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序章
永遠への回帰
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男は、カリゲニアをまじまじと眺めた。
「つまり、そなたを取り巻くその銀色の光は、〈王気〉か」
「おぬし、これが視えるのか」
イフリートと名乗った男は頷く。
「遠目にもすぐにわかったが、初めて視た故、自信がなかった」
それから、男は言った。
「そうか、そなたは龍種ゆえ、この聖なる地に辿り着き得たのだな」
「いかにもわたしは銀の龍種だが――それと、この地に関係が?」
男はカリゲニアをまっすぐに見て、言う。
「ここは〈時の泉〉だ。――かつて、太陽の龍騎士と、月の精靈ディアーヌが傷を癒し、契った場所だ」
カリゲニアは目を見開く。その瞳が、月光を反射して煌めいた。
「ここが?――まさか、〈時の泉〉は、聖地の霊峰プルミンテルンの下にあると聞いている」
「その場所は写しだ。本当の〈時の泉〉は、ここだ」
カリゲニアは驚いて、周囲を見回す。
「この環状列石は、太陽の光を正しく中央の泉に導くために立っている。泉自体が日時計となって時を刻むのだ。故に、〈時の泉〉と称し、太古からの聖地として崇められている。――今では、我ら一族の者しか、足を運ぶことはないがな」
「そうなのか――」
カリゲニアは茫然と、泉と、それを取り囲む巨石の組石と、そして天空に輝く月を見比べる。
「珍しい偶然もあるものだ――」
月を見上げて呟いたカリゲニアに、イフリートが言う。
「そんなわけがあるか。これは、偶然ではない」
カリゲニアがはっとして男を見る。男は、まっすぐにカリゲニアを見つめている。
「聖なる泉に、そなたが来た。傷つき、命の危機を乗り越えて。――満月の、夜に。それに今日は知っているか? 秋分だ。昼と夜の時間が等しい、特別な日だ。これが、偶然のわけがあるまい」
「偶然でないとしたら、何なのだ」
「運命だ。――はるか、太古より定められた、この世界の――」
男の腕がカリゲニアの細い腕をつかむ。男の身体がカリゲニアに近づいてくる。
なぜかわからないが、カリゲニアは恐ろしさを感じなかった。
そう、これは運命。
世界は変転し、巡る。
変奏を繰り返しながら、一つの収束へと向かい、また始まる。
常に、永遠に向かって、回帰する――。
「つまり、そなたを取り巻くその銀色の光は、〈王気〉か」
「おぬし、これが視えるのか」
イフリートと名乗った男は頷く。
「遠目にもすぐにわかったが、初めて視た故、自信がなかった」
それから、男は言った。
「そうか、そなたは龍種ゆえ、この聖なる地に辿り着き得たのだな」
「いかにもわたしは銀の龍種だが――それと、この地に関係が?」
男はカリゲニアをまっすぐに見て、言う。
「ここは〈時の泉〉だ。――かつて、太陽の龍騎士と、月の精靈ディアーヌが傷を癒し、契った場所だ」
カリゲニアは目を見開く。その瞳が、月光を反射して煌めいた。
「ここが?――まさか、〈時の泉〉は、聖地の霊峰プルミンテルンの下にあると聞いている」
「その場所は写しだ。本当の〈時の泉〉は、ここだ」
カリゲニアは驚いて、周囲を見回す。
「この環状列石は、太陽の光を正しく中央の泉に導くために立っている。泉自体が日時計となって時を刻むのだ。故に、〈時の泉〉と称し、太古からの聖地として崇められている。――今では、我ら一族の者しか、足を運ぶことはないがな」
「そうなのか――」
カリゲニアは茫然と、泉と、それを取り囲む巨石の組石と、そして天空に輝く月を見比べる。
「珍しい偶然もあるものだ――」
月を見上げて呟いたカリゲニアに、イフリートが言う。
「そんなわけがあるか。これは、偶然ではない」
カリゲニアがはっとして男を見る。男は、まっすぐにカリゲニアを見つめている。
「聖なる泉に、そなたが来た。傷つき、命の危機を乗り越えて。――満月の、夜に。それに今日は知っているか? 秋分だ。昼と夜の時間が等しい、特別な日だ。これが、偶然のわけがあるまい」
「偶然でないとしたら、何なのだ」
「運命だ。――はるか、太古より定められた、この世界の――」
男の腕がカリゲニアの細い腕をつかむ。男の身体がカリゲニアに近づいてくる。
なぜかわからないが、カリゲニアは恐ろしさを感じなかった。
そう、これは運命。
世界は変転し、巡る。
変奏を繰り返しながら、一つの収束へと向かい、また始まる。
常に、永遠に向かって、回帰する――。
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