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第三章
罪深き者たち
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わたしは信じられない思いで国王陛下を見つめ、それからそのほかの人々を見まわした。
だが、わたし以外の人はすでに、王妃の犯した恐ろしい大罪を知っていたのだろう。ただ痛ましい表情でわたしと、アルバート殿下を見ていた。
わたしは、アルバート殿下を見上げた。
「……リジーは、知っていたの? それが――王妃のせいだと……」
殿下は辛そうに顔を歪めると、一瞬、わたしから目を逸らし、それからもう一度わたしを見た。
「……うん。何となく、そうだろうと。……さっきも言ったとおり、俺の居場所は軍の機密だった。それを知ることのできる人間は限られる。その中でも、殺したいほど俺を憎んでいるのは、王妃だけだから」
言いにくそうに、王太子殿下が口を挟む。
「シャルローだけで百九十二人、村人も四十人以上が犠牲になった。グリージャの攻撃はその他の部隊にも及び、一連の戦闘で我が軍は六千人が死亡し、一万四千弱が負傷した。砦の位置を記した地図が、バール離宮の祈祷僧の部屋から見つかった。情報の漏洩元がよりによって王妃であり、さらには王宮であったことに、我々は震撼した。この事実が明らかになれば世論は沸騰し、革命運動が激化するのは避けられない。王家が吹っ飛べば、政府も瓦解する。……もし、戦争のさなかにそんなことになれば――」
我が国それ自体が、地図から消えてしまう――。
「だから、王妃の罪は隠匿するしかなかった。闇から闇に葬り、なかったことにするしか――」
国王陛下が沈鬱な声で言った。
「離宮にいた祈祷僧ら、間諜は一掃した。全員、秘密裡に処刑し、情報も全て隠蔽した。王妃は――余は廃妃にしたかったが、それには罪を明らかにせねばならぬ。故に病ということにして、離宮に幽閉した。ジョージが死ねば、その後は修道院に入れるつもりにしていた。長くはないと言われていたジョージが意外にも戦争を生き抜いて、この正月にようやく、葬儀を終えた。……葬儀に母である王妃が出席せぬのは不自然と思い、せめて最後の慈悲にと、あれも王都に呼んだが――」
王妃は反省の色もなく、ブリジット妃を唆してアルバート殿下の邸を急襲し、わたしに危害を加えようとした。
わたしは顔をあげ、陛下に尋ねる。
「王妃陛下を暴行罪で警察に突き出してしまい、さすがにやりすぎたかと思っていましたが、本来の彼女の罪からすると、軽過ぎだったのですね」
「そうだ。王妃の犯した罪は大きすぎて、本来ならば死を以てしても償いきれぬ。簡単に殺してしまうのも躊躇うほどの大罪で、償わせる方法すら、わからない。それに、王妃はすでにまともな判断力も理解力も失っている。……ジョージの苦しみを和らげるためと称し、祈祷僧はジョージに鴉片を吸わせていた。何かの理由をつけ、王妃もまた鴉片を常習していたようだ。知ってもいようが、鴉片中毒は人を壊す。薬が切れたときの禁断症状は地獄の苦しみとも聞く。……余は、王妃から一切の鴉片を取り上げた故、おそらくは――」
わたしは黒づくめの王妃の姿を思い出す。たしかに、正気ではなかったし、わたしとローズの区別がついていないようだったが、まさか鴉片中毒だったとは。次々と明らかになる王家の醜聞に、わたしはその場にいるのが正直、辛かった。
「……王妃の罪を隠蔽するために、シャルローの被害全体について、緘口令が布かれた。その結果、マックス・アシュバートンの戦死の状況を示す、書類がなかった。……そういうことですか?」
アルバート殿下が尋ねれば、マールバラ公爵が頷いた。
「シャルロー村の戦闘の、厳密な被害状況は伏せられた。一部隊の死者としては多過ぎたし、軍の上層部の責任問題に繋がりかねない。報道機関に問題を追及されれば、王宮と離宮から、グリージャの間諜に情報が筒抜けだった事実、さらには、我が国とグリージャ、シュルフト三国の間で繰り広げられた情報戦についても、明るみに出るおそれがあった。それらすべて、国民に知られれば政府の退陣は避けられず、王室の権威は地に堕ちる」
王太子殿下がさらに付け加える。
「王妃の罪は単純に大きすぎるが、さらにバーティの出生に疑問を持たれるとまずい。王妃が自ら腹を痛めて産んだ子を、利敵行為を働いてまで殺そうとするなんて、普通ならあり得ないから。これ以上のスキャンダルは、王家の求心力を大幅に低下させる。戦争中にそれだけは避けたかった」
とにかく、我が国は重大な危機に直面し、王宮も政府も、事実を隠蔽糊塗する以外になかった。
そんな緊迫した状況の中で、アシュバートン家に相続問題が発生し、わたしへの代襲相続は却下された。
「……マックス・アシュバートンは俺を庇って戦死し、俺はそれを父上に報告もしていた。マックスの相続は確約されていたし、戦死の際の代襲相続は、慣例で認められるはずだ!」
アルバート殿下の厳しい詰問に、国王陛下は一瞬、身体のどこかが痛むような表情をした。
「リンドホルム伯領の最初の相続は、問題がなかった。だが、わずか数か月で、ウィリアム・アシュバートンが死んでサイラス・アシュバートンへと相続させる書類が上がってきた。当然、余は法務長官を呼んで尋ねた。――マックスには娘がいるはずだ、と」
横にいた王室長官も頷く。
「当時の法務長官はレコンフィールド公爵セオドア・グローブナー卿で……書類が不備である故に、代襲相続は認められないと」
「……そんな馬鹿な! それを飲んだのですか?!」
アルバート殿下が詰め寄ると、国王陛下は深い、溜息をついた。
「余は、マックスには直系の子女に相続を確約していると言い、副本を探させたが――」
国王陛下が王室長官を振り返り、尋ねる。
「アーサー、あの時、副本の紛失に気づいたのであったな」
「はい。……マックス・アシュバートン卿への勅書は二通ございました。一通は、『いかなる場合も直系への相続を許す』という、相続確約の勅書。これは法務省の司法局資料室に保管いたしました。相続に問題が起きた時、すぐに参照できるように。もう一通、アルバート殿下と、リンドホルム伯爵令嬢との婚姻を認める勅書は、王家の婚姻に関わる極秘の勅書でございますので、陛下のお手元、この執務室の棚に保管されておりました。ごく一部の寵臣、政府の幹部しか立ち入ることの許されぬ場所でございます。それが、二通とも紛失しておりました」
「……それはつまり、レコンフィールド公爵が――」
「あるいは、首相のバーソロミュー・ウォルシンガムだったかもしれんが。二人ともそれについては憶えがないなどと抜かして、認めてはおらぬ」
陛下が苦々しく吐き捨てる。勅書の副本とはいえ、故意に紛失させれば、当たり前だが罪に問われる。しかし何分にも三年も前のことでもあるし、証拠もなく、これ以上の追及は難しい。王室長官が言う。
「原則として、王宮にあるものはあくまで、万一の偽造などを防ぐための副本で、勅書の正本はそれぞれの請願者の元に――この場合であれば、マックス・アシュバートン卿の手元に残ることになります」
つまり、問題が発生したときには貴族の側から異議を唱えなければ、王家が対処してくれたりはしない。
それに対して、アルバート殿下は反論した。
「マックスの勅書は秘密のものだから、家族から申し出ることなんて普通、ないだろうに! 奴らはそれを見越した上で――」
王室長官が頷く。
「そうです。マックス・アシュバートン卿が戦死であることは疑いようもないのに、公爵たちは言いがかりに等しいものでした。その場には首相……いえ、元首相のウォルシンガム卿もおられて、書類がない以上は認められないと一点張りで」
「余は、シャルローでの戦死であるのは間違いがない故、国王の権限をもって決定をひっくり返そうとしたが、ウォルシンガムが拒否した。――シャルローに絡む問題をつつけば、大きな問題に波及すると。つまり、王妃の罪が漏れ、王家および、国家の危機に繋がりかねない。リンドホルムは小さな綻びに過ぎない。そこを守って国の根幹を揺るがすべきでないと」
「……あんの野郎……絶対、殺してやる」
ギリギリと奥歯を噛みしめた殿下の呟きを耳にしたのは、たぶん、わたしだけだった。
「リジー……」
わたしは思わず殿下の上着の裾を掴む。
首相と、レコンフィールド公爵は、父の戦死を利用して、リンドホルムを潰すつもりだったのだ。父が死に、たまたま弟も殺されて、残ったのは年端もいかぬ小娘のわたしと、年老いた未亡人だけ。勅書も手元になく、訴え出ることもできないと踏んで、書類の不備を言い立てて。
――力のない者たちと蔑み、踏みにじった。
わたしは顔を上げ、まっすぐに国王陛下見た。
「レコンフィールド公爵が我が家を恨むのは、わかります。……はっきり申し上げれば逆恨みだと思いますが、それでもまだ、王妃陛下の苦しみは理解できます。でも、首相のウォルシンガム卿がなぜ、我が家を目の仇にするのです?」
わたしの問いに、国王陛下が深い深い、溜息をついた。
「……ウォルシンガムは余がマックスに与えた、アルバートとそなたの結婚を認める勅書が、気に入らなかったのだ。ウォルシンガムはリンドホルム伯爵のような、力のない家から王子の妃を出すべきでないと言い張った。それは貴族の秩序を破壊する、余の恣意に過ぎぬと。勅書の存在を知ったウォルシンガムらは勅書を隠蔽し、婚姻の要件を満たさないよう、そなたの代襲相続を潰したのだ」
「……あの……勅書が……?」
あの日、議会でアルバート殿下が掲げた、父が最期まで胸ポケットに持っていた、血染めの勅書。
わたしと、アルバート殿下の結婚を、国王陛下が認めたあの勅書が――。
「アルバートがあの日、議会で述べた理由は、当たりだったのだよ。――バカバカしいと思うかもしれないが、権力の中枢にいる者にとって、王との距離は権力の源泉そのもの。自らがそれに縋り、権力に固執するが故に、その特権を奪われ、失うことを恐れるのだ」
わたしは両手で顔を覆っていた。
だが、わたし以外の人はすでに、王妃の犯した恐ろしい大罪を知っていたのだろう。ただ痛ましい表情でわたしと、アルバート殿下を見ていた。
わたしは、アルバート殿下を見上げた。
「……リジーは、知っていたの? それが――王妃のせいだと……」
殿下は辛そうに顔を歪めると、一瞬、わたしから目を逸らし、それからもう一度わたしを見た。
「……うん。何となく、そうだろうと。……さっきも言ったとおり、俺の居場所は軍の機密だった。それを知ることのできる人間は限られる。その中でも、殺したいほど俺を憎んでいるのは、王妃だけだから」
言いにくそうに、王太子殿下が口を挟む。
「シャルローだけで百九十二人、村人も四十人以上が犠牲になった。グリージャの攻撃はその他の部隊にも及び、一連の戦闘で我が軍は六千人が死亡し、一万四千弱が負傷した。砦の位置を記した地図が、バール離宮の祈祷僧の部屋から見つかった。情報の漏洩元がよりによって王妃であり、さらには王宮であったことに、我々は震撼した。この事実が明らかになれば世論は沸騰し、革命運動が激化するのは避けられない。王家が吹っ飛べば、政府も瓦解する。……もし、戦争のさなかにそんなことになれば――」
我が国それ自体が、地図から消えてしまう――。
「だから、王妃の罪は隠匿するしかなかった。闇から闇に葬り、なかったことにするしか――」
国王陛下が沈鬱な声で言った。
「離宮にいた祈祷僧ら、間諜は一掃した。全員、秘密裡に処刑し、情報も全て隠蔽した。王妃は――余は廃妃にしたかったが、それには罪を明らかにせねばならぬ。故に病ということにして、離宮に幽閉した。ジョージが死ねば、その後は修道院に入れるつもりにしていた。長くはないと言われていたジョージが意外にも戦争を生き抜いて、この正月にようやく、葬儀を終えた。……葬儀に母である王妃が出席せぬのは不自然と思い、せめて最後の慈悲にと、あれも王都に呼んだが――」
王妃は反省の色もなく、ブリジット妃を唆してアルバート殿下の邸を急襲し、わたしに危害を加えようとした。
わたしは顔をあげ、陛下に尋ねる。
「王妃陛下を暴行罪で警察に突き出してしまい、さすがにやりすぎたかと思っていましたが、本来の彼女の罪からすると、軽過ぎだったのですね」
「そうだ。王妃の犯した罪は大きすぎて、本来ならば死を以てしても償いきれぬ。簡単に殺してしまうのも躊躇うほどの大罪で、償わせる方法すら、わからない。それに、王妃はすでにまともな判断力も理解力も失っている。……ジョージの苦しみを和らげるためと称し、祈祷僧はジョージに鴉片を吸わせていた。何かの理由をつけ、王妃もまた鴉片を常習していたようだ。知ってもいようが、鴉片中毒は人を壊す。薬が切れたときの禁断症状は地獄の苦しみとも聞く。……余は、王妃から一切の鴉片を取り上げた故、おそらくは――」
わたしは黒づくめの王妃の姿を思い出す。たしかに、正気ではなかったし、わたしとローズの区別がついていないようだったが、まさか鴉片中毒だったとは。次々と明らかになる王家の醜聞に、わたしはその場にいるのが正直、辛かった。
「……王妃の罪を隠蔽するために、シャルローの被害全体について、緘口令が布かれた。その結果、マックス・アシュバートンの戦死の状況を示す、書類がなかった。……そういうことですか?」
アルバート殿下が尋ねれば、マールバラ公爵が頷いた。
「シャルロー村の戦闘の、厳密な被害状況は伏せられた。一部隊の死者としては多過ぎたし、軍の上層部の責任問題に繋がりかねない。報道機関に問題を追及されれば、王宮と離宮から、グリージャの間諜に情報が筒抜けだった事実、さらには、我が国とグリージャ、シュルフト三国の間で繰り広げられた情報戦についても、明るみに出るおそれがあった。それらすべて、国民に知られれば政府の退陣は避けられず、王室の権威は地に堕ちる」
王太子殿下がさらに付け加える。
「王妃の罪は単純に大きすぎるが、さらにバーティの出生に疑問を持たれるとまずい。王妃が自ら腹を痛めて産んだ子を、利敵行為を働いてまで殺そうとするなんて、普通ならあり得ないから。これ以上のスキャンダルは、王家の求心力を大幅に低下させる。戦争中にそれだけは避けたかった」
とにかく、我が国は重大な危機に直面し、王宮も政府も、事実を隠蔽糊塗する以外になかった。
そんな緊迫した状況の中で、アシュバートン家に相続問題が発生し、わたしへの代襲相続は却下された。
「……マックス・アシュバートンは俺を庇って戦死し、俺はそれを父上に報告もしていた。マックスの相続は確約されていたし、戦死の際の代襲相続は、慣例で認められるはずだ!」
アルバート殿下の厳しい詰問に、国王陛下は一瞬、身体のどこかが痛むような表情をした。
「リンドホルム伯領の最初の相続は、問題がなかった。だが、わずか数か月で、ウィリアム・アシュバートンが死んでサイラス・アシュバートンへと相続させる書類が上がってきた。当然、余は法務長官を呼んで尋ねた。――マックスには娘がいるはずだ、と」
横にいた王室長官も頷く。
「当時の法務長官はレコンフィールド公爵セオドア・グローブナー卿で……書類が不備である故に、代襲相続は認められないと」
「……そんな馬鹿な! それを飲んだのですか?!」
アルバート殿下が詰め寄ると、国王陛下は深い、溜息をついた。
「余は、マックスには直系の子女に相続を確約していると言い、副本を探させたが――」
国王陛下が王室長官を振り返り、尋ねる。
「アーサー、あの時、副本の紛失に気づいたのであったな」
「はい。……マックス・アシュバートン卿への勅書は二通ございました。一通は、『いかなる場合も直系への相続を許す』という、相続確約の勅書。これは法務省の司法局資料室に保管いたしました。相続に問題が起きた時、すぐに参照できるように。もう一通、アルバート殿下と、リンドホルム伯爵令嬢との婚姻を認める勅書は、王家の婚姻に関わる極秘の勅書でございますので、陛下のお手元、この執務室の棚に保管されておりました。ごく一部の寵臣、政府の幹部しか立ち入ることの許されぬ場所でございます。それが、二通とも紛失しておりました」
「……それはつまり、レコンフィールド公爵が――」
「あるいは、首相のバーソロミュー・ウォルシンガムだったかもしれんが。二人ともそれについては憶えがないなどと抜かして、認めてはおらぬ」
陛下が苦々しく吐き捨てる。勅書の副本とはいえ、故意に紛失させれば、当たり前だが罪に問われる。しかし何分にも三年も前のことでもあるし、証拠もなく、これ以上の追及は難しい。王室長官が言う。
「原則として、王宮にあるものはあくまで、万一の偽造などを防ぐための副本で、勅書の正本はそれぞれの請願者の元に――この場合であれば、マックス・アシュバートン卿の手元に残ることになります」
つまり、問題が発生したときには貴族の側から異議を唱えなければ、王家が対処してくれたりはしない。
それに対して、アルバート殿下は反論した。
「マックスの勅書は秘密のものだから、家族から申し出ることなんて普通、ないだろうに! 奴らはそれを見越した上で――」
王室長官が頷く。
「そうです。マックス・アシュバートン卿が戦死であることは疑いようもないのに、公爵たちは言いがかりに等しいものでした。その場には首相……いえ、元首相のウォルシンガム卿もおられて、書類がない以上は認められないと一点張りで」
「余は、シャルローでの戦死であるのは間違いがない故、国王の権限をもって決定をひっくり返そうとしたが、ウォルシンガムが拒否した。――シャルローに絡む問題をつつけば、大きな問題に波及すると。つまり、王妃の罪が漏れ、王家および、国家の危機に繋がりかねない。リンドホルムは小さな綻びに過ぎない。そこを守って国の根幹を揺るがすべきでないと」
「……あんの野郎……絶対、殺してやる」
ギリギリと奥歯を噛みしめた殿下の呟きを耳にしたのは、たぶん、わたしだけだった。
「リジー……」
わたしは思わず殿下の上着の裾を掴む。
首相と、レコンフィールド公爵は、父の戦死を利用して、リンドホルムを潰すつもりだったのだ。父が死に、たまたま弟も殺されて、残ったのは年端もいかぬ小娘のわたしと、年老いた未亡人だけ。勅書も手元になく、訴え出ることもできないと踏んで、書類の不備を言い立てて。
――力のない者たちと蔑み、踏みにじった。
わたしは顔を上げ、まっすぐに国王陛下見た。
「レコンフィールド公爵が我が家を恨むのは、わかります。……はっきり申し上げれば逆恨みだと思いますが、それでもまだ、王妃陛下の苦しみは理解できます。でも、首相のウォルシンガム卿がなぜ、我が家を目の仇にするのです?」
わたしの問いに、国王陛下が深い深い、溜息をついた。
「……ウォルシンガムは余がマックスに与えた、アルバートとそなたの結婚を認める勅書が、気に入らなかったのだ。ウォルシンガムはリンドホルム伯爵のような、力のない家から王子の妃を出すべきでないと言い張った。それは貴族の秩序を破壊する、余の恣意に過ぎぬと。勅書の存在を知ったウォルシンガムらは勅書を隠蔽し、婚姻の要件を満たさないよう、そなたの代襲相続を潰したのだ」
「……あの……勅書が……?」
あの日、議会でアルバート殿下が掲げた、父が最期まで胸ポケットに持っていた、血染めの勅書。
わたしと、アルバート殿下の結婚を、国王陛下が認めたあの勅書が――。
「アルバートがあの日、議会で述べた理由は、当たりだったのだよ。――バカバカしいと思うかもしれないが、権力の中枢にいる者にとって、王との距離は権力の源泉そのもの。自らがそれに縋り、権力に固執するが故に、その特権を奪われ、失うことを恐れるのだ」
わたしは両手で顔を覆っていた。
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