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3.聖霊神殿へ
勇者裁き
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さて……困ったな。
ルルディアは、自分の死をもってこの場に決着を齎そうとしているみたいだ。
見た目の幼さから反して、随分と大人びた考えを持っているんだなぁ……。大した決心だとは思う。
でも、子供がそんな事を考えだしたら世も末だよなぁ。
「なぁ、この部族でルルディアを引き取り養うってのは……」
「じょ……冗談じゃない! こんな奴、いつまた暴れ出すか分からないんだ! 見た目は子供だが、悔しい事に強さは私たちよりも上回っている! そんな奴と一緒に暮らせるわけないだろう!」
まぁ、そうだろうなぁ……。
実際に、彼女は部族の者を手に掛けてるんだ。
恨んでいる者もいるだろうし、何よりもデジール族はこの娘を恐れている。
こんなんじゃあいっしょには暮らせないだろうし、そう遠からず軋轢が生じるだろうなぁ。
部族の男の台詞を聞いて、ルルディアは自らの左腕を抱き俯いて視線を逸らしていた。ハッキリと目の前できつい事を言われれば、この年代の子供なら傷ついて当然か。
俺が思うに、ルルディアもアヴィドの被害者だ。
彼女は幼くして戦闘力が高く、そこをアヴィドに買われたんだろう。
そしてこの娘に、アヴィドの命令を拒む事なんて出来やしない。
デジール族との戦闘に参加したのも、彼女が望んだ事じゃあ無かったんではなかろうか?
とは言え、それは結果論だ。起こってしまった事実を覆すなんて出来ないし、現実は見ての通りだしな。
しかし、ここまで首を突っ込んでしまったって縁もある。今更放り出す事も出来ないよなぁ……。
「……ルルディア。俺たちと一緒に来るか?」
「……え?」
「ちょっと、ゆうしゃさま! 何言ってんのよ!」
無関心でいられないなら、連れていくしかない。
故郷が分からないんじゃあ送り帰す訳にもいかないから、面倒見るしかないよなぁ。
俺の言葉を聞いて、ルルディアは心底驚いた表情をして顔を上げたんだが、メニーナは即座に不平を口にしてる。パルネも口には出さないけど、コクコクと激しく頷きメニーナに同意していた。
さっきまで、命を賭けて彼女たちなりの真剣勝負を繰り広げていたんだ。そりゃあ、すぐには納得出来ないよなぁ。
「メニーナ、パルネ。……いいか? 昨日の敵は今日の友って言ってな。昨日戦った相手だって、状況次第では今日は仲間となるって言う諺があるんだ」
腑に落ちないなら、優しく諭してやれば良い。年長者らしく、俺はそんな事例を以てメニーナとパルネを言い聞かせようと試みたんだが。
「昨日の敵って、まだ昨日の事じゃないよ。ついさっきの話じゃん」
「……私は、昨日までの敵を1日で許せそうにない」
俺の高説は、子供の理論によって一蹴されてしまったんだ。
いや確かにまだ1日どころか一刻も経っていないけどな? それに確かに、死闘を演じた敵を1日で許せるかって言うとそんな事も無いけどな?
何で子供には、例え話ってのが通用しないんだろうなぁ……。
「わ……私だって、あんた達と仲良くなんて出来ないんだから!」
そして、そんな2人の反論を耳にしたルルディアも剥きになって言葉を挟んできたんだ。そのまま、双方が睨みあう。
ほんっと、子供の喧嘩ってのは可愛いもんだ。
「もう! ゆうしゃさま、何ニヤニヤしてるのよ! 気持ち悪い!」
そんな俺を見て、メニーナが怒りの矛先を俺へと向けて来た。いや、言うに事欠いて気持ち悪いは無いだろうに……。
「はぁ……。じゃあ、さっきの勝負な。2人とも満身創痍で決着がつかなかったし、結局は俺に命を救われたって事だよな? と言う事で、俺の1人勝ちって事で良いか?」
とにかく、今すぐに仲良くしろってのは無理があるが、ルルディアはここから連れ出さないといけない。勿論、自害なんてさせるつもりもない。
「……はぁ?」
「ゆうしゃさま……。意味が……わかりません」
「あんた……何言ってるの?」
俺の「これぞ正しく三方一両損!」な提案も、意味が分からない子供には犬に論語……か。ほんと、彼女達には教養も教え込まないとだよなぁ。
「良いか? あのままメニーナとルルディアが戦い続ければ、どっちも倒れていた。そこに勝者はない。……それは分かるよな?」
俺が噛み砕いて説明を始めると、3人は真剣な表情でフンフンと頷いて応えた。いや、こういう素直さも子供の良い処ではあるんだけどな。
「倒れて戦えなくなれば、メニーナの勝ちじゃないよな? 当然、ルルディアの負けでもないし、パルネの勝利って訳でもない」
この辺りから、3人の理解は怪しくなってきていた。
何となく理解出来ているんだろうが、メニーナは首を傾げて考え込んでいるし、ルルディアは顎に手を当てて俯き深く思慮に耽っている。パルネは比較的受け入れやすいのか、その表情に困惑の色はない。
「メニーナは勝てなかったんだから、自分の望みを相手に押し付ける事は出来ないだろう?」
「そ……それは……そうだけどぉ」
それでも、この部分だけは不本意ながら分かったみたいだ。とりあえず、彼女にはその部分を了承させればそれで良い。
「ルルディアは、あのままだと命を落としていたかも知れない訳だが、もしもその後に俺と戦ったとして勝てたと思うか?」
「そ……それは……」
そんな事は、子供でも分かる話だ。満身創痍となったルルディアにメニーナとの闘いの勝利を与えたとして、その後に彼女の望み通り俺と一騎打ちをしても戦いにすらならなかっただろう。
「って事は、俺の勝ちって事だ。確か、勝った方の言う事を聞くって約束だったよな?」
「あ……う……」
俺の論法は、ハッキリ言って暴論……屁理屈だ。ちょっと理解力があれば、すぐに切り返される程度の論法な訳だが。
俺の様な大人が優しく静かに自信をもって話すと、不思議と子供には説得力を与えるもんなんだ。
まぁこれは、ルルディアを思っての事だしな。ここは大人の立場ってのを利用させてもらおう。
それに、俺たちはここに彼女を救いに来た訳じゃあ無い。
早いとここの件にはケリをつけて、本来の目的を果たさないといけないしな。
「と言う訳で、メニーナとパルネは反論は無しだ。ルルディアも、とりあえず俺の言う通りにしてもらう。……良いな?」
俺がそう話を切り上げると、3人は小さく頷いた。スッキリはしないだろうけど、そんな事はもっと落ち着いてから考えれば良いだけの話だ。
そこで俺は、懐から「通信石」を取り出した。
『ゆ……勇者か? どうした? 問題は解決したのか?』
相変わらず、通信石に出る魔王リリアの声は何やら上擦っている。
そんな声で応答されると、何だか俺からの通信を待っていたみたいに聞こえるじゃないか。
「あ……ああ。ここを仕切っていたアヴィドって奴は、俺が倒しちまった。それなりに力のある奴だったが、始末しちまって悪かったな」
今後の戦いを考えれば、戦力になる奴を簡単に屠るってのは良策じゃあない。だから俺は、彼女に謝罪した訳だが。
『いや、それで良い。勇者の……現地の判断を尊重する。……それで?』
すぐに統治者の顔……と言うか声音になったリリアは、俺が通信石を使った本当の要件を問うて来た。この辺り、流石は魔王だよなぁ。
「ここは聖霊神殿だからな。警護する者がいるのは良いんだが、住み着かれるのはまずいだろう? 誰かを派遣して、デジール族の復興に手を貸してやってくれ」
デジール族が此処に集められてるって事は、元々居た場所は滅ぼされているか良くて荒廃しているだろう。こいつ等が今後生活する場所を作ってやる必要があるし、それには人手や資金が必要だ。
『ふむ……了承した。四天王に銘じて、すぐにデジール族への対処を行わせよう。それと同時に、聖霊神殿の修復も行うようにな』
為政者としての魔王リリアは、本当に優れている。ここにいる訳でもないのに、デジール族の事だけじゃあなく神殿の事も気遣えるんだからな。
「ああ、宜しく頼む。それから、そこでアヴィドに利用されていた少女を保護したんだ。当分の間、俺が教育しようと思うんだけど……良いよな?」
『なるほど。あの計画に組み込もうと言うのだな? 了解した。確りと鍛えてやってくれ』
すべてを語らなくても、リリアはあっという間に事情を把握してくれる。本当に話が早くて助かる。
魔王リリアとの通信はそこで切って、俺は再度メニーナたちへと向き合った。でも視界には、デジール族の面々も収めている。
「……と言う事で、ルルディアは俺が連れてゆく。ここにいても、双方ともに良い結果とはならないだろ? 文句は言わせないが……良いよな?」
文句を言わせないのに良いも悪いも無いだろうと思いながら、俺は誰からも異論が上がらない事を確認した。
ルルディアは、自分の死をもってこの場に決着を齎そうとしているみたいだ。
見た目の幼さから反して、随分と大人びた考えを持っているんだなぁ……。大した決心だとは思う。
でも、子供がそんな事を考えだしたら世も末だよなぁ。
「なぁ、この部族でルルディアを引き取り養うってのは……」
「じょ……冗談じゃない! こんな奴、いつまた暴れ出すか分からないんだ! 見た目は子供だが、悔しい事に強さは私たちよりも上回っている! そんな奴と一緒に暮らせるわけないだろう!」
まぁ、そうだろうなぁ……。
実際に、彼女は部族の者を手に掛けてるんだ。
恨んでいる者もいるだろうし、何よりもデジール族はこの娘を恐れている。
こんなんじゃあいっしょには暮らせないだろうし、そう遠からず軋轢が生じるだろうなぁ。
部族の男の台詞を聞いて、ルルディアは自らの左腕を抱き俯いて視線を逸らしていた。ハッキリと目の前できつい事を言われれば、この年代の子供なら傷ついて当然か。
俺が思うに、ルルディアもアヴィドの被害者だ。
彼女は幼くして戦闘力が高く、そこをアヴィドに買われたんだろう。
そしてこの娘に、アヴィドの命令を拒む事なんて出来やしない。
デジール族との戦闘に参加したのも、彼女が望んだ事じゃあ無かったんではなかろうか?
とは言え、それは結果論だ。起こってしまった事実を覆すなんて出来ないし、現実は見ての通りだしな。
しかし、ここまで首を突っ込んでしまったって縁もある。今更放り出す事も出来ないよなぁ……。
「……ルルディア。俺たちと一緒に来るか?」
「……え?」
「ちょっと、ゆうしゃさま! 何言ってんのよ!」
無関心でいられないなら、連れていくしかない。
故郷が分からないんじゃあ送り帰す訳にもいかないから、面倒見るしかないよなぁ。
俺の言葉を聞いて、ルルディアは心底驚いた表情をして顔を上げたんだが、メニーナは即座に不平を口にしてる。パルネも口には出さないけど、コクコクと激しく頷きメニーナに同意していた。
さっきまで、命を賭けて彼女たちなりの真剣勝負を繰り広げていたんだ。そりゃあ、すぐには納得出来ないよなぁ。
「メニーナ、パルネ。……いいか? 昨日の敵は今日の友って言ってな。昨日戦った相手だって、状況次第では今日は仲間となるって言う諺があるんだ」
腑に落ちないなら、優しく諭してやれば良い。年長者らしく、俺はそんな事例を以てメニーナとパルネを言い聞かせようと試みたんだが。
「昨日の敵って、まだ昨日の事じゃないよ。ついさっきの話じゃん」
「……私は、昨日までの敵を1日で許せそうにない」
俺の高説は、子供の理論によって一蹴されてしまったんだ。
いや確かにまだ1日どころか一刻も経っていないけどな? それに確かに、死闘を演じた敵を1日で許せるかって言うとそんな事も無いけどな?
何で子供には、例え話ってのが通用しないんだろうなぁ……。
「わ……私だって、あんた達と仲良くなんて出来ないんだから!」
そして、そんな2人の反論を耳にしたルルディアも剥きになって言葉を挟んできたんだ。そのまま、双方が睨みあう。
ほんっと、子供の喧嘩ってのは可愛いもんだ。
「もう! ゆうしゃさま、何ニヤニヤしてるのよ! 気持ち悪い!」
そんな俺を見て、メニーナが怒りの矛先を俺へと向けて来た。いや、言うに事欠いて気持ち悪いは無いだろうに……。
「はぁ……。じゃあ、さっきの勝負な。2人とも満身創痍で決着がつかなかったし、結局は俺に命を救われたって事だよな? と言う事で、俺の1人勝ちって事で良いか?」
とにかく、今すぐに仲良くしろってのは無理があるが、ルルディアはここから連れ出さないといけない。勿論、自害なんてさせるつもりもない。
「……はぁ?」
「ゆうしゃさま……。意味が……わかりません」
「あんた……何言ってるの?」
俺の「これぞ正しく三方一両損!」な提案も、意味が分からない子供には犬に論語……か。ほんと、彼女達には教養も教え込まないとだよなぁ。
「良いか? あのままメニーナとルルディアが戦い続ければ、どっちも倒れていた。そこに勝者はない。……それは分かるよな?」
俺が噛み砕いて説明を始めると、3人は真剣な表情でフンフンと頷いて応えた。いや、こういう素直さも子供の良い処ではあるんだけどな。
「倒れて戦えなくなれば、メニーナの勝ちじゃないよな? 当然、ルルディアの負けでもないし、パルネの勝利って訳でもない」
この辺りから、3人の理解は怪しくなってきていた。
何となく理解出来ているんだろうが、メニーナは首を傾げて考え込んでいるし、ルルディアは顎に手を当てて俯き深く思慮に耽っている。パルネは比較的受け入れやすいのか、その表情に困惑の色はない。
「メニーナは勝てなかったんだから、自分の望みを相手に押し付ける事は出来ないだろう?」
「そ……それは……そうだけどぉ」
それでも、この部分だけは不本意ながら分かったみたいだ。とりあえず、彼女にはその部分を了承させればそれで良い。
「ルルディアは、あのままだと命を落としていたかも知れない訳だが、もしもその後に俺と戦ったとして勝てたと思うか?」
「そ……それは……」
そんな事は、子供でも分かる話だ。満身創痍となったルルディアにメニーナとの闘いの勝利を与えたとして、その後に彼女の望み通り俺と一騎打ちをしても戦いにすらならなかっただろう。
「って事は、俺の勝ちって事だ。確か、勝った方の言う事を聞くって約束だったよな?」
「あ……う……」
俺の論法は、ハッキリ言って暴論……屁理屈だ。ちょっと理解力があれば、すぐに切り返される程度の論法な訳だが。
俺の様な大人が優しく静かに自信をもって話すと、不思議と子供には説得力を与えるもんなんだ。
まぁこれは、ルルディアを思っての事だしな。ここは大人の立場ってのを利用させてもらおう。
それに、俺たちはここに彼女を救いに来た訳じゃあ無い。
早いとここの件にはケリをつけて、本来の目的を果たさないといけないしな。
「と言う訳で、メニーナとパルネは反論は無しだ。ルルディアも、とりあえず俺の言う通りにしてもらう。……良いな?」
俺がそう話を切り上げると、3人は小さく頷いた。スッキリはしないだろうけど、そんな事はもっと落ち着いてから考えれば良いだけの話だ。
そこで俺は、懐から「通信石」を取り出した。
『ゆ……勇者か? どうした? 問題は解決したのか?』
相変わらず、通信石に出る魔王リリアの声は何やら上擦っている。
そんな声で応答されると、何だか俺からの通信を待っていたみたいに聞こえるじゃないか。
「あ……ああ。ここを仕切っていたアヴィドって奴は、俺が倒しちまった。それなりに力のある奴だったが、始末しちまって悪かったな」
今後の戦いを考えれば、戦力になる奴を簡単に屠るってのは良策じゃあない。だから俺は、彼女に謝罪した訳だが。
『いや、それで良い。勇者の……現地の判断を尊重する。……それで?』
すぐに統治者の顔……と言うか声音になったリリアは、俺が通信石を使った本当の要件を問うて来た。この辺り、流石は魔王だよなぁ。
「ここは聖霊神殿だからな。警護する者がいるのは良いんだが、住み着かれるのはまずいだろう? 誰かを派遣して、デジール族の復興に手を貸してやってくれ」
デジール族が此処に集められてるって事は、元々居た場所は滅ぼされているか良くて荒廃しているだろう。こいつ等が今後生活する場所を作ってやる必要があるし、それには人手や資金が必要だ。
『ふむ……了承した。四天王に銘じて、すぐにデジール族への対処を行わせよう。それと同時に、聖霊神殿の修復も行うようにな』
為政者としての魔王リリアは、本当に優れている。ここにいる訳でもないのに、デジール族の事だけじゃあなく神殿の事も気遣えるんだからな。
「ああ、宜しく頼む。それから、そこでアヴィドに利用されていた少女を保護したんだ。当分の間、俺が教育しようと思うんだけど……良いよな?」
『なるほど。あの計画に組み込もうと言うのだな? 了解した。確りと鍛えてやってくれ』
すべてを語らなくても、リリアはあっという間に事情を把握してくれる。本当に話が早くて助かる。
魔王リリアとの通信はそこで切って、俺は再度メニーナたちへと向き合った。でも視界には、デジール族の面々も収めている。
「……と言う事で、ルルディアは俺が連れてゆく。ここにいても、双方ともに良い結果とはならないだろ? 文句は言わせないが……良いよな?」
文句を言わせないのに良いも悪いも無いだろうと思いながら、俺は誰からも異論が上がらない事を確認した。
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