【R18】「お前を愛することはない!」と初夜にドヤ顔で宣言され、ムカついて言いたい放題罵ったら掌を返して溺愛されました。

無憂

文字の大きさ
上 下
2 / 11

2、

しおりを挟む
「お前を愛することはない!」

 藪から棒に何なのかしら、この人。
 返答のしようがなくて、無言でジロジロ見つめてしまう。それが不愉快だったのか、エドウィン卿は眉間に皺を寄せ、言った。

「なんだ、何か文句あるのか?」
「あるに決まってるでしょう? 馬鹿なの?」

 思わず口走ってしまい、旦那様の端麗な眉が上がる――せっかく賢そうな外見でいらっしゃるけど、開口一番で馬鹿がバレちゃってるわ。

「ば、馬鹿とはなんだ! この俺のどこが馬鹿だと……」
「新婚初夜にまともな挨拶もなく、いきなり『お前を愛することはない!』なんて、普通の脳みそと常識があったら言わないと思いますよ? そんなことをわざわざ宣言して、いったい何がしたいんです?」
「何って……?」

 反論されると思わなかったのだろう、固まっている彼に、わたしは肩を竦め、懇切丁寧に説明した。

「正式に婚約が決まってから、何度も顔合わせの機会があったのに、貴方は一度もいらっしゃらなかった。お仕事が忙しいと、執事さんは言い訳してましたけど、結婚が不本意なら断ればよかったのに。どうして無為に逃げ回るばかりだったんです? わたしの方から断って欲しかったんですか? でも、爵位が下のうちからは断れませんよ」

 はっきり言ってやると、エドウィン卿はぐぬぬと口をへの字に歪めた。

「……別に、結婚自体が嫌なわけでは……」
「じゃあ、結婚する気はあったんですね? でも半年間一度も顔合わせに来なくて、当日になってやっぱり気に入らないって、馬鹿じゃない? 事前に確認しておくべきでしょう?」

 やっぱり馬鹿じゃない、とわたしが言えば、彼は眉を逆立てて怒った。

「さっきから馬鹿、馬鹿、うるさい!」
「ちゃんと顔合わせに来ていらしたら、どんな女かおわかりになったのに、自分が悪いんじゃありませんか」
「しょうがないだろう! 父上が……」
 
 エドウィン卿はちょっとだけ目を伏せて、声を落とす。

「父上が……その、実はもう、あまり長くないから――」
「せめて息子の結婚式は見せてやりたくて?」

 わたしが問えば、彼は渋々頷く。

「親孝行はご立派な心掛けですけど、他人を巻き込まないでほしかったですわね。ともかく、お義父さまを安心させるために、好きでもない相手と結婚を決めた。それは貴方のご事情ですよね?」
「……どういう意味だ?」
「この結婚は、貴方が自分の利益のために自ら選択した、そういう意味です」
「利益……」
「父親を安心させるために、とりあえず結婚する、というのは貴方が御自分で決めたんですよね? 別に刃物で脅されたわけでもなく」
「当たり前だ!」
「でも、別に好きでもない相手だし、面倒くさいから顔合わせは全部、ドタキャンした。どうせぱっとしない田舎の子爵令嬢だし、断られることはないと甘く見ていた。そうですね?」
「う……」

 わたしが断言してやれば、図星を突かれたのか、エドウィン卿がぐっと詰まる。

「わたしが理解できないと思うのは、ここからです。好きでもない相手と仕方なく結婚する。……世の中にはよくあることですわ。で、仏頂面で結婚式も済ませ、初夜のベッドの上で藪から棒に、『お前を愛することはない!』……これ、初対面の相手にどや顔で宣言する理由はなんですの?」
「それは――妙な期待をされても困るから……」
 
 もごもごと口の中で言うエドウィン卿にわたしは畳みかけた。

「期待? 何を期待されたら困るんです?」
「その……俺に期待していたら、まずいと思って……」

 わたしは思わず彼をマジマジと見てしまった。

「ええ? わたしが、貴方を愛し、愛されると期待したら困ると思ったんですか? 馬鹿じゃないの?」
「ば、馬鹿って……さっきからお前は……」
「だって貴方、婚約してから半年間、顔合わせ全部ドタキャンしといて、愛されると思ったんですか? どんだけ面の皮が厚いんですか。結納以外の贈り物だって一っつも寄越さないし、手紙は明らかに誰かの代筆で、とんでもないケチだなって思っていましたよ。……確かにうちは田舎の子爵家で、王都の社交界には無縁でしたけど。わたし、わざわざ何度かこちらのお宅にだってお邪魔しましたのに、挨拶すらなくて。そんな無礼な男を好きになるわけないでしょう?」

 はっきり言ってやると、エドウィン卿は露骨に衝撃を受けたような表情をした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ワケあってこっそり歩いていた王宮で愛妾にされました。

しゃーりん
恋愛
ルーチェは夫を亡くして実家に戻り、気持ち的に肩身の狭い思いをしていた。 そこに、王宮から仕事を依頼したいと言われ、実家から出られるのであればと安易に引き受けてしまった。 王宮を訪れたルーチェに指示された仕事とは、第二王子殿下の閨教育だった。 断りきれず、ルーチェは一度限りという条件で了承することになった。 閨教育の夜、第二王子殿下のもとへ向かう途中のルーチェを連れ去ったのは王太子殿下で…… ルーチェを逃がさないように愛妾にした王太子殿下のお話です。

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

【完結】私は義兄に嫌われている

春野オカリナ
恋愛
 私が5才の時に彼はやって来た。  十歳の義兄、アーネストはクラウディア公爵家の跡継ぎになるべく引き取られた子供。  黒曜石の髪にルビーの瞳の強力な魔力持ちの麗しい男の子。  でも、両親の前では猫を被っていて私の事は「出来損ないの公爵令嬢」と馬鹿にする。  意地悪ばかりする義兄に私は嫌われている。

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました

春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

婚約者が肉食系女子にロックオンされています

キムラましゅろう
恋愛
縁故採用で魔法省の事務員として勤めるアミカ(19) 彼女には同じく魔法省の職員であるウォルトという婚約者がいる。 幼い頃に結ばれた婚約で、まるで兄妹のように成長してきた二人。 そんな二人の間に波風を立てる女性が現れる。 最近ウォルトのバディになったロマーヌという女性職員だ。 最近流行りの自由恋愛主義者である彼女はどうやら次の恋のお相手にウォルトをロックオンしたらしく……。 結婚間近の婚約者を狙う女に戦々恐々とするアミカの奮闘物語。 一話完結の読み切りです。 従っていつも以上にご都合主義です。 誤字脱字が点在すると思われますが、そっとオブラートに包み込んでお知らせ頂けますと助かります。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

溺愛されるのは幸せなこと

ましろ
恋愛
リュディガー伯爵夫妻は仲睦まじいと有名だ。 もともとは政略結婚のはずが、夫であるケヴィンがイレーネに一目惚れしたのだ。 結婚してから5年がたった今も、その溺愛は続いている。 子供にも恵まれ順風満帆だと思われていたのに── 突然の夫人からの離婚の申し出。一体彼女に何が起きたのか? ✽設定はゆるゆるです。箸休め程度にお楽しみ頂けると幸いです。

処理中です...