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第三章
血染めの勅書
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当初予定した三十分よりもやや遅れて、議会が再開された。
議長が開廷を宣言し、法服の老紳士たちが議場を占める。――先ほどとは異なり、わたしの席はアルバート殿下の隣に配置されていた。ハートネルの凶行に懲りたのか、議長と首相が席の移動を認めたのだ。
質問の続きということで、オーソン・スタイルズ卿が壇上に上る。
さきの不手際を詰る野次が飛ぶが、スタイルズ卿は穏やかにそれをいなし、話し始める。
「私が主張したかったのは、つまり、レディ・エルスペスの境遇についてであります。彼女は建国以来の名家・リンドホルム伯爵マクシミリアン・アシュバートンの長女として生まれ、ストラスシャーの古城で何不自由なく育った。彼女の父親が、かのシャルロー村の激戦で命を落とすまでは」
さすが、スタイルズ卿は演説に慣れていて、滔々と語っていく。
「三年前の秋、シャルロー村に駐在していたアルバート殿下の部隊がグリージャ軍の急襲を受け、潰滅した。……我々も周知の出来事です。アルバート殿下の消息は不明。生存は絶望視されていた。当時、王位継承権三位の王子の危機に、我々は皆、ただ神に祈るしかなかった。殿下の生存が確認されたのは、数日後です」
スタイルズ卿は議場を見回し、手元のグラスの水を一口飲む。
「殿下の部隊、二百人のうち、実に百九十二人が死亡した。その一人が、それなるレディ・エルスペスの父である、マックス・アシュバートン中佐でした。……殿下の盾になる形で、そのお命を守って。そうですね、殿下?」
スタイルズ卿が殿下に尋ね、殿下が頷く。
「リンドホルム伯爵であったアシュバートン卿には当時十四歳の息子、ウィリアム・アシュバートン卿と、十六歳だった令嬢、レディ・エルスペスがいた。すぐさまウィリアム卿が伯爵位を継承したが、その十二月、なんと主治医にして伯爵の法定相続人であった、サイラス・アシュバートンとその息子、ダグラスによって毒殺されていた。戦死者に直系の男子がなく、女子のみがいる場合は、代襲相続が認められる。これが我が国の慣例です。当然、レディ・エルスペスは法務局に代襲相続を申請した。ところが――」
スタイルズ卿が周囲を見回す。
「法務局の決定は、不可。――却下されたのです」
ざわざわと、議場が揺れる。スタイルズ卿の演説はまるで物語のように、議場の議員たちを引き込んでいく。
「理由は、書類の不備でした。シャルローの奇襲攻撃の影響で、わが軍は混乱のさなかにあった。それゆえに、マックス・アシュバートン中佐の戦死の状況を示す、書類が届いていない――」
「異議あり!」
ふいに、首相が手を挙げた。
「今回の議題は、アルバート殿下の結婚の承認についてだ。貴卿の話は関係がない」
「いいえ、そんなことはありません。先ほどもアルバート殿下が言った。レディ・エルスペスの境遇は、アシュバートン卿の戦死と、そして彼女の代襲相続が却下されたことによって大きく変わったのです。無関係なはずはない。そうでしょう?!」
スタイルズ卿が議場に呼び掛ければ、周囲から「そうだ!」と賛同の声が上がる。
「続行を認めます」
議長が言い、スタイルズ卿が礼を言って続ける。
「ではなぜ却下されたのか。――アルバート殿下、あなたは、レディ・エルスペスが代襲相続を認められていないこことを、予想していましたか?」
殿下が立ちあがる。
「いや、全く。……そもそも、マックスには息子がいたから、彼が問題なく継承していると考えいていた」
「マックス・アシュバートン卿の戦死の状況について、本国に報告していましたか?」
「もちろん。俺と俺の部隊の者は、俺の居場所を敵に知られるのを防ぐために、本国との手紙のやり取りも制限されていたけれど、俺は父上に直接、報告を上げていたから。マックスの死とその状況についても、詳しく書き送って、父上からの返書には、マックスへの追悼の一言があった」
「ならば、こちらに戻ってこられて、驚かれたでしょうね?」
スタイルズ卿の質問に、殿下が頷いた。
「ああ。俺は、本国への帰還が決まった後で、マックスの家族にも説明したいと考え、リンドホルムに行くつもりだった。ウィリアムはまだ若いし、領地を経営に苦労しているだろうし、それに――」
殿下はわたしを一瞥して、言った。
「俺はマックスの娘のエルスペス嬢に求婚するつもりでいた。マックスからも了承は得ていたし、そうすれば、若いウィリアムを後見するにも都合がいいから」
その言葉に議場がざわめく。その様子を見て、スタイルズ卿がさらに尋ねる。
「その……レコンフィールド公爵令嬢との婚約は――」
「さきほど、マールバラ公爵が述べた通り、出征前に白紙に戻していて、俺には婚約者はいない、という認識だった。レディ・エルスペスに求婚するのに、問題はない」
殿下は続ける。
「突然、リンドホルムに行くのもと思い、マックスがマクガーニ中将と古い友人であることを思い出して、先にマクガーニに手紙を書いた。そうしたら――」
マックスの息子は直後に死亡し、娘は領地を継ぐことができず、王都で事務員をしていると聞き、殿下は非常に驚いたと。
アルバート殿下の回答に、スタイルズ卿は深く頷く。
「なるほど。……つまり、殿下もまた、レディ・エルスペスの代襲相続が却下された理由についてはご存知なかった」
「そうだ。俺は王都に戻ってきて、独自に調査を進めた。その過程で、ウィリアムの死がサイラスとダグラス父子による毒殺だとわかって、エルシーの爵位を取り戻すことはできた。しかし、爵位が戻ればいいというものではない。マックスは身を挺して俺を庇った。その娘と母親は、女だという理由で爵位も領地も継承できず、狡猾な親族により住み慣れた家も追い出され、王都で貧しい暮らしを余儀なくされていたんだ。そんなことが許されていいはずがない!」
ダン!
殿下が重厚な卓に拳を叩きつける。
「議長! 内容が議題よりずれていると……」
「ウォルシンガム、しつこいぞ。何か探られたくない腹でもあるのか?」
殿下は議長にも挙手の上で言った。
「俺の結婚において、極めて重要な内容だ。続行を求める」
「――どう、関わってくるのですかな。レディ・エルスペスの爵位の問題については、代襲相続が認められた現在においてはあまり――」
「いや。……さきほど、スタイルズ卿は俺に尋ねた。なぜ、国王陛下が、エルシーとの結婚を許すと思ったのか、と」
殿下の問いに、スタイルズ卿は頷く。
「ええ、尋ねました。レディ・エルスペスは当時、爵位も領地も失って経済的にも困窮していた。王子との結婚が認められるはずはないと、考えるのが普通です」
「父上はすでに、俺とリンドホルム伯爵令嬢エルスペス・アシュバートンの婚約を許可していた。戦争中に、マックス・アシュバートンに対して。ここに、国王の直筆、署名、印章入りの勅書もある」
殿下がフロックコートの胸ポケットから茶色い封筒を取り出し、内部から褐色の染みのついた、白い封筒を出して、掲げた。
――わたしは、息が止まるかと思った。
国王陛下が、わたしの父に対し、わたしと殿下との婚約の許可を出していた――?
わたしが茫然と見上げる先で、殿下は封筒を開き、中から折り畳んだ紙を取り出す。いつの間にか控えていた官僚が、革製の書類ばさみに白い封筒――穴が開き、血飛沫が散っている――を入れ、ついで、殿下が広げた、やはり穴が開いて赤茶色の染みの浮いた書類を挟みこむ。
「殿下、それはいったい――」
しんと沈黙が支配する議場で、震える声で問いかける首相に、殿下が答える。
「三年前、シャルローで俺を庇って死んだマックス・アシュバートンの胸ポケットから回収した、遺品の中にあった。父上から与えられた勅書が、二通」
殿下は官僚から紙ばさみを受け取り、勅書の文面を読み上げる。
『国王エドワードは、リンドホルム伯爵マクシミリアン・アシュバートンの請願を受け入れ、わが第三王子アルバート・アーネスト・ヴィクター・レジナルドを、リンドホルム伯領の後見とすることに同意する。さらに、両者の同意が得られた場合には、アルバート・アーネスト・ヴィクター・レジナルドと、リンドホルム伯爵令嬢エルスペス・アシュバートンとの婚姻を許可する 御名御璽』
議場にどよめきが広がる。
「どういうことだ?」
「三年前、シャルローで?」
「すでに結婚が認められていた――?」
ざわざわとどよめく議場で、しばし茫然としていた議長は、ハッと我に返って木槌でカンカンと卓を叩く。
「静粛に!」
議長がアルバート殿下を見つめ、尋ねる。
「……それは、つまり……マックス・アシュバートン卿が死ぬより以前に、国王陛下から得ていた勅書、ということか?」
「そう。マックスが俺を庇って死んで、でも死体を残していかざるを得なかったので、俺はせめてと、マックスの髪を少し切り、それから胸のタイピンを外した。そして胸ポケットを探り、入っていた封筒と、写真を回収した。どちらも銃弾を受けて穴が開き、マックスの血で汚れていたので、遺族に渡すのをためらい、俺自身で保管していた。――先日、写真の方はエルシーに返したが、この書類は重要な証拠になるので、手元に残していた」
わたしは慌ててハンドバッグから写真を取り出す。殿下はわたしに手を伸ばすので、わたしは震える手で、写真を手渡す。殿下がまっすぐにわたしを見つめる。
――大丈夫だ、あと、少しだから。
そう、言われた気がして、わたしが頷く。
殿下は写真を受け取ると、それをも書類ばさみに入れ、官僚に手渡す。
「勅書は二枚。一つは先ほど読み上げた、戦時中の婚姻許可の勅書。もう一通は、マックスが出征前に提出した相続確約の勅書。――今後、何があろうとも、リンドホルム伯爵の爵位と領地は、直系であるウィリアム、もしくはエルスペスの子孫に受け継がれるというもの」
殿下の発言に、再び議場がどよめく。殿下が朗々たる声で言った。
「――つまり、慣例に関わらず、リンドホルムはレディ・エルスペスに継承されると、何重にも勅書で確約されていた。にもかかわらず、彼女の代襲相続は却下された。その理由を当然、首相とレコンフィールド公爵は知っているはずだ」
議長が開廷を宣言し、法服の老紳士たちが議場を占める。――先ほどとは異なり、わたしの席はアルバート殿下の隣に配置されていた。ハートネルの凶行に懲りたのか、議長と首相が席の移動を認めたのだ。
質問の続きということで、オーソン・スタイルズ卿が壇上に上る。
さきの不手際を詰る野次が飛ぶが、スタイルズ卿は穏やかにそれをいなし、話し始める。
「私が主張したかったのは、つまり、レディ・エルスペスの境遇についてであります。彼女は建国以来の名家・リンドホルム伯爵マクシミリアン・アシュバートンの長女として生まれ、ストラスシャーの古城で何不自由なく育った。彼女の父親が、かのシャルロー村の激戦で命を落とすまでは」
さすが、スタイルズ卿は演説に慣れていて、滔々と語っていく。
「三年前の秋、シャルロー村に駐在していたアルバート殿下の部隊がグリージャ軍の急襲を受け、潰滅した。……我々も周知の出来事です。アルバート殿下の消息は不明。生存は絶望視されていた。当時、王位継承権三位の王子の危機に、我々は皆、ただ神に祈るしかなかった。殿下の生存が確認されたのは、数日後です」
スタイルズ卿は議場を見回し、手元のグラスの水を一口飲む。
「殿下の部隊、二百人のうち、実に百九十二人が死亡した。その一人が、それなるレディ・エルスペスの父である、マックス・アシュバートン中佐でした。……殿下の盾になる形で、そのお命を守って。そうですね、殿下?」
スタイルズ卿が殿下に尋ね、殿下が頷く。
「リンドホルム伯爵であったアシュバートン卿には当時十四歳の息子、ウィリアム・アシュバートン卿と、十六歳だった令嬢、レディ・エルスペスがいた。すぐさまウィリアム卿が伯爵位を継承したが、その十二月、なんと主治医にして伯爵の法定相続人であった、サイラス・アシュバートンとその息子、ダグラスによって毒殺されていた。戦死者に直系の男子がなく、女子のみがいる場合は、代襲相続が認められる。これが我が国の慣例です。当然、レディ・エルスペスは法務局に代襲相続を申請した。ところが――」
スタイルズ卿が周囲を見回す。
「法務局の決定は、不可。――却下されたのです」
ざわざわと、議場が揺れる。スタイルズ卿の演説はまるで物語のように、議場の議員たちを引き込んでいく。
「理由は、書類の不備でした。シャルローの奇襲攻撃の影響で、わが軍は混乱のさなかにあった。それゆえに、マックス・アシュバートン中佐の戦死の状況を示す、書類が届いていない――」
「異議あり!」
ふいに、首相が手を挙げた。
「今回の議題は、アルバート殿下の結婚の承認についてだ。貴卿の話は関係がない」
「いいえ、そんなことはありません。先ほどもアルバート殿下が言った。レディ・エルスペスの境遇は、アシュバートン卿の戦死と、そして彼女の代襲相続が却下されたことによって大きく変わったのです。無関係なはずはない。そうでしょう?!」
スタイルズ卿が議場に呼び掛ければ、周囲から「そうだ!」と賛同の声が上がる。
「続行を認めます」
議長が言い、スタイルズ卿が礼を言って続ける。
「ではなぜ却下されたのか。――アルバート殿下、あなたは、レディ・エルスペスが代襲相続を認められていないこことを、予想していましたか?」
殿下が立ちあがる。
「いや、全く。……そもそも、マックスには息子がいたから、彼が問題なく継承していると考えいていた」
「マックス・アシュバートン卿の戦死の状況について、本国に報告していましたか?」
「もちろん。俺と俺の部隊の者は、俺の居場所を敵に知られるのを防ぐために、本国との手紙のやり取りも制限されていたけれど、俺は父上に直接、報告を上げていたから。マックスの死とその状況についても、詳しく書き送って、父上からの返書には、マックスへの追悼の一言があった」
「ならば、こちらに戻ってこられて、驚かれたでしょうね?」
スタイルズ卿の質問に、殿下が頷いた。
「ああ。俺は、本国への帰還が決まった後で、マックスの家族にも説明したいと考え、リンドホルムに行くつもりだった。ウィリアムはまだ若いし、領地を経営に苦労しているだろうし、それに――」
殿下はわたしを一瞥して、言った。
「俺はマックスの娘のエルスペス嬢に求婚するつもりでいた。マックスからも了承は得ていたし、そうすれば、若いウィリアムを後見するにも都合がいいから」
その言葉に議場がざわめく。その様子を見て、スタイルズ卿がさらに尋ねる。
「その……レコンフィールド公爵令嬢との婚約は――」
「さきほど、マールバラ公爵が述べた通り、出征前に白紙に戻していて、俺には婚約者はいない、という認識だった。レディ・エルスペスに求婚するのに、問題はない」
殿下は続ける。
「突然、リンドホルムに行くのもと思い、マックスがマクガーニ中将と古い友人であることを思い出して、先にマクガーニに手紙を書いた。そうしたら――」
マックスの息子は直後に死亡し、娘は領地を継ぐことができず、王都で事務員をしていると聞き、殿下は非常に驚いたと。
アルバート殿下の回答に、スタイルズ卿は深く頷く。
「なるほど。……つまり、殿下もまた、レディ・エルスペスの代襲相続が却下された理由についてはご存知なかった」
「そうだ。俺は王都に戻ってきて、独自に調査を進めた。その過程で、ウィリアムの死がサイラスとダグラス父子による毒殺だとわかって、エルシーの爵位を取り戻すことはできた。しかし、爵位が戻ればいいというものではない。マックスは身を挺して俺を庇った。その娘と母親は、女だという理由で爵位も領地も継承できず、狡猾な親族により住み慣れた家も追い出され、王都で貧しい暮らしを余儀なくされていたんだ。そんなことが許されていいはずがない!」
ダン!
殿下が重厚な卓に拳を叩きつける。
「議長! 内容が議題よりずれていると……」
「ウォルシンガム、しつこいぞ。何か探られたくない腹でもあるのか?」
殿下は議長にも挙手の上で言った。
「俺の結婚において、極めて重要な内容だ。続行を求める」
「――どう、関わってくるのですかな。レディ・エルスペスの爵位の問題については、代襲相続が認められた現在においてはあまり――」
「いや。……さきほど、スタイルズ卿は俺に尋ねた。なぜ、国王陛下が、エルシーとの結婚を許すと思ったのか、と」
殿下の問いに、スタイルズ卿は頷く。
「ええ、尋ねました。レディ・エルスペスは当時、爵位も領地も失って経済的にも困窮していた。王子との結婚が認められるはずはないと、考えるのが普通です」
「父上はすでに、俺とリンドホルム伯爵令嬢エルスペス・アシュバートンの婚約を許可していた。戦争中に、マックス・アシュバートンに対して。ここに、国王の直筆、署名、印章入りの勅書もある」
殿下がフロックコートの胸ポケットから茶色い封筒を取り出し、内部から褐色の染みのついた、白い封筒を出して、掲げた。
――わたしは、息が止まるかと思った。
国王陛下が、わたしの父に対し、わたしと殿下との婚約の許可を出していた――?
わたしが茫然と見上げる先で、殿下は封筒を開き、中から折り畳んだ紙を取り出す。いつの間にか控えていた官僚が、革製の書類ばさみに白い封筒――穴が開き、血飛沫が散っている――を入れ、ついで、殿下が広げた、やはり穴が開いて赤茶色の染みの浮いた書類を挟みこむ。
「殿下、それはいったい――」
しんと沈黙が支配する議場で、震える声で問いかける首相に、殿下が答える。
「三年前、シャルローで俺を庇って死んだマックス・アシュバートンの胸ポケットから回収した、遺品の中にあった。父上から与えられた勅書が、二通」
殿下は官僚から紙ばさみを受け取り、勅書の文面を読み上げる。
『国王エドワードは、リンドホルム伯爵マクシミリアン・アシュバートンの請願を受け入れ、わが第三王子アルバート・アーネスト・ヴィクター・レジナルドを、リンドホルム伯領の後見とすることに同意する。さらに、両者の同意が得られた場合には、アルバート・アーネスト・ヴィクター・レジナルドと、リンドホルム伯爵令嬢エルスペス・アシュバートンとの婚姻を許可する 御名御璽』
議場にどよめきが広がる。
「どういうことだ?」
「三年前、シャルローで?」
「すでに結婚が認められていた――?」
ざわざわとどよめく議場で、しばし茫然としていた議長は、ハッと我に返って木槌でカンカンと卓を叩く。
「静粛に!」
議長がアルバート殿下を見つめ、尋ねる。
「……それは、つまり……マックス・アシュバートン卿が死ぬより以前に、国王陛下から得ていた勅書、ということか?」
「そう。マックスが俺を庇って死んで、でも死体を残していかざるを得なかったので、俺はせめてと、マックスの髪を少し切り、それから胸のタイピンを外した。そして胸ポケットを探り、入っていた封筒と、写真を回収した。どちらも銃弾を受けて穴が開き、マックスの血で汚れていたので、遺族に渡すのをためらい、俺自身で保管していた。――先日、写真の方はエルシーに返したが、この書類は重要な証拠になるので、手元に残していた」
わたしは慌ててハンドバッグから写真を取り出す。殿下はわたしに手を伸ばすので、わたしは震える手で、写真を手渡す。殿下がまっすぐにわたしを見つめる。
――大丈夫だ、あと、少しだから。
そう、言われた気がして、わたしが頷く。
殿下は写真を受け取ると、それをも書類ばさみに入れ、官僚に手渡す。
「勅書は二枚。一つは先ほど読み上げた、戦時中の婚姻許可の勅書。もう一通は、マックスが出征前に提出した相続確約の勅書。――今後、何があろうとも、リンドホルム伯爵の爵位と領地は、直系であるウィリアム、もしくはエルスペスの子孫に受け継がれるというもの」
殿下の発言に、再び議場がどよめく。殿下が朗々たる声で言った。
「――つまり、慣例に関わらず、リンドホルムはレディ・エルスペスに継承されると、何重にも勅書で確約されていた。にもかかわらず、彼女の代襲相続は却下された。その理由を当然、首相とレコンフィールド公爵は知っているはずだ」
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