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3、過去の瑕
見習い侍従
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どうやら、ソアレス家の継承はややこしいことになっているらしい。正嫡であったデュクトが死んだとき、家督は将来的にはデュクトの子が継ぐという条件で、一時的にデュクトの従兄であるゼクトに移された。ゼクトは皇太子の子である廉郡王の正傅であったが、二年前の南方の異民族叛乱の討伐の際に、敵方の捕虜となって身体を損ない、現在でも本復はしていないという。おそらく将来、帝位に就くであろう廉郡王の下にはすでにゼクトの子が侍従武官として出仕しており、正嫡とはいえデュクトの血筋のものが入り込む余地はない。だがフエルたちにソアレス家の家督を継がせたいクリスタとしては、あえて長男をデュクトの後継として恭親王の許に送り込むことで、息子たちが正嫡であることを印象付けたいのであろう。
(今さら迷惑なことだ――)
恭親王はちらりと正面に立つフエルを見る。幼さの残る顔の造作はデュクトにそっくりで、表情の穏やかなところはクリスタ譲りらしい。妙に使命感に燃えて、暑苦しいのはデュクトの遺伝か。
(クリスタも――。いったいどんな顔をして息子を送り出したのか)
全ての事情を知っているくせに、まるで脅しをかけるかのように息子を押し付けてきたクリスタに対しても、恭親王は不快に思う。
(どちらとも肉体関係があった夫婦の息子とか、本当に勘弁してほしい――)
正傅であったデュクトは、何をトチ狂ったのか、十四歳だった恭親王の寝室に忍びこんで彼を犯したのだ。およそ仕える皇子を強姦した正傅など、帝国二千年の歴史でもあいつくらいだろうと、恭親王は苦々しく思う。もともと気の合わない傅役だったが、デュクトへの嫌悪はそれで決定的になった。自分がここまで歪んだ最大の元凶は正傅のデュクトだと思っている恭親王にとって、彼の息子を身近に置く気にはなれなかった。
さらにデュクトが北方異民族との戦闘で命を落とした後、デュクトへの復讐のつもりで、短期間とはいえクリスタとも関係を持っていたなんて、目の前のいかにも苦労知らずの素直な少年が知ったら、ショックで自殺でもしそうで、それもまた嫌である。
(……どうするかな。追い返すわけにもいくまいが)
恭親王は少し考えて、言った。
「わかった。しばらくはランパと同じ騎士見習い扱いで、ゾーイの下に付くように。だが、宿舎はゲルの家に。あそこは数日前に奥方が出産したばかりでバタバタしているかもしれないが、お前も弟がいるのなら、わかっているだろう。邪魔をしないで、出来る限り自分のことは自分でするように。――誰か、小間使いを連れているか?」
護衛兼任の小間使いを一人伴っているというフエルの答えに、恭親王は頷く。
「まだ、全体の騎士の配置が決まっていない。急に人が増えたからな。……ランパはいずれアデライードの護衛にするつもりだったが、常に身近に付くにはまだ少年のお前の方が適任かもしれない。剣の技量をゾーイに測ってもらい、それからまた配置を考えることにする」
「僕は殿下のお側にお仕えしたいのです!」
アデライードに仕えさせる、という恭親王の言葉に、フエルは不満気に反論するが、恭親王は首を振った。
「悪いが、今の状態なら私の方が絶対に強い。自分よりはるかに弱い護衛なんておかしいだろう。それよりはアデライードを守る騎士の方が必要だ。私を守りたいのなら、私より強くなる気で鍛錬に励め」
不承不承、という表情で引き下がるフエルの眉間の皺がデュクトにそっくりで、恭親王は心底ウンザリした。
(今さら迷惑なことだ――)
恭親王はちらりと正面に立つフエルを見る。幼さの残る顔の造作はデュクトにそっくりで、表情の穏やかなところはクリスタ譲りらしい。妙に使命感に燃えて、暑苦しいのはデュクトの遺伝か。
(クリスタも――。いったいどんな顔をして息子を送り出したのか)
全ての事情を知っているくせに、まるで脅しをかけるかのように息子を押し付けてきたクリスタに対しても、恭親王は不快に思う。
(どちらとも肉体関係があった夫婦の息子とか、本当に勘弁してほしい――)
正傅であったデュクトは、何をトチ狂ったのか、十四歳だった恭親王の寝室に忍びこんで彼を犯したのだ。およそ仕える皇子を強姦した正傅など、帝国二千年の歴史でもあいつくらいだろうと、恭親王は苦々しく思う。もともと気の合わない傅役だったが、デュクトへの嫌悪はそれで決定的になった。自分がここまで歪んだ最大の元凶は正傅のデュクトだと思っている恭親王にとって、彼の息子を身近に置く気にはなれなかった。
さらにデュクトが北方異民族との戦闘で命を落とした後、デュクトへの復讐のつもりで、短期間とはいえクリスタとも関係を持っていたなんて、目の前のいかにも苦労知らずの素直な少年が知ったら、ショックで自殺でもしそうで、それもまた嫌である。
(……どうするかな。追い返すわけにもいくまいが)
恭親王は少し考えて、言った。
「わかった。しばらくはランパと同じ騎士見習い扱いで、ゾーイの下に付くように。だが、宿舎はゲルの家に。あそこは数日前に奥方が出産したばかりでバタバタしているかもしれないが、お前も弟がいるのなら、わかっているだろう。邪魔をしないで、出来る限り自分のことは自分でするように。――誰か、小間使いを連れているか?」
護衛兼任の小間使いを一人伴っているというフエルの答えに、恭親王は頷く。
「まだ、全体の騎士の配置が決まっていない。急に人が増えたからな。……ランパはいずれアデライードの護衛にするつもりだったが、常に身近に付くにはまだ少年のお前の方が適任かもしれない。剣の技量をゾーイに測ってもらい、それからまた配置を考えることにする」
「僕は殿下のお側にお仕えしたいのです!」
アデライードに仕えさせる、という恭親王の言葉に、フエルは不満気に反論するが、恭親王は首を振った。
「悪いが、今の状態なら私の方が絶対に強い。自分よりはるかに弱い護衛なんておかしいだろう。それよりはアデライードを守る騎士の方が必要だ。私を守りたいのなら、私より強くなる気で鍛錬に励め」
不承不承、という表情で引き下がるフエルの眉間の皺がデュクトにそっくりで、恭親王は心底ウンザリした。
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