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3.聖霊神殿へ
魔法を付与する剣技
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俺が先に唱えた魔法は、武器に魔法を付与させる呪文だ。
これにより、その後に唱えた魔法の効力が剣身に宿り、攻撃を加えた相手に顕現する。
「これは『付与魔剣』と言う、剣に魔法の能力を付与する技だ。そしてこの剣に、炎系上級魔法の効果を一時的に与えた。つまり今この時に限り、こいつは剣であり魔法って事になる。それがどういう意味か……お前に分かるか?」
蒼い炎をその身に宿した刀身を奴へと見せつけながら、俺はアヴィドに問い掛けた。
でも残念ながら説明が長すぎたんだろう。奴は惚けた顔で今一つ分かっていないみたいだ。
……ったく、これで良く俺の事を馬鹿にしやがったな。
でも……まぁ、良い。
「俺の言っている事が良く分からないか? なら、その身で実感すれば良い」
「何……? ぐおおっ!?」
それだけを告げると、俺は未だボウっとしたままのアヴィドに向けて一気に間合いを詰め、そのまま奴の左腕を……斬り落とした!
これまで斬撃を与えても全く無傷だった奴の身体だが、今回の攻撃では……左肩から切断されて斬り落ち、蒼い炎を纏った奴の左腕はそのまま燃え尽き灰となった。
その間奴はピクリとも動けずに、気付いたのは左腕を失ってからだ。アヴィドは左腕を斬り落とされた激痛で転げまわり泣き叫んでいる。
「お……お前っ!? お……俺に何をっ!? それに、何で俺の身体が斬れてっ!?」
自分の左腕を失ってもなお、まだこいつは何が起こったのか理解出来ていないみたいだ。涙を流し、震える声で俺に問い質して来た。
「お前は、武器での攻撃には無傷なんだろう? だから俺は、武器に魔法の効果を与えて攻撃したんだ。つまりお前は、魔法によって斬られたんだよ」
俺が再度先ほどの説明を更に要約して話してやると、漸く理解出来たのか。アヴィドは絶望とも思える表情を俺に向けたんだ。
それは正しく、死刑宣告を受けて失望する罪人にしか見えない。
そしてそんな男を前にしても、俺には一切慈悲の心なんて浮かばなかったんだけどな。
「ちょっと……待て。魔法で斬るって……どう言う? そんな事……」
もはや奴の口からは、まともに言葉なんて紡がれなかった。
でももう、わざわざ理解する必要はない。それを待つ理由も無いな。
「……終わりだよ」
俺はそれだけを告げて、倒れたまま怯えた目で俺を見る奴に剣を突き刺した。
直後、アヴィドの身体が蒼い炎に包まれ、瞬く間に奴の存在をこの世界から消し去ったんだ。
奴にとって幸いだったのは、多分痛みや苦しみを感じなかった事なのかも知れないな。
俺がわざわざ高位の魔法を付与させたのは、奴の身体を一瞬で消し去る為ってのもあった。
でも一番気に掛けたのは。
「すごいっ、ゆうしゃさまっ! 勝ったんだねっ!」
「すごい……です」
メニーナたちに、奴の苦しむ姿や焼け落ちてゆく姿を見せたくなかったからだ。
いずれはそんな場面に遭遇する事もあるだろうけど、積極的に見せる必要も無いだろうしな。
「ア……アヴィドが……死んだ―――っ!」
「うおおぉぉっ! 俺たちは解放されたぞぉっ!」
「やったぁっ! やったぞぉっ!」
「ありがとう……ございます……!」
メニーナたちの言葉を皮切りに、壁に張り付いていた男たちが歓喜の声を上げ、女性たちは涙を流して喜んでいる。
どうやら、デジール族の者たちは解放された事を心底喜んでいるみたいだった。
まぁ経緯はどうあれ、困っている者たちが助かったってのは良い事だ。
感謝される姿をメニーナたちに見せるのも、悪い事じゃあ無いからな。
「い……いや。俺たちは、聖霊像が必要だったんで、ついでと言うかだな……」
でも、感謝に集まる彼らには辟易しているってのが本当だった。
昔は、これだけ感激されると嬉しかったんだけどなぁ……。
今はそのなんていうか……面倒くさいし……鬱陶しい……。
喜びに沸く彼らに何とか対応していたんだが、急に空気が騒めき出したんだ。
同じとは言わないまでも、アヴィドが存命だった頃のヒリついた恐怖を纏う雰囲気だ。
「……彼女は?」
その気配の発生源に目を向けると、玉座の……聖霊像の奥から、1人の少女が現れたんだ。
美しく長い蒼髪を靡かせ、翡翠を思わせる綺麗な瞳。だが今はそれも暗く沈み、どこかくすんだ色に見える。
顔立ちは全体的に整い、容姿端麗と言った処か。
年齢的にはメニーナたちと同じくらいだろうけど、表情に変化が感じられないからだろうか。どこか大人びて見えるな。
手にした槍は彼女の身長を遥かに超えて長く、ちゃんと扱えるのか不安を覚えるほどだ。……まぁ俺が考える事でも無いんだが。
「彼女は……アヴィドの娘です。と言っても、実の娘なのかどうかは不明なのですが……」
「あの年でも腕は相当立ちます。我らの部族の戦士も、幾人かはあの娘にやられました……」
……へぇ。あの年で、かなり戦闘力は高いんだなぁ。部族の戦士を倒すってのは、中々難しいんじゃあ無いか?
そんな彼女からは、殺気は感じられない。
静かに対峙してはいるが、何が目的なのか俺には理解出来ないくらいだ。
「……どうしたんだ? 俺に何か用なのか?」
本当だったなら、アヴィドが倒れた時点で逃げ出した方が良いだろう。
アヴィドの娘……なんて言われているんだ。奴が倒れた後もこの場にとどまった処で、一体どんな迫害を受けるか分かったもんじゃあ無いからな。
それとも、そんな状況でも切り抜けられる自信でもあるって言うのか?
「……別に。……あなたに用なんて……ない」
彼女は俺の問いかけに、抑揚のない声音で返答した。そこから感じ取れるのは、彼女は何に対しても感情を働かせてないって事だった。
もしかして、感情の機微を無くしちまってるのか? それとも、強引に働かないようねじ伏せているのだろうか?
「ただ私は……けじめを付けに来たの」
そして彼女は、何の気概も無く俺に向けてそう告げたんだ。
しかし……けじめって、何をするつもりなんだ?
俺がそんな疑問を頭に浮かべていると。
「……あなた。私と……一対一の勝負をして」
何だか、とんでもない事を言いだしたんだ。
俺と勝負だって? そんなの、まともな勝負になる訳も無いじゃないか。
こいつの親だっているアヴィドだって、俺には全く歯が立たなかったんだぞ?
その娘で、見るからに俺より技量の劣るこの娘が対等に戦えるはずなんて無いだろう。
「……俺と戦って、お前に何の利点があるんだ? 見逃してやるから、ここから去ればいいだろ?」
それなりに強いんだったら、ここを出てもすぐに命を落とすことは無いだろう。
生きていれば、その後修練次第でさらなる強さを手に入れる事だって可能な筈だ。
俺と今ここで優劣をつける戦いをする意味が分からない。
「……私が勝てば……このデジール族は私が頂く。……あなたが勝てば……私が死んで、この地には平和が訪れる」
彼女の言葉を鵜呑みにするならば、確かにそれは看過出来る事じゃあない。
折角アヴィドの支配から解放された部族を、再びこの娘は牛耳ろうって言うんだ。
そんな事をここの部族民たちが望んでいるとは思えないし、見過ごす事なんて出来ない。
でも……引っ掛かる事もある。
この娘はさっき「けじめ」と言う言葉を使った。
それが何に対してなのか気になってはいたんだが、彼女の話を聞いて何となく合点がいった。
「お前、ここで静かに暮らすっていう選択肢は……」
「……ない」
俺の提案に、この娘は即答で否定した。
そしてその理由は、周囲から彼女へと向けられる視線で納得出来たんだ。
そこに込められている感情は……嫌悪、忌避そして……憤怒。
アヴィドへと向けられるべき感情は、今は彼女の一身に向かっている。
このままここに残っても、いずれは迫害を受けて追い出されるか命を落とすだろう。
それが分かっているからこそ、この娘は戦ってその生に区切りをつけ、それを以てこの部族たちへの謝罪とするつもりなんじゃないだろうか?
それが……彼女の言う「けじめ」なんだろう。
「……お前、名前は?」
それほどに潔い彼女の名を俺が尋ねると。
「……私はルルディア」
小さく、そして短く彼女は自分の名を答えた。
これにより、その後に唱えた魔法の効力が剣身に宿り、攻撃を加えた相手に顕現する。
「これは『付与魔剣』と言う、剣に魔法の能力を付与する技だ。そしてこの剣に、炎系上級魔法の効果を一時的に与えた。つまり今この時に限り、こいつは剣であり魔法って事になる。それがどういう意味か……お前に分かるか?」
蒼い炎をその身に宿した刀身を奴へと見せつけながら、俺はアヴィドに問い掛けた。
でも残念ながら説明が長すぎたんだろう。奴は惚けた顔で今一つ分かっていないみたいだ。
……ったく、これで良く俺の事を馬鹿にしやがったな。
でも……まぁ、良い。
「俺の言っている事が良く分からないか? なら、その身で実感すれば良い」
「何……? ぐおおっ!?」
それだけを告げると、俺は未だボウっとしたままのアヴィドに向けて一気に間合いを詰め、そのまま奴の左腕を……斬り落とした!
これまで斬撃を与えても全く無傷だった奴の身体だが、今回の攻撃では……左肩から切断されて斬り落ち、蒼い炎を纏った奴の左腕はそのまま燃え尽き灰となった。
その間奴はピクリとも動けずに、気付いたのは左腕を失ってからだ。アヴィドは左腕を斬り落とされた激痛で転げまわり泣き叫んでいる。
「お……お前っ!? お……俺に何をっ!? それに、何で俺の身体が斬れてっ!?」
自分の左腕を失ってもなお、まだこいつは何が起こったのか理解出来ていないみたいだ。涙を流し、震える声で俺に問い質して来た。
「お前は、武器での攻撃には無傷なんだろう? だから俺は、武器に魔法の効果を与えて攻撃したんだ。つまりお前は、魔法によって斬られたんだよ」
俺が再度先ほどの説明を更に要約して話してやると、漸く理解出来たのか。アヴィドは絶望とも思える表情を俺に向けたんだ。
それは正しく、死刑宣告を受けて失望する罪人にしか見えない。
そしてそんな男を前にしても、俺には一切慈悲の心なんて浮かばなかったんだけどな。
「ちょっと……待て。魔法で斬るって……どう言う? そんな事……」
もはや奴の口からは、まともに言葉なんて紡がれなかった。
でももう、わざわざ理解する必要はない。それを待つ理由も無いな。
「……終わりだよ」
俺はそれだけを告げて、倒れたまま怯えた目で俺を見る奴に剣を突き刺した。
直後、アヴィドの身体が蒼い炎に包まれ、瞬く間に奴の存在をこの世界から消し去ったんだ。
奴にとって幸いだったのは、多分痛みや苦しみを感じなかった事なのかも知れないな。
俺がわざわざ高位の魔法を付与させたのは、奴の身体を一瞬で消し去る為ってのもあった。
でも一番気に掛けたのは。
「すごいっ、ゆうしゃさまっ! 勝ったんだねっ!」
「すごい……です」
メニーナたちに、奴の苦しむ姿や焼け落ちてゆく姿を見せたくなかったからだ。
いずれはそんな場面に遭遇する事もあるだろうけど、積極的に見せる必要も無いだろうしな。
「ア……アヴィドが……死んだ―――っ!」
「うおおぉぉっ! 俺たちは解放されたぞぉっ!」
「やったぁっ! やったぞぉっ!」
「ありがとう……ございます……!」
メニーナたちの言葉を皮切りに、壁に張り付いていた男たちが歓喜の声を上げ、女性たちは涙を流して喜んでいる。
どうやら、デジール族の者たちは解放された事を心底喜んでいるみたいだった。
まぁ経緯はどうあれ、困っている者たちが助かったってのは良い事だ。
感謝される姿をメニーナたちに見せるのも、悪い事じゃあ無いからな。
「い……いや。俺たちは、聖霊像が必要だったんで、ついでと言うかだな……」
でも、感謝に集まる彼らには辟易しているってのが本当だった。
昔は、これだけ感激されると嬉しかったんだけどなぁ……。
今はそのなんていうか……面倒くさいし……鬱陶しい……。
喜びに沸く彼らに何とか対応していたんだが、急に空気が騒めき出したんだ。
同じとは言わないまでも、アヴィドが存命だった頃のヒリついた恐怖を纏う雰囲気だ。
「……彼女は?」
その気配の発生源に目を向けると、玉座の……聖霊像の奥から、1人の少女が現れたんだ。
美しく長い蒼髪を靡かせ、翡翠を思わせる綺麗な瞳。だが今はそれも暗く沈み、どこかくすんだ色に見える。
顔立ちは全体的に整い、容姿端麗と言った処か。
年齢的にはメニーナたちと同じくらいだろうけど、表情に変化が感じられないからだろうか。どこか大人びて見えるな。
手にした槍は彼女の身長を遥かに超えて長く、ちゃんと扱えるのか不安を覚えるほどだ。……まぁ俺が考える事でも無いんだが。
「彼女は……アヴィドの娘です。と言っても、実の娘なのかどうかは不明なのですが……」
「あの年でも腕は相当立ちます。我らの部族の戦士も、幾人かはあの娘にやられました……」
……へぇ。あの年で、かなり戦闘力は高いんだなぁ。部族の戦士を倒すってのは、中々難しいんじゃあ無いか?
そんな彼女からは、殺気は感じられない。
静かに対峙してはいるが、何が目的なのか俺には理解出来ないくらいだ。
「……どうしたんだ? 俺に何か用なのか?」
本当だったなら、アヴィドが倒れた時点で逃げ出した方が良いだろう。
アヴィドの娘……なんて言われているんだ。奴が倒れた後もこの場にとどまった処で、一体どんな迫害を受けるか分かったもんじゃあ無いからな。
それとも、そんな状況でも切り抜けられる自信でもあるって言うのか?
「……別に。……あなたに用なんて……ない」
彼女は俺の問いかけに、抑揚のない声音で返答した。そこから感じ取れるのは、彼女は何に対しても感情を働かせてないって事だった。
もしかして、感情の機微を無くしちまってるのか? それとも、強引に働かないようねじ伏せているのだろうか?
「ただ私は……けじめを付けに来たの」
そして彼女は、何の気概も無く俺に向けてそう告げたんだ。
しかし……けじめって、何をするつもりなんだ?
俺がそんな疑問を頭に浮かべていると。
「……あなた。私と……一対一の勝負をして」
何だか、とんでもない事を言いだしたんだ。
俺と勝負だって? そんなの、まともな勝負になる訳も無いじゃないか。
こいつの親だっているアヴィドだって、俺には全く歯が立たなかったんだぞ?
その娘で、見るからに俺より技量の劣るこの娘が対等に戦えるはずなんて無いだろう。
「……俺と戦って、お前に何の利点があるんだ? 見逃してやるから、ここから去ればいいだろ?」
それなりに強いんだったら、ここを出てもすぐに命を落とすことは無いだろう。
生きていれば、その後修練次第でさらなる強さを手に入れる事だって可能な筈だ。
俺と今ここで優劣をつける戦いをする意味が分からない。
「……私が勝てば……このデジール族は私が頂く。……あなたが勝てば……私が死んで、この地には平和が訪れる」
彼女の言葉を鵜呑みにするならば、確かにそれは看過出来る事じゃあない。
折角アヴィドの支配から解放された部族を、再びこの娘は牛耳ろうって言うんだ。
そんな事をここの部族民たちが望んでいるとは思えないし、見過ごす事なんて出来ない。
でも……引っ掛かる事もある。
この娘はさっき「けじめ」と言う言葉を使った。
それが何に対してなのか気になってはいたんだが、彼女の話を聞いて何となく合点がいった。
「お前、ここで静かに暮らすっていう選択肢は……」
「……ない」
俺の提案に、この娘は即答で否定した。
そしてその理由は、周囲から彼女へと向けられる視線で納得出来たんだ。
そこに込められている感情は……嫌悪、忌避そして……憤怒。
アヴィドへと向けられるべき感情は、今は彼女の一身に向かっている。
このままここに残っても、いずれは迫害を受けて追い出されるか命を落とすだろう。
それが分かっているからこそ、この娘は戦ってその生に区切りをつけ、それを以てこの部族たちへの謝罪とするつもりなんじゃないだろうか?
それが……彼女の言う「けじめ」なんだろう。
「……お前、名前は?」
それほどに潔い彼女の名を俺が尋ねると。
「……私はルルディア」
小さく、そして短く彼女は自分の名を答えた。
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