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三十四、玲瓏*

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 玄武門から出れば、大明宮は斜向かいの位置にあるので、距離はそこまでない。
 でも、車駕で揺られる間、わたしは地獄のような時間に耐えねばならなかった。
 わずかな振動でも二つの鈴が揺れて、腰に来る。炙られたように全身が火照り、息が荒くなる。暑さのせいではなく、全身にじっとりと汗がにじむ。
 途中、車輪が小石を噛んでガクンと大きく揺れ、わたしは衝撃で軽く悲鳴をあげてしまった。微かに響く鈴の音。

「ああっ……ふっん……」

 わたしの腰を抱いていた陛下が、おかしそうに笑った。

「詩阿……そんな色っぽい声を出したら、護衛の羽林騎に聞こえるぞ」
「はっ……ふっ……」

 あまりに辛くて涙で歪んだ視界で、陛下が端麗な笑顔を見せるのを、わたしはついつい睨みつけてしまう。

「詩阿……その声、朕が食べてやろう」

 そう言ってわたしを抱き寄せると、唇を奪う。

「ふ……んん……んんーーーーッ」

 舌で咥内をかき回され、唾液を吸い上げられる。口蓋の裏を舐め上げられて、ゾクリとした刺激に思わず腰が揺れ、そうすると膣の中の二つの玉がぶつかり、さらにわたしの身体を疼かせる。身体の奥から響く鈴の音が、今、自分が身体の中から嬲られているのだと教えてくれる。

「はっ、ふっ……もう、許して……」
「大丈夫だ、もうすぐ着く。そうしたら――」

 陛下の甘い声がわたしの耳元で囁いた。

「存分に喘がせてやる」

 その声だけで、わたしの腰がズクリと疼いた。




 
 今回は陛下の避暑を兼ねた離宮行幸で公的な儀礼ではないので、車駕は正門である丹鳳門ではなく、北側の右銀台門から宮内に入った。大きな池を含む広大な内朝の、正殿として作られた紫宸殿ししんでんの裏側に車は停まる。

 その頃には、わたしは身体が疼いて疼いて、もう何も考えられなくなっていた。
 早くこの、中のものを取り出して欲しい。いや違う、そうじゃない。
 
 もっと奥まで、熱いもので充たして欲しい。早くこの疼く身体をどうにかして欲しい。早く――

 内々の行幸とは言え、それなりの数の官吏が従っている。その彼らが注目する中で、陛下は自ら、わたしを車駕から抱き下ろした。

 陛下の腕に抱かれて歩く、その揺すぶられる振動で全身が火照って燃えるよう。鈴の音が周囲にも聞こえるのではと、わたしは息を詰める。

「はぁ……」

 吐息を零すわたしに、陛下が囁く。

「後少し、耐えよ」

 こくりと頷き、わたしは陛下の肩に顔を預け、縋りつく。
 待機していた輦に同乗し、輦は北に向かう。途中、たくさんの壮麗な建物が並んでいるけれど、わたしはもう、周囲の景色を眺める余裕すらなかった。ただぎゅっと目を閉じ、陛下にしがみついて輦の振動に耐えている。

 苦しい――もう、我慢できない――

 ギュッと閉じた目じりから、熱い涙が流れ落ちる。
 陛下がわたしの額に口づけ、頬を指で撫でながら詫びた。

「すまぬ、詩阿……そこまで、苦しめるつもりはなかった。後少しだから……」
「ふっ……くっ……んんっ……」

 太液池の畔の船着き場について、陛下がわたしを抱き下ろす。ずっと抱いて歩く陛下は重くないのだろうかと心配になるけれど、自力では絶対歩けないし、他の人に抱かれるのも嫌だし、どうしようもない。
 目の前に広がる池は湖のように大きくて、周囲を緑豊かな森が取りまき、美しい橋もかかる。池の端から水上に張り出した露台もあり、煌びやかな装飾が施された画舫やかたぶねが停泊して、宦官の先導で陛下とわたしはその船に乗った。

「ふ、船に……?」
「ああ。ホラ、島が三つあるのが見えるか? 東の神仙の島にちなんで、蓬莱三山と呼ぶ。――あそこに、鳥籠を作った」
「とり、か……ご?」

 そう言えば、ウソの鳥籠は、側仕えの侍女が抱えて離宮にも運んでいるはず。今朝から、あの、変な玉のおかげで何も考えられなくて、すっかり忘れていた。

「見ろ……きっと、詩阿も気に入る」

 画舫の上で、陛下が水の彼方を指さす。三つの島の、一番大きな島の山の上に、瑠璃色の瓦と反った屋根が見えた。
 
「周囲を露台のようにして、柵を廻らした。――鳥籠に見えるように」

 ゆっくりと船が近づき、島の全景が明らかになる。船着き場から階段が続き、松の林の合間から三階だての楼閣が姿を現した。周囲を露台がめぐり、柵が取り巻いて、たしかに鳥籠のようにも見える。
 
 ――まさか、本気でわたしを閉じ込めるために?

 わたしがゴクリと唾を飲み込むと、陛下が形のよい唇の口角を少しだけあげた。

「これでもう、詩阿は朕から逃げられぬ」
「そんな……こと……」
「詩阿のすべてが欲しい。……身体だけじゃなくて、心も。朕がいなければ生きていけないように躾けてやる」
 
 だんだんと近づく緑の島を見上げながら、わたしは自分が羽をもがれた鳥になったように感じた。


 


 陛下が鳥籠と評した楼閣は、屋根の中央が四角く開いて吹き抜けになり、内部に光が降り注ぐ仕様になっていた。 
 回廊が組み合わさった、塔のような造りと言えばいいのか。

 一階の床には蓮の花模様の彩色のせんが敷き詰められ、ちょうど吹き抜けの真下に彩色煉瓦造りの泉が作られていた。泉の水に真上から射した光が反射して、あたりにチラチラと光が飛び散っている。
 白い薄絹の幕が風になびき、精緻な透かし彫りの屏風や、籐椅子や寝椅子が置かれ、窓には縦格子が嵌っている。

「……ここは?」
「ここは夏用の楼閣だな。別の島には冬用の楼閣を建てるつもりで、今はまだ設計途中だ」

 陛下はわたしを抱き上げたまま、吹き抜けの周囲を取り囲むように作られた、木製の階段を上っていく。
 ついて来ようとする廉公公レンさんに首を振って階下に止め、二人だけで三階に出ると、陛下はわたしをそっと降ろす。

「こちら側が南……あれが紫宸殿で、その奥が含元殿がんげんでんだ」

 指を指されたけれど、わたしはもう、膝がガクガクして自力では立っていられず、反射的に丹塗りの欄干に、両手で縋りつく。

「はあっ……はあっ……陛下、お願い、取って……あれ、取ってお願いッ」
「ああ、そうだった。詩阿……よく、我慢したな。いい子だ……」

 陛下はそうおっしゃると、わたしを背後から抱きしめ、耳元で囁きながら、上襦を寛げ、裙の中に手を入れて、捻り出すようにする。白い二つの胸が零れ出た。

「ああっ……だめっ、こんな、ところでっ……あああっ」

 両手で揉みしだかれ、同時に先端を指先で弄ばれて、わたしは強烈な快感でのけ反った。

「もう、こんなに尖らせて……ずっと触って欲しかったのか?」
「あっ……ちがっ……そう、じゃ、なく、て……ああっ、だめっ……あああっ」

 ずっと膣に異物を入れているせいで、普段より敏感になっている。胸を弄られてわたしは身を捩り、その結果、膣からの刺激がさらにわたしを苛んで、辛くて悲鳴を上げる。目じりから涙の粒が溢れ、視界が滲む。

「お願い、もう、苦しい……あっ……」
「ああ……すまなかった。今、楽にしてやる……」

 陛下はそういうと、わたしの裙と下裳を捲り上げる。大きな手にお尻を撫でられ、わたしは早く鈴を取ってほしくて、陛下に向けてお尻を突き出すような体勢になってしまう。

「はや、……く……お願い……」

 だが陛下の指はわたしの花びらを撫でるだけ。鈴から繋がる紐が垂れているから、それを引き抜くだけなのに。

「すごいな、ぐっずぐずだ。紐から溢れるほど滴って……甘い匂いがする……今、すぐに……」

 ずっと中に鈴を入れていたおかげで、わたしの秘所はグズグズに濡れ、紐を伝ってぽたぽたと雫が垂れるほど。
 熱いものが秘所に宛がわれるのを感じて、わたしはハッとした。違う、そうじゃなくて、取って欲しいのに!
 
「待っ……だめっ、それ……あああああ!」
「ああっ……柔らかくて……くっ……詩阿……」

 陛下の昂りが一気に突き立てられ、わたしは絶叫した。リン……と鈴の音がして、わたしの一番奥深い場所に、固いものがグリグリと当たる。快感で脳天に白い閃光が走った。

「ぁあーーーー! だめぇええ!」

 陛下の腰が打ち付けられるたびに、鈴が奥に当たり、くぐもった音を立てる。

 リン、リン、……

 規則正しく突き上げられて、わたしはもう、喘ぎ声を抑えることができない。

「ああっ、あっ、あっ、あーーーーっ、ああっ、あっ、あーーーーーっ」
「くっ……詩阿ッ……ああ、すごく悦いッ……」

 陛下がわたしの両胸を掴んで、グイッと身体を起こす。眼下に広がる湖と宮殿の瑠璃瓦の屋根が、否応なく視界に入る。涙で滲んでよくは見えないけれど、もしかして下からは丸見えなのでは……

「あっ、いやっ、だめっ、こんなっ……いやあっ……ああっ……」

 昼間っからこんな、恥ずかしい。なのに気持ちよくて身体は快感にむかって暴走していく。
 
「ああっ、奥、奥がっ……ああっ、ああーーーーーーーっ」

 とうとう絶頂して、わたしは理性も何もかも振り捨てて叫んでしまった。
 涙が溢れて頬を伝う。陛下がその頬に唇を這わせて涙の雫を吸い上げる。しばらく抽挿が続いて、やがて、陛下も達して熱い飛沫吐き出した。熱いものが、わたしの中を充たしていく。

「あっ……ああっ……」
「詩阿ッ……詩阿……愛してる……」

 絶頂の余韻で放心しているわたしの中から、陛下がずるりと抜け出ていく。すると、吐き出された精とともに、まわたしの中から鈴が滑り落ち、床に当たって玲瓏たる音を響かせた。

 
  リン……
 
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