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反省の写経
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「いったい何度目ですか。いい加減、学習すればいいのに」
トルフィンにも呆れられて、恭親王は憮然として唇をへの字に曲げる。
フエルの手を握って至近距離で見つめあっているアデライードに激昂し、しかも彼女の声が現在出ないということをすっかり忘れて厳しく問い詰めてしまい、現場を押えたメイローズに怒りの鉄拳までくらって、アデライードの寝室から数日閉め出されている。
「殿下は女癖は悪くても、強姦だけはしないのが取り柄でしたのに。はっきり言って、幻滅です」
「そりゃ、今までは寄ってくる女をテキトーにつまみ食いしてりゃよかったんすから、真の恋愛経験がほぼゼロなんはわかるっすよ。でも、強姦だけはだめっす」
トルフィンにもゾラにも冷たい目で言い放たれ、恭親王は反省文ならぬ、反省の写経――激怒したマニ僧都に命じられた――をしながら自己弁護に必死だ。
「違う! 強姦するつもりなどない! だいたい夫婦なんだぞ! なぜいつの間にか強姦魔にされている!」
「半裸に剥いて手首拘束しておきながら、強姦する気なんてなかった、そんな言い訳通じるわけないっしょ! それも口のきけない相手に。最低すぎて辞表書きたくなったっすよ、俺!」
帝国は男尊女卑社会で、法的には夫婦間のレイプなど存在しないことになっているが、トルフィンもゾラも嫌がる女を無理矢理に、なんて、女に相手にされない下種のやることだと思っているので、主に対しても軽蔑を隠さない。とくにゾラはちゃらんぽらんなくせに、レイプとロリペドだけは許すまじという主義を貫いている。ゾラに言わせれば、ただでさえアデライードは成長が遅くてロリコン一歩手前なのに、それを無理矢理だなんて、なおさらあり得ないというわけだ。
しかも、事の起こりが十三歳のフエルに嫉妬して、という大人げなさに、女性陣はもちろん、男の部下たちからもすっかり総スカンを喰ってしまった。
恭親王も内心、自分が最低だとの自覚はあるので、それ以上の反論は諦めて黙々と写経に没頭する。本来ならば滅茶苦茶忙しくて写経なんてしている場合ではないのだが、現在、総督府内ではレイプ未遂エロ皇子は厳罰に処さるるべし、の空気が醸成されていて、彼の反省と写経は最優先事項として、暗黙の了解の下にあった。要するに、恭親王は針の筵に座らされている状態だ。
別にレイプ目的で寝室に連れ込んだわけではない。自分の中に湧き起こるどす黒い感情を制御しきれず、暴走しただけだ。……だが、あのままメイローズが飛び込んでこなければ、何をしでかしたかわからない。アデライードに一生、取り返しのつかない傷を負わすところだったかもしれない。
アデライードはあの後二日、ずっと部屋に籠って出てこない。もともと精神的なショックから声が出なくなっていたところに、さらに追い打ちをかけられて、すっかり怯えてしまったという。恭親王もお詫びの手紙やら贈り物やら贈ってはいるが、何しろ女たちが烈火の如く怒っていて、土下座すらさせてもらえない。
恭親王は溜息をつく。
一番、大切に思い、絶対に傷つけたくない相手に、どうしてあんなことができたのか。
メイローズが間に合わなければ、自分はデュクトと同じ罪を犯すところだった。
愛していると言いながら、欲望のままにその尊厳を踏みにじる。どれだけその後に優しくされたところで、一度抉られた心の傷は元に戻らない。自分が一番、そのことをわかっているはずなのに。
こんな形で、デュクトの心情を理解する日が来ようとは。恭親王は自身の至らなさに唇を噛んだ。
写経が一段落して恭親王は筆を擱くと、ふと、思いついてトルフィンに言った。
「――後で、ユーエルにレイナへの手紙を渡そうと思っている。……そうだな。私の寝室の方に来るように言ってくれ」
「レイナ様のお手紙を?」
トルフィンが書類を捲る手を止めて尋ねる。アデライードとの夫婦の居間で、死んだ側室の話をその弟とするのはよくない気がして、さりとて個人的な話を侍従たちが出入りする書斎でするのも嫌であった。寝に帰るだけの寝室だが、究極に個人的な話には相応しかろう。
「……ああ、サウラが隠匿していたものを、一応、遺族であるユーエルに渡す。私が持っていても仕方がないからな」
レイナから恭親王に宛てられた手紙は、すでに処分されていた。だがレイナに宛てたはずの手紙は、レイナの遺品であるから、遺族の判断にゆだねるべきだと、彼は考えたのだ。
トルフィンにも呆れられて、恭親王は憮然として唇をへの字に曲げる。
フエルの手を握って至近距離で見つめあっているアデライードに激昂し、しかも彼女の声が現在出ないということをすっかり忘れて厳しく問い詰めてしまい、現場を押えたメイローズに怒りの鉄拳までくらって、アデライードの寝室から数日閉め出されている。
「殿下は女癖は悪くても、強姦だけはしないのが取り柄でしたのに。はっきり言って、幻滅です」
「そりゃ、今までは寄ってくる女をテキトーにつまみ食いしてりゃよかったんすから、真の恋愛経験がほぼゼロなんはわかるっすよ。でも、強姦だけはだめっす」
トルフィンにもゾラにも冷たい目で言い放たれ、恭親王は反省文ならぬ、反省の写経――激怒したマニ僧都に命じられた――をしながら自己弁護に必死だ。
「違う! 強姦するつもりなどない! だいたい夫婦なんだぞ! なぜいつの間にか強姦魔にされている!」
「半裸に剥いて手首拘束しておきながら、強姦する気なんてなかった、そんな言い訳通じるわけないっしょ! それも口のきけない相手に。最低すぎて辞表書きたくなったっすよ、俺!」
帝国は男尊女卑社会で、法的には夫婦間のレイプなど存在しないことになっているが、トルフィンもゾラも嫌がる女を無理矢理に、なんて、女に相手にされない下種のやることだと思っているので、主に対しても軽蔑を隠さない。とくにゾラはちゃらんぽらんなくせに、レイプとロリペドだけは許すまじという主義を貫いている。ゾラに言わせれば、ただでさえアデライードは成長が遅くてロリコン一歩手前なのに、それを無理矢理だなんて、なおさらあり得ないというわけだ。
しかも、事の起こりが十三歳のフエルに嫉妬して、という大人げなさに、女性陣はもちろん、男の部下たちからもすっかり総スカンを喰ってしまった。
恭親王も内心、自分が最低だとの自覚はあるので、それ以上の反論は諦めて黙々と写経に没頭する。本来ならば滅茶苦茶忙しくて写経なんてしている場合ではないのだが、現在、総督府内ではレイプ未遂エロ皇子は厳罰に処さるるべし、の空気が醸成されていて、彼の反省と写経は最優先事項として、暗黙の了解の下にあった。要するに、恭親王は針の筵に座らされている状態だ。
別にレイプ目的で寝室に連れ込んだわけではない。自分の中に湧き起こるどす黒い感情を制御しきれず、暴走しただけだ。……だが、あのままメイローズが飛び込んでこなければ、何をしでかしたかわからない。アデライードに一生、取り返しのつかない傷を負わすところだったかもしれない。
アデライードはあの後二日、ずっと部屋に籠って出てこない。もともと精神的なショックから声が出なくなっていたところに、さらに追い打ちをかけられて、すっかり怯えてしまったという。恭親王もお詫びの手紙やら贈り物やら贈ってはいるが、何しろ女たちが烈火の如く怒っていて、土下座すらさせてもらえない。
恭親王は溜息をつく。
一番、大切に思い、絶対に傷つけたくない相手に、どうしてあんなことができたのか。
メイローズが間に合わなければ、自分はデュクトと同じ罪を犯すところだった。
愛していると言いながら、欲望のままにその尊厳を踏みにじる。どれだけその後に優しくされたところで、一度抉られた心の傷は元に戻らない。自分が一番、そのことをわかっているはずなのに。
こんな形で、デュクトの心情を理解する日が来ようとは。恭親王は自身の至らなさに唇を噛んだ。
写経が一段落して恭親王は筆を擱くと、ふと、思いついてトルフィンに言った。
「――後で、ユーエルにレイナへの手紙を渡そうと思っている。……そうだな。私の寝室の方に来るように言ってくれ」
「レイナ様のお手紙を?」
トルフィンが書類を捲る手を止めて尋ねる。アデライードとの夫婦の居間で、死んだ側室の話をその弟とするのはよくない気がして、さりとて個人的な話を侍従たちが出入りする書斎でするのも嫌であった。寝に帰るだけの寝室だが、究極に個人的な話には相応しかろう。
「……ああ、サウラが隠匿していたものを、一応、遺族であるユーエルに渡す。私が持っていても仕方がないからな」
レイナから恭親王に宛てられた手紙は、すでに処分されていた。だがレイナに宛てたはずの手紙は、レイナの遺品であるから、遺族の判断にゆだねるべきだと、彼は考えたのだ。
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