持つことで手数が増えて攻撃力が上がると考えられているしそれも間違いじゃない。
 でも、実際はそれだけじゃあない。
 攻撃は最大の防御……とも言われるように、楯で受けるべき攻撃を剣での攻撃に転嫁できれば、それだけで大きなダメージを期待できる。
 それに双剣技は、敵の数が多い時にも非常に有効だ。
 元々、普段からメニーナは楯を持たない戦闘の形式を取っているからな。空いている手に剣を持つってやり方は、実は相性がいいのかも知れない。

「わぁっ! 私、双剣士で良いっ!」

 簡単な俺の説明に、メニーナは喜んで納得していた。
 本人が好んで受け入れるってのが職業には大切だからな。彼女の場合は、これで全く問題ないだろう。

「……あの……ゆうしゃさま」

 今度は、パルネが俺に問い掛けて来た。
 彼女の与えられた職業は確か……「秘術師」だったな。……こりゃまた、何て稀有レアな職業を引き当てたんだよ。

「パルネに適している『秘術師』ってのはな。ただの『魔法使い』とは違うんだ。最終的にはを使えるようになるんだが……」

 秘術……と言うからには、他者には知られる事のない……奥義ともいえる魔法を扱えるようになる……って言うか、んだけどな。
 今その事をパルネに告げても理解出来ないだろうし、そうなるにしてもまだまだ先だからなぁ。
 ソルシエ達「魔女」とはまた違う系統の魔法を極めることが出来るようになるんだが……それも、独学ではちょっと厳しいな。
 同じ「秘術師」でもある〝あいつ〟に相談するのも良いかもなぁ……。

「……うん。……頑張る」

 それでも、パルネはある程度の方向性を見いだせて嬉しいみたいだ。
 最初の内は魔法使いと何ら変わらない立ち居振る舞いになるし、当面は魔法を使う事に注力して貰うか。

「あ……あの。わ……私は?」

 そして当然、最後にルルディアが控えめに質問してきたんだ。
 無論、彼女にも答えてやるつもりなんだが……。

「『槍闘士』は、読んで字のごとく『槍の扱いに長けた戦士』って事になる。ルルディアは元から槍を使っていたし、相性も良いんだろうな。このまま鍛えていけば、かなりの槍使いになるんじゃないか?」

 ルルディアに関していえば、改めて説明する様な事でもない。
 これまでも槍を使ってきたんだ。適性が「槍闘士」なら、何の問題も無いだろう。
 ただまぁこれまでと違い、槍に特化した身体能力や技術を身に付けていくだろうからな。槍の攻撃で言えば、更に高い力を発揮していう事だろう。

「はい。……おと……あなたが言うなら、喜んで」

 俺の説明を聞いて、頬を赤らめたルルディアは強い決意を秘めた視線を返してきた。
 頑張ってくれるのは良いんだけど、俺じゃあなく自分の為に努力して欲しいんだけどなぁ。……なんて考えていたら。

「ちょっと、あんた。ゆうしゃさまはゆうしゃさまなんだから、あなた……なんて呼び方止めなさいよね」

 メニーナが、何だか良く分からないイチャモンを付けて来たんだ。
 俺としては、何て呼ばれようとぜんっぜん問題無いんだけどな。

「……はぁ? なんであんたに、そんな指図を受けないといけないの?」

 それに対してルルディアは、さっきまでのしおらしい姿は何処へやら、何だか挑発的な口調でメニーナへ言い返した。
 おいおい……一体、どうなってんだよ?

「さ……指図ってなによ! ゆうしゃさまをゆうしゃさまって呼べって言ってるんでしょ!」

 そして、彼女達の口喧嘩はヒートアップの度合いを高めていた。
 これには俺やパルネは勿論、ヴィス様もどうして良いのか分からずアワアワするだけしか出来ない。

「だから、その『ゆうしゃさま』って何なのよ? なんでそんな、変な言い方をこの人にしないといけないの!?」

 ああ……そうかぁ。確かにこの魔界では「勇者」ってのは殆ど知られてないかもな。
 こちらの世界の勇者は正しく「魔王」な訳だし、勇者ってのが広く知れ渡っているのも人界だけかもなぁ……。

「ゆ……ゆうしゃさまはゆうしゃさまよ! そんな事も知らないの!?」

 もはや売り言葉に買い言葉か……。単なる子供の言い争いの様相を呈して来たな。

「そんなの、知らないわよ! あんたこそ意味も分からず使って、恥ずかしくないの!?」

「う……うう!」

 ここに至って、ルルディアは顔を真っ赤にして反論しているし、メニーナは目に涙を浮かべ出した。
 何で子供って、こんなどうでも良い事で必死になれるんだろう……?
 しかし、このまま静観し続けるってのもまずい気がするな。

「おいおい……。俺の呼び方なんて、何でも良いんだよ。そんな事で、喧嘩なんかするな」

 だから、俺は2人の間に割って入ったんだ。
 ほんと、「勇者」なんてあくまでも職業の1つで俗称でしかないからな。別に勇者って呼んでくれなくても良いくらいだよ。

「あ……あの。それじゃあ……その」

 仲裁に入った俺を見て、メニーナは口を噤んでしまった。目に浮かべた涙が今にもこぼれそうなのを見れば、まだ悔しくて仕方が無いんだろうな。
 それに対してルルディアは、さっきまでの気勢は完全に霧散しちまっている。
 俺に対してオズオズと……って感じで進み出て、何やら提案があるようだった。
 この際、この雰囲気を解消出来るなら多少の事は聞いてやるのも止む無しだなぁ。

「ん……? 何だ?」

 だから俺は、出来るだけ優しく彼女へと問い掛けた……んだが。

 ―――その後に俺は、腰を抜かしそうになる言葉を聞く羽目になった。

 どこか言いだし難そうにしていたルルディアだが決心がついたのか、どこか勢いをつけた風に俺の方へ顔を向け、詰まりながらも言い切ったんだ。

「そ……それじゃあ、お……おとうさんって呼んで良いですか!?」
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