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72、弾劾
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翌日、午後には城に出てくるはずのギヨーム・バルテルを待つラファエルの執務室に、エティエンヌが乱暴な足取りで現れた。
「どういうことだ、ラファエル! 仮にも王女であるジュスティーヌを娶っておきながら……!」
バン、と扉を開け放って、エティエンヌが茶色い髪をを振り乱し、かつかつと近づいてくる。ラファエルは一瞬、虚を衝かれたけれど、すぐに気を取り直し、立ち上がってエティエンヌを迎えた。
「ローヌ公爵閣下、いったいどうなさったと言うのです」
「どうしたもこうしたも! 今、城下を席巻する噂を知らぬと申すか!」
「噂……ああ、あの、カトリーヌとかいう、あばずれ女の撒いた、根も葉もない噂ですか」
「どういうことなのだ!」
バン、と今度はラファエルの前の、執務机を叩いてエティエンヌは激高している。
「閣下、とにかくそちらにお座りください。ギヨーム・バルテルの姪の、カトリーヌと俺は何でもありません」
「お前がカトリーヌを愛妾に迎えるとの、もっぱらの噂だぞ?」
「国王命令でも断りますよ、あんな女」
「だがその、関係が――」
「あるわけないでしょう」
一言のもとに退けたラファエルの様子に、エティエンヌもようやく我に返ったらしく、大きく息を吸ってから、薦められた椅子に腰を下ろす。
「前から、俺の愛妾の座を狙っているようで、夜中に俺の部屋の周囲をうろついたりしていましたが――王都に行く直前に、姫が少し体調を崩されて、寝室を分けていたことがあるのです。その時に俺の部屋まで来て、伯父バルテルの不正の証拠を渡すから、俺の愛妾にしろと迫ってきて――」
その言葉に、エティエンヌは灰青家の瞳を見開く。
「それは――マルスラン殿下から預かった例の書類は……」
「そう、それですよ。ですから俺は、書類だけ取り上げて追い返したのですが」
「どうやって!」
「ストッキングの中に隠してあるというから、スカートを捲って書類だけ取って……」
思わずエティエンヌが天を仰ぐ。
「それで追い返すとか!」
「ええ、だって――何というかもう、娼婦のようで、それだけでヤル気がそがれるというか、萎えると言うか……俺は姫一筋ですし、あれはどっから見ても処女じゃないですよ」
あっさりと言い切るラファエルに、エティエンヌは苦虫をかみつぶしたような表情で言う。
「だが、噂が凄まじい勢いでめぐっているぞ?」
「――どうも、バルテルが一緒になって騒いでいるようで……姪の不行跡を宣伝して、どうするつもりなのか、俺にはわからないのですが」
「このままだと、ジュスティーヌの耳にも入るぞ?」
ラファエルはその言葉には、困ったように眉をひそめる。
「あの女は姫が役立たずだからだとか、とんでもない暴言を吐いているようなのです。俺との噂をでっちあげるだけならともかく、姫に対する誹謗は許せないですね」
それがジュスティーヌの耳に入れば、彼女を傷つけるに違いない。
「どうするつもりなのか」
「どうもこうもありません。午後に、ギヨーム・バルテルと対決して、あいつを弾劾するしかないですね。地縁はあちらが強く、俺はよそ者です。噂を撒かれてしまえば、嘘八百でも信じる者は一定数いるでしょう」
王女を娶った若く美しい男が、王女との関係に飽き足らず、別の女を求めるというのは、ゴシップ好きの田舎者には飛びつきたくなる話題だ。この地に赴任して日の浅いラファエルでは、何かの目的をもってわざと広められた噂を収拾させる手段などない。嘘から出た真で、本当にカトリーヌを愛妾にさせるつもりなのか、としかラファエルには想像がつかないのだが、しかし、バルテルが姪のカトリーヌを領主の愛妾に差し出す理由が、ラファエルにはわからなかった。
そうこうするうちに、ヨアヒムがギヨーム・バルテルの訪いを告げる。
だがバルテルは一人ではなかった。
「ギヨーム・バルテルとともに、アギヨン侯爵閣下が――」
「アギヨン侯爵だと――?」
ラファエルは思わず立ち上がる。
どうして、ミレイユの父親が――?
「どういうことだ、ラファエル! 仮にも王女であるジュスティーヌを娶っておきながら……!」
バン、と扉を開け放って、エティエンヌが茶色い髪をを振り乱し、かつかつと近づいてくる。ラファエルは一瞬、虚を衝かれたけれど、すぐに気を取り直し、立ち上がってエティエンヌを迎えた。
「ローヌ公爵閣下、いったいどうなさったと言うのです」
「どうしたもこうしたも! 今、城下を席巻する噂を知らぬと申すか!」
「噂……ああ、あの、カトリーヌとかいう、あばずれ女の撒いた、根も葉もない噂ですか」
「どういうことなのだ!」
バン、と今度はラファエルの前の、執務机を叩いてエティエンヌは激高している。
「閣下、とにかくそちらにお座りください。ギヨーム・バルテルの姪の、カトリーヌと俺は何でもありません」
「お前がカトリーヌを愛妾に迎えるとの、もっぱらの噂だぞ?」
「国王命令でも断りますよ、あんな女」
「だがその、関係が――」
「あるわけないでしょう」
一言のもとに退けたラファエルの様子に、エティエンヌもようやく我に返ったらしく、大きく息を吸ってから、薦められた椅子に腰を下ろす。
「前から、俺の愛妾の座を狙っているようで、夜中に俺の部屋の周囲をうろついたりしていましたが――王都に行く直前に、姫が少し体調を崩されて、寝室を分けていたことがあるのです。その時に俺の部屋まで来て、伯父バルテルの不正の証拠を渡すから、俺の愛妾にしろと迫ってきて――」
その言葉に、エティエンヌは灰青家の瞳を見開く。
「それは――マルスラン殿下から預かった例の書類は……」
「そう、それですよ。ですから俺は、書類だけ取り上げて追い返したのですが」
「どうやって!」
「ストッキングの中に隠してあるというから、スカートを捲って書類だけ取って……」
思わずエティエンヌが天を仰ぐ。
「それで追い返すとか!」
「ええ、だって――何というかもう、娼婦のようで、それだけでヤル気がそがれるというか、萎えると言うか……俺は姫一筋ですし、あれはどっから見ても処女じゃないですよ」
あっさりと言い切るラファエルに、エティエンヌは苦虫をかみつぶしたような表情で言う。
「だが、噂が凄まじい勢いでめぐっているぞ?」
「――どうも、バルテルが一緒になって騒いでいるようで……姪の不行跡を宣伝して、どうするつもりなのか、俺にはわからないのですが」
「このままだと、ジュスティーヌの耳にも入るぞ?」
ラファエルはその言葉には、困ったように眉をひそめる。
「あの女は姫が役立たずだからだとか、とんでもない暴言を吐いているようなのです。俺との噂をでっちあげるだけならともかく、姫に対する誹謗は許せないですね」
それがジュスティーヌの耳に入れば、彼女を傷つけるに違いない。
「どうするつもりなのか」
「どうもこうもありません。午後に、ギヨーム・バルテルと対決して、あいつを弾劾するしかないですね。地縁はあちらが強く、俺はよそ者です。噂を撒かれてしまえば、嘘八百でも信じる者は一定数いるでしょう」
王女を娶った若く美しい男が、王女との関係に飽き足らず、別の女を求めるというのは、ゴシップ好きの田舎者には飛びつきたくなる話題だ。この地に赴任して日の浅いラファエルでは、何かの目的をもってわざと広められた噂を収拾させる手段などない。嘘から出た真で、本当にカトリーヌを愛妾にさせるつもりなのか、としかラファエルには想像がつかないのだが、しかし、バルテルが姪のカトリーヌを領主の愛妾に差し出す理由が、ラファエルにはわからなかった。
そうこうするうちに、ヨアヒムがギヨーム・バルテルの訪いを告げる。
だがバルテルは一人ではなかった。
「ギヨーム・バルテルとともに、アギヨン侯爵閣下が――」
「アギヨン侯爵だと――?」
ラファエルは思わず立ち上がる。
どうして、ミレイユの父親が――?
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