【R18】陰陽の聖婚 Ⅳ:永遠への回帰

無憂

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12、女王の寝室

王城の侍女たち

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 女王とその夫君である皇帝の居間の周辺では、もとから王城に仕えていた侍女、女官らと、女王アデライードが連れてきた侍女――つまり、リリアとアンジェリカだ――との間にピリピリした緊張感が漲っていた。

 王城の女官は全員、曲がりなりにも貴族出である。けして裕福とは言えない貴族家の娘が、賃金と箔づけ目的で出仕することが多く、それ故に平民を何かと見下して、自らの無駄な矜持を維持していた。侍女は平民だが、全員が生粋のナキアっ子。二千年の女王の都は、地方出身者を田舎者と蔑む気風が殊の外強い。ソリスティアなんて辺境の街の、さらに平民の小娘が、女王のお世話を独占するなんて生意気なと、思っているのを隠そうともしない。

 対するリリアとアンジェリカは商人の街ソリスティアで育ち、貴族何するものぞ、と思っている。アデライードとは強い信頼関係を築いている自信もあり、一見無表情なアデライードのわずかな仕草から、彼女がこの城にもナキアにも、けしていい印象を抱いていないのを、二人の侍女はとっくに見抜いていた。なにせこの城の奴らは、辺境伯の令嬢であるアデライードのことも、内心では田舎者だと馬鹿にしているのだから。

 加えて、皇帝の近侍である宦官たちの存在が、王城の女官や侍女の神経を逆撫でする。男でも女でもない、一見少年にしか見えない彼らは、一分の隙もなく皇帝(そして女王)の周囲を取り巻き、透明な障壁バリケードを築いて、王城の侍女たちが女王夫妻に近づくのをはばんでいた。

 初日の夜、女王夫妻が食事を終え、寝室に入ったタイミングで、主席らしいまだ若い宦官が、配下の宦官たちと女王直属の侍女二人を従え、もとから王城に仕える女官長補佐――女官長はイフリート派の貴族の出身で、落城前に脱出して行方が知れない――以下、女官、侍女らを呼び出した。

万歳爺わんすいいえ……つまり皇帝陛下より太監たいかんに任ぜられております、シャオトーズと申します。以後、陛下の寝室及びその日々の私生活プライベートのお世話に関しては、私が最高責任者です。これは王城の従来の序列を越えたものとお考え下さい」

 大人しそうな見かけと違う厳しさで宣言され、女官長補佐のケイトリンは思わず背筋を伸ばす。この女はナキア陥落の折りに、怯える女官、侍女を引き連れて塔に籠っただけあって、責任感の強い姐御肌であった。生来の負けん気がむくむくと頭をもたげ、はしばみ色の瞳でキッとシャオトーズを見返す。

「勝手なことを! 皇帝だか何だか知りませんが、ここは女王陛下のお居間です! 陛下のことはわたくしたちが……!」
「魔力耐性のない女性にとっては、陛下のお側に寄ることは命にかかわります。西こちらでは爵位があっても平民と変わらない程度の魔力しかない者が多いと聞いております。魔力耐性のあることが確認できている者以外は、両陛下の寝室、浴室周辺には寄せるわけにはまいりません」
「命って……」

 初耳であった。

「見かけは人と同じでも、陛下は紛れもなく龍種であらせられる。陛下の精は平民の女性には猛毒です。それ故に我ら、陰陽の両界に立つ者がお仕えしているのです。廉郡王、詒郡王の両殿下も宦官や獣人を従えておられるのは、そのせいです」

 占領当初、二人の皇子が女漁りをするのでは、と女官たちは恐れおののいていたが、現在に至るまで、女性が被害に遭うようなことはない。二皇子は獣人奴隷を何人も連れ込んで、夜な夜な乱交に及んでいるとの噂で、獣人にしか反応しない変態なのかと、ケイトリンは軽蔑していた。皇族の精が平民の女には毒だなんて、初めて知った。

「両陛下の寝具、衣類等の交換、洗濯に関しては、すべて我らが責任を持ちます。その他、部屋の調度類に関しては、あなた方の方が心得ているでしょうから。――ですが、あのカーテンの色はいただけません。部屋の調和を乱している。明日にも交換してください」
「それは……今、探しているのですが、ナキアも物資が不足で……」
「女王がこちらに向かっているという、情報は得ていたのでしょう?それにも関わらずお部屋を整えていなかったというのは、女王陛下に対する忠誠を疑わざるを得ません。以後、きちんとわきまえられることを期待します」

 ケイトリンは悔しくて唇を噛む。王城付きの女官や侍女は、要は結婚までの腰掛けの職だ。とくにこの十年は女王も不在。アルベラ王女とイフリート公爵の住まうエリアは、イフリート家の息のかかった侍女たちが押さえていて、女王の棟はただ定員を充たすのみで、碌に仕事もない状態であった。女王の居間も掃除はしていたけれど、絨毯やカーテンに不具合が出ていることに気づくのが遅れたのだ。
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