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五竅
23、姫の正体
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「ねえ、あの人、ゲルフィンに似てない?」
彼らが集まって酒盛りをしている高楼は見晴らしがよく、邸内の様子が一望できた。
揚げた馬鈴薯をつまみながら周囲の情景を眺めていたシウが、庭の一角を指差して言った。
「ゲルフィン?」
何となく聞き覚えのある名前に、ヤスミンが胡麻の風味の焼菓子を齧りながら聞くと、黒服が言う。
「ゲルフィンってのは、そこの押し込み強盗の従兄で、俺の従者だ」
「強盗じゃないです! 義賊です!」
即座に強盗が訂正するが、軽く無視される。
ヤスミンもシウの横から庭を覗くと、黒髪を真ん中でぴっちりと分けて椿油か何かで撫で付け、片眼鏡をつけた男が速足に歩いている。
「常にああいう格好しているんだよ。あんまりいないだろう? そんな人」
「確かにゲル兄さんの格好にそっくりですけど……今日は仮装パーティーですよ?普段の格好で来るはずないじゃないですか。そもそも、あの人がこんな催しに参加するわけないし」
つまりあれがゲルフィン本人のはずがない、というのが強盗改め義賊の意見である。
「そうだよね。あの人は骨董や古書のオークションみたいなのには参加するみたいだけど、こういう女引っ掛ける会に興味ないでしょ」
シウが桜桃の蒸留酒を舐めながら言う。
「じゃ、何か? ゲルフィンの仮装ってことか?」
「え、それって〈ゲルフィン〉に扮してるってこと?」
「わざわざあんな格好で来るんだ。それ以外考えられねぇだろ」
「なるほどー。ゲルフィンの仮装とは斬新だねぇ。奇抜さでは僧兵を超えるな」
「しかもすげぇクオリティ高い! 見慣れた俺が見間違えるくらいだしな!」
「相当研究したんじゃない? 〈ゲルフィン〉マニアかもよ?」
青年たちが納得して開心果の殻を剥きながら酒を呷る。ヤスミンはだからその〈ゲルフィン〉って誰(何)なのよと疑問に思いながらも、ちびちびと甘い葡萄酒を舐める。
「姫、その葡萄酒気に入った? それは貴腐葡萄酒だよ」
道化も仮面を取り去って、葡萄酒のお替わりを注いでくれる。テーブルの向かい側では、僧兵と強盗(改め義賊)が、せっせと薄焼煎餅にチーズやら鮭の燻製をやらを乗っけてカナッペを作成しては、どんどんとヤスミンの前に並べてくれる。
「特別な葡萄酒なのですか?」
ヤスミンが道化に尋ねると、黒服が馬鈴薯の焼酎のグラスを傾けながら説明してくれた。
「ある特定の地域で作られるんだ。貴腐菌って菌がついた葡萄を絞って作る。今は皇帝の御料農場になってるから、そこから皇宮に納めた分の残りや、横流し品がわずかに流通してるだけだ。普通は滅多に手にはいらねぇぞ」
「えーっ!すごーい」
素直に感心して喜ぶヤスミンを、三人の青年たちが面白そうに見る。ヤスミンは見るからに育ちがよさそうであるが、令嬢特有のつんけんしたところもなく、さりとて秀女のように彼らに媚びを売ってしな垂れかかってくるようなところもなく、普段三人が接する女たちとはちょっと違っていた。
「しかし、シウもすげぇな。ババアばっかりのこの会場から、よくぞピンポイントでこんな若いのを捕まえてくるもんだ」
黒服が剥いた開心果を口に放り込みながら白服に言うと、シウが黒い髪を掻き上げて笑う。
「おばちゃんをまいて逃げながら、あ、あそこにいるのは若そうだなって目星をつけてたんだよ。年増は嫌いじゃないけど、香水臭いのは無理だからね」
エルは会場にいる女性たちの平均年齢の高さに驚き、とっとと高楼への撤退を決めたのだ。
「浮気相手を物色するための会だもの。若い女なんて端から期待しちゃだめさ」
道化がカナッペを齧りながら笑う。
「で、お姫様は何でこんな会に来ちゃったの?」
「そうだよ。さっきも中年二人が舟で誘いに行っただろう? あんなのについて行ったら大変なことになるところだったよ?」
シウが橄欖を楊枝で口に運びながら言う。美しい唇から零れる皓歯が色ガラスの照明に照らされてキラリと光る。
「え……連れが、付いていってしまったけれど。わたくしは舟が苦手で、……」
「ああ、あの赤い服の連れの女なら大丈夫じゃないかな? あの手のタイプは気に入らなければ上手くいなすだろうからね。でも君はそんな芸当はできなさそうだし。もしかして初めて来たの?」
つくづくと見ても、このシウという青年は美しい顔をしている。少し細面で、背は高いけれど身体つきも青年というよりは少年ぽい。ヤスミンよりも年下だろうと見当をつけた。
「そう……。年の離れた従姉が誘ってくれたの。従姉は未亡人で……でもわたくしを置いてどこかに行ってしまって。ただの仮装パーティーだと思っていたから、男の人が誘いに来て吃驚したの」
ヤスミンが困ったというふうに顔を俯ける。小柄で、ややふっくらとした頬のライン、柔らかそうな身体つきといい、人によってはぽっちゃりだと判定を下すかもしれない。しかし西方風の一枚布を巻き付けたような白い絹の長衣から伸びる二の腕は染み一つなくて、内側から輝くように白い。少しばかり自信なさげな雰囲気といい、見るからに遊び慣れていない様子が三人には好印象を与えたようだ。
「ここは他には誰も来ないから、仮面を外したら?邪魔だし、暑いでしょ?」
シウが優しく言うのについ絆されそうになるが、ヤスミンはぶんぶんと首を振った。
「だめよ。わたくし、美人じゃないもの。仮面をつけてるから、まだ見られるけれど。外したらがっかりされてしまうわ」
「どうして? 美人じゃないなんて、誰が言うの?」
「そうだよ、こんなに可愛いのに。勿体ぶらないで、顔をみせてよ」
「別に世界一の美女だと期待してるわけじゃねぇし、気にすんなよ」
三人に口々に言われ、それでも頑としてヤスミンは仮面を外すことを拒否した。
「ほんとに、美人じゃないのよ。いっつも比べられて、がっかりされるの」
道化が不思議そうに首を傾げる。
「誰が誰と比べるっていうの? 女の子の可愛さなんて、それぞれだろうに」
「だって……夫は側室の部屋にばっかり入り浸って、わたくしの部屋にはほとんど来ないし、来ても溜息ばっかりだし」
その言葉に、三人は小柄で子供っぽく見える四妹が、人妻であると気づく。
(そうだよな、奥様の火遊びの会だもんな……)
「側室囲ってるなんて、どーせ夫は脂ぎったジジイなんだろ、来なくて清々するくらいに思っとけよ。加齢臭キツイだろ」
黒服がカナッペを頬張りながら言うのに、ヤスミンは首を振った。
「……夫はまだ二十四で……結婚して二年なの」
「二十四で側室に入り浸りって……」
「旦那さんのこと、好きなの?」
「うーん。婚約したのは十三歳だったし、この人のところにお嫁に行くんだわって思って、好きになろうとしたんだけど……彼がどこか田舎の子爵の令嬢に一目ぼれして、どうしても彼女と結婚するって言い出したの。その時、いっそのこと婚約を破棄してくれればよかったんだけど、彼のおうち的には子爵の令嬢では釣り合わないからって、正妻はわたくしで、彼女は側室にって話になってしまって。……家格の問題で、わたくしの方からは婚約破棄はできなかったし……」
白葡萄酒のグラスを所在無げにくるくる回しながら話すヤスミンの姿を見ながら、男たちは視線を交わし合う。
(ものすごーく、どっかで聞いたような話なんだけど)
(田舎の子爵令嬢に一目ぼれって、よくあることなのか?)
「渋々嫁に行ってみたら、夫は側室に夢中で見向きもされねぇってヤツ?」
黒服が精悍な眉を顰めるようにして尋ねる。
「そう……。結婚して二年経つけど、夫がわたくしの部屋に来た事なんて、全部で六回しかないわ」
「数えてんの……」
「……数えるつもりはなかったんだけど……」
ヤスミンも酔いが回ってきたのか、テーブルに白い肘をつくようにして、グラスを傾ける。
「最初のうちは、彼のお母様とか、おばあさまもわたくしに気を使ってくださって、夫にもいろいろ意見してくださったんだけど、あっちに子供ができちゃうとね……。お邸は子供中心になっちゃうし、わたくしの居場所はどんどんなくなって……。しかも今度は二人目ができたって言われて。それに引き換え、正室は子供も生めない役立たずだって。そもそも六回しかしてないし、ここ三か月なんて、顔すら見ていないのに、子供ができたらかえってヤバイじゃないの!」
どん! と拳をテーブルに叩きつけてヤスミンが管をまき始める。
「以前は友達を邸に招いたりもできたけど、最近じゃ役立たずのくせに、いつまでも子供みたいに女友達と遊んでばかりとか、姑に嫌味まで言われるし、遊びに行ってちょっと遅くなっただけでチクチク言われて……もう離婚したいってお父様にも言っていて、うちからは何度も申し入れているのに、ソルバンの家は子供ができるまでは離婚はダメの一点張りで、わたくしは子供を産むだけに生きてるわけじゃないんですわ!」
ついにぶわっとテーブルにつっぷして泣き始めたヤスミンに、エルとターシュはドン引きするが、シウは優しくその肩に手を置いて、懐から素早くレースの手巾を取り出して手渡す。
「そうなんだ、辛かったね、四妹。でも仮面をつけたまま泣くと、その仮面、紙製だから溶けちゃうよ。さ、外してあげるからこれで拭いて、ね?」
素早い仕草で仮面を外し、よしよしと髪を撫でられて、ヤスミンはレースの手巾で顔を覆ってしくしくと泣いている。
(すげぇ、あの仮面を外す手際の良さ、プロじゃねぇのか?)
(相手の懐に入っていくタイミングとか、絶妙すぎ)
(あー、こうやって例の未亡人も口説いたんでしょうねぇ)
(自分には無理っす! やっぱ美形は違うっす!)
残る四人はこそこそと小声で会話しながら、だが、全員一致である見解に到達していた。
(この子、絶対、ユルゲンの正室だ――)
彼らが集まって酒盛りをしている高楼は見晴らしがよく、邸内の様子が一望できた。
揚げた馬鈴薯をつまみながら周囲の情景を眺めていたシウが、庭の一角を指差して言った。
「ゲルフィン?」
何となく聞き覚えのある名前に、ヤスミンが胡麻の風味の焼菓子を齧りながら聞くと、黒服が言う。
「ゲルフィンってのは、そこの押し込み強盗の従兄で、俺の従者だ」
「強盗じゃないです! 義賊です!」
即座に強盗が訂正するが、軽く無視される。
ヤスミンもシウの横から庭を覗くと、黒髪を真ん中でぴっちりと分けて椿油か何かで撫で付け、片眼鏡をつけた男が速足に歩いている。
「常にああいう格好しているんだよ。あんまりいないだろう? そんな人」
「確かにゲル兄さんの格好にそっくりですけど……今日は仮装パーティーですよ?普段の格好で来るはずないじゃないですか。そもそも、あの人がこんな催しに参加するわけないし」
つまりあれがゲルフィン本人のはずがない、というのが強盗改め義賊の意見である。
「そうだよね。あの人は骨董や古書のオークションみたいなのには参加するみたいだけど、こういう女引っ掛ける会に興味ないでしょ」
シウが桜桃の蒸留酒を舐めながら言う。
「じゃ、何か? ゲルフィンの仮装ってことか?」
「え、それって〈ゲルフィン〉に扮してるってこと?」
「わざわざあんな格好で来るんだ。それ以外考えられねぇだろ」
「なるほどー。ゲルフィンの仮装とは斬新だねぇ。奇抜さでは僧兵を超えるな」
「しかもすげぇクオリティ高い! 見慣れた俺が見間違えるくらいだしな!」
「相当研究したんじゃない? 〈ゲルフィン〉マニアかもよ?」
青年たちが納得して開心果の殻を剥きながら酒を呷る。ヤスミンはだからその〈ゲルフィン〉って誰(何)なのよと疑問に思いながらも、ちびちびと甘い葡萄酒を舐める。
「姫、その葡萄酒気に入った? それは貴腐葡萄酒だよ」
道化も仮面を取り去って、葡萄酒のお替わりを注いでくれる。テーブルの向かい側では、僧兵と強盗(改め義賊)が、せっせと薄焼煎餅にチーズやら鮭の燻製をやらを乗っけてカナッペを作成しては、どんどんとヤスミンの前に並べてくれる。
「特別な葡萄酒なのですか?」
ヤスミンが道化に尋ねると、黒服が馬鈴薯の焼酎のグラスを傾けながら説明してくれた。
「ある特定の地域で作られるんだ。貴腐菌って菌がついた葡萄を絞って作る。今は皇帝の御料農場になってるから、そこから皇宮に納めた分の残りや、横流し品がわずかに流通してるだけだ。普通は滅多に手にはいらねぇぞ」
「えーっ!すごーい」
素直に感心して喜ぶヤスミンを、三人の青年たちが面白そうに見る。ヤスミンは見るからに育ちがよさそうであるが、令嬢特有のつんけんしたところもなく、さりとて秀女のように彼らに媚びを売ってしな垂れかかってくるようなところもなく、普段三人が接する女たちとはちょっと違っていた。
「しかし、シウもすげぇな。ババアばっかりのこの会場から、よくぞピンポイントでこんな若いのを捕まえてくるもんだ」
黒服が剥いた開心果を口に放り込みながら白服に言うと、シウが黒い髪を掻き上げて笑う。
「おばちゃんをまいて逃げながら、あ、あそこにいるのは若そうだなって目星をつけてたんだよ。年増は嫌いじゃないけど、香水臭いのは無理だからね」
エルは会場にいる女性たちの平均年齢の高さに驚き、とっとと高楼への撤退を決めたのだ。
「浮気相手を物色するための会だもの。若い女なんて端から期待しちゃだめさ」
道化がカナッペを齧りながら笑う。
「で、お姫様は何でこんな会に来ちゃったの?」
「そうだよ。さっきも中年二人が舟で誘いに行っただろう? あんなのについて行ったら大変なことになるところだったよ?」
シウが橄欖を楊枝で口に運びながら言う。美しい唇から零れる皓歯が色ガラスの照明に照らされてキラリと光る。
「え……連れが、付いていってしまったけれど。わたくしは舟が苦手で、……」
「ああ、あの赤い服の連れの女なら大丈夫じゃないかな? あの手のタイプは気に入らなければ上手くいなすだろうからね。でも君はそんな芸当はできなさそうだし。もしかして初めて来たの?」
つくづくと見ても、このシウという青年は美しい顔をしている。少し細面で、背は高いけれど身体つきも青年というよりは少年ぽい。ヤスミンよりも年下だろうと見当をつけた。
「そう……。年の離れた従姉が誘ってくれたの。従姉は未亡人で……でもわたくしを置いてどこかに行ってしまって。ただの仮装パーティーだと思っていたから、男の人が誘いに来て吃驚したの」
ヤスミンが困ったというふうに顔を俯ける。小柄で、ややふっくらとした頬のライン、柔らかそうな身体つきといい、人によってはぽっちゃりだと判定を下すかもしれない。しかし西方風の一枚布を巻き付けたような白い絹の長衣から伸びる二の腕は染み一つなくて、内側から輝くように白い。少しばかり自信なさげな雰囲気といい、見るからに遊び慣れていない様子が三人には好印象を与えたようだ。
「ここは他には誰も来ないから、仮面を外したら?邪魔だし、暑いでしょ?」
シウが優しく言うのについ絆されそうになるが、ヤスミンはぶんぶんと首を振った。
「だめよ。わたくし、美人じゃないもの。仮面をつけてるから、まだ見られるけれど。外したらがっかりされてしまうわ」
「どうして? 美人じゃないなんて、誰が言うの?」
「そうだよ、こんなに可愛いのに。勿体ぶらないで、顔をみせてよ」
「別に世界一の美女だと期待してるわけじゃねぇし、気にすんなよ」
三人に口々に言われ、それでも頑としてヤスミンは仮面を外すことを拒否した。
「ほんとに、美人じゃないのよ。いっつも比べられて、がっかりされるの」
道化が不思議そうに首を傾げる。
「誰が誰と比べるっていうの? 女の子の可愛さなんて、それぞれだろうに」
「だって……夫は側室の部屋にばっかり入り浸って、わたくしの部屋にはほとんど来ないし、来ても溜息ばっかりだし」
その言葉に、三人は小柄で子供っぽく見える四妹が、人妻であると気づく。
(そうだよな、奥様の火遊びの会だもんな……)
「側室囲ってるなんて、どーせ夫は脂ぎったジジイなんだろ、来なくて清々するくらいに思っとけよ。加齢臭キツイだろ」
黒服がカナッペを頬張りながら言うのに、ヤスミンは首を振った。
「……夫はまだ二十四で……結婚して二年なの」
「二十四で側室に入り浸りって……」
「旦那さんのこと、好きなの?」
「うーん。婚約したのは十三歳だったし、この人のところにお嫁に行くんだわって思って、好きになろうとしたんだけど……彼がどこか田舎の子爵の令嬢に一目ぼれして、どうしても彼女と結婚するって言い出したの。その時、いっそのこと婚約を破棄してくれればよかったんだけど、彼のおうち的には子爵の令嬢では釣り合わないからって、正妻はわたくしで、彼女は側室にって話になってしまって。……家格の問題で、わたくしの方からは婚約破棄はできなかったし……」
白葡萄酒のグラスを所在無げにくるくる回しながら話すヤスミンの姿を見ながら、男たちは視線を交わし合う。
(ものすごーく、どっかで聞いたような話なんだけど)
(田舎の子爵令嬢に一目ぼれって、よくあることなのか?)
「渋々嫁に行ってみたら、夫は側室に夢中で見向きもされねぇってヤツ?」
黒服が精悍な眉を顰めるようにして尋ねる。
「そう……。結婚して二年経つけど、夫がわたくしの部屋に来た事なんて、全部で六回しかないわ」
「数えてんの……」
「……数えるつもりはなかったんだけど……」
ヤスミンも酔いが回ってきたのか、テーブルに白い肘をつくようにして、グラスを傾ける。
「最初のうちは、彼のお母様とか、おばあさまもわたくしに気を使ってくださって、夫にもいろいろ意見してくださったんだけど、あっちに子供ができちゃうとね……。お邸は子供中心になっちゃうし、わたくしの居場所はどんどんなくなって……。しかも今度は二人目ができたって言われて。それに引き換え、正室は子供も生めない役立たずだって。そもそも六回しかしてないし、ここ三か月なんて、顔すら見ていないのに、子供ができたらかえってヤバイじゃないの!」
どん! と拳をテーブルに叩きつけてヤスミンが管をまき始める。
「以前は友達を邸に招いたりもできたけど、最近じゃ役立たずのくせに、いつまでも子供みたいに女友達と遊んでばかりとか、姑に嫌味まで言われるし、遊びに行ってちょっと遅くなっただけでチクチク言われて……もう離婚したいってお父様にも言っていて、うちからは何度も申し入れているのに、ソルバンの家は子供ができるまでは離婚はダメの一点張りで、わたくしは子供を産むだけに生きてるわけじゃないんですわ!」
ついにぶわっとテーブルにつっぷして泣き始めたヤスミンに、エルとターシュはドン引きするが、シウは優しくその肩に手を置いて、懐から素早くレースの手巾を取り出して手渡す。
「そうなんだ、辛かったね、四妹。でも仮面をつけたまま泣くと、その仮面、紙製だから溶けちゃうよ。さ、外してあげるからこれで拭いて、ね?」
素早い仕草で仮面を外し、よしよしと髪を撫でられて、ヤスミンはレースの手巾で顔を覆ってしくしくと泣いている。
(すげぇ、あの仮面を外す手際の良さ、プロじゃねぇのか?)
(相手の懐に入っていくタイミングとか、絶妙すぎ)
(あー、こうやって例の未亡人も口説いたんでしょうねぇ)
(自分には無理っす! やっぱ美形は違うっす!)
残る四人はこそこそと小声で会話しながら、だが、全員一致である見解に到達していた。
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