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番外編

聖なる日曜日

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「神の愛は、いかなる罪人の上にも平等に降り注ぐのであり、我ら神の子はひとえにその愛を享受し、ただ日々神への感謝と敬虔なる祈り、純粋なる信仰を捧げ、その愛に酬いるべきで――」

 いつ果てるともなく続く牧師様のお話を聞きながら、わたしは隣で静かに揺れている夫の黒いトップハットが気がかりで、時々、さりげなく肘で突つくものの、まったく目を覚ます兆しがない。

 何せ夫は背が高いし、領主専用の席は周囲の信徒席から丸見えだ。さすがに居眠りに気づかれると、かなり強引に夫の肘を引っ張れば、夫はビクリと目を覚ました。

「えっ?」
「しーっ」
「……父と子と精霊の御名のもとに――」

 牧師様の最後の祈りの言葉とともに信徒たちが一斉に聖印を切り、わたしと夫も慌てて胸の前で手を動かす。

 夫は周囲を見回し、何事もなかったように帽子をかぶり直し、眼帯を直した。





「……本当に、いつ、帽子を落とすかと、ハラハラしましたわ」
「だって眠くって……ほら、昨日も眠れなくて……」
「誰のせいだと思って……!」

 帰りの馬車の中で、わたしが夫の居眠りを詰れば、夫は首をコキコキ回しながら言い訳をする。四月に無事、息子を出産して、四か月。わたしの体調も落ち着いて、夜の営みを再開したばかりだった。

「……だってお預けが長かったからさ……」

 夫がしみじみと言い、わたしは露骨に眉を顰めてしまう。
 たしかに、このこらえ性のない夫にしてはよく我慢したと思うけど、実際に妊娠して出産した、わたしの苦労はそれどころじゃないんだから。

 もちろん、夫は十分に労わってくれるが、それでもどこかフワフワしている。……まあ、わたしや周囲の者が内心危惧していたような、妊娠中に他の女に手を付けたりしなくて、よかったと言うべきか。

「あー、でも面倒くさいな、教会も、牧師も。今日も散々嫌味を言われたし……」

 領民たちの中で、夫の評判を最も下げていたのは、例のリンダとの一件。昨年末のアンの誘拐事件のおかげで、冤罪であったことが明らかになった。だが夫の意向もあり、リンダと医師レイフ・ニコルソンが以前から愛人関係にあった事実ははっきりさせたけれど、リンダが夫に薬を盛って関係を持とうとしたが、そちらは未遂だった、という事実は公表していない。

「メイドに薬を盛られてたなかった、なんて事実が世の中に知られたら、恥ずかしくて生きていけない。男のプライドが木っ端みじんだ。そんな情けない噂が広まるくらいなら、メイドに手を付けたクズ男と噂される方が百万倍マシ。事実はルイーズが知っていてくれれば、それでいい」

 ……ということで、公的には、医師レイフの愛人で妊娠していたリンダと、夫との関係は曖昧のままになっている。だから、村人はみな、どうせ夫はリンダにも手をつけたんだと思っているので、特に牧師さまをはじめとした敬虔な信徒の、夫への視線は冷ややかなままだ。

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