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潜んでいたのは
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「殿下とアデライード姫をお守りするために命を懸ける所存でおりますが、まだまだ、俺の腕では刺客には太刀打ちできないと知りました。俺もランパ殿のようにゾーイ卿から剣の指南を受けることをお許しいただけるでしょうか」
生真面目に言うユーエルに、恭親王が頷いたらしい。
「そろそろ、ソリスティアの騎士を対象に、本格的に騎士の訓練所を立ち上げようと思っているのだ。だが、ランパの進歩が予想より悪くて……フエルの方が使い物になるレベルだった」
「魔力のない普通の騎士のレベルとしては、ランパ殿でも十分だと思うのですが……」
「ランパは結構魔力があるはずなのだがな。魔力を使ってあの程度だとすると、ちょっとやばい。怪我が治ったら、ゾーイに命じてもっと鍛えさせなければ。……お前は武官とはいえ、警備というよりは管理官に近い役割を期待しているから、無茶をしなくてもいいんだぞ?」
「それでも、ゾーイ卿ほどの方から指南を受ける機会は滅多にありませんから」
恭親王がゾーイへの入門を認めると、ユーエルが感謝を述べて立ち上がる。
「ああそうだ、サウラを移送する日取りは決まったが、総督府内の警備責任者としての報告書はすでに出ていたっけな?」
「はい、一度提出しましたが、書式の方に不備があるとかで、トルフィン卿より差し戻されて……先ほど改訂したものを提出しました」
法的な書類にはうるさい決まり事があるのだが、辺境騎士団の騎士あがりのユーエルはそういった細かい事務仕事に不慣れであった。
「そうか。面倒をかけてすまなかった」
ユーエルがかっちりと頭を下げて、部屋を出て言った。それを見送って、恭親王がはー、とため息をつく。シャオトーズが淹れていったお茶の茶杯を取り上げて、すでに冷めたそれを一気に呷っていると、シャオトーズがお茶の用意を下げに現れた。
「もう一杯、改めてお淹れいたしましょうか?」
「いや、いい。下げてくれ」
シャオトーズも下がり、一人になった恭親王が肘掛に頬杖をついている後ろ姿を見て、アデライードは天蓋のカーテンの陰でどうしようかと思う。少し、身体を捩った拍子に、アデライードのアンクレットについている翡翠の透かし彫りが、寝台脇の小卓の脚に触れて微かな音をたてた。
カチャリ。
その、ほんのわずかな音に、恭親王が一気に緊張し、はっと音の出所を求めて振り向く。
全神経を研ぎ澄ませ、部屋に潜んでいる不審者を捕らえようと立ち上がり、気配をたどってまっすぐ寝台の近くに来て、強引に天蓋布を引きはがした――。
「アデライード?」
そこに潜んでいたのは刺客ではなくて、妻だった。
「何をしているのだ、こんなところで――?」
翡翠色の瞳を見開いて、青ざめている妻を問い詰めそうになり、そうだ、声が出ないのだったと思い直す。
「いつから、そこにいた?」
気まずそうに俯くアデライードをまじまじと見て、尋ねる。アデライードが脇卓の上に置いた封筒を持って、おそるおそる彼に差し出すのをひったくるように奪い、もどかしく開いて中の手紙を見る。
『――お会いしたい。愛しています――アデライード』
その文字に、恭親王の心は吸い寄せられ、急速に熱が高まってくるのがわかる。
「わざわざ、これを届けに来たのか? 自分で?」
こくこくと頷くアデライードの、どこか幼い仕草にも言いようのない愛おしさを覚えて、抱きしめようと手を伸ばし、少し躊躇う。
「……その、触れても、いいか? この前、私は乱暴なことをしてしまったから、もし……」
そう言いよどむと、アデライードの方から白い腕を差し出して、彼の首筋に縋りついてきた。それを受け止めて、細く折れそうな身体を両腕の中に抱き留めると、触れたところから甘い〈王気〉が流れ込んでくる。
「アデライード……その、すまなかった。私が、全部悪い……」
肩口でアデライードの髪が揺れるのを感じる。腕の中のぬくもりをさらに強く抱きしめ、大きく息を吐いた。
「どうかしていたんだ。……もう二度と、あんなことはしないと誓う」
《わたしも、不用意だったの……ごめんなさい》
アデライードの念話が流れ込んできて、恭親王は首を振った。
「あなたが、謝ることはない。悪いのは私だから――私も、愛している」
そのまま、アデライードのうなじを大きな手で抱えるようにして、その唇を唇で塞ぐ。舌を絡ませ、濃密なキスを交わしながら、もう一つの手でアデライードの身体の線をなぞる。最後に覚えている感覚よりも少し痩せたような気がするそれを大きな手で何度も確かめるようにして、そのまま丸い尻をぎゅっと掴んだ。欲望が一気に膨れ上がって、暴走しそうになる。舌で口蓋の裏をなぞり、唾液を吸い上げる。甘い〈王気〉が恭親王の脳髄から背中を直撃し、硬くなった下半身をアデライードに擦りつけてしまう。
《まっ……だめ……まだ……》
「我慢できそうもない。興奮して……」
恭親王はそのままアデライードを寝台に横たえると、素早く紗幕を閉じてその細い体の上に圧し掛かった。
生真面目に言うユーエルに、恭親王が頷いたらしい。
「そろそろ、ソリスティアの騎士を対象に、本格的に騎士の訓練所を立ち上げようと思っているのだ。だが、ランパの進歩が予想より悪くて……フエルの方が使い物になるレベルだった」
「魔力のない普通の騎士のレベルとしては、ランパ殿でも十分だと思うのですが……」
「ランパは結構魔力があるはずなのだがな。魔力を使ってあの程度だとすると、ちょっとやばい。怪我が治ったら、ゾーイに命じてもっと鍛えさせなければ。……お前は武官とはいえ、警備というよりは管理官に近い役割を期待しているから、無茶をしなくてもいいんだぞ?」
「それでも、ゾーイ卿ほどの方から指南を受ける機会は滅多にありませんから」
恭親王がゾーイへの入門を認めると、ユーエルが感謝を述べて立ち上がる。
「ああそうだ、サウラを移送する日取りは決まったが、総督府内の警備責任者としての報告書はすでに出ていたっけな?」
「はい、一度提出しましたが、書式の方に不備があるとかで、トルフィン卿より差し戻されて……先ほど改訂したものを提出しました」
法的な書類にはうるさい決まり事があるのだが、辺境騎士団の騎士あがりのユーエルはそういった細かい事務仕事に不慣れであった。
「そうか。面倒をかけてすまなかった」
ユーエルがかっちりと頭を下げて、部屋を出て言った。それを見送って、恭親王がはー、とため息をつく。シャオトーズが淹れていったお茶の茶杯を取り上げて、すでに冷めたそれを一気に呷っていると、シャオトーズがお茶の用意を下げに現れた。
「もう一杯、改めてお淹れいたしましょうか?」
「いや、いい。下げてくれ」
シャオトーズも下がり、一人になった恭親王が肘掛に頬杖をついている後ろ姿を見て、アデライードは天蓋のカーテンの陰でどうしようかと思う。少し、身体を捩った拍子に、アデライードのアンクレットについている翡翠の透かし彫りが、寝台脇の小卓の脚に触れて微かな音をたてた。
カチャリ。
その、ほんのわずかな音に、恭親王が一気に緊張し、はっと音の出所を求めて振り向く。
全神経を研ぎ澄ませ、部屋に潜んでいる不審者を捕らえようと立ち上がり、気配をたどってまっすぐ寝台の近くに来て、強引に天蓋布を引きはがした――。
「アデライード?」
そこに潜んでいたのは刺客ではなくて、妻だった。
「何をしているのだ、こんなところで――?」
翡翠色の瞳を見開いて、青ざめている妻を問い詰めそうになり、そうだ、声が出ないのだったと思い直す。
「いつから、そこにいた?」
気まずそうに俯くアデライードをまじまじと見て、尋ねる。アデライードが脇卓の上に置いた封筒を持って、おそるおそる彼に差し出すのをひったくるように奪い、もどかしく開いて中の手紙を見る。
『――お会いしたい。愛しています――アデライード』
その文字に、恭親王の心は吸い寄せられ、急速に熱が高まってくるのがわかる。
「わざわざ、これを届けに来たのか? 自分で?」
こくこくと頷くアデライードの、どこか幼い仕草にも言いようのない愛おしさを覚えて、抱きしめようと手を伸ばし、少し躊躇う。
「……その、触れても、いいか? この前、私は乱暴なことをしてしまったから、もし……」
そう言いよどむと、アデライードの方から白い腕を差し出して、彼の首筋に縋りついてきた。それを受け止めて、細く折れそうな身体を両腕の中に抱き留めると、触れたところから甘い〈王気〉が流れ込んでくる。
「アデライード……その、すまなかった。私が、全部悪い……」
肩口でアデライードの髪が揺れるのを感じる。腕の中のぬくもりをさらに強く抱きしめ、大きく息を吐いた。
「どうかしていたんだ。……もう二度と、あんなことはしないと誓う」
《わたしも、不用意だったの……ごめんなさい》
アデライードの念話が流れ込んできて、恭親王は首を振った。
「あなたが、謝ることはない。悪いのは私だから――私も、愛している」
そのまま、アデライードのうなじを大きな手で抱えるようにして、その唇を唇で塞ぐ。舌を絡ませ、濃密なキスを交わしながら、もう一つの手でアデライードの身体の線をなぞる。最後に覚えている感覚よりも少し痩せたような気がするそれを大きな手で何度も確かめるようにして、そのまま丸い尻をぎゅっと掴んだ。欲望が一気に膨れ上がって、暴走しそうになる。舌で口蓋の裏をなぞり、唾液を吸い上げる。甘い〈王気〉が恭親王の脳髄から背中を直撃し、硬くなった下半身をアデライードに擦りつけてしまう。
《まっ……だめ……まだ……》
「我慢できそうもない。興奮して……」
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