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ユージーン
朝焼けの誓い
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明け方に僕は目を覚まし、隣にルイーズがいないことに気づき、跳ね起きた。
すでにランプは消え、カーテンの隙間からほんのり薄日の射す、ルイーズの部屋。
乱れたベッドのどこにもルイーズがいない。
「ルイーズ、どこ?」
僕は慌ててベッドから降りようとして、距離感を掴めずベッドから落ちた。
「痛てっ!」
「……旦那様……」
声がする方を見れば、窓辺のカーテンの陰に毛布を被って、ルイーズがいた。
「ルイーズ! どうしてそんなところに!」
僕が全裸のまま這うように窓辺に近づけば、ルイーズが困ったように言う。
「お怪我は?」
「落ちただけだから大丈夫。……それより、君は……」
ルイーズは目を伏せ、カーテンの向こうに視線を移す。
「……もうすぐ日の出です」
うっすら開いた窓から、見事な朝焼けが見えた。が、それよりも全裸の僕は、夜明けの冷たい空気にぶるりと震えた。
「寒い!」
「裸で出ていらっしゃるから……」
ルイーズが被っている毛布を開いて、僕を入れてくれた。
「ああ、あったかい、ルイーズ。君も裸だから欲情しそうだ」
「へ、部屋が暗くて、寝間着が見つからなかったのです! あなたがどこかに投げるから!」
ルイーズは何のかんのと言いながら優しいし、人を拒絶できないタイプなのだろう。毛布の中、裸のルイーズと二人、生まれたままの姿で寄り添い合うなんて、まるで愛し合っている夫婦みたいだ。
僕は出窓に座り、ルイーズの素肌を背後から抱きしめて一緒に毛布にくるまり、改めて夜明けを見た。
ノーザンアーツの街を取り囲むアンペール山地の、紫色の山塊の間から、金色の朝日がゆっくりと昇ってくる。金色の光が紺青の空を切り裂いて、雲が桃色に輝き、やがて地上をも照らしていく。
「……綺麗だな」
「ええ、ここからの夜明けはいつも素晴らしいのです」
朝日に照らされるルイーズの横顔はとてもきれいで、プラチナブロンドも桃色がかった金色に輝いている。僕は背後から柔らかい身体を抱きしめ、ルイーズのこめかみにキスをする。
「いつも、見てるの?」
「ええ……早くに目が覚めた時は、いつも」
「次からは僕も起こしてくれ。一緒に見よう」
ルイーズが一瞬、僕を振り返り、複雑そうな目でちらりと見てから、視線を外に戻す。
「……本当に最低だわ」
ぽつりと言われて、僕はルイーズを抱きしめる腕に力を籠める。
「昔から最低の男が、記憶がなくなったくらいで改心するわけないだろ」
「でも、ずるいです。あれだけ、わたしのことを傷つけたくせに、あっさり何もかも忘れて、わたしを頼って縋り付いてくるなんて。――わたしが、お人よしだってことに付け込んで」
全くその通りであるので、僕は反論できない。
「そうだね。……謝っても心は籠らないし、許してもらうつもりもないというか、許されなくても仕方ないって思ってるし、許さなくてもルイーズは十分、優しくしてくれるから。ルイーズの優しさに付け込んでいるのは確かだ。でも、僕はルイーズが好きだ――たぶん、昔から」
ルイーズが呆れたように僕を見て、言った。
「ほんっとうに調子のいいことばっかり言って。嘘ばっかり!」
「嘘じゃないよ。たぶん、昔から好きだったんだと思う。……そうでなければ、記憶をなくして初めて君を見た時に、あんなにアッサリ、君を好きになるはずがないから。……嫌いな人間は憶えてなくても嫌いな気分がするんだよ」
例えばあの、ヤブ医者みたいに。
しかしルイーズは盛大にため息をつく。
「そんなわけ絶対ないって百万回断言できるくらい、あなたの態度は最低でした!」
「きっと照れてたんだよ。……僕は照れ屋だから」
「ありえないわ……」
僕は昇ってくる朝日と煌めく朝焼けを見つめながら、ルイーズに誓う。
「ルイーズ、愛してる。……やり直しができないなら、今から一から始めたい。これから先は、二度と君を傷つけないと誓う」
「……もうわたしの愛は擦り切れました。今さら手遅れです」
「それでもいいよ……そばにいて」
僕が唇をルイーズの頬に滑らせると、ルイーズも僕の方を向くので、唇を合わせる。何のかんのと言いながら受け入れてくれるルイーズは、間違いなくお人よしだ。
ルイーズの僕への感情は、すでに愛ではなくただの諦めかもしれないけれど、僕はそれでもいい。
ルイーズのお情けに縋って生きていくのも、悪くないと思えるくらい、僕はルイーズが好きだから――
すでにランプは消え、カーテンの隙間からほんのり薄日の射す、ルイーズの部屋。
乱れたベッドのどこにもルイーズがいない。
「ルイーズ、どこ?」
僕は慌ててベッドから降りようとして、距離感を掴めずベッドから落ちた。
「痛てっ!」
「……旦那様……」
声がする方を見れば、窓辺のカーテンの陰に毛布を被って、ルイーズがいた。
「ルイーズ! どうしてそんなところに!」
僕が全裸のまま這うように窓辺に近づけば、ルイーズが困ったように言う。
「お怪我は?」
「落ちただけだから大丈夫。……それより、君は……」
ルイーズは目を伏せ、カーテンの向こうに視線を移す。
「……もうすぐ日の出です」
うっすら開いた窓から、見事な朝焼けが見えた。が、それよりも全裸の僕は、夜明けの冷たい空気にぶるりと震えた。
「寒い!」
「裸で出ていらっしゃるから……」
ルイーズが被っている毛布を開いて、僕を入れてくれた。
「ああ、あったかい、ルイーズ。君も裸だから欲情しそうだ」
「へ、部屋が暗くて、寝間着が見つからなかったのです! あなたがどこかに投げるから!」
ルイーズは何のかんのと言いながら優しいし、人を拒絶できないタイプなのだろう。毛布の中、裸のルイーズと二人、生まれたままの姿で寄り添い合うなんて、まるで愛し合っている夫婦みたいだ。
僕は出窓に座り、ルイーズの素肌を背後から抱きしめて一緒に毛布にくるまり、改めて夜明けを見た。
ノーザンアーツの街を取り囲むアンペール山地の、紫色の山塊の間から、金色の朝日がゆっくりと昇ってくる。金色の光が紺青の空を切り裂いて、雲が桃色に輝き、やがて地上をも照らしていく。
「……綺麗だな」
「ええ、ここからの夜明けはいつも素晴らしいのです」
朝日に照らされるルイーズの横顔はとてもきれいで、プラチナブロンドも桃色がかった金色に輝いている。僕は背後から柔らかい身体を抱きしめ、ルイーズのこめかみにキスをする。
「いつも、見てるの?」
「ええ……早くに目が覚めた時は、いつも」
「次からは僕も起こしてくれ。一緒に見よう」
ルイーズが一瞬、僕を振り返り、複雑そうな目でちらりと見てから、視線を外に戻す。
「……本当に最低だわ」
ぽつりと言われて、僕はルイーズを抱きしめる腕に力を籠める。
「昔から最低の男が、記憶がなくなったくらいで改心するわけないだろ」
「でも、ずるいです。あれだけ、わたしのことを傷つけたくせに、あっさり何もかも忘れて、わたしを頼って縋り付いてくるなんて。――わたしが、お人よしだってことに付け込んで」
全くその通りであるので、僕は反論できない。
「そうだね。……謝っても心は籠らないし、許してもらうつもりもないというか、許されなくても仕方ないって思ってるし、許さなくてもルイーズは十分、優しくしてくれるから。ルイーズの優しさに付け込んでいるのは確かだ。でも、僕はルイーズが好きだ――たぶん、昔から」
ルイーズが呆れたように僕を見て、言った。
「ほんっとうに調子のいいことばっかり言って。嘘ばっかり!」
「嘘じゃないよ。たぶん、昔から好きだったんだと思う。……そうでなければ、記憶をなくして初めて君を見た時に、あんなにアッサリ、君を好きになるはずがないから。……嫌いな人間は憶えてなくても嫌いな気分がするんだよ」
例えばあの、ヤブ医者みたいに。
しかしルイーズは盛大にため息をつく。
「そんなわけ絶対ないって百万回断言できるくらい、あなたの態度は最低でした!」
「きっと照れてたんだよ。……僕は照れ屋だから」
「ありえないわ……」
僕は昇ってくる朝日と煌めく朝焼けを見つめながら、ルイーズに誓う。
「ルイーズ、愛してる。……やり直しができないなら、今から一から始めたい。これから先は、二度と君を傷つけないと誓う」
「……もうわたしの愛は擦り切れました。今さら手遅れです」
「それでもいいよ……そばにいて」
僕が唇をルイーズの頬に滑らせると、ルイーズも僕の方を向くので、唇を合わせる。何のかんのと言いながら受け入れてくれるルイーズは、間違いなくお人よしだ。
ルイーズの僕への感情は、すでに愛ではなくただの諦めかもしれないけれど、僕はそれでもいい。
ルイーズのお情けに縋って生きていくのも、悪くないと思えるくらい、僕はルイーズが好きだから――
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