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16 シウリンの墓

思わぬ影響*

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 五日間の昏睡から目覚め、二日ほど寝台の上で過ごして、恭親王は政務に復帰した。
 彼の決裁を必要とする書類が山のようにあり、さらに膨大な報告書を読んで事件の全貌を理解し、魔法陣を介して帝都の兄に回復を知らせる。刺客が重傷を負っていてまだ尋問が出来ないのは幸いだった。その供述書まで読んでいたら再び過労で倒れたかもしれない。地下牢のサウラにも会いにいくべきかもしれないが、そんな時間も気力もない。どうせ会いに行ったところで、無駄に泣き落としされるか罵倒されるかどちらかだ。法に基づいた処罰に彼が口を出せることは、何もない。あとはすべて、帝都での裁き次第である。

 彼が疲れているのは昏睡明けの激務ということもあるが、メイローズにアデライードとの交接を控えるように釘を刺さされたせいもある。

 恭親王が倒れた後、アデライードは消えかけた〈王気〉を補うために、魔力のほぼすべてを彼に注ぎ続けた。そのおかげで魔力切れを起こし、さらに、おそらくごくごく初期の流産を起こしたのだ、と。

 それを聞いて恭親王は息が止まるほどに驚いた。だがメイローズはさらに無情にも言った。

「姫君のご体調が整うまで、夜の方はお控えになるべきかと存じます」

 彼が眠っていた間、アデライードは月の障りと高熱とで寝込んでいた。だいぶ体力も落ちていて、しばらく無理はさせられないという。もちろん、手は出さないと恭親王は言い張ったが、日ごろの行いが悪すぎた。アンジェリカもリリアも彼をまったく信用せず、彼はアデライードの寝室から閉め出された。昼間びっちりと公務が詰まり、夜は寝室に入れてもらえないとなると、話もできない。要するに目覚めて以来、アデライードとは朝食の席でしか会うことができていないのだ。

 禁欲が七日目に至った夜、悶々と過ごす彼のもとにシャオトーズが気を利かせて蛇女を寄越した。
 「蛇女」は人間ぽい形をしているだけで、恭親王にとっては「女」ではなく、生きて勝手に動く、訓練された「性具」という認識であった。時々は嬲って甚振ってやるが、面倒くさい時はただ口淫だけさせて欲を吐き出せばそれで終わる。だからアデライードに対する何の後ろめたさもなく、彼は蛇女たちを寝台に上げた。

 衣服を脱ごうとする女たちに手を振って、必要ないと言う。

「ただ抜いてくれればいい」

 蛇女たちも心得たもので、一人が彼の脚衣をくつろげて萎えた中心に取りつき、残りの二人はそれぞれ足ツボを刺激し始める。香油を塗りつけて足裏をマッサージし、性感のツボを刺激する。――だが。

 普段ならすぐにも雄々しくち上がるそれが、いっこうに硬くならない。

(やっぱり疲れているからか?しばらく昏睡していたし……)

 だが、肉茎に取り付いていた蛇女が疲労して交代し、三人がかりで責め立てても、ぐにゃりと萎えたままのそれを持て余すに及んで、彼も衝撃を受ける。いまだかつてこんなことはなかった。

(もしや、心臓が一度止まったせいで、どこか神経のつながりがおかしくなったのか?)

 内心恐慌をきたしていたが、それを極力表に出さないようにして、蛇女にもういい、と指示を出す。

「どうやら体調が万全ではないらしい。この後は風呂に入って寝るから……もう下がってくれ」

 蛇女を追い返すと、シャオトーズに命じて風呂の用意をさせる。何となく顔色の悪い主をシャオトーズが気がかりそうに見るのを、何でもないと強いて笑顔を作り、何事もないような振りをして風呂に入る。

 湯船の中で自分の分身を見下ろして、彼は茫然としていた。

(……まさかの勃起不全、てやつか?)

 やはりあの、アデライードの魔力が直撃して心臓が止まったのがいけなかったのか。

(いやいや、きっと疲れて体調がよくないだけで……たまたまだ)

 このまま二度と勃起しなかったらどうなるんだろうと、不安が押し寄せる。二度とアデライードにあんなこともこんなこともできないとしたら!死んだ方がマシだ!

 湯船に突っ伏すように頭を抱え、髪を掻き毟る。

 まだアレもやってない、コレもいつかやりたいと思っていたのにと、もう少しアデライードが慣れたら試そうと思っていた体位やらプレイやらを想像し、ああきっと、あんなことをさせたら恥ずかしがって泣いちゃうなとか、焦らしに焦らして卑猥な言葉を口にさせて強請らせたら、きっとあの可愛い顔を羞恥で真っ赤にしながら、それでも言うままに応えてくれただろうにとか思い描いていたら……

(――普通にビンビンにってるじゃないか)

 すっかり天に向かって鎌首をもたげ、血管まで浮いている。

 では、さっきは何だったのだ。蛇女たちだって相当に頑張って彼を奮い立たせようとしたのに、ピクリとも反応しなかったではないか。

(だいたい、ここ一か月以上、あれたちには世話になっていなかったしな……だがあの舌使いはダヤンが選りすぐりの調教師の元から買っただけあって、帝都でも滅多にない上物のはずなのだが……)

 だが、蛇女を侍らせて口淫させている自分を想像しただけで、彼の分身は萎え始めてしまう。

(蛇女の超絶技巧でも勃たないってことは、おそらくこれを口に咥えろと言われただけで、吃驚して涙目になっちゃいそうな超初心者のアデライードの口淫では……)

『こんなの、口でなんて、無理です!は、恥ずかしいし、だってだって……』
『私だっていつも、あなたのを口でしてあげているじゃないか。いつも舌で気を失うほど気持ちよくさせて、溢れるほど濡らしてあげているんだもの、たまには私のを、あなたのこの可愛いお口で舐めて、咥えて欲しいのだが……』
『そんな、無理です、だって、大きくて怖いし……』

 きっとアデライードは彼のこれを正視するのさえ恥ずかしがって、赤い顔をいやいやと振って抵抗するだろう。そこを口説き落とすか、いっそのこと無理やり突っ込んだら、涙目になって口を開けて、必死に彼のこれを飲み込むに違いない。

『んんっ、んぐっ……んっ……』
『そうだ、上手いじゃないか、アデライード、歯を立てないで、もっと奥まで……』
 
 きっと全然うまくないだろうけど、それでもアデライードが眉を顰めて彼のこれを受け止めて、えづくのを我慢しながら可愛い唇で吸い上げて……

 そこまで想像して、彼は思わず叫んだ。

「うおお!想像しただけで、もうイきそう!」

 彼がアデライードに口淫させている自分を想像しながら、左手を必死に動かせば、さっきはあんなに反応しなかった彼の肉茎ははちきれんばかりに硬く漲り、瞬く間に弾けて彼の手を白濁で濡らす。荒い息を吐きながらすべてを出し切って、それでもまだ萎えない自身を見下ろし、彼はある結論にたどり着く。

(つまり……要するに、そういうことか。アデライードにしか、勃たないってことか。アデライードとヤれない時は、アデライードのことを想像しながら自分でするしかないということなのか。……それが面倒くさいから、蛇女を飼っているのだがな)

 彼の中で自慰と蛇女の口淫の垣根は限りなく低い。というか、むしろ自慰の方に抵抗があって、長く戦線にいた時くらいしかやったことはない。自分の手を必死に動かして快楽を追及するなんて浅ましい真似、皇子のすることではないと思っていた。が、蛇女に咥えられても勃(た)たないのだから、しょうがない。

(蛇女じゃなくて、アデライードが舐めているのだと自分に言い聞かせればいいのか?……だが、現実に蛇女が咥えているのに、それを想像の中でアデライードに置き換えるのは……たぶん無理だ……)

 結局、アデライードのことを夢想しながら数年ぶりの自己処理に耽って、あまりの長風呂にシャオトーズが心配して顔を出したころには、風呂もすっかり冷めていた。

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