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第三章
休廷
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振り下ろされる凶刃を茫然と見上げていたわたしの視界を、大きな黒い影が遮る。
周囲が騒然として椅子が倒れる音、足音、叫び声が響く。
「アルバート殿下!」
「殿下!」
見れば、いつの間にか走り込んだ殿下がハートネルの振りかぶった手首を掴み、捻り上げていた。
ハートネルの顔が苦悶に歪み、凄まじい殺気の籠った榛色の瞳で、わたしを睨みつける。
「ひっ……!」
「大丈夫か、エルシー!」
「くっ……そぉおおおお! 放せぇ! この女は俺のものになるはずだったんだ!」
ジョナサン・カーティス大尉とラルフ・シモンズ大尉、そして軍服姿の護衛が素早くハートネルを取り囲み、取り押さえる。
カラン……彼の手から滑り落ちたのは、小さな剃刀。
――本来、議場に武器を持ち込むことは許されない。何とか誤魔化して、手に収まるほどの刃を持ち込んだのだ。
「うわぁあああ! はなせぇええ! 俺のエルシーを、エルシーを返せぇえええ!」
獣のような唸り声をあげながら、数人の屈強な兵士に両側から取り押さえられ、強引に引きずられていくハートネルを、わたしは茫然と見送るしかない。殿下がわたしを振返り、抱き寄せた。
「……すまない、俺のせいだ……」
「リジー……」
あまりのことにわたしの理解は追い付かず、ただ殿下の胸に寄り添えば、その体温にホッとする。
ざわついていた議場で、議長が一生懸命、木槌で叩いている。
「静粛に! 静粛に!」
カンカンカンカンと、響く音をかき消すように議場は騒然となっていた。
「前代未聞だ! 神聖な議会で、男女のもつれからの刃傷沙汰など!」
「やっぱりあの女は魔性だ! 男を狂わせる! 王妃だなんて、とんでもない!」
「いやそもそも、あんな男を証人として引き込むなんて、スタイルズ卿も――」
「静粛に! 静粛に! 静粛に!」
やはり茫然としていたスタイルズ卿が我に返ったのか、議長に大声で呼びかける。
「議長! いったん、休廷に!」
「休廷! 再開は三十分後に――!」
議長が休廷を宣言し、議員たちが立ちあがり、引けていく。
殿下はわたしをもう一度抱きしめ、深いため息をついた。
わたしたちが通されたのは、王族用の控室。――その部屋をわたしに使用させることさえ、首相は初め拒んだらしいのだけれど、さすがにアルバート殿下がブチ切れて、招致に応じずに国外に出ると言い出し、王太子殿下が間に入って、使用を認めさせたのだとか。
首相の頑な態度には野党だけでなく、与党の保守党の議員からも疑問の声が上がっているという。
「ウォルシンガムの、ステファニー嬢への溺愛は普通ではなくてね」
そう言うのは、控室で待っていた、王太子フィリップ殿下。今日の議会には出席しないものの、様子は見に来たのだ。
「たしかに国法では、結婚には承認が必要となっているが、国王の勅書を覆す権能など、そもそも議会にはないはずなのに。父上も不快感を表明なさっている」
王太子殿下の言葉に、三人掛けのソファにどさりと腰を下ろし、わたしの腕を引っ張って隣に座らせながら、殿下が呆れたように言う。
「ウォルシンガムのステファニーへの愛情は異常だ。あいつは、許されるならば自分がステファニーと結婚したかったんだ」
「バーティ、言い過ぎだ」
王太子殿下が窘め、わたしに説明する。
「ステファニーの母親はウォルシンガムの妹で……そもそも、ウォルシンガムは妹を溺愛していたんだ」
「でも、同じ姪でもアリスンには普通だ。ステファニーにだけ、異常なんだ」
とにかく、首相のバーソロミュー・ウォルシンガム卿は、王宮舞踏会のような公式の場で、愛する姪のステファニー嬢を辱めた殿下と、わたしが許せないのだろう。
「だが正直、首相のやりようは常軌を逸している。強引な婚約承認のやり口といい、今度の国会招致といい、姪可愛さに私情をさしはさみ過ぎていると、閣僚からも不満が出ていてね」
王太子殿下が目の前に置かれた熱い紅茶に砂糖を入れ、混ぜながら言う。
「もともと、議員たちは勝手な婚姻を強行したバーティとエルスペス嬢に軽くお灸を据え、議会でバーティをちょっとだけ絞ってやるつもりだったのに、首相が強硬に、エルスペス嬢の招致をねじ込んだ。若い娘を議会で質問攻めにするなんて、あんまりだと、反対意見もかなりあった。中には、『ついでにレコンフィールド公爵令嬢をも招致して、直接対決させるかね?』と皮肉を言った者もいたそうだよ。だから、君が首相に堂々と言い返して、むしろ首相を遣り込めて、いい気味、というところだろうね」
「……つまり、老紳士がたに責められて、涙の一つも零せば、首相は満足だったってことかしら?」
だとしたら本当に、わたしというよりは、女を馬鹿にしていると思う。でもわたしはそんなことで泣いたりはしない。なぜなら、国と言うものが身勝手で、理不尽だと嫌というほど理解させられたから。
「それより、オーソン・スタイルズはハートネルを呼び込んで、何をするつもりだったんだ。しかもあんな……」
アルバート殿下が言ったとき、コンコンと扉をノックする音がして、ジョナサン・カーティス大尉が顔を出した。
「殿下……マールバラ公爵閣下と、その……オーソン・スタイルズ卿がお見えです。お話があると……」
入ってきたオーソン・スタイルズ卿が、わたしとアルバート殿下、そして王太子殿下の姿を見て、深く腰を折った。
「このたびは本当に、当方の不手際で危険な目に遭わせて申し訳なかった。身体検査は十分にしたはずだったのですが――」
「あの馬鹿野郎については、調査を待ってからにする。そんな口だけの謝罪はいらん。あの馬鹿野郎を引き込んだ目的を教えろ」
アルバート殿下が言い、王太子殿下の指示で、マールバラ公爵とスタイルズ卿がそれぞれ一人がけの椅子をすすめられる。
スタイルズ卿は大げさに肩を竦めてから言う。
「まさかあんな馬鹿をやるとは思わなかったのですよ。私としては、アルバート殿下の評判を下げ、女王を認める継承法の改正案を待望するような空気を作りたかっただけで」
王太子殿下が溜息をつく。
「オーソン、前から言っているが、私も父上も、レイチェルを女王にするのは反対だ。国王は男にも過酷な立場だ。ただでさえ王家に生まれ、これから先、いろいろな苦労を背負うはずの娘たちに、さらに重い荷物を負わせたくはない」
「しかし、女性の社会進出も進んだこの世の中で、あくまで男子の継承に拘る我が国は、時代遅れの烙印を押されますよ。これからは男女平等です。……いえ、すぐには無理だとしても、女性の尊重を訴えるためにも、女性への王位継承を認めるべきです」
スタイルズ卿の言葉に、殿下が吐き捨てるように言う。
「俺はレイチェルが女王になっても別にいいと思っている……というか、俺は国王になりたくないから、むしろ賛成だが、俺の評判を下げる必要性が謎だ。しかもエルシーを巻き込み、あのクソ野郎まで引き込んで。もしあの時、俺の反応が遅れて、エルシーに傷でもついていたら、俺は議場で機関銃を乱射するぞ、クソッタレが!」
「冗談でも物騒な発言はやめたまえ、アルバート。女性の前だぞ」
マールバラ公爵に咎められ、殿下はわたしをちらりと見、肩を竦める。
「……要するに、俺が没落した貴族令嬢を強姦したクソ野郎だと糾弾するつもりで、ハートネルを連れてきれみれば、やつが刃物を振り回してさらに大変なことになった……と」
「ええ……全く。私まで非難の動議にかけられそうですよ」
「そりゃそうだろ。議場に刃物を持ち込み、さらに証人に襲い掛かるなんて、前代未聞だ」
「いや、昔は割とあったらしいぞ? 五十年ほど前だが、頭のおかしくなった貴族が、剣を抜いて暴れまわり――」
マールバラ公爵が話してくれた凄惨な事件の後、武器の持ち込みが禁じられたそうだ。
「まあ、それでも、オーソンには厳重注意が行くだろうなあ。オーソンはそもそも、人が良すぎるんだよ」
「まさか、刃物を振り回して女性を襲うなんて、想像もできなくて……」
王太子殿下がスタイルズ卿に言い、スタイルズ卿も項垂れる。
レイチェル王女ら、女性への継承を求めるスタイルズ卿ら自由党は、ハートネルの証言から、わたし、エルスペス・アシュバートンは、祖母の入院費のためにアルバート王子の愛人となった気の毒な女性であって、そこから、王家も含めて女性にも継承権を認めるべきだ、という方向に話を誘導するつもりだったらしい。
「ついでに、アルバート王子は女性の敵だって言う印象を擦りこめば、アルバート殿下よりもレイチェル王女に!……という風に世論が靡かないかなーと」
「……殺すぞ!」
アルバート殿下が金色の瞳をギラギラさせて、スタイルズ卿を睨みつける。
「オーソン。……きっかけはともかく、エルスペス嬢とバーティは上手くいっているんだよ、それを政治的な理由でひっかきまわすのは、私も反対だ」
王太子殿下が言い、スタイルズ卿はわたしに向かい、頭を下げた。
「いや、本当に申し訳なかった、レディ・エルスペス。怪我がなくてホッとした」
「……ハートネルはどうなります?」
わたしが問えば、男性陣が顔を見合わせる。
「議会で刃物を振るったわけだから……」
「幸い、怪我をした者はいなかったが、厳しい処罰が下るだろうな」
「少し頭がおかしかったんじゃないか? 目がイってたぞ?」
「警察に引き取ってもらいましたが、精神病院に入ることになるかも」
わたしは何とも言えない気分になり、つい、俯いた。――もともと彼は陸軍中尉として、そこそこエリート街道を走っていたはずなのに。
その様子を見た殿下が、わたしの肩を抱き寄せて言う。
「エルシーのせいじゃない。……あいつは、友人の三流紙のゴシップ記者を使って、自分とエルシーは相思相愛だったのに、俺に力ずくで奪われた、なんて嘘っぱちを振りまいていたんだ。気にするな」
「リジー……」
殿下はわたしを抱き寄せたまま、スタイルズ卿を見て、言った。
「……さっき、王家も含めて女性にも継承権を認めるべきだと言ったな?」
「ええ。それは自由党……というか、私の信念ですね」
スタイルズ卿が頷く。
「ならば、あの馬鹿野郎を引き込んだ罪滅ぼしに、俺に協力してほしい」
殿下の言葉に、その場にいた全員が目を見開いた。
周囲が騒然として椅子が倒れる音、足音、叫び声が響く。
「アルバート殿下!」
「殿下!」
見れば、いつの間にか走り込んだ殿下がハートネルの振りかぶった手首を掴み、捻り上げていた。
ハートネルの顔が苦悶に歪み、凄まじい殺気の籠った榛色の瞳で、わたしを睨みつける。
「ひっ……!」
「大丈夫か、エルシー!」
「くっ……そぉおおおお! 放せぇ! この女は俺のものになるはずだったんだ!」
ジョナサン・カーティス大尉とラルフ・シモンズ大尉、そして軍服姿の護衛が素早くハートネルを取り囲み、取り押さえる。
カラン……彼の手から滑り落ちたのは、小さな剃刀。
――本来、議場に武器を持ち込むことは許されない。何とか誤魔化して、手に収まるほどの刃を持ち込んだのだ。
「うわぁあああ! はなせぇええ! 俺のエルシーを、エルシーを返せぇえええ!」
獣のような唸り声をあげながら、数人の屈強な兵士に両側から取り押さえられ、強引に引きずられていくハートネルを、わたしは茫然と見送るしかない。殿下がわたしを振返り、抱き寄せた。
「……すまない、俺のせいだ……」
「リジー……」
あまりのことにわたしの理解は追い付かず、ただ殿下の胸に寄り添えば、その体温にホッとする。
ざわついていた議場で、議長が一生懸命、木槌で叩いている。
「静粛に! 静粛に!」
カンカンカンカンと、響く音をかき消すように議場は騒然となっていた。
「前代未聞だ! 神聖な議会で、男女のもつれからの刃傷沙汰など!」
「やっぱりあの女は魔性だ! 男を狂わせる! 王妃だなんて、とんでもない!」
「いやそもそも、あんな男を証人として引き込むなんて、スタイルズ卿も――」
「静粛に! 静粛に! 静粛に!」
やはり茫然としていたスタイルズ卿が我に返ったのか、議長に大声で呼びかける。
「議長! いったん、休廷に!」
「休廷! 再開は三十分後に――!」
議長が休廷を宣言し、議員たちが立ちあがり、引けていく。
殿下はわたしをもう一度抱きしめ、深いため息をついた。
わたしたちが通されたのは、王族用の控室。――その部屋をわたしに使用させることさえ、首相は初め拒んだらしいのだけれど、さすがにアルバート殿下がブチ切れて、招致に応じずに国外に出ると言い出し、王太子殿下が間に入って、使用を認めさせたのだとか。
首相の頑な態度には野党だけでなく、与党の保守党の議員からも疑問の声が上がっているという。
「ウォルシンガムの、ステファニー嬢への溺愛は普通ではなくてね」
そう言うのは、控室で待っていた、王太子フィリップ殿下。今日の議会には出席しないものの、様子は見に来たのだ。
「たしかに国法では、結婚には承認が必要となっているが、国王の勅書を覆す権能など、そもそも議会にはないはずなのに。父上も不快感を表明なさっている」
王太子殿下の言葉に、三人掛けのソファにどさりと腰を下ろし、わたしの腕を引っ張って隣に座らせながら、殿下が呆れたように言う。
「ウォルシンガムのステファニーへの愛情は異常だ。あいつは、許されるならば自分がステファニーと結婚したかったんだ」
「バーティ、言い過ぎだ」
王太子殿下が窘め、わたしに説明する。
「ステファニーの母親はウォルシンガムの妹で……そもそも、ウォルシンガムは妹を溺愛していたんだ」
「でも、同じ姪でもアリスンには普通だ。ステファニーにだけ、異常なんだ」
とにかく、首相のバーソロミュー・ウォルシンガム卿は、王宮舞踏会のような公式の場で、愛する姪のステファニー嬢を辱めた殿下と、わたしが許せないのだろう。
「だが正直、首相のやりようは常軌を逸している。強引な婚約承認のやり口といい、今度の国会招致といい、姪可愛さに私情をさしはさみ過ぎていると、閣僚からも不満が出ていてね」
王太子殿下が目の前に置かれた熱い紅茶に砂糖を入れ、混ぜながら言う。
「もともと、議員たちは勝手な婚姻を強行したバーティとエルスペス嬢に軽くお灸を据え、議会でバーティをちょっとだけ絞ってやるつもりだったのに、首相が強硬に、エルスペス嬢の招致をねじ込んだ。若い娘を議会で質問攻めにするなんて、あんまりだと、反対意見もかなりあった。中には、『ついでにレコンフィールド公爵令嬢をも招致して、直接対決させるかね?』と皮肉を言った者もいたそうだよ。だから、君が首相に堂々と言い返して、むしろ首相を遣り込めて、いい気味、というところだろうね」
「……つまり、老紳士がたに責められて、涙の一つも零せば、首相は満足だったってことかしら?」
だとしたら本当に、わたしというよりは、女を馬鹿にしていると思う。でもわたしはそんなことで泣いたりはしない。なぜなら、国と言うものが身勝手で、理不尽だと嫌というほど理解させられたから。
「それより、オーソン・スタイルズはハートネルを呼び込んで、何をするつもりだったんだ。しかもあんな……」
アルバート殿下が言ったとき、コンコンと扉をノックする音がして、ジョナサン・カーティス大尉が顔を出した。
「殿下……マールバラ公爵閣下と、その……オーソン・スタイルズ卿がお見えです。お話があると……」
入ってきたオーソン・スタイルズ卿が、わたしとアルバート殿下、そして王太子殿下の姿を見て、深く腰を折った。
「このたびは本当に、当方の不手際で危険な目に遭わせて申し訳なかった。身体検査は十分にしたはずだったのですが――」
「あの馬鹿野郎については、調査を待ってからにする。そんな口だけの謝罪はいらん。あの馬鹿野郎を引き込んだ目的を教えろ」
アルバート殿下が言い、王太子殿下の指示で、マールバラ公爵とスタイルズ卿がそれぞれ一人がけの椅子をすすめられる。
スタイルズ卿は大げさに肩を竦めてから言う。
「まさかあんな馬鹿をやるとは思わなかったのですよ。私としては、アルバート殿下の評判を下げ、女王を認める継承法の改正案を待望するような空気を作りたかっただけで」
王太子殿下が溜息をつく。
「オーソン、前から言っているが、私も父上も、レイチェルを女王にするのは反対だ。国王は男にも過酷な立場だ。ただでさえ王家に生まれ、これから先、いろいろな苦労を背負うはずの娘たちに、さらに重い荷物を負わせたくはない」
「しかし、女性の社会進出も進んだこの世の中で、あくまで男子の継承に拘る我が国は、時代遅れの烙印を押されますよ。これからは男女平等です。……いえ、すぐには無理だとしても、女性の尊重を訴えるためにも、女性への王位継承を認めるべきです」
スタイルズ卿の言葉に、殿下が吐き捨てるように言う。
「俺はレイチェルが女王になっても別にいいと思っている……というか、俺は国王になりたくないから、むしろ賛成だが、俺の評判を下げる必要性が謎だ。しかもエルシーを巻き込み、あのクソ野郎まで引き込んで。もしあの時、俺の反応が遅れて、エルシーに傷でもついていたら、俺は議場で機関銃を乱射するぞ、クソッタレが!」
「冗談でも物騒な発言はやめたまえ、アルバート。女性の前だぞ」
マールバラ公爵に咎められ、殿下はわたしをちらりと見、肩を竦める。
「……要するに、俺が没落した貴族令嬢を強姦したクソ野郎だと糾弾するつもりで、ハートネルを連れてきれみれば、やつが刃物を振り回してさらに大変なことになった……と」
「ええ……全く。私まで非難の動議にかけられそうですよ」
「そりゃそうだろ。議場に刃物を持ち込み、さらに証人に襲い掛かるなんて、前代未聞だ」
「いや、昔は割とあったらしいぞ? 五十年ほど前だが、頭のおかしくなった貴族が、剣を抜いて暴れまわり――」
マールバラ公爵が話してくれた凄惨な事件の後、武器の持ち込みが禁じられたそうだ。
「まあ、それでも、オーソンには厳重注意が行くだろうなあ。オーソンはそもそも、人が良すぎるんだよ」
「まさか、刃物を振り回して女性を襲うなんて、想像もできなくて……」
王太子殿下がスタイルズ卿に言い、スタイルズ卿も項垂れる。
レイチェル王女ら、女性への継承を求めるスタイルズ卿ら自由党は、ハートネルの証言から、わたし、エルスペス・アシュバートンは、祖母の入院費のためにアルバート王子の愛人となった気の毒な女性であって、そこから、王家も含めて女性にも継承権を認めるべきだ、という方向に話を誘導するつもりだったらしい。
「ついでに、アルバート王子は女性の敵だって言う印象を擦りこめば、アルバート殿下よりもレイチェル王女に!……という風に世論が靡かないかなーと」
「……殺すぞ!」
アルバート殿下が金色の瞳をギラギラさせて、スタイルズ卿を睨みつける。
「オーソン。……きっかけはともかく、エルスペス嬢とバーティは上手くいっているんだよ、それを政治的な理由でひっかきまわすのは、私も反対だ」
王太子殿下が言い、スタイルズ卿はわたしに向かい、頭を下げた。
「いや、本当に申し訳なかった、レディ・エルスペス。怪我がなくてホッとした」
「……ハートネルはどうなります?」
わたしが問えば、男性陣が顔を見合わせる。
「議会で刃物を振るったわけだから……」
「幸い、怪我をした者はいなかったが、厳しい処罰が下るだろうな」
「少し頭がおかしかったんじゃないか? 目がイってたぞ?」
「警察に引き取ってもらいましたが、精神病院に入ることになるかも」
わたしは何とも言えない気分になり、つい、俯いた。――もともと彼は陸軍中尉として、そこそこエリート街道を走っていたはずなのに。
その様子を見た殿下が、わたしの肩を抱き寄せて言う。
「エルシーのせいじゃない。……あいつは、友人の三流紙のゴシップ記者を使って、自分とエルシーは相思相愛だったのに、俺に力ずくで奪われた、なんて嘘っぱちを振りまいていたんだ。気にするな」
「リジー……」
殿下はわたしを抱き寄せたまま、スタイルズ卿を見て、言った。
「……さっき、王家も含めて女性にも継承権を認めるべきだと言ったな?」
「ええ。それは自由党……というか、私の信念ですね」
スタイルズ卿が頷く。
「ならば、あの馬鹿野郎を引き込んだ罪滅ぼしに、俺に協力してほしい」
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