61 / 86
61、真相*
しおりを挟む
紗幕に囲まれた寝台の上で、ジュスティーヌの目に裸体をさらして、ラファエルは異様な興奮を感じていた。ジュスティーヌの視線が、脚の間から屹立する彼の赤黒い分身に釘付けになり、驚きに目を瞠っている。まじまじと見つめられて、それだけで彼の欲望はさらに膨れ上がり、先走りの汁まで零してテラテラと怪しく光っている。
思わず、息が荒くなる。見られている。あの人が、見ている。俺の――俺の欲望を。
「そんなに、珍しいですか? そんな風に見つめられると、ドキドキします」
ラファエルが欲情に掠れた声で言えば、ジュスティーヌははっとしてラファエルの顔を見た。
「す、すみません……その、びっくりして……」
「珍しくはないでしょう?――もちろん、あなたは自分の手でこれを慰める場面を目にするのは、初めてかもしれませんが」
ラファエルが皮肉っぽく笑う。余裕のある風を装ってはいるが、実はいろいろと限界に近い。このまま何もしなくても、ジュスティーヌの視線だけでイってしまうんじゃないかとさえ、思った。
ジュスティーヌは一度視線を逸らしたものの、恐る恐るもう一度それを見ると、勇気を振り絞って尋ねる。
「それは……薬を飲んでそうなったわけではなくて?」
「は?」
ラファエルが、それこそ人生最大限に大きく目を見開いて聞き返す。
「薬?……何の、薬です?」
「その……そういう薬。あの人は、いろんな薬を試して……でも、どんな薬を飲んでも、上手くいかなかったらしくて……でも最後に、遍歴の薬師の薬を飲んだら、そんな風に……一度だけ。でもその後、突然、口から泡を吹いて死んでしまって……」
そこまで言って、ジュスティーヌがはっとしてラファエルの裸の胸に突進し、その胸に張り付くようにして、耳を当てる。いきなり胸元に飛び込んで来たジュスティーヌに、ラファエルはぎょっとして身体を固くする。
「苦しくはないですか? 突然、心臓が止まってしまったりは……」
「な、なにをおっしゃって……いったい……」
今までにないほどの至近距離から見上げてくる、ジュスティーヌの両目は涙で潤んでいる。本気で心配している顔だ。
「ちょ、ちょっと待ってください、それは……」
「本当に、変な薬を飲んだせいではないのですよね?」
「当たり前です! 何で薬なんて……」
そう言いかけて、ラファエルははっとする。思わず、ジュスティーヌの細い二の腕を両手で掴んでいた。
「……それは、あなたの夫の……大公が、そうだったのですか?」
ジュスティーヌが涙で潤んだ両目を瞬いて、頷く。
「それまで、どんな薬を飲んでも、そんな風にはならなくて、いつも、イライラとされていました。でもあの夜は――ちょうど、そんな風になって……初めて、見ました。それで、ようやくわたくしを手に入れられるとおっしゃって……でも、わたくしの上に覆い被さったまま、動かなくなって……目が……白目を剥いて、口からは泡を……」
ガタガタと震え始めたジュスティーヌを見て、ラファエルはまずいと思い、思わず抱きしめる。――もしかしたら逆効果かもしれないけれど、ラファエルは他にどうするべきかわからなかった。
「――心の臓が止まっていたんです。……オリアーヌ様が、わたくしが毒を盛ったのではないかと疑われて……でも、わたくしは薬には一切……」
オリアーヌとは、隣国の宮廷を我が物顔に牛耳っていた、大公の愛妾の名だ。ジュスティーヌの瞳から、大粒の涙が流れ落ちる。
「でもわたくし、ホッとして……やっと、やっと終わるんだと……」
「姫……」
「人が、死んだのに。夫が……なのに、わたくしは悲しむよりも、ただホッとして……もう、あんな目に遭わなくていいんだって……やっと、恐ろしい夜は終わるんだと……」
両手で顔を覆って泣き始めたジュスティーヌを、ラファエルはただ抱きしめ、その背中を覆う長い髪を撫でる。ジュスティーヌが彼の腕を、彼の胸を振り払わないことに幾分安堵しながらも、だが頭の中はものすごい勢いで回転して、事実を整理し、真実を理解しようと無意識に努めていた。
どんな薬を飲んでもそんな風にならない――初めて、見ました――。
しばらく、腕の中でしゃくりあげていたジュスティーヌが、ようやく落ち着き、全裸の男に抱きしめられている現実に気づいて身を捩る。
「あ、あの――」
「ああ、すみません、つい――」
ラファエルが慌てて身体を離すと、ジュスティーヌはほっとしたように息をつく。頬はまだ涙で濡れていた。
「落ち着きましたか?」
「だい、じょうぶ……です――」
羞恥で目を伏せたジュスティーヌの目線に、まだ立ち上がったままのラファエルの肉茎が捕らえられ、一瞬、目を見開く。
「その、本当に死んだりはなさらない?」
「勃起しただけで死んだりしたら、今までに何度死なねばならないでしょう」
「それは……薬を飲んだりしなくても、そんな風になるのですか?」
「ええ。あなたのことを考えたり、あなたに触れたりすると……」
その返答に、困ったように視線を泳がせる。ラファエルは意を決して尋ねる。
「その――大公は、そんな風にはならなかったのですか?」
コクリ、と頷く。
「もっと小さくて……そんな風に立ち上がったりはしませんでした」
「……勃起しなかったなんて……」
ラファエルが茫然と呟く。
「では、あなたとはいったいどうやって……」
そこまで口にして、ラファエルは気づく。
――ようやく、わたくしを手に入れられると――。
ラファエルが瞳を見開く。もしかして――。
「まさか、あなたは、まだ――」
だがジュスティーヌは不思議そうに、ラファエルの勃起した肉茎を見つめているだけだ。矯めつ眇めつして、いろんな方向から観察している。
「あの時は恐ろしくてよく見れなかったのです。――その、触っても?」
「!!」
ラファエルがびっくりして息を飲む。
「い、いえ、いいのです。ごめんなさい」
そう言うと、ジュスティーヌはラファエルの側をするりと離れて、少し遠くからラファエルの全身を見つめている。それはそれで、何とも言えない羞恥を煽られて、ラファエルはごくりと生唾を飲み込む。
「ごめんなさい、中断させてしまって。続きを……どうぞ続きをなさってください」
「続き?」
「ご自分で処理なさるのですよね? それを、わたくしに見せてくださると……」
今、この状態で! ものすごい重要な真実がわかりかけた状態で、俺に自慰をしろと――?
妙に期待の籠った眼差しに見つめられて、ラファエルは絶望と興奮が一挙に襲ってきて、この夜何度めになるかわらかない、生唾を飲み込んだ。
思わず、息が荒くなる。見られている。あの人が、見ている。俺の――俺の欲望を。
「そんなに、珍しいですか? そんな風に見つめられると、ドキドキします」
ラファエルが欲情に掠れた声で言えば、ジュスティーヌははっとしてラファエルの顔を見た。
「す、すみません……その、びっくりして……」
「珍しくはないでしょう?――もちろん、あなたは自分の手でこれを慰める場面を目にするのは、初めてかもしれませんが」
ラファエルが皮肉っぽく笑う。余裕のある風を装ってはいるが、実はいろいろと限界に近い。このまま何もしなくても、ジュスティーヌの視線だけでイってしまうんじゃないかとさえ、思った。
ジュスティーヌは一度視線を逸らしたものの、恐る恐るもう一度それを見ると、勇気を振り絞って尋ねる。
「それは……薬を飲んでそうなったわけではなくて?」
「は?」
ラファエルが、それこそ人生最大限に大きく目を見開いて聞き返す。
「薬?……何の、薬です?」
「その……そういう薬。あの人は、いろんな薬を試して……でも、どんな薬を飲んでも、上手くいかなかったらしくて……でも最後に、遍歴の薬師の薬を飲んだら、そんな風に……一度だけ。でもその後、突然、口から泡を吹いて死んでしまって……」
そこまで言って、ジュスティーヌがはっとしてラファエルの裸の胸に突進し、その胸に張り付くようにして、耳を当てる。いきなり胸元に飛び込んで来たジュスティーヌに、ラファエルはぎょっとして身体を固くする。
「苦しくはないですか? 突然、心臓が止まってしまったりは……」
「な、なにをおっしゃって……いったい……」
今までにないほどの至近距離から見上げてくる、ジュスティーヌの両目は涙で潤んでいる。本気で心配している顔だ。
「ちょ、ちょっと待ってください、それは……」
「本当に、変な薬を飲んだせいではないのですよね?」
「当たり前です! 何で薬なんて……」
そう言いかけて、ラファエルははっとする。思わず、ジュスティーヌの細い二の腕を両手で掴んでいた。
「……それは、あなたの夫の……大公が、そうだったのですか?」
ジュスティーヌが涙で潤んだ両目を瞬いて、頷く。
「それまで、どんな薬を飲んでも、そんな風にはならなくて、いつも、イライラとされていました。でもあの夜は――ちょうど、そんな風になって……初めて、見ました。それで、ようやくわたくしを手に入れられるとおっしゃって……でも、わたくしの上に覆い被さったまま、動かなくなって……目が……白目を剥いて、口からは泡を……」
ガタガタと震え始めたジュスティーヌを見て、ラファエルはまずいと思い、思わず抱きしめる。――もしかしたら逆効果かもしれないけれど、ラファエルは他にどうするべきかわからなかった。
「――心の臓が止まっていたんです。……オリアーヌ様が、わたくしが毒を盛ったのではないかと疑われて……でも、わたくしは薬には一切……」
オリアーヌとは、隣国の宮廷を我が物顔に牛耳っていた、大公の愛妾の名だ。ジュスティーヌの瞳から、大粒の涙が流れ落ちる。
「でもわたくし、ホッとして……やっと、やっと終わるんだと……」
「姫……」
「人が、死んだのに。夫が……なのに、わたくしは悲しむよりも、ただホッとして……もう、あんな目に遭わなくていいんだって……やっと、恐ろしい夜は終わるんだと……」
両手で顔を覆って泣き始めたジュスティーヌを、ラファエルはただ抱きしめ、その背中を覆う長い髪を撫でる。ジュスティーヌが彼の腕を、彼の胸を振り払わないことに幾分安堵しながらも、だが頭の中はものすごい勢いで回転して、事実を整理し、真実を理解しようと無意識に努めていた。
どんな薬を飲んでもそんな風にならない――初めて、見ました――。
しばらく、腕の中でしゃくりあげていたジュスティーヌが、ようやく落ち着き、全裸の男に抱きしめられている現実に気づいて身を捩る。
「あ、あの――」
「ああ、すみません、つい――」
ラファエルが慌てて身体を離すと、ジュスティーヌはほっとしたように息をつく。頬はまだ涙で濡れていた。
「落ち着きましたか?」
「だい、じょうぶ……です――」
羞恥で目を伏せたジュスティーヌの目線に、まだ立ち上がったままのラファエルの肉茎が捕らえられ、一瞬、目を見開く。
「その、本当に死んだりはなさらない?」
「勃起しただけで死んだりしたら、今までに何度死なねばならないでしょう」
「それは……薬を飲んだりしなくても、そんな風になるのですか?」
「ええ。あなたのことを考えたり、あなたに触れたりすると……」
その返答に、困ったように視線を泳がせる。ラファエルは意を決して尋ねる。
「その――大公は、そんな風にはならなかったのですか?」
コクリ、と頷く。
「もっと小さくて……そんな風に立ち上がったりはしませんでした」
「……勃起しなかったなんて……」
ラファエルが茫然と呟く。
「では、あなたとはいったいどうやって……」
そこまで口にして、ラファエルは気づく。
――ようやく、わたくしを手に入れられると――。
ラファエルが瞳を見開く。もしかして――。
「まさか、あなたは、まだ――」
だがジュスティーヌは不思議そうに、ラファエルの勃起した肉茎を見つめているだけだ。矯めつ眇めつして、いろんな方向から観察している。
「あの時は恐ろしくてよく見れなかったのです。――その、触っても?」
「!!」
ラファエルがびっくりして息を飲む。
「い、いえ、いいのです。ごめんなさい」
そう言うと、ジュスティーヌはラファエルの側をするりと離れて、少し遠くからラファエルの全身を見つめている。それはそれで、何とも言えない羞恥を煽られて、ラファエルはごくりと生唾を飲み込む。
「ごめんなさい、中断させてしまって。続きを……どうぞ続きをなさってください」
「続き?」
「ご自分で処理なさるのですよね? それを、わたくしに見せてくださると……」
今、この状態で! ものすごい重要な真実がわかりかけた状態で、俺に自慰をしろと――?
妙に期待の籠った眼差しに見つめられて、ラファエルは絶望と興奮が一挙に襲ってきて、この夜何度めになるかわらかない、生唾を飲み込んだ。
53
お気に入りに追加
1,078
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる