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第三章
秘密の花園
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「エルスペス妃」
王太子殿下がわたしに語りかける。
「……なんと詫びていいのかわからないが――いや、詫びる権利すら、ないのかもしれないが。それでも――」
だがその王太子殿下の言葉を、国王陛下が遮った。
「謝罪でなかったことにできるなら、警察は何のためにあるのか――であったな。まったく、我々王族は罪深い。罪深すぎて、もはや法の意味すらなさず、償うことすら許されない。エルスペス。……余は、詫びたりはせぬ。詫びることも、許しを請うこともせぬ。いや、許されぬと申すべきか」
陛下はそう言い、力なく身を起こす。――アルバート殿下に瓜二つのそのお顔には深い皺が刻まれ、顔色はくすんでいた。疲労の色が全身を覆い、怠そうに見えた。体調が悪いのは本当なのだろう。
わたしは言った。
「陛下、お詫びはもう、十分です。あの、謁見の場で詫びていただきました」
その言葉に、陛下は顔を歪める。
「……そうであったな。あれは本来は許されぬ詫びだ」
「父上――」
咎めるような王太子殿下の声に、わたしは薄く微笑んだ。
「正直に申し上げれば、詫びていただいたところで、死んだ者は戻って来ません。今、わたくしは権利を取り戻すことができましたし。――アルバート殿下の、ご尽力のおかげで」
アルバート殿下が首を傾げる。
「……エルシー、いいのか、そんな寛大なことで、それでは――」
わたしは笑った。
「お詫びはもう、十分だと言っただけで、許すとは言っていません。陛下は詫びることもできないし、わたくしの方でも、これ以上詫びていただいても、すぐに許せることでもありませんし。むしろ詫びたんだからお前も許せ、水に流せと言われても困ります」
わたしの言葉に、周囲の人々は困ったような表情で顔を見合わせている。――ここは空気を読んで、「許す」と言うべき場だとはわかるけれど、王家の我が家に対する仕打ちは、簡単に許せるレベルを超えている。
「……ただ一つだけ、お願いがあります」
「余が、叶えることができる願いか?」
わたしは頷いて、言った。
「……ローズの遺体を、リンドホルムに移すことをお許しいただきたいのです。今の、王都の墓地はあまりに寂しい。リンドホルムの城か、一族と同じ教会に埋葬したいと思います」
「それは、構わぬが……」
「一言、墓石に『アルバート・レジナルドの母』と刻むのをお許しください。それ以上、王家に関わる記録は残しません。ただ、わたくしの愛する人の母として葬りたい」
そう口にした瞬間に、アルバート殿下がわたしをすごい力で抱き寄せ、抱きしめた。――息が、詰まるほど。
「エルシー……俺は……」
殿下はそれ以上は言葉を飲み込んで、それからわたしを抱き締めたまま、国王陛下に言った。
「……俺からも、お願いします、父上。教会ではなく、リンドホルムの城内の、鍵のかかる秘密の庭に埋めて、他の者が入れないようにします。ですから――」
国王陛下は身じろぎし、何か遠くを見るような目をして、しばし考えていた。そして――。
「……エルスペス。リンドホルムには、余人の立ち入らぬ、秘密の花園があるというのは、本当か?」
陛下の問いに、わたしはアルバート殿下に抱き込まれたまま、頷いた。
「ええ。ストラスシャーには壁で囲まれた庭があります。周囲を壁で覆い、入口の扉には鍵をかけることができる。リンドホルムの城にもいくつかあって、そのうちの一つが、鍵のかかる薔薇園になっています。……ローズの、秘密の花園です。ずっと寂れていたのを、子供のころのローズが見つけて、蘇らせ、薔薇の泉のような庭にしました。わたしと――」
わたしはリジーを見て、それから国王陛下を見た。
「リジーはよく、その庭で過ごしました。……三年前にリンドホルムを追い出されて、その庭は世話をする人もいなくなり、再び寂れてしまいましたが」
目を伏せたわたしを、国王陛下が感極まったような表情で、どこかこの世ならぬものを見ているようだった。
「……本当に、あったのか。ローズが、幼いアルバートに寝物語に話しているのを聞いて……」
国王陛下はしばし目を閉じ、何かを念じるような表情をして、それから、目を開けて、わたしを見た。
「……わかった、許す。ローズの亡骸は王家の者が責任をもって、リンドホルム城に届ける。約束する。墓石の刻文も認める。だが、それは結婚式の後にせよ。それ以後であれば、許す」
「ありがとうございます。陛下」
わたしが礼を言えば、陛下は軽く手を挙げて、それを振った。
「……よい。本来なら、もっと早くに余から持ちかけることであった。せめて、ローズを秘密の庭に帰してやるべきだった」
死体になってから帰してもらっても、もう何もかも遅い。でも、あの寂しい墓地に眠るよりは、うんとマシだと思ったけれど、わたしは口にはしなかった。
「それは、秘密の庭だと申しておった。……ローズと……おそらく、マックスの。後はごくごく、限られた庭師だけが足を踏み入れることが許された庭だと。余は、その庭を目にすることは叶わぬのだな」
そう言って、陛下は目を閉じて、背もたれに身体を預ける。
「……陛下、そろそろ――」
王室長官が声をかけ、陛下が頷いた。首相のエルドリッジ公爵が、最後にという形で尋ねる。
「貴族の爵位領地に関しては、女児への継承を認める法案が、おそらく近日中にも通過すると思われます。……王室の継承についての、継承法の改正については――」
半ば立ち上がろうと両手で肘掛を掴んでいた国王陛下は、もう一度座りなおし、首を振った。
「それは、余がこの世を去ってからのことにせよ。――いつか、変わるべきことであっても、焦ることではない」
「父上、実は――」
王太子殿下が言った。
「ブリジットがまた、身籠りました。……まだ、希望は捨てずにおきたいと思います」
少し恥ずかしそうに、そして誇らしそうに微笑んだブリジット妃を見て、陛下もまた、薄っすらと微笑んだ。
「……そうか、ならば大事にせよ。その子に、神の加護があることを、祈る」
国王陛下は立ちあがると、杖に縋るようにしてゆっくりと退出された。
その夜、わたしはオーランド邸の寝室で、アルバート殿下と向かいあった。
「その……すまなかった」
いきなり謝られて、わたしは首を傾げる。
「何か、謝らなければならないようなことを、なさったの?」
「いっぱいしている」
殿下は入浴後で、いつもは後ろに撫でつけて固めている黒髪も、濡れて半ば額にかかっている。普段よりも何と言うか……人と言うよりは、捨て犬に近い感じ? 叱られた時のユールみたい。
「たしかにそうですわね。何に対して謝っていらっしゃるの?」
……さっきも強引に剃られたし。それのことかしら? それとも邸に戻ってきた時、護衛のラルフ・シモンズ大尉に、何やらこそこそと耳打ちしていた件だろうか?――どうせろくでもないことに違いないけれど、それはたぶん、わたしが聞かない方がいい話だ。敢えて謝ろうとしているのは、きっと別の話。
わたしが髪をタオルで拭きながら尋ねれば、殿下はわたしの顔を下から見上げるようにして、言った。
「その……父上がもっとちゃんと謝罪するのかと……」
「ああ、そのこと」
わたしがふっと肩を竦めた。
「そんなの、端から期待していませんでしたもの。……それから、臣下が国王のために命を張るのは、ある意味当然です。父も死んだこと自体は別に、恨んでいないと思いますわ。ローズの件は別かもしれませんけれど、おじい様の借財もあったようですし。王の家臣である以上、王家の存続が一番なのは、わかります」
「……だからって、もうちょっとちゃんと謝るかと、俺は思ったんだけど」
不満そうにベッドの上で身じろぎする殿下に、わたしは微笑んだ。
「本来なら、王は間違ってはいけないのよ。……なんて言ったかしら。『王の無謬性』?」
「よく知っているな」
殿下が目を丸くする。
「お妃教育とやらで習いましたわ。気安く下々に謝ってはいけないらしいですわよ? お妃の態度が、王の権威に関わるんですって。そんな教育だから、王妃とかステファニー嬢みたいなのが出来上がるんですわ」
「……まあ、そうかもしれんな」
殿下が困ったように眉尻を下げている。そういう表情をすると、なお一層、捨て犬感が強まる。
「でもそもそも、王様が間違えない、なんてのが、間違っているんです」
「そりゃまあ、そうだな。人間、誰でも間違える」
「国王陛下、いろいろと間違えてしまわれた。ローズのことも、あなたの育て方も」
「俺の育て方ぁ?」
殿下がびっくりして、自分を指さしている。わたしは自信満々で頷く。
「いくら王妃の子として届け出たからって、虐待で自殺未遂起こすまで放置だなんて、無能に過ぎるわ。しかも、王妃から引き離すために、よりによって、わたしの父に預けるなんて。あなたの母は父の許嫁でしたのよ? 普通。あり得ないわよ。わたしたちの子供を、ステファニー嬢に預けるみたいなものよ? 非常識にもほどがあるわ」
わたしが指摘すれば、殿下は金色の目を見張って、叫んだ。
「ステファニーに?! あり得ん!」
「でしょう? 父がお人好しだったからよかったものの……」
わたしは言ってから、殿下の肩に両腕を回して尋ねた。
「で、本当は何についての謝罪なんです?」
額と額をくっつけ、至近距離で目と目を合わす。……殿下の金色の瞳には、わたしが映っている。
「その……あの勅書のことだ。結婚の許可の勅書。ずっと、黙っていた」
「……あれが原因で、代襲相続が却下されたと、気づいていらっしゃったのね」
「ん。……マックスに、俺が強請ったんだ。お前と、どうしても結婚したいって。俺からも頼むけど、マックスからも父上に願い出て欲しいって。……父上は、マックスに負い目があるから、許可が出るかもしれないからって」
その言葉に、わたしが思わず顔を上げた。
「俺は、勅書さえあれば、エルシーと結婚できるって浮かれてた。なのに帰国したら、エルシーはリンドホルムからも追い出されていて――もしかして、って思っていたけど、口に出せなかった。おばあ様も、俺が――」
言いさした殿下の唇を、わたしから口づけて塞いだ。殿下は一瞬、驚いたようだけれど、すぐに舌を絡めて口づけを深くする。しばらく貪りあってから、唇が開放されて、わたしは殿下の首筋に縋りつき、耳元で言った。
「愛してるわ、リジー。愛してるの。だから……特別に許してあげる」
王太子殿下がわたしに語りかける。
「……なんと詫びていいのかわからないが――いや、詫びる権利すら、ないのかもしれないが。それでも――」
だがその王太子殿下の言葉を、国王陛下が遮った。
「謝罪でなかったことにできるなら、警察は何のためにあるのか――であったな。まったく、我々王族は罪深い。罪深すぎて、もはや法の意味すらなさず、償うことすら許されない。エルスペス。……余は、詫びたりはせぬ。詫びることも、許しを請うこともせぬ。いや、許されぬと申すべきか」
陛下はそう言い、力なく身を起こす。――アルバート殿下に瓜二つのそのお顔には深い皺が刻まれ、顔色はくすんでいた。疲労の色が全身を覆い、怠そうに見えた。体調が悪いのは本当なのだろう。
わたしは言った。
「陛下、お詫びはもう、十分です。あの、謁見の場で詫びていただきました」
その言葉に、陛下は顔を歪める。
「……そうであったな。あれは本来は許されぬ詫びだ」
「父上――」
咎めるような王太子殿下の声に、わたしは薄く微笑んだ。
「正直に申し上げれば、詫びていただいたところで、死んだ者は戻って来ません。今、わたくしは権利を取り戻すことができましたし。――アルバート殿下の、ご尽力のおかげで」
アルバート殿下が首を傾げる。
「……エルシー、いいのか、そんな寛大なことで、それでは――」
わたしは笑った。
「お詫びはもう、十分だと言っただけで、許すとは言っていません。陛下は詫びることもできないし、わたくしの方でも、これ以上詫びていただいても、すぐに許せることでもありませんし。むしろ詫びたんだからお前も許せ、水に流せと言われても困ります」
わたしの言葉に、周囲の人々は困ったような表情で顔を見合わせている。――ここは空気を読んで、「許す」と言うべき場だとはわかるけれど、王家の我が家に対する仕打ちは、簡単に許せるレベルを超えている。
「……ただ一つだけ、お願いがあります」
「余が、叶えることができる願いか?」
わたしは頷いて、言った。
「……ローズの遺体を、リンドホルムに移すことをお許しいただきたいのです。今の、王都の墓地はあまりに寂しい。リンドホルムの城か、一族と同じ教会に埋葬したいと思います」
「それは、構わぬが……」
「一言、墓石に『アルバート・レジナルドの母』と刻むのをお許しください。それ以上、王家に関わる記録は残しません。ただ、わたくしの愛する人の母として葬りたい」
そう口にした瞬間に、アルバート殿下がわたしをすごい力で抱き寄せ、抱きしめた。――息が、詰まるほど。
「エルシー……俺は……」
殿下はそれ以上は言葉を飲み込んで、それからわたしを抱き締めたまま、国王陛下に言った。
「……俺からも、お願いします、父上。教会ではなく、リンドホルムの城内の、鍵のかかる秘密の庭に埋めて、他の者が入れないようにします。ですから――」
国王陛下は身じろぎし、何か遠くを見るような目をして、しばし考えていた。そして――。
「……エルスペス。リンドホルムには、余人の立ち入らぬ、秘密の花園があるというのは、本当か?」
陛下の問いに、わたしはアルバート殿下に抱き込まれたまま、頷いた。
「ええ。ストラスシャーには壁で囲まれた庭があります。周囲を壁で覆い、入口の扉には鍵をかけることができる。リンドホルムの城にもいくつかあって、そのうちの一つが、鍵のかかる薔薇園になっています。……ローズの、秘密の花園です。ずっと寂れていたのを、子供のころのローズが見つけて、蘇らせ、薔薇の泉のような庭にしました。わたしと――」
わたしはリジーを見て、それから国王陛下を見た。
「リジーはよく、その庭で過ごしました。……三年前にリンドホルムを追い出されて、その庭は世話をする人もいなくなり、再び寂れてしまいましたが」
目を伏せたわたしを、国王陛下が感極まったような表情で、どこかこの世ならぬものを見ているようだった。
「……本当に、あったのか。ローズが、幼いアルバートに寝物語に話しているのを聞いて……」
国王陛下はしばし目を閉じ、何かを念じるような表情をして、それから、目を開けて、わたしを見た。
「……わかった、許す。ローズの亡骸は王家の者が責任をもって、リンドホルム城に届ける。約束する。墓石の刻文も認める。だが、それは結婚式の後にせよ。それ以後であれば、許す」
「ありがとうございます。陛下」
わたしが礼を言えば、陛下は軽く手を挙げて、それを振った。
「……よい。本来なら、もっと早くに余から持ちかけることであった。せめて、ローズを秘密の庭に帰してやるべきだった」
死体になってから帰してもらっても、もう何もかも遅い。でも、あの寂しい墓地に眠るよりは、うんとマシだと思ったけれど、わたしは口にはしなかった。
「それは、秘密の庭だと申しておった。……ローズと……おそらく、マックスの。後はごくごく、限られた庭師だけが足を踏み入れることが許された庭だと。余は、その庭を目にすることは叶わぬのだな」
そう言って、陛下は目を閉じて、背もたれに身体を預ける。
「……陛下、そろそろ――」
王室長官が声をかけ、陛下が頷いた。首相のエルドリッジ公爵が、最後にという形で尋ねる。
「貴族の爵位領地に関しては、女児への継承を認める法案が、おそらく近日中にも通過すると思われます。……王室の継承についての、継承法の改正については――」
半ば立ち上がろうと両手で肘掛を掴んでいた国王陛下は、もう一度座りなおし、首を振った。
「それは、余がこの世を去ってからのことにせよ。――いつか、変わるべきことであっても、焦ることではない」
「父上、実は――」
王太子殿下が言った。
「ブリジットがまた、身籠りました。……まだ、希望は捨てずにおきたいと思います」
少し恥ずかしそうに、そして誇らしそうに微笑んだブリジット妃を見て、陛下もまた、薄っすらと微笑んだ。
「……そうか、ならば大事にせよ。その子に、神の加護があることを、祈る」
国王陛下は立ちあがると、杖に縋るようにしてゆっくりと退出された。
その夜、わたしはオーランド邸の寝室で、アルバート殿下と向かいあった。
「その……すまなかった」
いきなり謝られて、わたしは首を傾げる。
「何か、謝らなければならないようなことを、なさったの?」
「いっぱいしている」
殿下は入浴後で、いつもは後ろに撫でつけて固めている黒髪も、濡れて半ば額にかかっている。普段よりも何と言うか……人と言うよりは、捨て犬に近い感じ? 叱られた時のユールみたい。
「たしかにそうですわね。何に対して謝っていらっしゃるの?」
……さっきも強引に剃られたし。それのことかしら? それとも邸に戻ってきた時、護衛のラルフ・シモンズ大尉に、何やらこそこそと耳打ちしていた件だろうか?――どうせろくでもないことに違いないけれど、それはたぶん、わたしが聞かない方がいい話だ。敢えて謝ろうとしているのは、きっと別の話。
わたしが髪をタオルで拭きながら尋ねれば、殿下はわたしの顔を下から見上げるようにして、言った。
「その……父上がもっとちゃんと謝罪するのかと……」
「ああ、そのこと」
わたしがふっと肩を竦めた。
「そんなの、端から期待していませんでしたもの。……それから、臣下が国王のために命を張るのは、ある意味当然です。父も死んだこと自体は別に、恨んでいないと思いますわ。ローズの件は別かもしれませんけれど、おじい様の借財もあったようですし。王の家臣である以上、王家の存続が一番なのは、わかります」
「……だからって、もうちょっとちゃんと謝るかと、俺は思ったんだけど」
不満そうにベッドの上で身じろぎする殿下に、わたしは微笑んだ。
「本来なら、王は間違ってはいけないのよ。……なんて言ったかしら。『王の無謬性』?」
「よく知っているな」
殿下が目を丸くする。
「お妃教育とやらで習いましたわ。気安く下々に謝ってはいけないらしいですわよ? お妃の態度が、王の権威に関わるんですって。そんな教育だから、王妃とかステファニー嬢みたいなのが出来上がるんですわ」
「……まあ、そうかもしれんな」
殿下が困ったように眉尻を下げている。そういう表情をすると、なお一層、捨て犬感が強まる。
「でもそもそも、王様が間違えない、なんてのが、間違っているんです」
「そりゃまあ、そうだな。人間、誰でも間違える」
「国王陛下、いろいろと間違えてしまわれた。ローズのことも、あなたの育て方も」
「俺の育て方ぁ?」
殿下がびっくりして、自分を指さしている。わたしは自信満々で頷く。
「いくら王妃の子として届け出たからって、虐待で自殺未遂起こすまで放置だなんて、無能に過ぎるわ。しかも、王妃から引き離すために、よりによって、わたしの父に預けるなんて。あなたの母は父の許嫁でしたのよ? 普通。あり得ないわよ。わたしたちの子供を、ステファニー嬢に預けるみたいなものよ? 非常識にもほどがあるわ」
わたしが指摘すれば、殿下は金色の目を見張って、叫んだ。
「ステファニーに?! あり得ん!」
「でしょう? 父がお人好しだったからよかったものの……」
わたしは言ってから、殿下の肩に両腕を回して尋ねた。
「で、本当は何についての謝罪なんです?」
額と額をくっつけ、至近距離で目と目を合わす。……殿下の金色の瞳には、わたしが映っている。
「その……あの勅書のことだ。結婚の許可の勅書。ずっと、黙っていた」
「……あれが原因で、代襲相続が却下されたと、気づいていらっしゃったのね」
「ん。……マックスに、俺が強請ったんだ。お前と、どうしても結婚したいって。俺からも頼むけど、マックスからも父上に願い出て欲しいって。……父上は、マックスに負い目があるから、許可が出るかもしれないからって」
その言葉に、わたしが思わず顔を上げた。
「俺は、勅書さえあれば、エルシーと結婚できるって浮かれてた。なのに帰国したら、エルシーはリンドホルムからも追い出されていて――もしかして、って思っていたけど、口に出せなかった。おばあ様も、俺が――」
言いさした殿下の唇を、わたしから口づけて塞いだ。殿下は一瞬、驚いたようだけれど、すぐに舌を絡めて口づけを深くする。しばらく貪りあってから、唇が開放されて、わたしは殿下の首筋に縋りつき、耳元で言った。
「愛してるわ、リジー。愛してるの。だから……特別に許してあげる」
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