【R18】ゴーレムの王子は光の妖精の夢を見る

無憂

文字の大きさ
41 / 68
第四章 嘘つき王子

お仕事*

しおりを挟む
 秋が深まっても、俺を取り巻く状況は改善しなかった。

 アルバート王子のの噂は王都をめぐり、ただ、その正体が陸軍司令部に勤める事務職員だとは、記者たちも突き止められないようだった。
 歓楽街の娼婦か、もしくは新進の女優あたりではないかと、さかんに取材を進めているようだが、そんなところにエルシーがいるわけはない。幸いにも軍の施設までは踏み込めないし、軍に勤務するものは当たり前だが口が堅いから、身元は知られずに済んでいた。

 最近の大衆紙タブロイドの興味は、俺がなぜ、非の打ちどころのない婚約者である公爵令嬢に見向きもせず、得体のしれない女に夢中になっているのか、だった。

 目撃者によれば女は細身で金髪。派手なドレスに身を包み、豪華なダイヤモンドの装身具を身に着け、俺にしなだれかかっていると。戦場から戻った俺は、蓮っ葉で都会的な女の性的魅力セックス・アピールに骨抜きにされている、だのなんだの。
 
 下品な記事に一通り目を通して、俺は新聞をぐしゃぐしゃに丸めて捨てた。




 
 父上は相変わらずだ。
 父上は国王として、レコンフィールド公爵ら、上院の閣僚経験者との折衝に手を焼いている。父上も兄・王太子の急死によって、予想外に王位を継承することになったし、議会と王権と、そして民権運動のハザマで神経をすり減らしてきた。――実は庶子だという俺の生まれの弱点を補うために、レコンフィールド公爵を味方に引き込んでおきたい。だが俺自身は、そんな生き方はしたくなかった。

 あのまま戦争も起こらず、王都で無気力に生きていたら、ステファニーといやいや結婚して、あてつけに一夜限りの火遊びを繰り返したかもしれない。

 でも、俺は戦場で地獄を見た。あのシャルローの夜、俺の脇腹を掠めた銃弾は、ほんのかすり傷だが、俺がゴーレムじゃなくて人間だと教えてくれる。

 王位よりも何よりも、俺は人間として、愛した人と生きたい。




 グレンジャーの待ち伏せ以来、俺はアパートメントの警備を増やし、エルシーの周囲にも気を配った。エルシーも、仕事以外では外出もせず、居間でピアノばかり弾いている。エルシーのピアノは何というか、少しばかり独特だ。テクニック……はそこそこあるのだが、聞いたこともない曲だと思って楽譜を見ると、有名な曲だったりする。
 音楽に没頭しているエルシーは艶めかしくて、美しい。その姿を見ると、抱きたくなる。俺がエルシーを寝室にに連れ込めば、エルシーは抵抗もせず、おとなしく俺に身を任せる。

 エルシーは相変わらずリジーのことは忘れていて、俺をただの横暴な王子だと思っている。でも、歪な始まりだったけれど、エルシーは俺を受け入れ、俺たちは上手くいっていると思っていた。

 エルシーが俺に抱かれるのは、俺を愛してくれているからだと――。






 ベッドの上で、俺はエルシーを圧し潰すように背後から圧し掛かり、エルシーを貫いて腰を打ちつける。ベッドが軋む音をたて、エルシーが枕に突っ伏して、苦し気に喘ぐ。エルシーの腹側……いわゆるにあたる部分が陰茎にこすれて、たまらない刺激を生む。
 何人もの女と寝たし、名器と言われる女もいたが、ここまで具合のいい身体は初めてだ。先端が奥を突くたびに、俺の背筋に電流が走る。結合部からはぐちゅぐちゅと水音がして、内部はぐっしょり濡れている。

「ああ……すごく、いい……」

 俺はエルシーの肩口に顔を寄せ、耳たぶを口に含み、耳の穴を舌で嬲る。エルシーがその刺激に軽くのけ反り、中がぎゅっと締まった。内部の襞がぞわりと動いて、俺を搾り取ろうというように締め付ける。

「んっ……んあっ……あっ……ああっ……だめっ……」
「何がダメだ、こんなに締め付けて……もう、イきそうなんだろう?」
「やっ……ああっ……」

 俺は首筋から背中へと唇を這わせ、白い肩甲骨の際に強く吸い付いて痕をつける。
 エルシーの背中。見えない羽が生えていたその場所は、俺の執着の証が散らばっている。
 俺が抽挿のスピードを速めると、エルシーが身を捩る。

「ああっ……もうっゆるしてっ……」
「何を許す。……なんだって許してるじゃないか。イきたいならイっていいんだぞ?」
「ちがっ……ああっ……あっ……」

 エルシーは大きな白い枕に顔を埋め、その両端を両手で握り締め、快感に耐えている。俺はその両手をそれぞれ、上から握り締め、なおも腰を動かす。ずりゅっ、ずりゅっといやらしい音がして、出し入れのたびに掻きだされる愛液がエルシーの内またを濡らし、敷布に滴っていく。
 
「はあっ……はあっ……くっ……そんなに締めるなっ……」
「あっ、あっ……やあっ、あああっ……ああああ!」

 エルシーが亜麻色の髪を振り乱し、体を仰け反らせる。少し持ち上がった胸とシーツの間に手を滑り込ませ、尖って震える頂点を摘まむ。その刺激にエルシーがよがり声をあげる。

「ああっあああっだめぇっ……」
「ホラ、イけっ……」

 俺がグリグリと乳首を弄びながら、いたぶるように奥を突き上げれば、エルシーの中がきゅうきゅう締まって、白い背中を反らせてそのままイった。

「あああっ……んあっぁあ―――――――っ」

 甲高い、長く引く悲鳴とともに、エルシーが全身を震わせる。それからがくりと頽れるように枕につっぷした。

「はあっ、はあっ……もうっ……」
「まだ俺はイってない……」

 俺がエルシーの耳朶を口に含み、舌で耳の穴を舐めれば、エルシーがまた喘ぐ。

「ひっ……あっ……だめっ……」
「ダメじゃない。何度でもイけばいい。こんなに気持ちよくしてもらって、何の不満がある」
「だって……おか、しいわ……こんなの……へん……」
「何がおかしい」

 まだつながったままの状態で、エルシーが肩越しに俺に振り返る。

「だって、このは、殿下が気持ちよくなるためなんでしょ? わたしをイかせて、殿下に何の得があるんです?」

 予想外の疑問をぶつけられ、俺は目を瞠った。

「得ってなんだ、それに、業務って?」
「業務だって、仰ったわ、前に。拒否は許さないって」

 俺は思わず、背後からエルシを抱きしめていた。

「……お前、業務だから俺と寝てるのか?」
 
 俺の声が微かに震えているのに、エルシーはまるで気づかない様子で、言った。

「ええ。……当然です」
「気持ちよかったんだよな……」
「えっと……それは……」

 恐る恐る尋ねれば、エルシーは汗ばんだ額に前髪が張り付くのを振り払いながら、答えを濁す。俺はエルシーの中から抜け出すと、エルシーの体を仰向けにひっくり返した。ぽふっと枕に頭が沈み、エルシーの白い胸がふるんと揺れる。真下から俺を見上げるエルシーの瞳をまっすぐに見つめて、俺は尋ねた。

「今、めちゃくちゃ気持ちよさそうな声で、イったよな?」
「……それは、だからダメって……」

 エルシ―はきまり悪そうに視線を泳がせ、恥じらって目を伏せ、顔を背ける。その首筋のラインと浮き出た鎖骨が色っぽくて、むしゃぶりつきたくなるというのに――。

「何がダメなんだ!」

 俺の声が怒りを孕んだのに気づいたのか、エルシーが困惑したように、目をあげ、俺を見つめる。

「だって、でしょう? 殿下が気持ちよくなるための。わたしが気持ちよくなっても、業務にならない……」

 俺はたっぷり三秒は息を止めた。

 ……ものすごい、鉄槌を振り下ろされた気分だった。

 たしかに、言った。そうやって脅して丸め込んで、純潔を奪った。俺が悪い。でも――。

「……俺とセックスするのは嫌か……?」
「嫌とか、そういう問題では……お仕事だし……」

 エルシーのブルーグレーの瞳が、俺の視線にさらされ、揺れる。

「仕事だったら、何でもするのか? 俺が他の男とも寝ろと命じたら、寝るのか?」

 俺の問いに、エルシーが目を見開き、息を飲んだ。

「それは――そんなのは……そんなのは、……いや、です……」
「俺となら寝るのは、嫌じゃないから、だろう?」

 俺はエルシーの額に額を乗せ、至近距離で見つめる。――もう、近すぎて表情は見えない。見る勇気がなかった。
嘘でもいいから、嫌ではないと言ってほしかった。

「……いや、じゃない、です……」

 ホッと安堵の息をついて、俺はエルシーの唇を唇で塞ぐ。これ以上、否定的な言葉を、聞きたくなかった。

 
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...