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3.聖霊神殿へ
ハーレムの男
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動けないでいる衛士をしり目に、俺たちはズンズンと神殿の奥へと進んで行った。
ここで戦っても良いんだけど、明らかに格下の相手をしても詰まらないし何よりもそんな時間も惜しい。
早いとこ此処での用事を済ませて、次の問題に順次取り組まないといけないからな。
……ううぅん。何だか勇者らしくないなぁ。
建物が宮殿や城ではなくて神殿だったのが幸いしたのか、中はとても簡素な作りだった。
つまり、大きな入り口を潜るとすぐに大広間の様な場所へと出たんだ。
ここは……元々は礼拝堂か?
奥には、聖霊ヴィス様を模した像が柔らかな笑みを浮かべて立っている。
そしてその真下には何やら玉座みたいな物が据え置かれ、そこには1人の大男が偉そうに腰を据えていたんだ。
左右には殆ど裸同然の女性を侍らせて、まるでどこぞの王様気取りだな。
広場の中央には大きなテーブルが置かれ、その上には多くの食べ物が並べられていた。
そしてその食卓周辺にも女性が多く座っている。ただ椅子に……ではなく、床の上に敷かれた絨毯に……だけどな。
一目見ると此処は、好色な支配者の住むハーレムの様相を呈していた。
そしてその場所をぐるりと取り囲むように、壁際には男たちが遠巻きにその様子を見つめていた。
それに……奴の後方にはも1人、誰かいるな? 気配はするが、姿は見せていない。
それにしても、何とも奇妙な光景だよな。
ただこれだけは言えるんだが……これはメニーナたちの教育に宜しくない!
だから俺は一斉に向けられた視線には一切躊躇せず、ズカズカと奥へ歩を進めて玉座に座る男の前まで来たんだ。
「……なんだぁ、てめぇは?」
左腕に女性を抱え、右手に持った何かの肉を頬張りながら、男は何とも教養の低そうな物言いで俺に問い掛けて来た。
さて……何と答えてやろうか?
俺の用事としては、こいつの後ろにある聖霊像とこの場所だ。
一時の間だけこの場所を明け渡してくれれば、俺としてはこいつらの生活になんら興味はない。
どれだけ道徳的に問題があったり爛れた生活を送っていようとも、それはこいつ等の問題だ。
人族にだって、こう言った暮らしを送っている奴もいるんだ。魔族にだって、そう言った者たちもいるだろうしな。
「……おぅいっ、お前たちっ! 何でこいつを通したんだっ!」
でも目の前の大男は俺に答えを求める前に、壁に張り付いて立っている男たちへ怒声を向けた。
その瞬間、その男たちだけではなく中央で座っていた女性たちにも動揺が走った。
どうやらここにいる者たちは全員、この男に頭が上がらない……と言うか、この男の恐怖に震えているって感じだな。
俺が目の前にいるってのに、こいつはまるで俺が見えていない……違うな。完全に無視するようにして、男たちへ鋭い視線を送っている。
それを受けて、壁際の男たちはそれぞれ左右に顔を向けて責任の所在を確認している。その誰からも、明確な返事は発せられない。
「……ちぃっ!」
わざとらしく大きな舌打ちをして、この大男は女性を開放し持っていた肉を投げ捨てた。
その代わり……って訳じゃあ無いんだろうけど、足元に置いてあった武器を拾い上げる。
それを見た女性は何かを察したのか、その場から急いで退避した。右に控えていた女性も同様だ。
2人とも、これから何が起こるのか分かったんだろうなぁ。
「……ったく、めんどくせぇなぁ。俺様の城に土足で踏み込みやがって、お前ぇは一体何もんだ?」
ユックリと立ち上がった男は、質問しながらも手にした武器を俺の鼻先へと向けて来た。
この武器は鉾槍と言われ、柄の長い槍の先端に穂先じゃあなく刀剣がくっついている。
攻撃範囲の長い剣……みたいな武器かな? 遠心力が付く分だけ殺傷力は格段に上がっているけど、取り回しが利かないから扱いが難しいし何よりも強い筋力が必要だ。
そういえばこいつ、やたらとムキムキだなぁ。
そのグレイヴの刃の付け根を持って、今奴は俺を脅している最中だ。
「俺はしがない冒険者だ。ちょっとやるべき事があるんで、この場所を明け渡して欲しいんだけどな」
そんな奴に、俺は平然と返答してやった。
今の俺は兜を被っているから、この表情を奴が伺い知る事は出来ない。
でも、聞こえて来た声に恐れ慄いている様子が伺えなかったのが大層不満だったんだろう。
「……ふん!」
「ゆうしゃさまっ!」
向けていたグレイブを払って、俺の兜を吹き飛ばした。
その行動に思わずメニーナが悲鳴を上げるが、まあ案ずる事は無い。
こいつの「気」に揺らぎはないし、まぁ一種の威嚇行動だろう。
「きゃあっ!」
被っていた俺の兜ははるか後方へと飛んでいき、そこに集まっていた女性たちの足元へ落ちたらしい。当たらなくて何よりだったけどな。
「……んん!? お前ぇ……魔族じゃないな?」
改めて俺を見た奴は、少し興味深そうに俺の顔を覗き込んでそう言った。
まぁ魔族が人族を見る機会なんて早々ないだろうからな。同じ種族じゃあない事は分かっても、俺が人族だって発想にはならないみたいだ。
「……ああ。俺は人族だ。魔族じゃあない」
だから俺は、わざわざ丁寧に教えてやったんだ。
本当はそんな事を言う必要も無かったんだけど、最期に誰にやられたのか知らないってのは哀れだろ?
「へぇ……人族か。……まぁ、そんな事はどうでもいいやな」
奴がそう言うと、その身体から一気に攻撃的な「気」が噴き出した! それはまるで俺を……いや、この場の全てを吹き飛ばそうとでもいう程に強烈なものだったんだ。
「きゃあっ!」
「ゆうしゃさまぁ!」
女性たちの悲鳴とメニーナの叫び声が聞こえた。パルネも恐らく、この「気」を感じて不安を覚えているだろう。
でも安心しろ。メニーナ、パルネ。
こいつは言うまでもなく俺よりも……弱い。
「とっとと殺して、俺の城からご退場願おうかなぁ!」
奴は俺に向かって、大上段に構えたグレイブを一気に振り下ろしてきた。
それを躱す事は俺にとっちゃあ朝飯前だったけど、今回はあえてそれを受け止めてやった!
今日持って来ている俺の武器は、鎧の色にマッチした漆黒の大剣。如何にも魔族の冒険者っぽい装備で統一したんだけどな。
両手持ちの大剣は片手持ち剣より慣れてないんだけど、こいつ程度の相手なら問題ないか。
……それにしても。
「おおぅっりゃあああぁっ!」
受け止められた武器をすぐに引いて、奴はそのまま横に薙ぎ払い攻撃を仕掛けて来た!
俺は大きく飛び退いて、その一撃を躱して見せたんだ。
それにしても、こんな奴がまだ野放しになってるとはなぁ。
一合受けただけだが、その強さは十分に理解できた。
こいつは、恐らくは十二魔人将クラスの強さを持っている。
そう言った力ある魔族は、聖霊の呼びかけで魔王の元に集ったって以前に聞いた事があったんだけど……そうじゃない奴もいたみたいだ。
「はっはぁっ! やるじゃないかっ! これならどうだぁっ!」
そう叫んだ奴は、今度は突きを繰り出して来たんだ!
しかもそれは、ただの突きじゃあない。
殆ど同時に、5回の突撃を放ったように見える! しかも、それが全て急所を狙って来ているんだ!
さらに驚きなのは、これは単純に奴の筋力と瞬発力によって振るわれてるって事だ!
魔力を使い攻撃を昇華させる技はいくつも見て来たけど、単純に身体能力でここまでの突き技を見せるなんてな!
「……なっ!?」
それでも、この程度の攻撃は俺には通用しない。
俺は奴の放った5発の突きを、今度は全て剣で弾いてやったんだ!
これには奴も、驚きの表情で少し距離を置いた。本能的に、その場で足を止めるなんてことが出来なかったんだろう。
「お前……中々強いな。どうだ? 俺の軍門に下るんなら、魔王に口を聞いてやっても良いんだぞ?」
強い奴は、今後どれだけ居ても十分と言う事はない。
羅刹界との闘いを控えているんだ。戦力の拡充も必要だろうからな。
「ば……馬鹿か、お前ぇはっ!? そんな話、聞く訳ねぇだろがぁっ!」
僅かに考える素振りも見せずに、奴は俺の提案を即座に否定した。
……まぁ、今まではやりたい事を好き勝手にやって来たんだろう。今更誰かの下に付く……なんて、出来ないだろうなぁ。
「……そうか」
答えが分かっていただけに、俺はそれ以上の事は言えない……いや、言わなかったんだ。
ここで戦っても良いんだけど、明らかに格下の相手をしても詰まらないし何よりもそんな時間も惜しい。
早いとこ此処での用事を済ませて、次の問題に順次取り組まないといけないからな。
……ううぅん。何だか勇者らしくないなぁ。
建物が宮殿や城ではなくて神殿だったのが幸いしたのか、中はとても簡素な作りだった。
つまり、大きな入り口を潜るとすぐに大広間の様な場所へと出たんだ。
ここは……元々は礼拝堂か?
奥には、聖霊ヴィス様を模した像が柔らかな笑みを浮かべて立っている。
そしてその真下には何やら玉座みたいな物が据え置かれ、そこには1人の大男が偉そうに腰を据えていたんだ。
左右には殆ど裸同然の女性を侍らせて、まるでどこぞの王様気取りだな。
広場の中央には大きなテーブルが置かれ、その上には多くの食べ物が並べられていた。
そしてその食卓周辺にも女性が多く座っている。ただ椅子に……ではなく、床の上に敷かれた絨毯に……だけどな。
一目見ると此処は、好色な支配者の住むハーレムの様相を呈していた。
そしてその場所をぐるりと取り囲むように、壁際には男たちが遠巻きにその様子を見つめていた。
それに……奴の後方にはも1人、誰かいるな? 気配はするが、姿は見せていない。
それにしても、何とも奇妙な光景だよな。
ただこれだけは言えるんだが……これはメニーナたちの教育に宜しくない!
だから俺は一斉に向けられた視線には一切躊躇せず、ズカズカと奥へ歩を進めて玉座に座る男の前まで来たんだ。
「……なんだぁ、てめぇは?」
左腕に女性を抱え、右手に持った何かの肉を頬張りながら、男は何とも教養の低そうな物言いで俺に問い掛けて来た。
さて……何と答えてやろうか?
俺の用事としては、こいつの後ろにある聖霊像とこの場所だ。
一時の間だけこの場所を明け渡してくれれば、俺としてはこいつらの生活になんら興味はない。
どれだけ道徳的に問題があったり爛れた生活を送っていようとも、それはこいつ等の問題だ。
人族にだって、こう言った暮らしを送っている奴もいるんだ。魔族にだって、そう言った者たちもいるだろうしな。
「……おぅいっ、お前たちっ! 何でこいつを通したんだっ!」
でも目の前の大男は俺に答えを求める前に、壁に張り付いて立っている男たちへ怒声を向けた。
その瞬間、その男たちだけではなく中央で座っていた女性たちにも動揺が走った。
どうやらここにいる者たちは全員、この男に頭が上がらない……と言うか、この男の恐怖に震えているって感じだな。
俺が目の前にいるってのに、こいつはまるで俺が見えていない……違うな。完全に無視するようにして、男たちへ鋭い視線を送っている。
それを受けて、壁際の男たちはそれぞれ左右に顔を向けて責任の所在を確認している。その誰からも、明確な返事は発せられない。
「……ちぃっ!」
わざとらしく大きな舌打ちをして、この大男は女性を開放し持っていた肉を投げ捨てた。
その代わり……って訳じゃあ無いんだろうけど、足元に置いてあった武器を拾い上げる。
それを見た女性は何かを察したのか、その場から急いで退避した。右に控えていた女性も同様だ。
2人とも、これから何が起こるのか分かったんだろうなぁ。
「……ったく、めんどくせぇなぁ。俺様の城に土足で踏み込みやがって、お前ぇは一体何もんだ?」
ユックリと立ち上がった男は、質問しながらも手にした武器を俺の鼻先へと向けて来た。
この武器は鉾槍と言われ、柄の長い槍の先端に穂先じゃあなく刀剣がくっついている。
攻撃範囲の長い剣……みたいな武器かな? 遠心力が付く分だけ殺傷力は格段に上がっているけど、取り回しが利かないから扱いが難しいし何よりも強い筋力が必要だ。
そういえばこいつ、やたらとムキムキだなぁ。
そのグレイヴの刃の付け根を持って、今奴は俺を脅している最中だ。
「俺はしがない冒険者だ。ちょっとやるべき事があるんで、この場所を明け渡して欲しいんだけどな」
そんな奴に、俺は平然と返答してやった。
今の俺は兜を被っているから、この表情を奴が伺い知る事は出来ない。
でも、聞こえて来た声に恐れ慄いている様子が伺えなかったのが大層不満だったんだろう。
「……ふん!」
「ゆうしゃさまっ!」
向けていたグレイブを払って、俺の兜を吹き飛ばした。
その行動に思わずメニーナが悲鳴を上げるが、まあ案ずる事は無い。
こいつの「気」に揺らぎはないし、まぁ一種の威嚇行動だろう。
「きゃあっ!」
被っていた俺の兜ははるか後方へと飛んでいき、そこに集まっていた女性たちの足元へ落ちたらしい。当たらなくて何よりだったけどな。
「……んん!? お前ぇ……魔族じゃないな?」
改めて俺を見た奴は、少し興味深そうに俺の顔を覗き込んでそう言った。
まぁ魔族が人族を見る機会なんて早々ないだろうからな。同じ種族じゃあない事は分かっても、俺が人族だって発想にはならないみたいだ。
「……ああ。俺は人族だ。魔族じゃあない」
だから俺は、わざわざ丁寧に教えてやったんだ。
本当はそんな事を言う必要も無かったんだけど、最期に誰にやられたのか知らないってのは哀れだろ?
「へぇ……人族か。……まぁ、そんな事はどうでもいいやな」
奴がそう言うと、その身体から一気に攻撃的な「気」が噴き出した! それはまるで俺を……いや、この場の全てを吹き飛ばそうとでもいう程に強烈なものだったんだ。
「きゃあっ!」
「ゆうしゃさまぁ!」
女性たちの悲鳴とメニーナの叫び声が聞こえた。パルネも恐らく、この「気」を感じて不安を覚えているだろう。
でも安心しろ。メニーナ、パルネ。
こいつは言うまでもなく俺よりも……弱い。
「とっとと殺して、俺の城からご退場願おうかなぁ!」
奴は俺に向かって、大上段に構えたグレイブを一気に振り下ろしてきた。
それを躱す事は俺にとっちゃあ朝飯前だったけど、今回はあえてそれを受け止めてやった!
今日持って来ている俺の武器は、鎧の色にマッチした漆黒の大剣。如何にも魔族の冒険者っぽい装備で統一したんだけどな。
両手持ちの大剣は片手持ち剣より慣れてないんだけど、こいつ程度の相手なら問題ないか。
……それにしても。
「おおぅっりゃあああぁっ!」
受け止められた武器をすぐに引いて、奴はそのまま横に薙ぎ払い攻撃を仕掛けて来た!
俺は大きく飛び退いて、その一撃を躱して見せたんだ。
それにしても、こんな奴がまだ野放しになってるとはなぁ。
一合受けただけだが、その強さは十分に理解できた。
こいつは、恐らくは十二魔人将クラスの強さを持っている。
そう言った力ある魔族は、聖霊の呼びかけで魔王の元に集ったって以前に聞いた事があったんだけど……そうじゃない奴もいたみたいだ。
「はっはぁっ! やるじゃないかっ! これならどうだぁっ!」
そう叫んだ奴は、今度は突きを繰り出して来たんだ!
しかもそれは、ただの突きじゃあない。
殆ど同時に、5回の突撃を放ったように見える! しかも、それが全て急所を狙って来ているんだ!
さらに驚きなのは、これは単純に奴の筋力と瞬発力によって振るわれてるって事だ!
魔力を使い攻撃を昇華させる技はいくつも見て来たけど、単純に身体能力でここまでの突き技を見せるなんてな!
「……なっ!?」
それでも、この程度の攻撃は俺には通用しない。
俺は奴の放った5発の突きを、今度は全て剣で弾いてやったんだ!
これには奴も、驚きの表情で少し距離を置いた。本能的に、その場で足を止めるなんてことが出来なかったんだろう。
「お前……中々強いな。どうだ? 俺の軍門に下るんなら、魔王に口を聞いてやっても良いんだぞ?」
強い奴は、今後どれだけ居ても十分と言う事はない。
羅刹界との闘いを控えているんだ。戦力の拡充も必要だろうからな。
「ば……馬鹿か、お前ぇはっ!? そんな話、聞く訳ねぇだろがぁっ!」
僅かに考える素振りも見せずに、奴は俺の提案を即座に否定した。
……まぁ、今まではやりたい事を好き勝手にやって来たんだろう。今更誰かの下に付く……なんて、出来ないだろうなぁ。
「……そうか」
答えが分かっていただけに、俺はそれ以上の事は言えない……いや、言わなかったんだ。
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