63 / 86
63、狩場の森
しおりを挟む
翌日は朝から狩場の森で、国王主催の狩りが挙行された。
新ボーモン伯として、ラファエルも多くの貴族達とともに、狩りの装束に身を固め、葦毛の愛馬に跨がって参加した。女性たちも思い思いに着飾り、乗馬に興じるもの、天幕の周辺でピクニックを楽しむものと、それぞれであった。
ジュスティーヌは王妃や姉たちに囲まれて、王妃の天幕の中にいた。
天幕の中からはるかに夫を見出して、ジュスティーヌは昨夜のことを想いだし、ふと顔を赤らめる。
今朝はラファエルの顔をまともに見られなかった。未だに、ラファエルの中心に聳えていた、彼自身の手触りが忘れられない。
(あんな風になるなんて……)
以前、大公が一度だけ、ああして聳え立ったのを見たが、彼はその後すぐに泡を吹いて死んでしまった。ラファエルも死んでしまうのではと、恐怖で身が竦んだけれど、彼曰く、普段からすぐにああなると……。
ジュスティーヌはようやく、大公が薬をさまざま試してまで追い求めていたものが何であったか理解した。
(あれを目指しておられたのね……。新しいお薬をお試しになられた夜は、いっぱいいっぱい、顎が疲れるまで舐めさせられたけど、あんな風にはならなかった……)
ラファエルは何もしなくてもああなっていたし、一度果ててもすぐにまた力を取り戻していた。
しかし、アレはいったい何のために、あんな風に硬く大きくなるのかまでは、ジュスティーヌは理解できていなかった。
(――今夜、ラファエルに聞いてみてもいいものなのかしら。それとも、こういうことは口に出すべきではないのかしら……)
さっきから天幕の隅で顔を赤くしたり青くしたりしているジュスティーヌを、王妃や二人の姉たちは不思議そうに見ていた。
鹿を追って馬を走らせながら、ラファエルは心ここにあらずであった。
集中しなければいけないのはわかっているが、ジュスティーヌとの昨夜のことが、頭から消えない。
姫は男性器が勃起したところを、一度しか見たことがない――そしてその直後に大公は死んだ――と言っていた。つまり大公は、性的に不能だった、ということだ。
(信じられん。星の数ほど愛妾がいるのではなかったのか――?)
男が絶頂して射精する瞬間も、初めて見る、という顔をしていた。つまり――。
(処女なのか?……だが、六年間も――?)
しかし、身体中に苛まれた傷があるというし、男性を恐れている。ラファエルが圧し掛かった時の、ジュスティーヌの恐怖の表情は、ラファエルも記憶に新しい。閨でひどい目に遭わされていたことは間違いないのだ。
(――辱めは受けても、挿入はされていないということか)
だとすればジュスティーヌは処女ということになるが、もしかしたら、大公自身のモノでなくとも、張形のようなものを挿入された可能性もある。何とも歪んでいるし、それはそれで十分に悲惨だ。要するにまともな交接は経験していないのだ。――これまで漠然と考えていた状況とは、かなり違うのだと、ラファエルは認識を改める必要があるらしい。
ラファエルは思いめぐらす。
たとえ愛のない交接であったとしても、普通はそれなりに手順を経て、最後の瞬間に至るものだ。ラファエルは娼婦相手でしか経験がないけれど、たとえ商売女であっても、ラファエルは相手に不必要な苦痛を与えるつもりはなかったし、あちらはあちらで、疑似恋愛っぽい雰囲気を盛り上げようといろいろと工夫をこらしてくれたのは、わかる。そういうのが面倒くさくて、娼館からも足が遠ざかってしまったけれど。――だが、男性としての機能を喪失し、最後の快楽を得られない場合は――。
ピシリ、と馬の鞭の鳴る音に、ラファエルは湖上祭の夜に見た、ジュスティーヌの傷だらけの背中を思い出す。
大公の歪んだ欲望をぶつけられていたジュスティーヌ。相手に苦痛を与えることで、性的な興奮――あるいはそれに近いもの――を、大公は得ていたのであろう。だがその興奮の結果として、勃起が得られないとすれば――。
大公の欲望が遂げられることはない。つまり、ジュスティーヌは毎夜、いつ果てるともない終わりのない苦痛に、耐え続けなければならなかったのだ。
ラファエルは思わずぞくりとした。
ジュスティーヌが男性を、そして夫婦の閨を恐れるのも当然だ。それなのに、ジュスティーヌは、妻として夫ラファエルを受け入れられぬ自身を責め、心を痛めている。
――あるいは、少し無理をしても最後の交接まで経験させてしまえば――。
目的地の見えない旅は辛いものだが、最後に至るべきものが見えれば、ジュスティーヌも開き直ることができるのでは、とまで考えて、ラファエルはぶんぶんと首を振る。
ただでさえ怖がっている姫に、無理を強いてどうする。それでは単に、俺がヤりたいだけではないか。
第一、たとえ欲望が高じてラファエルが暴走したとしても、愛する姫を強姦するほどは拗らせていない。
――これ以上、姫を傷つけることはあってはならない。姫は十分すぎるほど、ラファエルを受け入れようと努力を重ねているのだから。
なんとか、彼女の恐怖心を取り除くことができれば。
ラファエルは晴れ渡った青空を見上げて、ジュスティーヌの青い瞳を想った。
新ボーモン伯として、ラファエルも多くの貴族達とともに、狩りの装束に身を固め、葦毛の愛馬に跨がって参加した。女性たちも思い思いに着飾り、乗馬に興じるもの、天幕の周辺でピクニックを楽しむものと、それぞれであった。
ジュスティーヌは王妃や姉たちに囲まれて、王妃の天幕の中にいた。
天幕の中からはるかに夫を見出して、ジュスティーヌは昨夜のことを想いだし、ふと顔を赤らめる。
今朝はラファエルの顔をまともに見られなかった。未だに、ラファエルの中心に聳えていた、彼自身の手触りが忘れられない。
(あんな風になるなんて……)
以前、大公が一度だけ、ああして聳え立ったのを見たが、彼はその後すぐに泡を吹いて死んでしまった。ラファエルも死んでしまうのではと、恐怖で身が竦んだけれど、彼曰く、普段からすぐにああなると……。
ジュスティーヌはようやく、大公が薬をさまざま試してまで追い求めていたものが何であったか理解した。
(あれを目指しておられたのね……。新しいお薬をお試しになられた夜は、いっぱいいっぱい、顎が疲れるまで舐めさせられたけど、あんな風にはならなかった……)
ラファエルは何もしなくてもああなっていたし、一度果ててもすぐにまた力を取り戻していた。
しかし、アレはいったい何のために、あんな風に硬く大きくなるのかまでは、ジュスティーヌは理解できていなかった。
(――今夜、ラファエルに聞いてみてもいいものなのかしら。それとも、こういうことは口に出すべきではないのかしら……)
さっきから天幕の隅で顔を赤くしたり青くしたりしているジュスティーヌを、王妃や二人の姉たちは不思議そうに見ていた。
鹿を追って馬を走らせながら、ラファエルは心ここにあらずであった。
集中しなければいけないのはわかっているが、ジュスティーヌとの昨夜のことが、頭から消えない。
姫は男性器が勃起したところを、一度しか見たことがない――そしてその直後に大公は死んだ――と言っていた。つまり大公は、性的に不能だった、ということだ。
(信じられん。星の数ほど愛妾がいるのではなかったのか――?)
男が絶頂して射精する瞬間も、初めて見る、という顔をしていた。つまり――。
(処女なのか?……だが、六年間も――?)
しかし、身体中に苛まれた傷があるというし、男性を恐れている。ラファエルが圧し掛かった時の、ジュスティーヌの恐怖の表情は、ラファエルも記憶に新しい。閨でひどい目に遭わされていたことは間違いないのだ。
(――辱めは受けても、挿入はされていないということか)
だとすればジュスティーヌは処女ということになるが、もしかしたら、大公自身のモノでなくとも、張形のようなものを挿入された可能性もある。何とも歪んでいるし、それはそれで十分に悲惨だ。要するにまともな交接は経験していないのだ。――これまで漠然と考えていた状況とは、かなり違うのだと、ラファエルは認識を改める必要があるらしい。
ラファエルは思いめぐらす。
たとえ愛のない交接であったとしても、普通はそれなりに手順を経て、最後の瞬間に至るものだ。ラファエルは娼婦相手でしか経験がないけれど、たとえ商売女であっても、ラファエルは相手に不必要な苦痛を与えるつもりはなかったし、あちらはあちらで、疑似恋愛っぽい雰囲気を盛り上げようといろいろと工夫をこらしてくれたのは、わかる。そういうのが面倒くさくて、娼館からも足が遠ざかってしまったけれど。――だが、男性としての機能を喪失し、最後の快楽を得られない場合は――。
ピシリ、と馬の鞭の鳴る音に、ラファエルは湖上祭の夜に見た、ジュスティーヌの傷だらけの背中を思い出す。
大公の歪んだ欲望をぶつけられていたジュスティーヌ。相手に苦痛を与えることで、性的な興奮――あるいはそれに近いもの――を、大公は得ていたのであろう。だがその興奮の結果として、勃起が得られないとすれば――。
大公の欲望が遂げられることはない。つまり、ジュスティーヌは毎夜、いつ果てるともない終わりのない苦痛に、耐え続けなければならなかったのだ。
ラファエルは思わずぞくりとした。
ジュスティーヌが男性を、そして夫婦の閨を恐れるのも当然だ。それなのに、ジュスティーヌは、妻として夫ラファエルを受け入れられぬ自身を責め、心を痛めている。
――あるいは、少し無理をしても最後の交接まで経験させてしまえば――。
目的地の見えない旅は辛いものだが、最後に至るべきものが見えれば、ジュスティーヌも開き直ることができるのでは、とまで考えて、ラファエルはぶんぶんと首を振る。
ただでさえ怖がっている姫に、無理を強いてどうする。それでは単に、俺がヤりたいだけではないか。
第一、たとえ欲望が高じてラファエルが暴走したとしても、愛する姫を強姦するほどは拗らせていない。
――これ以上、姫を傷つけることはあってはならない。姫は十分すぎるほど、ラファエルを受け入れようと努力を重ねているのだから。
なんとか、彼女の恐怖心を取り除くことができれば。
ラファエルは晴れ渡った青空を見上げて、ジュスティーヌの青い瞳を想った。
48
お気に入りに追加
1,077
あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる