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65、接吻

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 ジュスティーヌの頬を涙が流れ落ちる。

「ジュスティーヌ、あなたは、綺麗ですよ」
「ラファエル……」

 ジュスティーヌが馬上でラファエルに抱き着く。ラファエルもまた、その華奢な身体を抱きしめて、額に口づけを落とす。

「もう少し、森の中に行ってみましょう」
 
 ラファエルが馬の腹を蹴って、馬を森の中に進ませる。落葉樹の森はあらかた葉も落ちて、樹上に残るわずかな枯れ葉が揺れている。

 ラファエルは一本の大樹の前で馬を止め、馬を降りると、ジュスティーヌを抱き下ろす。
 片手に馬を曳きながら、落ち葉を踏みしめながら歩いていく。小さな流れを見つけ、ラファエルの馬がその水を飲み始めたので、ラファエルは近くの枝に手綱をひっかけ、ジュスティーヌの手をとって、流れを跨いで歩く。遠くで、狩りのラッパの音が聞こえる。

「狩りは、よろしいんですの?」
「どうせ、鹿は陛下が射ることになっているのです。騎士の時はそれを追いこむのが仕事でしたが、今年はもう、しなくていい」

 大きな木にジュスティーヌが駆け寄り、抱き着く。

「木に抱き着くのが好きですね」
「だって、安心するのですもの」
「夫にもそうやって抱き着いてもらいたいのですが」
 
 そう言われ、ジュスティーヌは周囲を見回してから、ラファエルに抱き着いた。ラファエルが彼女を抱きとめる。

「……口づけしても?」
 
 ラファエルの問いに、ジュスティーヌが顔をあげ、目を閉じる。ラファエルがその唇を唇で塞いだ。

 緊張しているのか、堅く閉じたままの唇をラファエルが舌で突く。驚いて目を開けたジュスティーヌに、ラファエルが言う。

「口を開けてください」
 
 ジュスティーヌが少し開いた唇に、ラファエルは再び口づけると、熱い舌を咥内に捻じ込む。舌を絡め、歯列の裏をなぞり、口蓋の裏を舐めあげると、ジュスティーヌの腰が無意識に動いた。それをもう一度ぐっと抱きしめて、ラファエルが立ち上がってきた股間をジュスティーヌの腰に擦り付ける。

 腰に当たる硬いものの正体に気づき、ジュスティーヌが両目を見開く。だがラファエルの力強い両腕はジュスティーヌを抱きしめて離さずに、ただ貪るように唇を蹂躙していく。さすがに苦しくて、ジュスティーヌがラファエルの背中をバシバシ叩いて、ようやく解放されて大きく息をつく。

「……な、く、くるし……」
「鼻で息をすればいいのですよ」
「あ……」
「昨夜はできていたのに、どうしたのですか」
「それは……」

 昨夜の自分はちょっと普通ではなかったと、ジュスティーヌは言い訳したいのをぐっとこらえる。
 
「ジュスティーヌ……今夜、もっとたくさん、口づけをしましょう。唇だけじゃなくて、いろいろな場所に――」

 ラファエルの紫色の瞳が、いつもと違う煌きを発したように見えて、ジュスティーヌは言いようのない恐怖と、若干の期待のようなものを感じて、思わず唾を飲み込んだ。
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