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第三章
糾弾
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ハートネルは落ち着いた顔色でまっすぐに顔をあげ、わたしと、それから殿下を見た。
わたしがちらりと殿下を見たが、殿下は表向き、表情を変えなかった。――予想していたのかもしれない。
スタイルズ卿はハートネルに向かい、尋ねる。
「ニコラス・ハートネル。……元陸軍中尉だね」
「そうです、スタイルズ卿」
「グラスール子爵の三男、と手元の資料にはあるが」
「その通りです」
「現在の勤務先は?」
「金融街の……ウィルソン証券会社で働いています」
「軍を退役したのは、最近?」
スタイルズ卿の質問に、ハートネルは淡々と答えた。
「はい。退役したのは十月です。八月に第一司令部から第二司令部に異動になったんですが、その……居づらくなって」
「何かあったのですか?」
ハートネルはわたしを見て、それから殿下を見た。
「……ええ。僕は戦地で補給を担当していましたが、四月に傷病兵を引率する形で王都に戻り、そのまま第一司令部勤務になりました。本部付きで……そこで彼女と知り合った」
「彼女?」
「ミス・エルスペス・アシュバートン」
議場がざわりと揺れる。
「知り合いになった」
「ええ、家の方向が同じで……彼女は三十分以上かけて、歩いて通勤していたんです。身持ちが堅いことで有名で、『氷漬けの処女』なんて呼ばれてね。なかなか振り向いてもらえなかった」
ハートネルが言う。
「それでも、僕は彼女の家族について情報を集めたり、必死でしたよ。病気の祖母がいて、使用人二人と四人家族の家計を、彼女一人で支えていて――僕は彼女の力になりたくて、少しずつ親しくなり、僕は彼女に結婚を申し込んだ」
ざわざわと議場がさざめく。スタイルズ卿がさらに尋ねる。
「求婚したんだね、彼女の返事は?」
わたしはギョッとしてスタイルズ卿を見た。――たしかに、求婚はされたけれど、返事は――。
ハートネルは溜息交じりに言う。
「エルシーは答えようとしたんです。ところが、ちょうど通りかかったアルバート殿下が、彼女を攫うように馬車に引きずり込んで、連れ去ってしまった」
ハートネルが殿下を睨みながら言う。
「その直後です。エルシーの祖母が入院して、彼女は家を出て、アルバート殿下が所有するアパートメントに移って……数日後に会った時、彼女は真っ青な顔をしていました。何があったのか僕は彼女を問い詰めて――その時は頭に血が上って、彼女に裏切られたと思い、責めてしまったけれど、僕は――」
辛そうに顔を片手で覆うハートネルの姿に、議場の同情が集まる。ついでに、わたしには冷たい視線が。
スタイルズ卿が、わたしを見て、尋ねる。
「レディ・エルスペス、君はハートネルを裏切ったのか?」
「ええ? まさか! わたくしとハートネル中尉はなんでもありません! 断じて!」
「でも求婚を受けた?」
「求婚はされましたが、返事はしていません」
わたしが慌てて首を振ると、スタイルズ卿がさらに切り込んでくる。
「どうして、返事をしなかった」
「その……」
わたしはチラリと殿下を見てから、言った。
「ちょうど殿下の馬車が通りかかり、一緒に出勤するように命じられて……そのままになりましたが、でも……」
わたしは議場を見回しながら、大きく息を吸い、言った。
「おそらくお断りしたと思います」
「おそらく、というのは、求婚を受ける余地もあった、ということ?」
わたしは一瞬、言い淀んだけれど、正直に言った。
「結婚は将来の大事ですから、祖母の許しなく決めることはできません。その時迷ったのは、祖母がどう思うか、一瞬、考えてしまったからです。……その直後に祖母が倒れてしまい、わたくしの状況は大きく変わりましたので」
「祖母君は、王立療養院の、貴族用の特別室に入院した。――君の給料じゃあ、支払えるはずのない入院費用と治療費を、アルバート殿下に肩代わりしてもらった。そうだね?」
その通りなので、わたしはゴクリと唾を飲み込んだ。
「君はさっき、首相への答弁でこう、答えた。『食べるにもカツカツの状況だった』と。それなのに、祖母君は貴族用の特別室に入院させた。その費用が法外だということだって、当然、知っていたのにね? もちろん――」
スタイルズ卿は視線を動かし、まっすぐにアルバート殿下を見た。
「アルバート殿下だって、ご承知だったでしょう。ご自分の秘書官だ。どの程度の俸給かはわかっている」
殿下は手を挙げ、議長に発言を求める。
「レディ・ウルスラ・アシュバートンは、俺を庇って死んだマックスの母親だ。もう七十を越して、一般病棟で我慢できるわけがないと思い、貴族用の棟を押えた。もちろん、金は初めから俺が支払うつもりで――」
「ではなぜ、レディ・エルスペスを自身の所有するアパートメントに滞在させたのです? ホテルを手配するとか、他の手段はいくらでもあった。……そもそも、そのアパートメントを購入したのも七月の半ば、レディ・エルスペスと付き合い始めてからだ」
スタイルズ卿がじっと殿下を見つめる。
「……祖母の入院費用を盾に、彼女に関係を迫ったのですね?」
ズバリと切り込んだスタイルズ卿に、議場がどよめく。殿下は一瞬、眉を動かしたが、あっさり頷いた。
「もともと、彼女に求婚するつもりでいた。ちょっと順番が前後するだけだし――」
「本来、貴族の結婚であれば、正々堂々と求婚し、婚礼まで純潔を守るのが筋でしょう?」
「しかし、ハートネルもうろついていたし、その頃はステファニーと婚約しろとレコンフィールド公爵にも詰め寄られていたんだ。エルシーと既成事実ができれば、父上も結婚の許可を出しやすいと思ったが――」
殿下が気まずそうにわたしと、それからレコンフィールド公爵、そして首相を見る。
「当てが外れたんですね。むしろ、公爵と首相はムキになって、ステファニー嬢との結婚を迫ってきた」
スタイルズ卿の言葉に、殿下が眉を寄せる。
「……継承権が云々と脅しをかけてきたが、俺はそもそも継承権など放棄すると言って、完全に決裂した」
殿下が言えば、スタイルズ卿も一瞬、眉間に皺をよせ、頷いた。
「そう、あなたは継承権はいらないと言い出した。……ちょうど水面下では、女児への王位継承を認める法案を提出する、しないという話になり、一方ではグリージャ王家からエヴァンジェリア王女との結婚話が持ち上がっていた。女王の継承に反対する一派にとっては、今、あなたに王位継承権を放棄されては困る。あなたにはしかるべき結婚をして、男児を産んでいただかねばならない。――もっとも都合のよい相手がレコンフィールド公爵令嬢だった」
スタイルズ卿は、そこでわたしを見た。
「……現在はともかく、当時のレディ・エルスペスは前伯爵の娘とはいえ、領地の財産もなく、経済的に困窮していて、とてもじゃないが王妃候補になんて推せない」
スタイルズ卿の言葉はその通りだった。……正直、リンドホルム領を引き継いだ現在でも、わたしは王子妃として前例にないほど、格が足りない。領地も財産もなく、病気の祖母を抱えたわたしを、国王陛下が殿下の妃として認めるなんて、あり得ない。
「なぜ、レディ・エルスペスとの結婚を、国王陛下が許可すると考えたんです?既成事実があろうがなかろうが、到底、認められないと、普通は考えるのでは?」
スタイルズ卿の問いかけに、殿下は不愉快そうに眼を細め、言った。
「レディ・エルスペスは命の恩人であるマックス・アシュバートンの娘だし、父上はマックスを信頼して、わざわざ俺につけたのだ。そもそも、俺は国王になるつもりもなく、むしろ俺が継承権を放棄してでもエルシーと結婚すると言い出せば、父上には都合がいいと思ったんだ。――揉めることなく、レイチェルを女王にできるから」
ざわっと議場がどよめく。
レイチェル王女は十歳になる、王太子夫妻の長女。女児にも継承権を認めれば、三人の王女たちの方が、継承順位は殿下よりも高くなる。
「嘘ですな」
しかし、スタイルズ卿はすっぱりと否定する。
「女王の即位を認める継承権の改正案に、最も強硬に反対しておられるのは、国王陛下です」
すっぱりと断言するスタイルズ卿に、殿下が言葉を失う。
「国王陛下が、あなたの即位を望んでおり、あなたの継承権の放棄が許されないことを、帰国後のやり取りで、十分、おわかりだったはずだ。にもかかわらず――」
スタイルズ卿はわたしを見て、それから殿下を糾弾した。
「あなたは到底、結婚が許されそうもない、貴族爵位を失った女性を経済的に追い込んだ。わざと高額な費用のかかる病室に祖母を入院させ、その金を盾に彼女の貞操を奪った。彼女が愛人と蔑まれることを理解した上で」
「それは――俺はエルシー以外と結婚するつもりがなかったからだ。正直に言えば、エルシーが不名誉な噂を立てられることはわかっていた。でも、スキャンダルになれば、レコンフィールド公爵もステファニーも、俺との結婚をあっさり諦め、父上は俺への継承を諦めて、レイチェルへ継承法の改正案を認めると思ったんだ」
殿下はわたしを気まずげに見て、肩を竦める。
「俺はもともと、エルシーとの結婚がこんな面倒な反対を受けるなんて思わなかった。彼女を愛していたし、他に奪われるよりはと――」
ガタン、とハートネルが立ちあがる。
「女性が純潔を失えば、どんな扱いを受けるか、理解していたのに! 僕と結婚した方が、絶対に幸せになれると、あなただってわかっていたったはずなのに! 愛人じゃない、って言い張っても、結局愛人じゃないか! こんな風に議会にまで召喚され、無遠慮な視線にさらされて! つまり、アンタが欲に負けただけの話だ!この最低野郎が!」
ハートネルの王子に対する暴言に議場は騒然となり、議長がカンカンと木槌を打ち、ハートネルを窘める。
「静粛に! 証人、発言の許可は与えていないぞ!」
「エルシー! 僕は君が汚されていようが、君を愛している! 君だけなんだ! 僕のところに戻ってきてくれ! エルシーィいいい!」
ハートネルが絶叫してわたしのところに駆け込んでくる。わたしはどうしていいかわからず、固まっていると、その手元が電灯の明かりを反射して、キラリと光った。
「!!」
何が――。
茫然とするわたしに光る刃が振り下ろされる――。
わたしがちらりと殿下を見たが、殿下は表向き、表情を変えなかった。――予想していたのかもしれない。
スタイルズ卿はハートネルに向かい、尋ねる。
「ニコラス・ハートネル。……元陸軍中尉だね」
「そうです、スタイルズ卿」
「グラスール子爵の三男、と手元の資料にはあるが」
「その通りです」
「現在の勤務先は?」
「金融街の……ウィルソン証券会社で働いています」
「軍を退役したのは、最近?」
スタイルズ卿の質問に、ハートネルは淡々と答えた。
「はい。退役したのは十月です。八月に第一司令部から第二司令部に異動になったんですが、その……居づらくなって」
「何かあったのですか?」
ハートネルはわたしを見て、それから殿下を見た。
「……ええ。僕は戦地で補給を担当していましたが、四月に傷病兵を引率する形で王都に戻り、そのまま第一司令部勤務になりました。本部付きで……そこで彼女と知り合った」
「彼女?」
「ミス・エルスペス・アシュバートン」
議場がざわりと揺れる。
「知り合いになった」
「ええ、家の方向が同じで……彼女は三十分以上かけて、歩いて通勤していたんです。身持ちが堅いことで有名で、『氷漬けの処女』なんて呼ばれてね。なかなか振り向いてもらえなかった」
ハートネルが言う。
「それでも、僕は彼女の家族について情報を集めたり、必死でしたよ。病気の祖母がいて、使用人二人と四人家族の家計を、彼女一人で支えていて――僕は彼女の力になりたくて、少しずつ親しくなり、僕は彼女に結婚を申し込んだ」
ざわざわと議場がさざめく。スタイルズ卿がさらに尋ねる。
「求婚したんだね、彼女の返事は?」
わたしはギョッとしてスタイルズ卿を見た。――たしかに、求婚はされたけれど、返事は――。
ハートネルは溜息交じりに言う。
「エルシーは答えようとしたんです。ところが、ちょうど通りかかったアルバート殿下が、彼女を攫うように馬車に引きずり込んで、連れ去ってしまった」
ハートネルが殿下を睨みながら言う。
「その直後です。エルシーの祖母が入院して、彼女は家を出て、アルバート殿下が所有するアパートメントに移って……数日後に会った時、彼女は真っ青な顔をしていました。何があったのか僕は彼女を問い詰めて――その時は頭に血が上って、彼女に裏切られたと思い、責めてしまったけれど、僕は――」
辛そうに顔を片手で覆うハートネルの姿に、議場の同情が集まる。ついでに、わたしには冷たい視線が。
スタイルズ卿が、わたしを見て、尋ねる。
「レディ・エルスペス、君はハートネルを裏切ったのか?」
「ええ? まさか! わたくしとハートネル中尉はなんでもありません! 断じて!」
「でも求婚を受けた?」
「求婚はされましたが、返事はしていません」
わたしが慌てて首を振ると、スタイルズ卿がさらに切り込んでくる。
「どうして、返事をしなかった」
「その……」
わたしはチラリと殿下を見てから、言った。
「ちょうど殿下の馬車が通りかかり、一緒に出勤するように命じられて……そのままになりましたが、でも……」
わたしは議場を見回しながら、大きく息を吸い、言った。
「おそらくお断りしたと思います」
「おそらく、というのは、求婚を受ける余地もあった、ということ?」
わたしは一瞬、言い淀んだけれど、正直に言った。
「結婚は将来の大事ですから、祖母の許しなく決めることはできません。その時迷ったのは、祖母がどう思うか、一瞬、考えてしまったからです。……その直後に祖母が倒れてしまい、わたくしの状況は大きく変わりましたので」
「祖母君は、王立療養院の、貴族用の特別室に入院した。――君の給料じゃあ、支払えるはずのない入院費用と治療費を、アルバート殿下に肩代わりしてもらった。そうだね?」
その通りなので、わたしはゴクリと唾を飲み込んだ。
「君はさっき、首相への答弁でこう、答えた。『食べるにもカツカツの状況だった』と。それなのに、祖母君は貴族用の特別室に入院させた。その費用が法外だということだって、当然、知っていたのにね? もちろん――」
スタイルズ卿は視線を動かし、まっすぐにアルバート殿下を見た。
「アルバート殿下だって、ご承知だったでしょう。ご自分の秘書官だ。どの程度の俸給かはわかっている」
殿下は手を挙げ、議長に発言を求める。
「レディ・ウルスラ・アシュバートンは、俺を庇って死んだマックスの母親だ。もう七十を越して、一般病棟で我慢できるわけがないと思い、貴族用の棟を押えた。もちろん、金は初めから俺が支払うつもりで――」
「ではなぜ、レディ・エルスペスを自身の所有するアパートメントに滞在させたのです? ホテルを手配するとか、他の手段はいくらでもあった。……そもそも、そのアパートメントを購入したのも七月の半ば、レディ・エルスペスと付き合い始めてからだ」
スタイルズ卿がじっと殿下を見つめる。
「……祖母の入院費用を盾に、彼女に関係を迫ったのですね?」
ズバリと切り込んだスタイルズ卿に、議場がどよめく。殿下は一瞬、眉を動かしたが、あっさり頷いた。
「もともと、彼女に求婚するつもりでいた。ちょっと順番が前後するだけだし――」
「本来、貴族の結婚であれば、正々堂々と求婚し、婚礼まで純潔を守るのが筋でしょう?」
「しかし、ハートネルもうろついていたし、その頃はステファニーと婚約しろとレコンフィールド公爵にも詰め寄られていたんだ。エルシーと既成事実ができれば、父上も結婚の許可を出しやすいと思ったが――」
殿下が気まずそうにわたしと、それからレコンフィールド公爵、そして首相を見る。
「当てが外れたんですね。むしろ、公爵と首相はムキになって、ステファニー嬢との結婚を迫ってきた」
スタイルズ卿の言葉に、殿下が眉を寄せる。
「……継承権が云々と脅しをかけてきたが、俺はそもそも継承権など放棄すると言って、完全に決裂した」
殿下が言えば、スタイルズ卿も一瞬、眉間に皺をよせ、頷いた。
「そう、あなたは継承権はいらないと言い出した。……ちょうど水面下では、女児への王位継承を認める法案を提出する、しないという話になり、一方ではグリージャ王家からエヴァンジェリア王女との結婚話が持ち上がっていた。女王の継承に反対する一派にとっては、今、あなたに王位継承権を放棄されては困る。あなたにはしかるべき結婚をして、男児を産んでいただかねばならない。――もっとも都合のよい相手がレコンフィールド公爵令嬢だった」
スタイルズ卿は、そこでわたしを見た。
「……現在はともかく、当時のレディ・エルスペスは前伯爵の娘とはいえ、領地の財産もなく、経済的に困窮していて、とてもじゃないが王妃候補になんて推せない」
スタイルズ卿の言葉はその通りだった。……正直、リンドホルム領を引き継いだ現在でも、わたしは王子妃として前例にないほど、格が足りない。領地も財産もなく、病気の祖母を抱えたわたしを、国王陛下が殿下の妃として認めるなんて、あり得ない。
「なぜ、レディ・エルスペスとの結婚を、国王陛下が許可すると考えたんです?既成事実があろうがなかろうが、到底、認められないと、普通は考えるのでは?」
スタイルズ卿の問いかけに、殿下は不愉快そうに眼を細め、言った。
「レディ・エルスペスは命の恩人であるマックス・アシュバートンの娘だし、父上はマックスを信頼して、わざわざ俺につけたのだ。そもそも、俺は国王になるつもりもなく、むしろ俺が継承権を放棄してでもエルシーと結婚すると言い出せば、父上には都合がいいと思ったんだ。――揉めることなく、レイチェルを女王にできるから」
ざわっと議場がどよめく。
レイチェル王女は十歳になる、王太子夫妻の長女。女児にも継承権を認めれば、三人の王女たちの方が、継承順位は殿下よりも高くなる。
「嘘ですな」
しかし、スタイルズ卿はすっぱりと否定する。
「女王の即位を認める継承権の改正案に、最も強硬に反対しておられるのは、国王陛下です」
すっぱりと断言するスタイルズ卿に、殿下が言葉を失う。
「国王陛下が、あなたの即位を望んでおり、あなたの継承権の放棄が許されないことを、帰国後のやり取りで、十分、おわかりだったはずだ。にもかかわらず――」
スタイルズ卿はわたしを見て、それから殿下を糾弾した。
「あなたは到底、結婚が許されそうもない、貴族爵位を失った女性を経済的に追い込んだ。わざと高額な費用のかかる病室に祖母を入院させ、その金を盾に彼女の貞操を奪った。彼女が愛人と蔑まれることを理解した上で」
「それは――俺はエルシー以外と結婚するつもりがなかったからだ。正直に言えば、エルシーが不名誉な噂を立てられることはわかっていた。でも、スキャンダルになれば、レコンフィールド公爵もステファニーも、俺との結婚をあっさり諦め、父上は俺への継承を諦めて、レイチェルへ継承法の改正案を認めると思ったんだ」
殿下はわたしを気まずげに見て、肩を竦める。
「俺はもともと、エルシーとの結婚がこんな面倒な反対を受けるなんて思わなかった。彼女を愛していたし、他に奪われるよりはと――」
ガタン、とハートネルが立ちあがる。
「女性が純潔を失えば、どんな扱いを受けるか、理解していたのに! 僕と結婚した方が、絶対に幸せになれると、あなただってわかっていたったはずなのに! 愛人じゃない、って言い張っても、結局愛人じゃないか! こんな風に議会にまで召喚され、無遠慮な視線にさらされて! つまり、アンタが欲に負けただけの話だ!この最低野郎が!」
ハートネルの王子に対する暴言に議場は騒然となり、議長がカンカンと木槌を打ち、ハートネルを窘める。
「静粛に! 証人、発言の許可は与えていないぞ!」
「エルシー! 僕は君が汚されていようが、君を愛している! 君だけなんだ! 僕のところに戻ってきてくれ! エルシーィいいい!」
ハートネルが絶叫してわたしのところに駆け込んでくる。わたしはどうしていいかわからず、固まっていると、その手元が電灯の明かりを反射して、キラリと光った。
「!!」
何が――。
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