上 下
28 / 106
ユージーン

朝焼けの誓い

しおりを挟む
 明け方に僕は目を覚まし、隣にルイーズがいないことに気づき、跳ね起きた。
 すでにランプは消え、カーテンの隙間からほんのり薄日の射す、ルイーズの部屋。 
 乱れたベッドのどこにもルイーズがいない。

「ルイーズ、どこ?」

 僕は慌ててベッドから降りようとして、距離感を掴めずベッドから落ちた。

「痛てっ!」
「……旦那様……」
 
 声がする方を見れば、窓辺のカーテンの陰に毛布を被って、ルイーズがいた。

「ルイーズ! どうしてそんなところに!」

 僕が全裸のまま這うように窓辺に近づけば、ルイーズが困ったように言う。

「お怪我は?」
「落ちただけだから大丈夫。……それより、君は……」

 ルイーズは目を伏せ、カーテンの向こうに視線を移す。

「……もうすぐ日の出です」

 うっすら開いた窓から、見事な朝焼けが見えた。が、それよりも全裸の僕は、夜明けの冷たい空気にぶるりと震えた。

「寒い!」
「裸で出ていらっしゃるから……」

 ルイーズが被っている毛布を開いて、僕を入れてくれた。

「ああ、あったかい、ルイーズ。君も裸だから欲情しそうだ」
「へ、部屋が暗くて、寝間着が見つからなかったのです! あなたがどこかに投げるから!」

 ルイーズは何のかんのと言いながら優しいし、人を拒絶できないタイプなのだろう。毛布の中、裸のルイーズと二人、生まれたままの姿で寄り添い合うなんて、まるで愛し合っている夫婦みたいだ。
 僕は出窓に座り、ルイーズの素肌を背後から抱きしめて一緒に毛布にくるまり、改めて夜明けを見た。

 ノーザンアーツの街を取り囲むアンペール山地の、紫色の山塊の間から、金色の朝日がゆっくりと昇ってくる。金色の光が紺青の空を切り裂いて、雲が桃色に輝き、やがて地上をも照らしていく。

「……綺麗だな」
「ええ、ここからの夜明けはいつも素晴らしいのです」

 朝日に照らされるルイーズの横顔はとてもきれいで、プラチナブロンドも桃色がかった金色に輝いている。僕は背後から柔らかい身体を抱きしめ、ルイーズのこめかみにキスをする。

「いつも、見てるの?」
「ええ……早くに目が覚めた時は、いつも」
「次からは僕も起こしてくれ。一緒に見よう」

 ルイーズが一瞬、僕を振り返り、複雑そうな目でちらりと見てから、視線を外に戻す。

「……本当に最低だわ」

 ぽつりと言われて、僕はルイーズを抱きしめる腕に力を籠める。

「昔から最低の男が、記憶がなくなったくらいで改心するわけないだろ」
「でも、ずるいです。あれだけ、わたしのことを傷つけたくせに、あっさり何もかも忘れて、わたしを頼って縋り付いてくるなんて。――わたしが、お人よしだってことに付け込んで」

 全くその通りであるので、僕は反論できない。

「そうだね。……謝っても心は籠らないし、許してもらうつもりもないというか、許されなくても仕方ないって思ってるし、許さなくてもルイーズは十分、優しくしてくれるから。ルイーズの優しさに付け込んでいるのは確かだ。でも、僕はルイーズが好きだ――たぶん、昔から」

 ルイーズが呆れたように僕を見て、言った。

「ほんっとうに調子のいいことばっかり言って。嘘ばっかり!」
「嘘じゃないよ。たぶん、昔から好きだったんだと思う。……そうでなければ、記憶をなくして初めて君を見た時に、あんなにアッサリ、君を好きになるはずがないから。……嫌いな人間は憶えてなくても嫌いな気分がするんだよ」

 例えばあの、ヤブ医者みたいに。

 しかしルイーズは盛大にため息をつく。

「そんなわけ絶対ないって百万回断言できるくらい、あなたの態度は最低でした!」
「きっと照れてたんだよ。……僕は照れ屋だから」
「ありえないわ……」

 僕は昇ってくる朝日と煌めく朝焼けを見つめながら、ルイーズに誓う。

「ルイーズ、愛してる。……やり直しができないなら、今から一から始めたい。これから先は、二度と君を傷つけないと誓う」
「……もうわたしの愛は擦り切れました。今さら手遅れです」
「それでもいいよ……そばにいて」

 僕が唇をルイーズの頬に滑らせると、ルイーズも僕の方を向くので、唇を合わせる。何のかんのと言いながら受け入れてくれるルイーズは、間違いなくお人よしだ。

 ルイーズの僕への感情は、すでに愛ではなくただの諦めかもしれないけれど、僕はそれでもいい。


 ルイーズのお情けに縋って生きていくのも、悪くないと思えるくらい、僕はルイーズが好きだから――
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

処理中です...