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61、真相*

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 紗幕に囲まれた寝台の上で、ジュスティーヌの目に裸体をさらして、ラファエルは異様な興奮を感じていた。ジュスティーヌの視線が、脚の間から屹立する彼の赤黒い分身に釘付けになり、驚きに目を瞠っている。まじまじと見つめられて、それだけで彼の欲望はさらに膨れ上がり、先走りの汁まで零してテラテラと怪しく光っている。

 思わず、息が荒くなる。見られている。あの人が、見ている。俺の――俺の欲望を。

「そんなに、珍しいですか? そんな風に見つめられると、ドキドキします」

 ラファエルが欲情に掠れた声で言えば、ジュスティーヌははっとしてラファエルの顔を見た。

「す、すみません……その、びっくりして……」
「珍しくはないでしょう?――もちろん、あなたは自分の手でこれを慰める場面を目にするのは、初めてかもしれませんが」

 ラファエルが皮肉っぽく笑う。余裕のある風を装ってはいるが、実はいろいろと限界に近い。このまま何もしなくても、ジュスティーヌの視線だけでイってしまうんじゃないかとさえ、思った。

 ジュスティーヌは一度視線を逸らしたものの、恐る恐るもう一度それを見ると、勇気を振り絞って尋ねる。

「それは……薬を飲んでそうなったわけではなくて?」
「は?」

 ラファエルが、それこそ人生最大限に大きく目を見開いて聞き返す。

「薬?……何の、薬です?」
「その……そういう薬。あの人は、いろんな薬を試して……でも、どんな薬を飲んでも、上手くいかなかったらしくて……でも最後に、遍歴の薬師の薬を飲んだら、そんな風に……一度だけ。でもその後、突然、口から泡を吹いて死んでしまって……」

 そこまで言って、ジュスティーヌがはっとしてラファエルの裸の胸に突進し、その胸に張り付くようにして、耳を当てる。いきなり胸元に飛び込んで来たジュスティーヌに、ラファエルはぎょっとして身体を固くする。

「苦しくはないですか? 突然、心臓が止まってしまったりは……」
「な、なにをおっしゃって……いったい……」

 今までにないほどの至近距離から見上げてくる、ジュスティーヌの両目は涙で潤んでいる。本気で心配している顔だ。

「ちょ、ちょっと待ってください、それは……」
「本当に、変な薬を飲んだせいではないのですよね?」
「当たり前です! 何で薬なんて……」

 そう言いかけて、ラファエルははっとする。思わず、ジュスティーヌの細い二の腕を両手で掴んでいた。

「……それは、あなたの夫の……大公が、そうだったのですか?」

 ジュスティーヌが涙で潤んだ両目を瞬いて、頷く。

「それまで、どんな薬を飲んでも、そんな風にはならなくて、いつも、イライラとされていました。でもあの夜は――ちょうど、そんな風になって……初めて、見ました。それで、ようやくわたくしを手に入れられるとおっしゃって……でも、わたくしの上に覆い被さったまま、動かなくなって……目が……白目を剥いて、口からは泡を……」

 ガタガタと震え始めたジュスティーヌを見て、ラファエルはまずいと思い、思わず抱きしめる。――もしかしたら逆効果かもしれないけれど、ラファエルは他にどうするべきかわからなかった。

「――心の臓が止まっていたんです。……オリアーヌ様が、わたくしが毒を盛ったのではないかと疑われて……でも、わたくしは薬には一切……」

 オリアーヌとは、隣国の宮廷を我が物顔に牛耳っていた、大公の愛妾の名だ。ジュスティーヌの瞳から、大粒の涙が流れ落ちる。

「でもわたくし、ホッとして……やっと、やっと終わるんだと……」
「姫……」
「人が、死んだのに。夫が……なのに、わたくしは悲しむよりも、ただホッとして……もう、あんな目に遭わなくていいんだって……やっと、恐ろしい夜は終わるんだと……」

 両手で顔を覆って泣き始めたジュスティーヌを、ラファエルはただ抱きしめ、その背中を覆う長い髪を撫でる。ジュスティーヌが彼の腕を、彼の胸を振り払わないことに幾分安堵しながらも、だが頭の中はものすごい勢いで回転して、事実を整理し、真実を理解しようと無意識に努めていた。

 どんな薬を飲んでもそんな風にならない――初めて、見ました――。

 しばらく、腕の中でしゃくりあげていたジュスティーヌが、ようやく落ち着き、全裸の男に抱きしめられている現実に気づいて身を捩る。

「あ、あの――」
「ああ、すみません、つい――」

 ラファエルが慌てて身体を離すと、ジュスティーヌはほっとしたように息をつく。頬はまだ涙で濡れていた。

「落ち着きましたか?」
「だい、じょうぶ……です――」

 羞恥で目を伏せたジュスティーヌの目線に、まだ立ち上がったままのラファエルの肉茎が捕らえられ、一瞬、目を見開く。

「その、本当に死んだりはなさらない?」
「勃起しただけで死んだりしたら、今までに何度死なねばならないでしょう」
「それは……薬を飲んだりしなくても、そんな風になるのですか?」
「ええ。あなたのことを考えたり、あなたに触れたりすると……」

 その返答に、困ったように視線を泳がせる。ラファエルは意を決して尋ねる。

「その――大公は、そんな風にはならなかったのですか?」
 
 コクリ、と頷く。

「もっと小さくて……そんな風に立ち上がったりはしませんでした」
「……勃起しなかったなんて……」

 ラファエルが茫然と呟く。

「では、あなたとはいったいどうやって……」

 そこまで口にして、ラファエルは気づく。
 ――ようやく、わたくしを手に入れられると――。

 ラファエルが瞳を見開く。もしかして――。

「まさか、あなたは、まだ――」
 
 だがジュスティーヌは不思議そうに、ラファエルの勃起した肉茎を見つめているだけだ。矯めつ眇めつして、いろんな方向から観察している。

「あの時は恐ろしくてよく見れなかったのです。――その、触っても?」
「!!」

 ラファエルがびっくりして息を飲む。

「い、いえ、いいのです。ごめんなさい」

 そう言うと、ジュスティーヌはラファエルの側をするりと離れて、少し遠くからラファエルの全身を見つめている。それはそれで、何とも言えない羞恥を煽られて、ラファエルはごくりと生唾を飲み込む。

「ごめんなさい、中断させてしまって。続きを……どうぞ続きをなさってください」
「続き?」
「ご自分で処理なさるのですよね? それを、わたくしに見せてくださると……」

 今、この状態で! ものすごい重要な真実がわかりかけた状態で、俺に自慰をしろと――?
 妙に期待の籠った眼差しに見つめられて、ラファエルは絶望と興奮が一挙に襲ってきて、この夜何度めになるかわらかない、生唾を飲み込んだ。
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