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13、裁きの星

誣告罪

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 だが、エンロンの言葉に、サウラが激昂する。

「子殺しとか、大げさよ! あたくしはただ、側室に戻れればそれでよかったのだから。ちょっとお姫様をダシに、殿下に脅しをかけたかっただけよ。あの、小賢しい宦官が〈王気〉がないだのなんだの言いださなければ、うまくいったのに! あたくしがやろうとしたのは、それだけよ! もとからいない子を流産したって騒ぐだけだから、子供だって死んでない。何も悪いことはしていないわ!あの馬鹿な正室がレイナを殺したみたいに、腹の子を殺したのより、うんとマシじゃない!」

 エンロンが指で机をとんとんと叩いて、言った。

「それを、帝国の法では誣告罪ぶこくざいってんだよ」
「誣告罪?」
「実際になしてもいない犯罪行為を、さもあったかのごとく言い立てて、無実の人に罪を被せる。これが誣告罪でなくてなんだ?――誣告はね、その罪をかえす、ってのが原則だ。つまり、あんたは姫君に、親王の腹の子を故意に流産させた罪を誣告しようとした。ということは、あんたは親王の腹の子を故意に流産させた罪と同じってことだ」

 エンロンが指摘すると、サウラは黒い瞳を見開いて、必死に首を振る。

「違うわ! 流産はわざとじゃなくて……」
「あんたの腹の子の話じゃない。たとえるならば、あんたは姫君のお腹の子をわざと流産させたのと、同じ罪になるって意味だ。皇族の、それも親王の子だ。まあ、とりあえず死罪だろうな」

 エンロンの冷酷な断言に、サウラは真っ青になる。

「違うわ! いもしない子を殺したことにされるなんて、おかしいわ!」
「ありもしない罪をでっちあげ、いもしない子をいると見せかけたのを誤魔化そうとしたくせに、何言ってる」

 エンロンが呆れて眉をことさらに歪めてみせると、サウラははっとして言った。

「あ、あたくしは流産したのは姫君のせいだと騒ぐだけで、本当に官憲おかみに告訴するつもりなんてなかった。訴える、って殿下を脅そうと思っただけよ。だから、誣告罪、てのはおかしいんじゃないかしら。だってあたくしは、ただちょっとお腹が痛い、って騒いだだけで……訴状も提出してないし、そもそもまだ、流産したとも言い出す前じゃない。もし、あたくしが罪に問われるとすれば、殿下の子を流産したのを黙って、妊娠が継続したと偽っただけよ」

 サウラの発言を聞いて、エンロンはほう、という思いで目を瞠る。そこに気づいたか。満更馬鹿ではないらしい。

「あたくしは騙されたの! あの女たちに唆されて、妊娠の継続を装っただけよ。妊娠を偽装したのじゃなくて、流産したのを黙っていただけ。……それも、あの女に騙されて……その……とにかく、赤ん坊も殺してないし、まだ誣告もしていない。死罪にされるほどじゃないわ!」
「ほう! まあ、百歩譲って、誣告はまだ成立していないという前提で考えてみようか。……ただ、流産を告げなかっただけでなく、腹に詰め物をして故意に誤魔化してたから、詐欺罪は確実だな。詐欺罪の場合、皇后陛下を騙してたってのが、痛いな。しかも、皇子の子の妊娠継続を偽装している。むかーしね、ものすごい大昔だけど、不義の子を皇子の子と偽って、生んだ後に〈王気〉がなくてバレた事例があってね。皇統を乱す大逆罪を適用するべきか否か、すごい議論になったんだよ。今回の事例の方がタチが悪いと判断される可能性があるから、正直オススメできないな」
 
 エンロンが首を傾げて言うと、サウラが絶望的な表情で、榻を降りて両膝をつき、エンロンに取り縋った。
 
「そんな! あたくしはそんなつもりはなくて……ただ、殿下が側室にさえ戻してくれたら、旅の疲れとかを理由に流産したことにするつもりだったのよ。皇統を乱すとか、大逆罪とか、そんな大それたことは考えてないわ! ねえ、お願いよ!あんただったらあたくしの命を助けられるんでしょ? 生かすも殺すも俺次第、ってさっき言ったじゃないの! 何とか助かる方法はないの?!」
「おいおい、木っ端役人風情がとか馬鹿にしてた俺に、手のひら返しかい。……ま、いいや。じゃあ、あんたのために特別に、一番刑の軽くなりそうなのを考えてみよう。……あんたは流産を隠して、妊娠の継続を偽装した。ただ、側室で居続けたかっただけで、ほかに他意はないとする」
「そうよ、それだけよ。誰も損をしていないわ!」
「損をしてないってことは、あり得ないな。お腹に子がいるからって理由で、皇后陛下はあんたの離縁状をいったん、凍結した。つまり、子がいなくなれば、あんたの離縁は成立するはずだ」

 エンロンが小首を傾げてにやーっと笑う。サウラはごくりと唾を飲み込み、必死で言った。

「たかが、皇子の側室の離縁が少し延びたくらい、それがどうしたって言うの」
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