紡ぐ赤い糸

クッキーバニラ

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いざ、パーティへ

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今日はパーティ当日


久しく着ていなかった、新調したのかと言われそうな程パリッとしたスーツを纏い、髪も後ろに流してワックスで固めた

後は首輪を付けて、多少のカサつきも気になったのでリップやハンドクリームなどを塗れば準備完了だ


一度鏡の前に立ち、おかしな所はないか探す

ワックスで固めたとしてもやはりアホ毛がぴょこぴょこ出てしまうのはこの際諦めよう

他には特におかしな所はないな


くるりと回転して全体を確認していると、スマホにLINEの通知がなった

見てみるとそれは奏からで、既にマンションの駐車場に着いているらしい


「あいつ、早くね?」


とはいえ、自分も準備は出来ているので抑制剤を胸のポケットにしまい、スマホが余裕をもってしまえる大きさのクラッチバッグにスマホと財布を入れ、家を出る

駐車場に出ると、白のスポーツカーに背中を預けて夕焼けに染まった空を見上げている奏がいた


これだけの事で絵になる姿に少しだけ腹がたつ


高身長で手足が長いからスーツがお似合いだし、顔も整っているからただただ空を眺めるだけでモデルの撮影会かなんかなのかと錯覚しそうになる

更にスポーツカーも、俺は知らんがどこか有名なとこのお値段も高額なやつらしい


今からあいつと一緒に行くのかと、家に戻りたくなるのを押し込め、歩みを進める

近づくにつれあいつも俺を見つけたようで、さっきまで伏せ気味だった目を緩めニコッと微笑んで手を振ってきた

...俺じゃなかったら落ちてるな。これ

あいつの顔面は小さい頃から見てきたから見慣れているが、どうしても自分に対して顔が緩む瞬間を見ると、心がギュッとする


何だか腹がたったので早足で近づくと脇腹に一撃を入れる


「痛い!!何で!!」

「さっさと行くぞ」

「ねぇ何で!?」


ほんと、口を開かなければイケメンなのに...

鍵は空いているようなので助手席に勝手に乗り込むと、グチグチ言うのを諦めたのかため息をついて奏も乗り込んだ


「どれくらいでつく?」

「大体30分くらいかな?」


30分か...思ってたより近いな

シートベルトを付けて、背もたれに体重を預けると、高級な車だからなのか普通の車に比べて、弾力性がある気がする


ナビを入力し終わった奏が車を発進させると、車の揺れがいい感じに眠気を誘う

そういえば昨日も遅くまで作業してたから3時間くらいしか寝てないっけ

中には3時間で十分ってやつもいるかもしれないが、俺は寝るならば6時間以上寝ていたい人間だ。3時間じゃ足りん


でも30分だけ寝るのも微妙な眠気と共にパーティに参加しないといけなくなりそうで、船を漕ぎながらも耐えていると、横からくすくすと堪えるような笑い声が聞こえた


「...なんだよ」

「いや、すまん。眠かったら寝てもいいぞ」

「ダメだ。寝るならしっかりと寝たい」

「お前らしいわ」


んじゃ何か話すかと奏が話題を出してくる


「お前パーティって初めて?」

「親戚の結婚式とか以外には初めて。仕事が安定したのも2年くらい前だし」

「そうなのか」

「お前は?」

「俺は結構あるぞ。社長候補として紹介だったり、社長になってからもお呼ばれされたり」


まぁお前は会社の代表だし、そりゃパーティの5つや6つくらいは出てるよな

ここで一つ紹介しておくと、俺らの年齢は共に27だ

その若さでよく社長になれるなと思うかもしれないが、これには理由がある


この世界にはアルファやベータなどの組み分けがあるが、実は細かく分けるとアルファ内やベータ内にも優劣があったりする

そして幼なじみである奏はアルファの中でも優秀な分類に分けられるらしく、当時、Light.ONE内にはアルファは数人しかおらず、その中でも一番優秀だった奏が社長に選ばれたという訳だ

しかし、簡単にポイッと渡す訳にもいかないから、2年は普通の一般社員として成績を残し、一年で社長としてのノウハウなんかを身につけて今に至るらしいが


まぁ俺なんかには遠い世界の話に感じてしまうのは仕方ないだろう


「...すげぇよな」

「え、何が?」

「何でもない」

「え?え?」


困っている事を正直に表している眉間に少し笑ってしまう

それを奏は横目で呆れたように見てきた


「お前今日はテンション高いな」

「少々気分は浮ついているかもね」

「へぇ、珍しい事もあるんだな」


目を細めながら笑う姿を思わずジッと見てしまう


「...今度はどうした」

「無駄に整った顔があるなと」

「褒めてるんだよね?」

「褒めてる褒めてる」

「ほんとかなぁ...」


赤信号で止まったことをいい事に、奏は俺の頬に指を添わせた


「お前はそこらの女性よりも随分と可愛い顔をしてると思うぞ」

「顔面がくぼむ覚悟はあるか?」

「褒めてるって!」


こいつは俺が女顔なのを気にしている事を知ってるはずなのに


俺の顔は女顔だ。自覚もある

小さい頃からカッコイイではなく可愛いと言われ続けてきたし、高校時代には例えオメガだとしても男は嫌だと言い張っていた同級生にお前ならいけると言われた事もある

確かに女顔だし、昔から体も細めだったが、身長は160後半はあるし、体が細いのも筋肉が付かない、食べても太らないというダブルパンチの体質故だ

なぜここまで言われなきゃいけないのか


ギャンギャンと言い訳をしてくる奏に青信号を伝えると納得していないのか唇を尖らせて前を向いた


「...お前よくその顔で恋人が出来ないよな」

「別に紡がなってくれてもいいんだよ?」

「寝言は寝て言え」

「結構真剣なのに」


横目で奏を見てみると、前を向いているはずの奏と目が合った


「運転に集中しろよ」

「すまんすまん。でもお前こそ、早く番を見つけた方がいいんじゃねぇの?」


その言葉に思わず黙る

恋人...今まで俺に関わってくる奴の大半が下心丸出しの奴らばっかで、なるべく人付き合いをなくそうと避けまくっていたらズルズルと1人でこの歳まできてしまった


オメガがこの歳まで独り身なのは珍しく、大抵がお見合いなどでいい相手を見つけて番となるのが結構王道だ

それ以外にも自分で決めた相手だったりする事も多いが、何故ここまで番を作ろうとするのかというと、オメガ特有のヒートが理由の一つ

オメガはアルファと番をつくった場合、その番となったアルファにのみ、ヒート等が起こる

しかし番をつくっていないと誰彼構わず発情させるフェロモンを撒き散らしてしまう為、襲われたりしてしまう

その予防と言ってはなんだが、やっぱり自分の身は大切にしたいので早々に番をつくる奴が多いという結果になる

だがまぁ、俺は外出もあまりしないし、特に欲しいとも思っていないからつくる気はないんだが


「まぁ運命の番とやらが見つかる以外には多分恋人はつくんないかな」

「運命の番、かぁ...実在のすんのか?」

「有名人が偶に運命の番と結ばれたなんて一面もみるし、いるんじゃない?」


正直あまり信じていないが

運命の番はアルファとオメガの中で本能的に求め合う唯一無二の存在

だが、出会う確率は非常に低く、一生会わずに死んでいく人がほとんどを占める

まさに会えたら奇跡という、最早都市伝説の一つに当てはまってる


「もし困ったらお前に頼むとするよ」

「...紡の頼みなら喜んで」
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