152 / 190
第三章
長画廊
しおりを挟む
「ごきげんよう、マールバラ公爵閣下、それからヴァイオレット夫人」
絵画がいくつも飾られた、細長い長画廊の途中、すれ違うかと思った集団は互いに足を止めた。
「ごきげんよう、レディ・ステファニー。相変わらずお美しい」
マールバラ公爵が老獪に言い、ステファニー嬢はふわりと広がったスカートをちらりと持ち上げ、上品に礼をした。
「……謁見を済ませていらっしゃったの、本日がデビューとうかがいましたわ」
ステファニー嬢がちらりとわたしを見てから言う。
「ええ、そうです。相続の挨拶でね」
ステファニー嬢がわたしをまっすぐに見た。
「おめでとうございます、レディ・アシュバートン。……リンドホルム伯爵、でしたかしら」
「恐れ入ります」
わたしが静かに頭を下げる。
「お久しぶりね、エルスペス嬢。いつぞやは失礼を」
ステファニー嬢の言葉に、取り巻きの令嬢が言う。
「わたくしは初めておめもじいたしますの。ステファニー、わたくしにも紹介してくださいな」
「ええ、ミス・エルスペス・アシュバートンよ。リンドホルム伯爵の爵位を取り戻した、噂のご令嬢。……こちらは、わたくしの友人、シュタイナー伯爵家の、ミス・ミランダ・コートウォールよ」
「はじめまして、ミス・アシュバートン?」
シュタイナー伯爵令嬢と紹介されたミランダ嬢は、ブルネットの髪を綺麗にまとめ上げ、コーラル・ピンクの派手なドレスを着ている。
「はじめまして」
わたしは薄く微笑んで、膝を折って礼を取る。彼女の腰に手を回している男性に、以前に会ったことがあると思い、首を傾げ、思い出す。
「……ええと、アイザック・グレンジャー卿、でしたわね。いつぞやはどうも」
「ああ、先日はどうも」
グレンジャー卿が気まずそうに言えば、ミランダ嬢が面白そうに言う。
「あら、お会いしたことがあったの?」
「――ああ、ほんの、立ち話だがね」
ミランダ嬢が手にした扇を口元に添え、からかうように言う。
「まあ、アイザックが憶えているのはわかるわ、こんな美人ですもの。でも、エルスペス嬢がアイザックを憶えていたのは意外だわ。……男性の顔と名前、よく憶えていらっしゃるのね。職業柄かしら」
含みのある言い方に、ブルック中尉が何か言おうとするのをわたしは咄嗟に止め、微笑んだ。
「そりゃあ、あれだけ罵られれば覚えますわ。ついでに、あなたのお名前も記憶しておりましたわ、ミランダ嬢。だって、わたくしと伯爵令嬢である、あなたを一緒にするなって叱られましたもの。……ほんと、わたくし、自分の運の悪さを呪いたくなりましてよ。ただ、父親が戦死しただけですのに、父親が生きている方とは天と地ほどの開きができるんですって!」
アイザック卿が気まずそうに視線を彷徨わせ、言った。
「あの時のことは、申し訳ないと思っている。その後、謝罪をしたかったが、アルバート殿下には絶交を宣言されてしまったから……」
「そうですの。もう今さらどうでもよろしいですわ」
わたしがすげなく言えば、別の方向から声が上がった。
「ステファニー様、わたくしにもご紹介くださいまし。だって、ここのところの王都の、一番の噂の方ですもの」
「そうね、この方はセーラ嬢とおっしゃるの。マッケンジー侯爵のご令嬢よ?わたくしの姉アリスンの、夫の妹ですの」
「どうぞよろしく」
ステファニー嬢が、すぐ後ろの令嬢を優雅に指す。マッケンジー侯爵令嬢と紹介されたセーラ嬢は、やや赤い髪にターバンを巻き、目の覚めるようなエメラルド・グリーンのドレスを着ている。他の令嬢がふわりとしたスカートのドレスなのに対し、彼女は直線的な現代風シルエットの、異国風ドレスだ。
挨拶され、舐めるような視線で見られて、わたしはいつもの、古代の彫刻のような笑顔で応じる。
「本当に綺麗な方ね。魔性の女って噂がピッタリだわ。出会う男性をすべて惹きつけ、不幸にしてしまうなんて」
「セーラ!」
ステファニー嬢の背後から、やや鋭い女性の声が飛ぶ。
「おやめなさい。そんなことを言うものではないわ」
「あら、だってお義姉様。新聞で読みましたわ! リンドホルム伯爵家の恐ろしい事件について! まだ若い弟さんが毒殺されて……美しき姉に魅了され、恋い焦がれた親族の男と、なんと執事まで!」
「セーラ! いい加減に……」
「アリスン、気になるわ、そのお話。弟さんが毒殺され、最近、ようやく犯人が暴かれた。……アルバート殿下のご尽力で、そうでしょう?」
ステファニー嬢が言い、アリスンと呼ばれた女性――どうやら、ステファニー嬢の姉らしい――が困ったように周囲を見る。
「……殺人事件の話など、王宮でするべきとは思えんがね」
マールバラ公爵が苦々しい表情で咎めるが、セーラ嬢は気が強いのか、遠慮するつもりはないらしい。
「でも、恐ろしいじゃありませんの! ある新聞なんて、実は悲劇のヒロインのようなその姉こそが、男たちを惑わして、弟に毒を盛らせた真犯人じゃないかって!」
得意気に語るセーラ嬢に、常識的な感覚を持っていると思しき、レディ・アリスンは真っ青になってしまった。わたしの周囲の、カーティス大尉も、ブルック大尉も、あまりのことにギョッとして顔が引きつっている。ヴァイオレット夫人がさすがの年の功で、無邪気に言う。
「あら、そんな記事がありまして? いくら何でも荒唐無稽に過ぎるのではなくて? お若い方はそういう、過激なものを好まれるのかもしれないけれど」
「でも、書いてありましたもの。わたくし、実際に読みましたわ。男たちを誑かし、弟をも手にかけた、恐ろしい毒婦の話を。火のないところに煙は立たないって申しますもの。ねえ、エルスペス嬢? あなたはその記事はご存知ないの?」
まるで、真犯人とバレないうちに、とっとと逃げた方がいいんじゃない、とでも言いたげな口調に、わたしは思わず微笑みが深くなる。そういう記事が出ているのは知っているが、わたし自身は目にしていない。なぜなら――。
「荒唐無稽な推理を開陳している、ゴシップ紙があるとは聞いておりますけど、わたくし自身では見ておりませんので、内容までは。男性の方々が隠して、わたくしには見せてくださいませんのよ。いえね、とんでもなく卑猥でグロテスクな記事ばかり載せている雑誌で、まともな女性が読むものじゃないって脅されてしまいましたの。記事の内容も卑猥すぎて、わたくしには理解できないだろうって。……すごいわ、ご自分でお読みになるなんて。ずいぶん勇気と知識がおありになるのね?」
「なっ……!」
卑猥な記事をよく読んだわね、とからかってやれば、ヴァイオレット夫人が思わず吹き出した。
「あら、そんな記事でしたら、あたくしが知らなくて当然ね。おおいやだ、手に触れるのも勘弁ね。目が腐ってしまいそう。普通の女なら、そう思うわよね? それともお若い方は違うのかしら」
「いやいや、くだらぬ三流のゴシップ紙など、女性が読むものではない! 息子の嫁だったとしたら、ゾッとするな!」
マールバラ公爵夫妻が吐き捨てれば、セーラ嬢は反論もできず、真っ赤になって震えている。――人を殺人犯呼ばわりしたのだから、このぐらい当然だと思う。ビルツホルンの大使のご令嬢もそうだったけれど、ステファニー嬢の周囲には、虎の威を借る狐のように、自らの力量も測らずに人を攻撃する令嬢が多過ぎる。そして反撃されると滅法、弱い。人は守られ過ぎると自身の力を過信し、愚かになるのかもしれない。
言っておくけど、わたしが罠に嵌めたわけではなく、セーラ嬢が自ら、自身で掘った落とし穴に嵌っただけだ。そう思いながら、わたしがステファニー嬢とその取り巻きを見ていると、レディ・アリスンが義妹を引っ張って連れ出して行った。
ステファニー嬢はその様子を厳しい表情で見送ってから、気を取り直すように、わたしに向かって微笑みかけた。
「……失礼、彼女は昨年デビューしたばかりで、まだ若いのよ。弟さんの件、お悔やみ申し上げますわ。真相が暴かれてよかったこと」
「ええ。神様は常に見ていらっしゃると思えました」
わたしの答えに、ステファニー嬢は青い瞳でじっと、わたしを見た。わたしもまっすぐに見返す。
「ただ……弟さんの件を明らかにするために、彼に近づいたの?」
「まさか!……すべての不幸も運命だと受け入れておりましたわ。わたくしから近づいたわけでもありません。わたくしには選択権などなかったのです」
ステファニー嬢の目からは、わたしは掠奪女にしか見えないだろうが、わたしから殿下に取り入ったことはない。……ローズも、そして父も、わたしたちはいつも、約束を反故にされ、理不尽に踏みつけられてきた側だ。ステファニー嬢は何も知らないのだろうが、権力に守られてきたこの人に、非難される謂れなどない。
「以前、お会いしたときにも申し上げましたが、わたくし自身には、恥じるところはございません。……少なくともわたくし、他人のものを奪ってはいません。神が許さない恋をしたわけではありません」
その言葉に、周囲がざわりとするが、わたくしは動じずに、まっすぐにステファニー嬢を見つめた。
「あ、あなた自分が何を言っているか、わかっているの?!」
ミランダ嬢が甲高い声で言うのを、わたしはそちらも見もせず、ただ、ステファニー嬢だけを見つめる。
「ええ、もちろん。……最初から、あなたのものではなかったと、もう気づいていらっしゃるのでしょう?」
わたしの幾分、挑戦的な言葉に、ステファニー嬢は一瞬、金色の睫毛を伏せ、そしてすぐに青い目を見開き、言い切った。
「……そうね。でも、わたくしがこれまで捧げてきた愛は、誰にも奪えない。そうではなくて? 神様は、わたくしの捧げた愛をこそ、遂げさせてくださると信じているわ」
絵画がいくつも飾られた、細長い長画廊の途中、すれ違うかと思った集団は互いに足を止めた。
「ごきげんよう、レディ・ステファニー。相変わらずお美しい」
マールバラ公爵が老獪に言い、ステファニー嬢はふわりと広がったスカートをちらりと持ち上げ、上品に礼をした。
「……謁見を済ませていらっしゃったの、本日がデビューとうかがいましたわ」
ステファニー嬢がちらりとわたしを見てから言う。
「ええ、そうです。相続の挨拶でね」
ステファニー嬢がわたしをまっすぐに見た。
「おめでとうございます、レディ・アシュバートン。……リンドホルム伯爵、でしたかしら」
「恐れ入ります」
わたしが静かに頭を下げる。
「お久しぶりね、エルスペス嬢。いつぞやは失礼を」
ステファニー嬢の言葉に、取り巻きの令嬢が言う。
「わたくしは初めておめもじいたしますの。ステファニー、わたくしにも紹介してくださいな」
「ええ、ミス・エルスペス・アシュバートンよ。リンドホルム伯爵の爵位を取り戻した、噂のご令嬢。……こちらは、わたくしの友人、シュタイナー伯爵家の、ミス・ミランダ・コートウォールよ」
「はじめまして、ミス・アシュバートン?」
シュタイナー伯爵令嬢と紹介されたミランダ嬢は、ブルネットの髪を綺麗にまとめ上げ、コーラル・ピンクの派手なドレスを着ている。
「はじめまして」
わたしは薄く微笑んで、膝を折って礼を取る。彼女の腰に手を回している男性に、以前に会ったことがあると思い、首を傾げ、思い出す。
「……ええと、アイザック・グレンジャー卿、でしたわね。いつぞやはどうも」
「ああ、先日はどうも」
グレンジャー卿が気まずそうに言えば、ミランダ嬢が面白そうに言う。
「あら、お会いしたことがあったの?」
「――ああ、ほんの、立ち話だがね」
ミランダ嬢が手にした扇を口元に添え、からかうように言う。
「まあ、アイザックが憶えているのはわかるわ、こんな美人ですもの。でも、エルスペス嬢がアイザックを憶えていたのは意外だわ。……男性の顔と名前、よく憶えていらっしゃるのね。職業柄かしら」
含みのある言い方に、ブルック中尉が何か言おうとするのをわたしは咄嗟に止め、微笑んだ。
「そりゃあ、あれだけ罵られれば覚えますわ。ついでに、あなたのお名前も記憶しておりましたわ、ミランダ嬢。だって、わたくしと伯爵令嬢である、あなたを一緒にするなって叱られましたもの。……ほんと、わたくし、自分の運の悪さを呪いたくなりましてよ。ただ、父親が戦死しただけですのに、父親が生きている方とは天と地ほどの開きができるんですって!」
アイザック卿が気まずそうに視線を彷徨わせ、言った。
「あの時のことは、申し訳ないと思っている。その後、謝罪をしたかったが、アルバート殿下には絶交を宣言されてしまったから……」
「そうですの。もう今さらどうでもよろしいですわ」
わたしがすげなく言えば、別の方向から声が上がった。
「ステファニー様、わたくしにもご紹介くださいまし。だって、ここのところの王都の、一番の噂の方ですもの」
「そうね、この方はセーラ嬢とおっしゃるの。マッケンジー侯爵のご令嬢よ?わたくしの姉アリスンの、夫の妹ですの」
「どうぞよろしく」
ステファニー嬢が、すぐ後ろの令嬢を優雅に指す。マッケンジー侯爵令嬢と紹介されたセーラ嬢は、やや赤い髪にターバンを巻き、目の覚めるようなエメラルド・グリーンのドレスを着ている。他の令嬢がふわりとしたスカートのドレスなのに対し、彼女は直線的な現代風シルエットの、異国風ドレスだ。
挨拶され、舐めるような視線で見られて、わたしはいつもの、古代の彫刻のような笑顔で応じる。
「本当に綺麗な方ね。魔性の女って噂がピッタリだわ。出会う男性をすべて惹きつけ、不幸にしてしまうなんて」
「セーラ!」
ステファニー嬢の背後から、やや鋭い女性の声が飛ぶ。
「おやめなさい。そんなことを言うものではないわ」
「あら、だってお義姉様。新聞で読みましたわ! リンドホルム伯爵家の恐ろしい事件について! まだ若い弟さんが毒殺されて……美しき姉に魅了され、恋い焦がれた親族の男と、なんと執事まで!」
「セーラ! いい加減に……」
「アリスン、気になるわ、そのお話。弟さんが毒殺され、最近、ようやく犯人が暴かれた。……アルバート殿下のご尽力で、そうでしょう?」
ステファニー嬢が言い、アリスンと呼ばれた女性――どうやら、ステファニー嬢の姉らしい――が困ったように周囲を見る。
「……殺人事件の話など、王宮でするべきとは思えんがね」
マールバラ公爵が苦々しい表情で咎めるが、セーラ嬢は気が強いのか、遠慮するつもりはないらしい。
「でも、恐ろしいじゃありませんの! ある新聞なんて、実は悲劇のヒロインのようなその姉こそが、男たちを惑わして、弟に毒を盛らせた真犯人じゃないかって!」
得意気に語るセーラ嬢に、常識的な感覚を持っていると思しき、レディ・アリスンは真っ青になってしまった。わたしの周囲の、カーティス大尉も、ブルック大尉も、あまりのことにギョッとして顔が引きつっている。ヴァイオレット夫人がさすがの年の功で、無邪気に言う。
「あら、そんな記事がありまして? いくら何でも荒唐無稽に過ぎるのではなくて? お若い方はそういう、過激なものを好まれるのかもしれないけれど」
「でも、書いてありましたもの。わたくし、実際に読みましたわ。男たちを誑かし、弟をも手にかけた、恐ろしい毒婦の話を。火のないところに煙は立たないって申しますもの。ねえ、エルスペス嬢? あなたはその記事はご存知ないの?」
まるで、真犯人とバレないうちに、とっとと逃げた方がいいんじゃない、とでも言いたげな口調に、わたしは思わず微笑みが深くなる。そういう記事が出ているのは知っているが、わたし自身は目にしていない。なぜなら――。
「荒唐無稽な推理を開陳している、ゴシップ紙があるとは聞いておりますけど、わたくし自身では見ておりませんので、内容までは。男性の方々が隠して、わたくしには見せてくださいませんのよ。いえね、とんでもなく卑猥でグロテスクな記事ばかり載せている雑誌で、まともな女性が読むものじゃないって脅されてしまいましたの。記事の内容も卑猥すぎて、わたくしには理解できないだろうって。……すごいわ、ご自分でお読みになるなんて。ずいぶん勇気と知識がおありになるのね?」
「なっ……!」
卑猥な記事をよく読んだわね、とからかってやれば、ヴァイオレット夫人が思わず吹き出した。
「あら、そんな記事でしたら、あたくしが知らなくて当然ね。おおいやだ、手に触れるのも勘弁ね。目が腐ってしまいそう。普通の女なら、そう思うわよね? それともお若い方は違うのかしら」
「いやいや、くだらぬ三流のゴシップ紙など、女性が読むものではない! 息子の嫁だったとしたら、ゾッとするな!」
マールバラ公爵夫妻が吐き捨てれば、セーラ嬢は反論もできず、真っ赤になって震えている。――人を殺人犯呼ばわりしたのだから、このぐらい当然だと思う。ビルツホルンの大使のご令嬢もそうだったけれど、ステファニー嬢の周囲には、虎の威を借る狐のように、自らの力量も測らずに人を攻撃する令嬢が多過ぎる。そして反撃されると滅法、弱い。人は守られ過ぎると自身の力を過信し、愚かになるのかもしれない。
言っておくけど、わたしが罠に嵌めたわけではなく、セーラ嬢が自ら、自身で掘った落とし穴に嵌っただけだ。そう思いながら、わたしがステファニー嬢とその取り巻きを見ていると、レディ・アリスンが義妹を引っ張って連れ出して行った。
ステファニー嬢はその様子を厳しい表情で見送ってから、気を取り直すように、わたしに向かって微笑みかけた。
「……失礼、彼女は昨年デビューしたばかりで、まだ若いのよ。弟さんの件、お悔やみ申し上げますわ。真相が暴かれてよかったこと」
「ええ。神様は常に見ていらっしゃると思えました」
わたしの答えに、ステファニー嬢は青い瞳でじっと、わたしを見た。わたしもまっすぐに見返す。
「ただ……弟さんの件を明らかにするために、彼に近づいたの?」
「まさか!……すべての不幸も運命だと受け入れておりましたわ。わたくしから近づいたわけでもありません。わたくしには選択権などなかったのです」
ステファニー嬢の目からは、わたしは掠奪女にしか見えないだろうが、わたしから殿下に取り入ったことはない。……ローズも、そして父も、わたしたちはいつも、約束を反故にされ、理不尽に踏みつけられてきた側だ。ステファニー嬢は何も知らないのだろうが、権力に守られてきたこの人に、非難される謂れなどない。
「以前、お会いしたときにも申し上げましたが、わたくし自身には、恥じるところはございません。……少なくともわたくし、他人のものを奪ってはいません。神が許さない恋をしたわけではありません」
その言葉に、周囲がざわりとするが、わたくしは動じずに、まっすぐにステファニー嬢を見つめた。
「あ、あなた自分が何を言っているか、わかっているの?!」
ミランダ嬢が甲高い声で言うのを、わたしはそちらも見もせず、ただ、ステファニー嬢だけを見つめる。
「ええ、もちろん。……最初から、あなたのものではなかったと、もう気づいていらっしゃるのでしょう?」
わたしの幾分、挑戦的な言葉に、ステファニー嬢は一瞬、金色の睫毛を伏せ、そしてすぐに青い目を見開き、言い切った。
「……そうね。でも、わたくしがこれまで捧げてきた愛は、誰にも奪えない。そうではなくて? 神様は、わたくしの捧げた愛をこそ、遂げさせてくださると信じているわ」
15
お気に入りに追加
3,258
あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる