122 / 170
13、裁きの星
誣告罪
しおりを挟む
だが、エンロンの言葉に、サウラが激昂する。
「子殺しとか、大げさよ! あたくしはただ、側室に戻れればそれでよかったのだから。ちょっとお姫様をダシに、殿下に脅しをかけたかっただけよ。あの、小賢しい宦官が〈王気〉がないだのなんだの言いださなければ、うまくいったのに! あたくしがやろうとしたのは、それだけよ! もとからいない子を流産したって騒ぐだけだから、子供だって死んでない。何も悪いことはしていないわ!あの馬鹿な正室がレイナを殺したみたいに、腹の子を殺したのより、うんとマシじゃない!」
エンロンが指で机をとんとんと叩いて、言った。
「それを、帝国の法では誣告罪ってんだよ」
「誣告罪?」
「実際になしてもいない犯罪行為を、さもあったかのごとく言い立てて、無実の人に罪を被せる。これが誣告罪でなくてなんだ?――誣告はね、その罪を反す、ってのが原則だ。つまり、あんたは姫君に、親王の腹の子を故意に流産させた罪を誣告しようとした。ということは、あんたは親王の腹の子を故意に流産させた罪と同じってことだ」
エンロンが指摘すると、サウラは黒い瞳を見開いて、必死に首を振る。
「違うわ! 流産はわざとじゃなくて……」
「あんたの腹の子の話じゃない。たとえるならば、あんたは姫君のお腹の子をわざと流産させたのと、同じ罪になるって意味だ。皇族の、それも親王の子だ。まあ、とりあえず死罪だろうな」
エンロンの冷酷な断言に、サウラは真っ青になる。
「違うわ! いもしない子を殺したことにされるなんて、おかしいわ!」
「ありもしない罪をでっちあげ、いもしない子をいると見せかけたのを誤魔化そうとしたくせに、何言ってる」
エンロンが呆れて眉をことさらに歪めてみせると、サウラははっとして言った。
「あ、あたくしは流産したのは姫君のせいだと騒ぐだけで、本当に官憲に告訴するつもりなんてなかった。訴える、って殿下を脅そうと思っただけよ。だから、誣告罪、てのはおかしいんじゃないかしら。だってあたくしは、ただちょっとお腹が痛い、って騒いだだけで……訴状も提出してないし、そもそもまだ、流産したとも言い出す前じゃない。もし、あたくしが罪に問われるとすれば、殿下の子を流産したのを黙って、妊娠が継続したと偽っただけよ」
サウラの発言を聞いて、エンロンはほう、という思いで目を瞠る。そこに気づいたか。満更馬鹿ではないらしい。
「あたくしは騙されたの! あの女たちに唆されて、妊娠の継続を装っただけよ。妊娠を偽装したのじゃなくて、流産したのを黙っていただけ。……それも、あの女に騙されて……その……とにかく、赤ん坊も殺してないし、まだ誣告もしていない。死罪にされるほどじゃないわ!」
「ほう! まあ、百歩譲って、誣告はまだ成立していないという前提で考えてみようか。……ただ、流産を告げなかっただけでなく、腹に詰め物をして故意に誤魔化してたから、詐欺罪は確実だな。詐欺罪の場合、皇后陛下を騙してたってのが、痛いな。しかも、皇子の子の妊娠継続を偽装している。むかーしね、ものすごい大昔だけど、不義の子を皇子の子と偽って、生んだ後に〈王気〉がなくてバレた事例があってね。皇統を乱す大逆罪を適用するべきか否か、すごい議論になったんだよ。今回の事例の方がタチが悪いと判断される可能性があるから、正直オススメできないな」
エンロンが首を傾げて言うと、サウラが絶望的な表情で、榻を降りて両膝をつき、エンロンに取り縋った。
「そんな! あたくしはそんなつもりはなくて……ただ、殿下が側室にさえ戻してくれたら、旅の疲れとかを理由に流産したことにするつもりだったのよ。皇統を乱すとか、大逆罪とか、そんな大それたことは考えてないわ! ねえ、お願いよ!あんただったらあたくしの命を助けられるんでしょ? 生かすも殺すも俺次第、ってさっき言ったじゃないの! 何とか助かる方法はないの?!」
「おいおい、木っ端役人風情がとか馬鹿にしてた俺に、手のひら返しかい。……ま、いいや。じゃあ、あんたのために特別に、一番刑の軽くなりそうなのを考えてみよう。……あんたは流産を隠して、妊娠の継続を偽装した。ただ、側室で居続けたかっただけで、ほかに他意はないとする」
「そうよ、それだけよ。誰も損をしていないわ!」
「損をしてないってことは、あり得ないな。お腹に子がいるからって理由で、皇后陛下はあんたの離縁状をいったん、凍結した。つまり、子がいなくなれば、あんたの離縁は成立するはずだ」
エンロンが小首を傾げてにやーっと笑う。サウラはごくりと唾を飲み込み、必死で言った。
「たかが、皇子の側室の離縁が少し延びたくらい、それがどうしたって言うの」
「子殺しとか、大げさよ! あたくしはただ、側室に戻れればそれでよかったのだから。ちょっとお姫様をダシに、殿下に脅しをかけたかっただけよ。あの、小賢しい宦官が〈王気〉がないだのなんだの言いださなければ、うまくいったのに! あたくしがやろうとしたのは、それだけよ! もとからいない子を流産したって騒ぐだけだから、子供だって死んでない。何も悪いことはしていないわ!あの馬鹿な正室がレイナを殺したみたいに、腹の子を殺したのより、うんとマシじゃない!」
エンロンが指で机をとんとんと叩いて、言った。
「それを、帝国の法では誣告罪ってんだよ」
「誣告罪?」
「実際になしてもいない犯罪行為を、さもあったかのごとく言い立てて、無実の人に罪を被せる。これが誣告罪でなくてなんだ?――誣告はね、その罪を反す、ってのが原則だ。つまり、あんたは姫君に、親王の腹の子を故意に流産させた罪を誣告しようとした。ということは、あんたは親王の腹の子を故意に流産させた罪と同じってことだ」
エンロンが指摘すると、サウラは黒い瞳を見開いて、必死に首を振る。
「違うわ! 流産はわざとじゃなくて……」
「あんたの腹の子の話じゃない。たとえるならば、あんたは姫君のお腹の子をわざと流産させたのと、同じ罪になるって意味だ。皇族の、それも親王の子だ。まあ、とりあえず死罪だろうな」
エンロンの冷酷な断言に、サウラは真っ青になる。
「違うわ! いもしない子を殺したことにされるなんて、おかしいわ!」
「ありもしない罪をでっちあげ、いもしない子をいると見せかけたのを誤魔化そうとしたくせに、何言ってる」
エンロンが呆れて眉をことさらに歪めてみせると、サウラははっとして言った。
「あ、あたくしは流産したのは姫君のせいだと騒ぐだけで、本当に官憲に告訴するつもりなんてなかった。訴える、って殿下を脅そうと思っただけよ。だから、誣告罪、てのはおかしいんじゃないかしら。だってあたくしは、ただちょっとお腹が痛い、って騒いだだけで……訴状も提出してないし、そもそもまだ、流産したとも言い出す前じゃない。もし、あたくしが罪に問われるとすれば、殿下の子を流産したのを黙って、妊娠が継続したと偽っただけよ」
サウラの発言を聞いて、エンロンはほう、という思いで目を瞠る。そこに気づいたか。満更馬鹿ではないらしい。
「あたくしは騙されたの! あの女たちに唆されて、妊娠の継続を装っただけよ。妊娠を偽装したのじゃなくて、流産したのを黙っていただけ。……それも、あの女に騙されて……その……とにかく、赤ん坊も殺してないし、まだ誣告もしていない。死罪にされるほどじゃないわ!」
「ほう! まあ、百歩譲って、誣告はまだ成立していないという前提で考えてみようか。……ただ、流産を告げなかっただけでなく、腹に詰め物をして故意に誤魔化してたから、詐欺罪は確実だな。詐欺罪の場合、皇后陛下を騙してたってのが、痛いな。しかも、皇子の子の妊娠継続を偽装している。むかーしね、ものすごい大昔だけど、不義の子を皇子の子と偽って、生んだ後に〈王気〉がなくてバレた事例があってね。皇統を乱す大逆罪を適用するべきか否か、すごい議論になったんだよ。今回の事例の方がタチが悪いと判断される可能性があるから、正直オススメできないな」
エンロンが首を傾げて言うと、サウラが絶望的な表情で、榻を降りて両膝をつき、エンロンに取り縋った。
「そんな! あたくしはそんなつもりはなくて……ただ、殿下が側室にさえ戻してくれたら、旅の疲れとかを理由に流産したことにするつもりだったのよ。皇統を乱すとか、大逆罪とか、そんな大それたことは考えてないわ! ねえ、お願いよ!あんただったらあたくしの命を助けられるんでしょ? 生かすも殺すも俺次第、ってさっき言ったじゃないの! 何とか助かる方法はないの?!」
「おいおい、木っ端役人風情がとか馬鹿にしてた俺に、手のひら返しかい。……ま、いいや。じゃあ、あんたのために特別に、一番刑の軽くなりそうなのを考えてみよう。……あんたは流産を隠して、妊娠の継続を偽装した。ただ、側室で居続けたかっただけで、ほかに他意はないとする」
「そうよ、それだけよ。誰も損をしていないわ!」
「損をしてないってことは、あり得ないな。お腹に子がいるからって理由で、皇后陛下はあんたの離縁状をいったん、凍結した。つまり、子がいなくなれば、あんたの離縁は成立するはずだ」
エンロンが小首を傾げてにやーっと笑う。サウラはごくりと唾を飲み込み、必死で言った。
「たかが、皇子の側室の離縁が少し延びたくらい、それがどうしたって言うの」
11
お気に入りに追加
223
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。
——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない)
※完結直後のものです。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
5人の旦那様と365日の蜜日【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる!
そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。
ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。
対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。
※♡が付く話はHシーンです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる