116 / 171
10、正真のつがい
銀龍対火蜥蜴
しおりを挟む
アデライードは、長い睫毛を伏せて眠るように横たわる男を抱きしめる。長い監禁生活で頬はこけ、うっすらと無精ひげも生えている。
「ソリスティアに帰るったって、どうやって――」
と言いかけて、そもそもこの女はどうやってここまで来たのかと、廉郡王が疑問に思ったとき。
恭親王の周囲で赤い魔法陣が再び動き出し、焔の檻が出現する。アデライードの攻撃で吹き飛ばされていたはずのアタナシオスが、いつの間にか至近距離に移動していた。
「うわっ! まだ居たのかよ! しつけぇ男は嫌われるぞ!」
「うるさい、私にも最後の意地がある!」
恭親王、アデライード、そして廉郡王を絡めとろうとする焔の檻を、しかしアデライードは即座に白い魔法陣を呼び出して圧殺する。バチン! 青い火花があがってそれは消えた。
「くそっ! その魔法陣は内部の他者の魔力を無力化するものなのに――!」
「力と力がぶつかれば、強い方が勝つに決まっているわ」
常にない辛辣な物言いで、アデライードがアタナシオスの赤い髪と紫紺の瞳を睨みつける。
「いつまでもしつこいのよ! その髪といい瞳の色といい、あのいやらしいギュスターブそっくりでうんざりするわ! 消えて!」
アデライードが青い攻撃魔法陣を展開し、それを発動しようと目を閉じた瞬間、アタナシオスは信じられない身のこなしでひらりと宙を飛んで、黒いローブをぶわっと靡かせてアデライードの呼び出した魔法陣の上に降り立つと、あっと言う暇もなく、長い両腕を伸ばして両手でアデライードの細い首を掴んだ。
「!!」
「くっ……!!」
「なるほどね、力と力がぶつかれば、強い方が勝つ――力は魔力だけとは限りません。あなたのようなか弱き女性は、物理的な力こそ弱い――」
「てめぇ! 女に暴力を振るうとか、最低だな!」
アデライードの描いた防御魔法陣は跡形もなく消え、アデライードは長身のアタナシオスに持ち上げられるようにして、爪先が苦し気に地を掠める。
廉郡王が剣を抜き放ってアタナシオスに撃ちかかるが、アタナシオスの防御魔法に弾かれて剣が折れる。
「てめぇ! どこまでも卑怯な!」
廉郡王は体内に魔力を巡らせ、その肉体をもってアタナシオスに体当たりするが、凄まじい火花とともに弾き飛ばされた。
「くそっ!」
猫のような身軽さで受け身を取って起き上がり、廉郡王が悪態をつく。それを無視して、アタナシオスは憎しみの籠った表情で、アデライードの細く白い頸を締め上げていく。アデライードの美しい顔が苦しさに歪み、両手がアタナシオスの大きな手を虚しく引っ掻く。
「ううう……!」
「消え去るがいい! 最後の銀の龍種よ! 今こそ我らイフリート家の、二千年の怨念を晴らすのだ……!」
アタナシオスが最後の力を込め、その細い頸をへし折ろうとした時。もう一度体当たりをかまそうとした廉郡王よりも早く、力なく横たわっていた恭親王がぐらりと起き上がり、その左手をアタナシオスの背中にかざす。
「ユエリン――?!」
彼の掌から飛び出した聖剣が、アタナシオスの背中から、ちょうど心臓のある位置に吸い込まれていく。
「うわあああああああああ!」
聖剣に貫かれたアタナシオスの両手は力を喪ってアデライードの頸を離れ、アデライードはどさりと地面に叩きつけられる。茫然と見上げるアデライードの目の前で、アタナシオスは断末魔のうめき声をあげ、全身を硬直させる。唇からごぷっと血泡を吹いて、膝から地面に崩れ落ち、アデライードの方に倒れかかってくるのを、咄嗟に廉郡王がアデライードを庇うようにして、アタナシオスの大きな身体を突き飛ばす。
その背後では、上半身を起こしていた恭親王が、再び目を閉じて背後に倒れ込もうとする。
「殿下! 気が付いたの?」
アデライードは自分を庇うようにしていた廉郡王を無意識に突き飛ばし、恭親王に走り寄るものの、恭親王の重みをアデライード一人では受け止めることができず、抱き着いたまま二人で地面に倒れ込んだ。
「ユエリン! しっかりしろ!」
「殿下! 殿下! 目を覚ましたの?!」
廉郡王も素早く動いて二人を起き上がらせようとするが、恭親王の方は、今起き上がったのは夢だったのかと思えるほど、瞼は固く閉じられていた。廉郡王は恭親王を寝かせ、必死に呼びかけているアデライードに任せて、自分はアタナシオスに近づく。
廉郡王はアタナシオスが絶命しているのを確認し、ようやく、安堵の溜息をついた。そして、アタナシオスの死体を足で蹴って俯せにすると、背後から刺し貫いている聖剣の柄を握り、引き抜こうとした。
(何だこれ、くっそ重い!)
片手では抜くことができず、片足をアタナシオスの死体にかけて両手でやっとこさ引き抜く。血糊を振り払おうにも、重くて持ち上げることもできない。
(ユエリンのやつ、めちゃくちゃ普通に振り回してたよな、これ……)
見れば見る程ただモノではない剣で、廉郡王はそれを、必死に呼びかけているアデライードのところへ引きずるようにして運ぶ。
「おい、ユエリンの女房! これ、くそ重てぇんだけど、あんたとてもじゃないが持って帰れないよな?」
アデライードは振り向いて言う。
「殿下の左手に触れさせれば、勝手に中に入ります」
「はあ?」
アデライードが恭親王の左手を掴んで、聖剣の柄に軽く触れさせると、シュルンと聖剣は彼の掌に吸い込まれて消えた。
「な、……何だ今の!」
「仕組みをわたしに聞かれても困ります……」
アデライードが金色の眉毛を八の字にして言う。
「でも、聖剣を呼び出したりする程度の魔力は残っているのがわかって、ほっとしました。急いでソリスティアに帰って治療します」
アデライードは恭親王の頭を膝に乗せ、愛し気に黒い髪を梳きながら言う。
「帰るったってよう……」
廉郡王が困ったように言うと、そこえバサリと羽音がして、エールライヒが飛んできてアデライードの肩に止まる。
「よかった、お前は無事だったのね。一緒に帰りましょう。ここはさっきから雷がいっぱい落ちて怖いし」
優し気に鷹に話かけるアデライードの姿に、廉郡王は反射的に突っ込んでいた。
「おめぇが呼び出した雷だろうがよ!」
気づけば、あの黒雲は嘘のように消え去り、もと通りの夏の青空が広がっていた。
アデライードは太極殿の方にちらりを視線をやって、廉郡王に言った。
「あの……すいません、宮殿壊してしまって……。まさかあんなに簡単に壊れるとは思わなくて」
「いや、あれだけ滅茶苦茶すりゃあ、普通壊れるだろ。……まあ、何だ。以後、気を付けてくれ」
「はい、気をつけます」
気まずそうに細い肩を竦めるアデライードを見て、廉郡王がふと思いついて聞いた。
「ゲルフィンの野郎は、うまくやってんのか? あいつ、女が苦手だから、少し心配だったんだ」
「ゲルフィン……ああ! あの変な眼鏡の人ね! ええ、何も問題はないわ!」
にっこり微笑むアデライードを見て、鋭敏な廉郡王はゲルフィンの方は問題ありまくりだろうなと思う。
「では、わたしはもう、行きますね。……このマント、あなたのですよね? しばらく、お借りしても?」
アデライードは、廉郡王がマントを羽織っていないのに気づいていて、恭親王がくるまれているのが彼の持ち物なのだろうと予想した。
「あ? ああ、そんなのは気にすんな。どうやって帰んのか知らねぇけど、気をつけてな」
廉郡王が黒い瞳を瞬くうちに、アデライードを中心に白い巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「では、いろいろありがとうございます。……失礼します」
まるで数軒先の近所へ散歩に出たかのような気軽さで、アデライードは挨拶すると、ぶわっと光の粒子が彼女と恭親王と、そして黒い鷹を覆い、かき消すように姿を消した。
「ソリスティアに帰るったって、どうやって――」
と言いかけて、そもそもこの女はどうやってここまで来たのかと、廉郡王が疑問に思ったとき。
恭親王の周囲で赤い魔法陣が再び動き出し、焔の檻が出現する。アデライードの攻撃で吹き飛ばされていたはずのアタナシオスが、いつの間にか至近距離に移動していた。
「うわっ! まだ居たのかよ! しつけぇ男は嫌われるぞ!」
「うるさい、私にも最後の意地がある!」
恭親王、アデライード、そして廉郡王を絡めとろうとする焔の檻を、しかしアデライードは即座に白い魔法陣を呼び出して圧殺する。バチン! 青い火花があがってそれは消えた。
「くそっ! その魔法陣は内部の他者の魔力を無力化するものなのに――!」
「力と力がぶつかれば、強い方が勝つに決まっているわ」
常にない辛辣な物言いで、アデライードがアタナシオスの赤い髪と紫紺の瞳を睨みつける。
「いつまでもしつこいのよ! その髪といい瞳の色といい、あのいやらしいギュスターブそっくりでうんざりするわ! 消えて!」
アデライードが青い攻撃魔法陣を展開し、それを発動しようと目を閉じた瞬間、アタナシオスは信じられない身のこなしでひらりと宙を飛んで、黒いローブをぶわっと靡かせてアデライードの呼び出した魔法陣の上に降り立つと、あっと言う暇もなく、長い両腕を伸ばして両手でアデライードの細い首を掴んだ。
「!!」
「くっ……!!」
「なるほどね、力と力がぶつかれば、強い方が勝つ――力は魔力だけとは限りません。あなたのようなか弱き女性は、物理的な力こそ弱い――」
「てめぇ! 女に暴力を振るうとか、最低だな!」
アデライードの描いた防御魔法陣は跡形もなく消え、アデライードは長身のアタナシオスに持ち上げられるようにして、爪先が苦し気に地を掠める。
廉郡王が剣を抜き放ってアタナシオスに撃ちかかるが、アタナシオスの防御魔法に弾かれて剣が折れる。
「てめぇ! どこまでも卑怯な!」
廉郡王は体内に魔力を巡らせ、その肉体をもってアタナシオスに体当たりするが、凄まじい火花とともに弾き飛ばされた。
「くそっ!」
猫のような身軽さで受け身を取って起き上がり、廉郡王が悪態をつく。それを無視して、アタナシオスは憎しみの籠った表情で、アデライードの細く白い頸を締め上げていく。アデライードの美しい顔が苦しさに歪み、両手がアタナシオスの大きな手を虚しく引っ掻く。
「ううう……!」
「消え去るがいい! 最後の銀の龍種よ! 今こそ我らイフリート家の、二千年の怨念を晴らすのだ……!」
アタナシオスが最後の力を込め、その細い頸をへし折ろうとした時。もう一度体当たりをかまそうとした廉郡王よりも早く、力なく横たわっていた恭親王がぐらりと起き上がり、その左手をアタナシオスの背中にかざす。
「ユエリン――?!」
彼の掌から飛び出した聖剣が、アタナシオスの背中から、ちょうど心臓のある位置に吸い込まれていく。
「うわあああああああああ!」
聖剣に貫かれたアタナシオスの両手は力を喪ってアデライードの頸を離れ、アデライードはどさりと地面に叩きつけられる。茫然と見上げるアデライードの目の前で、アタナシオスは断末魔のうめき声をあげ、全身を硬直させる。唇からごぷっと血泡を吹いて、膝から地面に崩れ落ち、アデライードの方に倒れかかってくるのを、咄嗟に廉郡王がアデライードを庇うようにして、アタナシオスの大きな身体を突き飛ばす。
その背後では、上半身を起こしていた恭親王が、再び目を閉じて背後に倒れ込もうとする。
「殿下! 気が付いたの?」
アデライードは自分を庇うようにしていた廉郡王を無意識に突き飛ばし、恭親王に走り寄るものの、恭親王の重みをアデライード一人では受け止めることができず、抱き着いたまま二人で地面に倒れ込んだ。
「ユエリン! しっかりしろ!」
「殿下! 殿下! 目を覚ましたの?!」
廉郡王も素早く動いて二人を起き上がらせようとするが、恭親王の方は、今起き上がったのは夢だったのかと思えるほど、瞼は固く閉じられていた。廉郡王は恭親王を寝かせ、必死に呼びかけているアデライードに任せて、自分はアタナシオスに近づく。
廉郡王はアタナシオスが絶命しているのを確認し、ようやく、安堵の溜息をついた。そして、アタナシオスの死体を足で蹴って俯せにすると、背後から刺し貫いている聖剣の柄を握り、引き抜こうとした。
(何だこれ、くっそ重い!)
片手では抜くことができず、片足をアタナシオスの死体にかけて両手でやっとこさ引き抜く。血糊を振り払おうにも、重くて持ち上げることもできない。
(ユエリンのやつ、めちゃくちゃ普通に振り回してたよな、これ……)
見れば見る程ただモノではない剣で、廉郡王はそれを、必死に呼びかけているアデライードのところへ引きずるようにして運ぶ。
「おい、ユエリンの女房! これ、くそ重てぇんだけど、あんたとてもじゃないが持って帰れないよな?」
アデライードは振り向いて言う。
「殿下の左手に触れさせれば、勝手に中に入ります」
「はあ?」
アデライードが恭親王の左手を掴んで、聖剣の柄に軽く触れさせると、シュルンと聖剣は彼の掌に吸い込まれて消えた。
「な、……何だ今の!」
「仕組みをわたしに聞かれても困ります……」
アデライードが金色の眉毛を八の字にして言う。
「でも、聖剣を呼び出したりする程度の魔力は残っているのがわかって、ほっとしました。急いでソリスティアに帰って治療します」
アデライードは恭親王の頭を膝に乗せ、愛し気に黒い髪を梳きながら言う。
「帰るったってよう……」
廉郡王が困ったように言うと、そこえバサリと羽音がして、エールライヒが飛んできてアデライードの肩に止まる。
「よかった、お前は無事だったのね。一緒に帰りましょう。ここはさっきから雷がいっぱい落ちて怖いし」
優し気に鷹に話かけるアデライードの姿に、廉郡王は反射的に突っ込んでいた。
「おめぇが呼び出した雷だろうがよ!」
気づけば、あの黒雲は嘘のように消え去り、もと通りの夏の青空が広がっていた。
アデライードは太極殿の方にちらりを視線をやって、廉郡王に言った。
「あの……すいません、宮殿壊してしまって……。まさかあんなに簡単に壊れるとは思わなくて」
「いや、あれだけ滅茶苦茶すりゃあ、普通壊れるだろ。……まあ、何だ。以後、気を付けてくれ」
「はい、気をつけます」
気まずそうに細い肩を竦めるアデライードを見て、廉郡王がふと思いついて聞いた。
「ゲルフィンの野郎は、うまくやってんのか? あいつ、女が苦手だから、少し心配だったんだ」
「ゲルフィン……ああ! あの変な眼鏡の人ね! ええ、何も問題はないわ!」
にっこり微笑むアデライードを見て、鋭敏な廉郡王はゲルフィンの方は問題ありまくりだろうなと思う。
「では、わたしはもう、行きますね。……このマント、あなたのですよね? しばらく、お借りしても?」
アデライードは、廉郡王がマントを羽織っていないのに気づいていて、恭親王がくるまれているのが彼の持ち物なのだろうと予想した。
「あ? ああ、そんなのは気にすんな。どうやって帰んのか知らねぇけど、気をつけてな」
廉郡王が黒い瞳を瞬くうちに、アデライードを中心に白い巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「では、いろいろありがとうございます。……失礼します」
まるで数軒先の近所へ散歩に出たかのような気軽さで、アデライードは挨拶すると、ぶわっと光の粒子が彼女と恭親王と、そして黒い鷹を覆い、かき消すように姿を消した。
11
お気に入りに追加
175
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
番外編は思いついたら追加していく予定です。
<レジーナ公式サイト番外編>
「番外編 相変わらずな日常」
レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる