【R18】記憶喪失の僕に美人妻は冷たい

無憂

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ルイーズ2

再現

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 それから数日は何事もなく過ぎた。
 リンダには家政婦のグレイグ夫人経由で解雇を伝えたところ、あっさり納得して村に戻ったという。
 アンはリンダの不在を気にすることもないから、実の母子とはいえ特別な絆はないのかもしれない。

 ――本当はリンダを正面切って問い詰めるべきなのかもしれない。
 彼女が嘘を言っているのだとしたら。アンは本当に夫の子なのか。

 わたしは自室のソファで編み物をしながら、でもふと気づけば手は止まり、考え事に耽ってしまう。わたしは臆病で、真実を知るのが怖い。

 わたしが気が動顛して、夫に冤罪をかけたのだとしたら――

 と、コネクティング・ドアが開いて、夫が顔を出す。

「ルイーズ、ちょっと」

 呼ばれて仕方なく立ち上がる。……実はこのドアにはまだ、トラウマがある。

 夫はドアのところに立ってわたしを呼び、そこから寝室を見て言った。

「その、例の事件の時の状況を教えて欲しい」
「……え、でも――」

 本当は逃げ出したいくらい嫌だったけれど、彼はわたしの腕を掴んで引っ張り、ベッドを指さした。

「ここから、見たんだね? ちょうど時間は今ぐらい?」
「え……ええ……」

 コネクティング・ドアから見れば、部屋の中央に鎮座する、大きな四本柱の天蓋ベッドはハッキリと見える。

「僕は体調が悪いと言って寝室に引っ込み――そういうことはよくあったの?」
「え……ええ。あなたはしょっちゅう、体調が悪いと言って。食べ物が合わないのかもとか、気候のせいかもしれないと……」

 当時のわたしも周囲のものも、バークリーにいづらい言い訳だと思い、誰もまともに取り合わなかった。……きっと針の筵だったろう。
 そんなことを思い出し、逡巡するわたしに構わずに、夫はわたしの腕を掴み、ベッドに歩み寄る。

「どんな風にしてた?」
「え? どんな風って?」
「僕の顔はわかった? 僕と女がここで寝ていたんだよね?」

 思い出したくもなくて顔を背ければ、夫は靴を脱いでベッドに上る。

「ルイーズ、こっち来て」
「え……でも……きゃあ!」

 夫はわたしをベッドに引きずり込むようにして、組み敷いて上から圧し掛かって見下ろす。

「こんな感じだった?」

 至近距離に端麗な顔があって、わたしは慌てて首を振る。

「い、いいえ、違います!」
「じゃあ……こんな感じ?」

 夫は起き上がるとわたしを軽々とひっくり返し、背後から圧し掛かるような体勢になる。ちょうど、数日前の夜のような。……あの時のことを思い出し、わたしが真っ赤になる。

「ち、違います! そうじゃなくて!」
「……正常位でも後背位でもないって……」
「その……わたしが見たのはリンダの背中で……あなたの、上に……」
「まさかの騎乗位!」

 夫が片方しかない目を丸くする。

「ちょっと待って、じゃあ僕がこうなって、女は僕の上に跨っていたのか!」

 夫はゴロリとベッドに横たわり、わたしに身体の上に跨るように言う。

「そんなことできません!」
「いいから!」

 わたしは仕方なく夫の腹の上に乗る。

「もうちょっと後ろじゃないとヤれないよ」

 夫はわたしを両足の間に挟み込むようにして、下から見上げる。

「その女は服を着ていたの?」

 わたしは首を振る。

「裸で? ……そりゃあ、びっくりするね。あのドアからだと背中しか見えないだろうけど。……僕も裸だった?」

 夫はコネクティング・ドアを指さしながら淡々と尋ねるが、わたしはあの時の衝撃を思い出して気分が悪くなってきた。

「さあ、……よく覚えて……」

 口元を押さえて俯くわたしに気づき、夫が慌てて起き上がる。

「ああ、ごめん、嫌なことを思い出させてしまった。……でも、大事なことだ」

 夫はその場からドアを指さして言う。

「白昼の明るい時刻に、ドア一枚隔てた部屋で、ってのがどうにも納得いかなくて」
「でも……あなた、昼間の庭で……」

 わたしは王都のバークリー邸の迷宮ラビリンスでの情事を思い出し、真っ赤になってそっぽを向くと、夫は「ああ」と思い出したように頭を掻いた。

「でも、あれは君が奥さんだからだよ。さすがに白昼堂々、メイドとヤらないと思うがなあ……」

 夫はさらに言う。

「しかも用意万端裸になって騎乗位だなんて。その女、相当慣れてるよね。君だってまだ未体験じゃないか」
「それは……」

 夫はわたしの、まだ膨らまないお腹に大きな手を当てて、にやりと笑った。

「正常位だとお腹を潰しちゃわないように、僕は気を付けてるんだけど、騎乗位なら安心だ。……今夜試してみる? それとも、今ここで……」
「な、ちょっと……やめっ……」

 夫はわたしのうなじに手を回して、強引に唇を奪ってきて、わたしは慌てて身を捩った。その時。

 廊下につながるドアが、激しくノックされた。

「旦那様、奥様!……大変です! アンお嬢様が……!」

 普段、何事にも動じないはずのサンダースの動揺した声に、わたしたちは思わず顔を見合わせる。

「どうした、何があった」
 
 夫が声をかければ、サンダースが慌てたように駆け込んできた。

「アンお嬢様が……誘拐されました!」
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