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三十五、催淫香(皇帝視点)*

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「ふっ……んっ……んあっ、あっ……ああっ……」
 
 俺は詩阿の片足を欄干に乗せるように広げて、猛った熱杭を深々と突き入れ、熱に浮かされるように腰を突き上げた。詩阿の白い手が縋るように柵を握りしめ、快楽から逃れようと黒髪を振り乱して。互いに一糸纏わぬ姿で、俺が腰を打ちつければ二つの胸が揺れて、赤く色づいた先端が俺を誘っている。肌のぶつかる音と、詩阿の中の鈴がリン、リン響く。ずくん、と一際奥を抉れば、詩阿が大きな胸を反らし、悲鳴を上げた。

「あああっ……あーーーッ」

 ぶわりと蜜が溢れ、膣が痙攣する。リリン、リリ……凄まじい締め付けに、俺の限界も近い。だが、ギリギリで奥歯を噛みしめ、射精感を堪え、弾力のある尻を掴み、指先にぐっと力をこめる。

「あっ……あっ……ああっ……」

 快楽に耐えるように詩阿が顔を振る。汗ばんだ額に前髪が張り付き、その隙間から淫楽に潤んだ目が、俺を見た。

「もう……許して……」
「詩阿……愛してる……そなたは……俺を……」
「ああっ……好きっ……愛してるッ……だからもうッ……これ以上は、おか、おかしくなっちゃ……」
「おかしくなれ……俺だけを見て、俺だけを求めろ……詩阿ッ……」

 俺は腰の動きを速める。鈴の音が鳴り響き、詩阿が全身を硬直させてさらに絶頂した。

「ああっ、あっ、ああーーーーーっ、あーーーーーーーーーっ………」

 全身をガクガクと震わせながら快楽の淵に溺れていく詩阿をさらに責めたてれば、詩阿はついに意識を飛ばしたらしい。柵を掴んでいた手が力を失い、がくりと垂れ下がる。

「詩阿……まだだ……詩阿……」
「はっ……ふっ……あ……」
 
 焦点の合わない目で虚空を見上げる詩阿をさらに揺すぶって、俺はその中にすべてを吐き出す。
 これが、実を結んでくれれば――詩阿が皇子を生んでくれさえすれば、詩阿の立場も守られ、俺は他の女を抱かずに済む。

 ――まあ、詩阿が生めなくとも、詩阿の立場が悪くなるようなことは、俺が許しはしないが――

 俺は詩阿の両腕を自分の首に回して縋らせると、詩阿を抱き上げて唇を塞ぐ。
 まだ呼吸の整わない詩阿が、苦しそうに首を振るので、仕方なく唇を解放した。

 詩阿の肩越しに見下ろす太液池と、壮麗な宮殿の瑠璃瓦。
 すでに陽が沈み、西の空は夕焼けに染まり、東からは藍色の夜が近づいている。
 暗くて見えないが、南側には京師の街が広がっているはずだ。
 
 我が父祖が武力で切り取り、守り伝えてきた天下。その中心に栄える、百万の民が暮らす都。
 何を犠牲にしてもこれを守らねばならないという、皇帝としての責任と、ただの男として守りたい愛しい詩阿と――かつては、その二つはともには手にすることはできないと思い込んできたが、俺はその考え方は棄てたのだ。

 詩阿を、守ろう。詩阿こそ、俺の命。俺の全て。
 詩阿を守るために、俺はこの国の天子としてのつとめを果たす。
 
「だから詩阿……俺を信じて、愛して――」
  
 俺は詩阿の耳元で囁けば、詩阿がびくりと身を震わせる。

「あ……」

 柵に押し付けられた不安定な姿勢に気づいたのか、詩阿がぎゅっと俺の肩にしがみ付いた。

「弘毅、さま……」
「詩阿、愛してる……」
「わたしも、愛しています。……でも……」
「でも?」

 何を言われるのかと俺が身構えると、詩阿は上目遣いに俺を見て、言った。

「ここ、背中痛い……」
「あ……」

 俺が慌てて詩阿を抱いたまま柵から離れると、だが、まだ繋がったままの体勢で、詩阿は自重で俺を受け入れることになり、ビクリと身体を震わせた。

「は、あ……抜いて、奥……あの、鈴が……」
「ああ……少し、待て」

 俺は詩阿を床に下ろし、そっと肉棒を抜き取る。同時に、ずるりと勉鈴が抜け落ちた。リン……
 詩阿はそれを恨めしそうな目で見る。

「さっき、嫌って言ったのに……」
「……気に入ったって言ったじゃないか」
「それは用途を知らなかったからです!」
 
 詩阿はむくれているが、俺は構わず詩阿を抱き上げ、階段を降り始めた。

「こんな格好でどこに?」
「風呂に入ろう」
「ええ?」

 詩阿が目を丸くして俺を見下ろす。 

「お風呂って?」

 それには答えず階下に降り立つと、すでに燭台が点されていた。周囲に漂う甘ったるい花の香が鼻腔を刺激する。廉が、何事もないように迎え出て頭を下げる。

「風呂に入るぞ」
「支度はできてございます」

 吹き抜けの真下の四角い池は、実は温泉なのだ。――まったくの偶然だが、掘ったら温泉が出た。冬だとやや温いが、夏ならばちょうどいい温度。見れば、水面一面に白い花びらが浮いていた。そこから香気が湯気に煽られ、一面に香っているのだ。

「この花はなんだ」
「夜来香でございます。……月下香とも申しまして、夏の夜に咲き、香りが強うございます」
「ほう……」

 別に命じたわけではないのだが、彼らなりに、俺と詩阿の蜜月を演出しようとしているらしい。……手当を弾むべきなのか?

 詩阿は俺に抱き着いたまま、珍しそうに周囲を眺め、白い花の香に盛んに小さな鼻をひくつかせている。
 ……ちょっと小動物っぽい。
 
 俺は詩阿を抱いたまま、白い花びらに埋め尽くされた温泉に足を踏み入れる。内部に向かって深くなる階段を降りて、ざぶざぶと歩いて長方形の短い辺の階段に座り、詩阿を膝の上に座らせた。真上の吹き抜けから夏の夜空が見える。

「……お風呂?」
「そう、温泉だ」
「温泉……」
驪山りざんの華清宮には温泉が湧くだろう? そこまでここから五十里くらいしか離れていない。ここで湧いても不思議はない」 
 
 下働きの奴婢が数人、わらわらと寄ってきた。俺は髪を結ったままだが、詩阿は簪も抜け落ちてすっかり解けてしまったので、一人が詩阿の髪を鼈甲のこうがいでまとめる。別の一人が詩阿と俺の肩から湯をかける。詩阿のきめ細かな肌の上を、水滴がコロコロと転がり落ちていく。その様子が、俺の欲を煽り始める。詩阿はどこかうっとりした表情で、俺の胸に凭れるようにしている。……なんというか、目がとろんと潤んで妙に色っぽい……

 ――もしかして、この花の香り、催淫効果があるのでは……

 俺は無言で手を振って奴婢たちを下がらせる。
 廉が水差しと玻璃の杯を乗せた脚付きの盆を置き、無言で下がっていく。

「弘毅……さま……? あんなに、したのに、わたし……なんだか……」
「詩阿……俺も……」

 胸に凭れかかる詩阿のうなじを支え、俺は詩阿の唇を奪う。

「ん……んん……」

 もう片方の掌で滑らかな尻を撫で、双丘のあわいから指を伸ばし、秘所を探る。
 もう湿って、水音なのか温泉なのかわからないそこをかき回せば、詩阿は我慢できないという風に顔を上げ、淡い吐息を漏らす。

「はっ……はあっ……ああっ……」
「詩阿……」
「ああっ……こんな……はしたない……お許しを……」

 詩阿は恥ずかしげに身を捩るが、俺は体を起こし、正面の胸に顔を埋める。柔肉を食み、尖った乳首を口に含み、舌で舐めしゃぶり、転がし、吸い上げ……詩阿がそれに反応して甘い声を上げるのに気をよくして、散々に弄ぶ。

「あっ……お願い、もう……きて……」

 素直に俺を求める詩阿が可愛らしくて、俺は屹立を詩阿の蜜洞に宛がい、ゆっくりと隘路を分け入った。

「あ……ああっ……」

 詩阿が快感に身を捩るたびに、水面に浮かんでいる白い花がざわめく。ぱしゃぱしゃとさざ波が揺れて、俺の上に跨がる詩阿の大きな胸が上下に揺れる。

「すごいな……詩阿……気持ちいいか?」
「は……はい、……ふっ……んんっ……気持ち、いい……弘毅、さま………気持ちいい……」

 夜来香の効果なのか、それともさっき勉鈴ミエンリンでさんざんに犯したせいなのか、詩阿はすっかり俺に堕ちて、素直に快楽を享受している。

「弘毅、さま……ああっ……ああっ……また、きちゃう……」
「また、……くか?」
「ああっ……んんっ……んあっ……」

 詩阿の腰を掴んで激しく突き上げていた俺は、直前で動きを止めた。

「あっ……ああっ……」
「詩阿……どうして欲しい? ……詩阿?」

 絶頂の直前で焦らすように腰を揺らしてやると、詩阿が潤んだ目で俺を見て、俺に囁くように言った。

「……好き、なの……だから……ずっと、好きでいて……約束、して、わたし、だけって……ああっ……」
「詩阿!?」

 俺は、詩阿にはここで絶頂を強請らせるつもりだったのに、予想外のことを言われて、一瞬、虚を突かれる。
 だが、それこそ、俺が詩阿に対してずっと求めていたことだと気づいて、すぐに詩阿をギュッと抱きしめる。

「もちろんだ。約束する、詩阿。そなただけだ……生涯、愛するのは詩阿だけ……! 詩阿ッ……」

 そう誓えば、さっきまでの余裕など一気に吹き飛び、俺は激しく腰を突き上げて詩阿も瞬くまに頂点に到る。

「ああっ……あ……ああーーーーッ」
「ううっ……詩阿ッ……」

 二人同時に達して、俺は詩阿の中に熱い飛沫を吐き出した。

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