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後序
聖婚
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どこまでも蒼い空の下、やはりどこまでも蒼い海が広がる。白い波が南国の陽光を弾いて煌めき、港にひしめく船の、真っ白い帆が眩ゆい。鮮やかな緑濃い椰子の葉が風に揺れる。
恭親王はソリスティアの丘の上に馬を立て、遠く港と、聖地へと続く海を見下ろしていた。
とうとう、ここまで来た――。
彼が攫われるように聖地を連れ出されてから、十年の年月が過ぎていた。
今、彼は二百年ぶりの〈聖婚〉の皇子として、そしてソリスティア総督として、聖地の対岸の港街に赴任してきたのである。
レイナとユリアを失ってから、恭親王はぱったりと遊びもやめた。外出も稀となり、邸に閉じこもって母の宮にすら滅多に足を向けず、ただゾーイらと武術の鍛錬に汗を流し、夜は書斎に籠って『聖典』と陰陽理論の研究に没頭した。廉郡王もそれまでの放蕩が嘘のように態度を改め、さらにダヤン皇子は西方大都督であった父親が急死して、急遽、詒郡王の爵位を襲いで西方のダルバンダルへと帰り、三皇子で遊び歩くこともなくなった。
ダヤン皇子は、飼っていたたくさんの獣人奴隷を十人ずつ、友人たちに餞別がわりに押し付けていき、恭親王はもっぱら、その獣人たちを肉欲のはけ口として夜の相手を間に合わせるようになる。たまに顔を出す廉郡王と二人酒を飲んで、〈清談〉するくらいが彼の道楽であった。
ただ一人残った側室のサウラに対し、恭親王はユリアを煽動したのではないかと疑い、また皇后の命令を盾に、家宰のシュウを差し置いて留守中の邸内を正妻づらで取り仕切っていたことに不信感を募らせ、実家に帰そうとした。しかし、皇后も、さらには皇帝までもが、邸内に側室も正室もいなくなるのはあまりに外聞が悪いと言って離縁を認めなかった。これは恭親王が折れる形で、それまで通りの月一度訪れるだけの、真に子を産むためだけの側室として、そのまま邸に捨て置いた。
サウラを側室のまま邸に置く条件として、恭親王は皇后や賢親王が持ち込む縁談も、新たな側室も全て拒否した。ユリアの妹たちのいずれか、あるいは皇后の実家ブライエ家の娘たちなど、何人もの正室候補を皇后は――もちろん皇帝の意を受けて――薦めるが、恭親王は頑として首を縦に振らない。
以前の彼であれば、文句は言いながらも最後には必ず折れていた。内面では葛藤しながらも、彼は後宮を頂点とする貴族社会の慣習に配慮し、受け入れ、溶け込む努力を見せていた。しかし、レイナの死を知らされなかったことで、彼はその努力を放棄した。ごくまれにに後宮の母の元に伺候しても、母や兄に対する不信を隠そうともせず、無関心の仮面を被り、何を言われても端から聞く気がないとばかりに無視した。
恭親王はそれ以前の不品行を改めて邸内に逼塞しているのに、帝都ではそれに反比例するかのように、恭親王の放蕩の噂が流れるようになった。あるいは南方での戦の折の、彼の残虐な行いが尾ひれ背びれをつけて語られるようになる。〈狂王〉〈死神〉〈処女殺し〉――。彼に逆らった地方官は問答無用に首を斬られ、叛乱軍に与した民は生きながらに城(まち)ごと焼かれ、悪魔のように美しいその素顔を見た者は生きて帰ることはできず、処女(おとめ)の純潔を奪っては殺してしまう。事実を大きく捻じ曲げた、悪意を以て広められていく噂話。噂が皇太子の工作なのはまず間違いなかったが、恭親王はもはやそれについてすら、何の関心も示さなかった。
皇帝は折に触れては皇太子の廃嫡と恭親王の立太子を密かに群臣に図るが、肝心の恭親王本人にその気がなく、皇太子にも目立った瑕瑾はない。凶悪な噂が流れる状況で継嗣の交代を強行するのは、国政にいらぬ波風を立てるだけだと群臣は反対を表明し、皇帝はその意を押し通すことができないまま、徒らに時間だけが過ぎていく。
そうした中で、太陽宮よりの二百年ぶりとなる〈聖婚〉の要請を受け、皇帝は一つの決断を下した。
恭親王を〈聖婚〉の皇子として、ソリスティア総督に任命する――。最も鍾愛する皇子への玉座の移譲を、皇帝はついに断念したのである。
〈聖婚〉――。
陰陽の龍種である東西の皇王家が、その陰陽の〈王気〉を交えるために行う聖なる婚姻。
かつては定期的に行われていたその〈聖婚〉が、途絶えてからすでに二百年になる。
今、西の女王家は衰退の間際にあり、〈王気〉を持つ王女はただ一人残るのみ。その王女の成人を待っての、聖地の〈禁苑三宮〉による〈聖婚〉の要請であった。
龍騎士と精霊ディアーヌより続く、陰陽二王家の聖なる婚姻。
引き裂かれた番(つがい)である金銀の龍種の、唯一許された出逢い。
〈聖婚〉の皇子王女は、世界の陰陽を調和するために、天に捧げられる贄にほかならない。
およそ世界の陰陽調和を担う龍種に生まれた責任として、〈聖婚〉を拒否することは許されなかった。
この〈聖婚〉の裏に、〈禁苑〉と東の帝国の、極めて政治的な意図が隠されていたとしても――。
現在、西の女王国の実権を握るのは、前々女王アライアの夫であるイフリート公爵。本来ならば、彼とアライア女王の娘であるアルベラ王女が女王位を嗣ぐはずであった。しかし、その王女にはなんと〈王気〉がないという。当然、〈禁苑〉としてはそのような王女とも言えない王女の即位など、認めることはできない。そこで急遽、アライア女王の妹であるユウラ女王が登極したが、その後の女王国の政局は混乱を極める。ユウラ女王の即位直後、夫であるレイノークス辺境伯ユーシスが急死し、後継の王配としてイフリート公爵の嫡子ギュスターブがユウラ女王と結婚する。だが二人の間には王女は生まれていない。ユウラ女王の一人娘、アデライード王女は幼少から聖地の修道院に入り、十年以上、聖地から出ていない。
一年前、ユウラ女王が薨去し、イフリート公爵は再度、その娘アルベラ王女の即位を要求する。今回も、〈禁苑〉は〈王気〉のない王女の即位を拒否し、ただ一人〈王気〉を持つアデライード王女の即位を求める。アデライード王女は聖地に閉じこめられたまま育ち、西の女王国ではほとんど孤立無援に等しい。そんな王女の即位を成し遂げるため、〈禁苑〉は王女の後ろ立てとしてあろうことか東の帝国を引き込んだ。そのための〈聖婚〉である。
表向き古式ゆかしい聖なる婚姻の顔の裏側に隠された、〈禁苑〉と帝国のきな臭い政略結婚。
このままほぼ、間違いなく女王位を巡る戦争に突入することを踏まえ、〈狂王〉の渾名を持つ彼が〈聖婚〉の皇子に指名されたに過ぎない。たまたま正室を喪っていたために、こんなドロドロした政略に巻き込まれる羽目になろうとは、本当に自分は呪われているとしか思えない――断ることのできない縁談に、恭親王の心は重かった。
結局、約束は守ることができないのだ。
懐に隠した小箱に手をやって、恭親王は密かに溜息をつく。
今度の結婚は、以前のような形ばかりの結婚を貫くことは許されない。
〈聖婚〉の王女は、陰の〈王気〉を持つ最後の生き残り。西の女王家の血筋を残すことが結婚の絶対条件なのである。これまでも散々、身体はメルーシナを裏切り続けてきたけれど、ついに自分に対する言い訳も効かなくなるのだと、彼も覚悟を決めざるを得なかった。
ただ、悪いことばかりでもない。
〈聖婚〉の皇子は、慣例として聖地の対岸、東西二国の境界を守るソリスティア総督に任じられる。通常は遥任であるこの職に実際に就き、ソリスティアの港街で暮らすことになる。
ソリスティアは聖地への玄関口だ。すべて聖地へと向かう船は、ソリスティアを経由することが定められている。ソリスティア総督は聖地の守護者であり、東の皇帝の代理人として、十万の兵を統率してソリスティアの堅固な要塞に拠るのである。また聖地内の〈港〉と呼ばれる区域の保安もソリスティア総督の管轄であり、聖地内には別邸を所有する。ソリスティア総督になれば、聖地への出入りが自由になるということだ。
メルーシナとの約束を破り、彼女以外の妻を娶ることにはなるが、彼女を探し、彼女に指輪を返すためには、これ以上にない立場であると言えよう。
すでにあの邂逅から十年の月日が流れ、メルーシナとてもう、誰かのもとに嫁いでいるかもしれないのだ。
自分に、この指輪を持つ資格がないのは承知の上で、彼はずっと、自身の拠り所として指輪を手放すことができないでいた。メルーシナにはこの指輪が必要であるに違いなく、一刻も早く彼女を探し出して指輪を返すべきであるのに、彼にはその決心がつかず、また手段も思いつかないまま、いたずらに時間だけが過ぎた。幾度も皇帝に聖地への渡航を願い出たが、常に却下されてきた。流れる月日に彼が焦りを感じ始めた時、彼の目の前に差し出されたのが、〈聖婚〉という機会だったのだ。
今、目の前に広がるソリスティアの海を見て、彼は感慨を新たにする。
ようやく、戻ってきた――。彼女に、指輪を返すために。
恭親王はソリスティアの丘の上に馬を立て、遠く港と、聖地へと続く海を見下ろしていた。
とうとう、ここまで来た――。
彼が攫われるように聖地を連れ出されてから、十年の年月が過ぎていた。
今、彼は二百年ぶりの〈聖婚〉の皇子として、そしてソリスティア総督として、聖地の対岸の港街に赴任してきたのである。
レイナとユリアを失ってから、恭親王はぱったりと遊びもやめた。外出も稀となり、邸に閉じこもって母の宮にすら滅多に足を向けず、ただゾーイらと武術の鍛錬に汗を流し、夜は書斎に籠って『聖典』と陰陽理論の研究に没頭した。廉郡王もそれまでの放蕩が嘘のように態度を改め、さらにダヤン皇子は西方大都督であった父親が急死して、急遽、詒郡王の爵位を襲いで西方のダルバンダルへと帰り、三皇子で遊び歩くこともなくなった。
ダヤン皇子は、飼っていたたくさんの獣人奴隷を十人ずつ、友人たちに餞別がわりに押し付けていき、恭親王はもっぱら、その獣人たちを肉欲のはけ口として夜の相手を間に合わせるようになる。たまに顔を出す廉郡王と二人酒を飲んで、〈清談〉するくらいが彼の道楽であった。
ただ一人残った側室のサウラに対し、恭親王はユリアを煽動したのではないかと疑い、また皇后の命令を盾に、家宰のシュウを差し置いて留守中の邸内を正妻づらで取り仕切っていたことに不信感を募らせ、実家に帰そうとした。しかし、皇后も、さらには皇帝までもが、邸内に側室も正室もいなくなるのはあまりに外聞が悪いと言って離縁を認めなかった。これは恭親王が折れる形で、それまで通りの月一度訪れるだけの、真に子を産むためだけの側室として、そのまま邸に捨て置いた。
サウラを側室のまま邸に置く条件として、恭親王は皇后や賢親王が持ち込む縁談も、新たな側室も全て拒否した。ユリアの妹たちのいずれか、あるいは皇后の実家ブライエ家の娘たちなど、何人もの正室候補を皇后は――もちろん皇帝の意を受けて――薦めるが、恭親王は頑として首を縦に振らない。
以前の彼であれば、文句は言いながらも最後には必ず折れていた。内面では葛藤しながらも、彼は後宮を頂点とする貴族社会の慣習に配慮し、受け入れ、溶け込む努力を見せていた。しかし、レイナの死を知らされなかったことで、彼はその努力を放棄した。ごくまれにに後宮の母の元に伺候しても、母や兄に対する不信を隠そうともせず、無関心の仮面を被り、何を言われても端から聞く気がないとばかりに無視した。
恭親王はそれ以前の不品行を改めて邸内に逼塞しているのに、帝都ではそれに反比例するかのように、恭親王の放蕩の噂が流れるようになった。あるいは南方での戦の折の、彼の残虐な行いが尾ひれ背びれをつけて語られるようになる。〈狂王〉〈死神〉〈処女殺し〉――。彼に逆らった地方官は問答無用に首を斬られ、叛乱軍に与した民は生きながらに城(まち)ごと焼かれ、悪魔のように美しいその素顔を見た者は生きて帰ることはできず、処女(おとめ)の純潔を奪っては殺してしまう。事実を大きく捻じ曲げた、悪意を以て広められていく噂話。噂が皇太子の工作なのはまず間違いなかったが、恭親王はもはやそれについてすら、何の関心も示さなかった。
皇帝は折に触れては皇太子の廃嫡と恭親王の立太子を密かに群臣に図るが、肝心の恭親王本人にその気がなく、皇太子にも目立った瑕瑾はない。凶悪な噂が流れる状況で継嗣の交代を強行するのは、国政にいらぬ波風を立てるだけだと群臣は反対を表明し、皇帝はその意を押し通すことができないまま、徒らに時間だけが過ぎていく。
そうした中で、太陽宮よりの二百年ぶりとなる〈聖婚〉の要請を受け、皇帝は一つの決断を下した。
恭親王を〈聖婚〉の皇子として、ソリスティア総督に任命する――。最も鍾愛する皇子への玉座の移譲を、皇帝はついに断念したのである。
〈聖婚〉――。
陰陽の龍種である東西の皇王家が、その陰陽の〈王気〉を交えるために行う聖なる婚姻。
かつては定期的に行われていたその〈聖婚〉が、途絶えてからすでに二百年になる。
今、西の女王家は衰退の間際にあり、〈王気〉を持つ王女はただ一人残るのみ。その王女の成人を待っての、聖地の〈禁苑三宮〉による〈聖婚〉の要請であった。
龍騎士と精霊ディアーヌより続く、陰陽二王家の聖なる婚姻。
引き裂かれた番(つがい)である金銀の龍種の、唯一許された出逢い。
〈聖婚〉の皇子王女は、世界の陰陽を調和するために、天に捧げられる贄にほかならない。
およそ世界の陰陽調和を担う龍種に生まれた責任として、〈聖婚〉を拒否することは許されなかった。
この〈聖婚〉の裏に、〈禁苑〉と東の帝国の、極めて政治的な意図が隠されていたとしても――。
現在、西の女王国の実権を握るのは、前々女王アライアの夫であるイフリート公爵。本来ならば、彼とアライア女王の娘であるアルベラ王女が女王位を嗣ぐはずであった。しかし、その王女にはなんと〈王気〉がないという。当然、〈禁苑〉としてはそのような王女とも言えない王女の即位など、認めることはできない。そこで急遽、アライア女王の妹であるユウラ女王が登極したが、その後の女王国の政局は混乱を極める。ユウラ女王の即位直後、夫であるレイノークス辺境伯ユーシスが急死し、後継の王配としてイフリート公爵の嫡子ギュスターブがユウラ女王と結婚する。だが二人の間には王女は生まれていない。ユウラ女王の一人娘、アデライード王女は幼少から聖地の修道院に入り、十年以上、聖地から出ていない。
一年前、ユウラ女王が薨去し、イフリート公爵は再度、その娘アルベラ王女の即位を要求する。今回も、〈禁苑〉は〈王気〉のない王女の即位を拒否し、ただ一人〈王気〉を持つアデライード王女の即位を求める。アデライード王女は聖地に閉じこめられたまま育ち、西の女王国ではほとんど孤立無援に等しい。そんな王女の即位を成し遂げるため、〈禁苑〉は王女の後ろ立てとしてあろうことか東の帝国を引き込んだ。そのための〈聖婚〉である。
表向き古式ゆかしい聖なる婚姻の顔の裏側に隠された、〈禁苑〉と帝国のきな臭い政略結婚。
このままほぼ、間違いなく女王位を巡る戦争に突入することを踏まえ、〈狂王〉の渾名を持つ彼が〈聖婚〉の皇子に指名されたに過ぎない。たまたま正室を喪っていたために、こんなドロドロした政略に巻き込まれる羽目になろうとは、本当に自分は呪われているとしか思えない――断ることのできない縁談に、恭親王の心は重かった。
結局、約束は守ることができないのだ。
懐に隠した小箱に手をやって、恭親王は密かに溜息をつく。
今度の結婚は、以前のような形ばかりの結婚を貫くことは許されない。
〈聖婚〉の王女は、陰の〈王気〉を持つ最後の生き残り。西の女王家の血筋を残すことが結婚の絶対条件なのである。これまでも散々、身体はメルーシナを裏切り続けてきたけれど、ついに自分に対する言い訳も効かなくなるのだと、彼も覚悟を決めざるを得なかった。
ただ、悪いことばかりでもない。
〈聖婚〉の皇子は、慣例として聖地の対岸、東西二国の境界を守るソリスティア総督に任じられる。通常は遥任であるこの職に実際に就き、ソリスティアの港街で暮らすことになる。
ソリスティアは聖地への玄関口だ。すべて聖地へと向かう船は、ソリスティアを経由することが定められている。ソリスティア総督は聖地の守護者であり、東の皇帝の代理人として、十万の兵を統率してソリスティアの堅固な要塞に拠るのである。また聖地内の〈港〉と呼ばれる区域の保安もソリスティア総督の管轄であり、聖地内には別邸を所有する。ソリスティア総督になれば、聖地への出入りが自由になるということだ。
メルーシナとの約束を破り、彼女以外の妻を娶ることにはなるが、彼女を探し、彼女に指輪を返すためには、これ以上にない立場であると言えよう。
すでにあの邂逅から十年の月日が流れ、メルーシナとてもう、誰かのもとに嫁いでいるかもしれないのだ。
自分に、この指輪を持つ資格がないのは承知の上で、彼はずっと、自身の拠り所として指輪を手放すことができないでいた。メルーシナにはこの指輪が必要であるに違いなく、一刻も早く彼女を探し出して指輪を返すべきであるのに、彼にはその決心がつかず、また手段も思いつかないまま、いたずらに時間だけが過ぎた。幾度も皇帝に聖地への渡航を願い出たが、常に却下されてきた。流れる月日に彼が焦りを感じ始めた時、彼の目の前に差し出されたのが、〈聖婚〉という機会だったのだ。
今、目の前に広がるソリスティアの海を見て、彼は感慨を新たにする。
ようやく、戻ってきた――。彼女に、指輪を返すために。
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