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第二章
夜会
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夜会に備え、わたしは殿下が指定した、藤色の地に全体に銀糸の刺繍を散りばめた、マーメイドラインのイブニング・ドレスを着た。膝下からフリルが広がり、後ろは床を擦るほどの長さ。胸は大きく開いて、やはりフリルがある。胸の形をよく見せる特別な下着を着用したので、普段より胸の谷間が強調されている。でもこのフリルがギリギリで胸を隠すはず……ミス・リーンがかなり念入りに、フリルを調整していたから。
胸元にはダイヤモンドのビブ・ネックレス、涙型の大粒のダイヤのイヤリングに、ドレスと共布の、肘の上まである長手袋。豪華なフリンジのついた手提げ袋に、銀のハイヒール。やや濃いめの化粧を施されて、わたしは鏡の中の自分に思う。
「……少し、派手じゃないかしら……?」
その呟きをハンナが拾い、言った。
「王族の方も出席する夜会ですから、このくらいのお化粧は必要だと思います。もう、少し濃くてもいいくらいです」
「そうね、ありがとう。……こんな会に出るのは初めてだから……」
「すごくお綺麗です。自信を持ってください」
励ましてくれるハンナが不思議で、つい、首を傾げる。
「……ありがとう?」
「わたしの母はこの町の人間で、父はランデル大使館勤務の外交官でした。母は正妻のつもりだったのに、父は実は、本国に妻がいたんですよ。わたしは愛人の子と馬鹿にされて……父はランデルでは男爵だったのに、母とわたしを捨てて本国に帰ったので、こんな仕事しかできません。世の中、愛人は馬鹿にされますが、好きで愛人になるわけじゃなくて、要するに男が悪いんです」
早口のランデル語で言われて、わたしは思わず目を瞠った。
「……申し訳ありません、個人的なことを……」
目を伏せたハンナに、わたしは首を振る。
「いいえ、気にしないで。あなた立派に働いてるわ。恥じることなんて何もないじゃない。とても感謝しているわ。あなたが付いてくれて、本当によかった」
「わたしも、お嬢様のお手伝いができてよかったです」
六時直前に殿下が戻ってきて、着替えを済ませて、コネクティング・ドアからわたしの部屋に入ってきた。夜会用に正装の軍服を身にまとった姿は、一瞬、息が止まるほど格好よかった。
陸軍の軍服は、普段用はシャツにタイに開襟のジャケットだけれど、正装は黒の詰襟に豪華な襟章、金の飾緒と金釦がついて、さらにいくつもの勲章を胸に飾って、うんと煌びやかになる。
お父様の正装の軍服姿の写真は、とても素敵だった。――残念ながら、実物は見たことがないのだけど。
わたしが殿下の正装姿に見惚れていると、殿下もわたしを点検するようにじっと見て、言った。
「きれいだ、エルシー」
「ありがとうございます。……ハンナのおかげです。馬子にも衣装かしら」
「とんでもない。夜会でいろんな男に見せるのが嫌になるな。閉じ込めておきたいくらいだ」
殿下は白手袋を嵌めた手で、わたしの長手袋を嵌めた手を取り、指先に軽くキスをすると、わたしを腕に捕まらせていった。
「じゃあ、行こうか、エルシー。オズワルド小父様が待っている」
わたしたちは、一緒に玄関へと向かった。
同行するのは、大使夫妻と、講和会議の全権大使であるマールバラ公爵、そしてアルバート殿下の随行員としてはジョナサン・カーティス大尉とジェラルド・ブルック中尉、そして護衛のラルフ・シモンズ大尉。カーティス大尉とブルック中尉は会場まで付きそうので、こちらも正装の軍服、シモンズ大尉は会場には入らないので、普段の軍服。大使とマールバラ公爵はテールコートである。
「行ってらっしゃいませ~」
例によって、社交向きでないロベルトさんは留守番だ。馬車数台に分乗し、グルブラン宮殿に乗り付ける。途中、馬車に同乗したマールバラ公爵は、夜会に参加するであろう、アルティニア皇家や、その他、シュルフト帝国の摂政・アクセル大公についての注意事項を話してくれた。
「アクセル大公は有名な女たらしだ。気をつけろ」
「まさか! わたしなんかに声をかけるとは思えません」
「そういう油断が事故を招くのだ」
「……気をつけます」
マールバラ公爵に窘められ、わたしが殊勝に言えば、殿下は少しばかり心配そうな顔をしていた。
「安心しろ、俺はお前の側を離れない。もし、何かあればジョナサンを側に置いておく」
宮殿前は各国からの参列客の、馬車がひしめき合っていた。金モールのついた豪華なお仕着せの、従僕たちが馬車から降りた賓客たちを広間へと捌いていく。まっすぐ続く赤い絨毯、鏡に反射し、煌くシャンデリア。飲まれそうになるのを、深呼吸して堪える。
「大丈夫だ、今夜、一番綺麗なのは、お前だ。……愛してる、エルシー」
耳元で囁かれ、わたしはハッと殿下を見る。――そう、いつもはあんな言葉遣いだけど、王子の軍服で正装した殿下は、やっぱり本物の王子様だった。
「……途中、靴を脱ぎ捨てて逃げ帰っても、靴を拾って迎えにきてくださる?」
「心配するな。その時は俺がお前を抱き上げて、一緒に逃げ帰るから。邪魔する奴はニ、三発殴り倒してやる。俺は無敵だ」
本当に無敵なら、逃げ帰る必要もないけれど、世の中そうは上手くいかない。殿下だってギリギリのところで立っている。――わたしが、足を引っ張るわけにはいかない。
わたしは腹を括り、殿下の腕に手を添えて、真紅の絨毯の上を一歩踏み出した。
『ランデル国第三王子、アルバート・アーネスト殿下、ご婚約者のリンドホルム伯爵令嬢レディ・エルスペス・アシュバートン、ご到着~』
ざわざわと人波が揺れる。
殿下とレコンフィールド公爵令嬢の婚約が議会の承認を得たというのは、ランデルの情勢に詳しい人なら当然、押えている情報だろうから、婚約者として全く違う名前が呼ばれて、戸惑いが広がる。
だが、ランデル大使夫妻もマールバラ公爵も、平然と入場したので、戸惑いはヒソヒソ声で語られる程度で済んだ。
――マールバラ公爵の後押しがなければ、きっと修羅場だっただろう。殿下も危ない橋を渡る。
殿下は姿勢を正し、わたしの歩調に合わせるようにしっかりとした足取りで、赤い絨毯の上を広間の正面、奥に佇む皇太子グスタフ殿下の前に進み出る。
――皇帝ヨーゼフ七世は敗戦の責任を取って退位し、現在はビルツホルン郊外の離宮に引退しているそうだ。皇太子のグスタフ殿下が名目的に国家元首の地位にあるが、無事、講和条約が締結された後に、皇帝に即位する予定だと言う。今回、ランデルの第三王子であるアルバート殿下が軍縮会議の全権大使として派遣され、急遽、歓迎の夜会を開くことになった、と聞いた。
グスタフ殿下は四十半ばの、立派な髭を生やした紳士だ。ホワイトタイのテールコートに、勲章を下げている。隣に立つのは皇太子妃のアデーレ妃。これも四十は過ぎていらっしゃるはずだが、十分に美しい方だと思う。ただ少しばかり、眉に剣がある。……順調にいけば、グリージャ王女であるエヴァ嬢の姑になるはずだが、あのお花畑の彼女と上手くいくだろうか?
人の心配をしている場合ではないと、わたしは祖母に煩く言われたことを思い出しながら、腰を落として礼をする。――王族に対する礼を教え込まれた時、実際に使う日がくるとは思いもよらなかった。
『わざわざ遠いところをお越しいただいた。軍縮会議の進捗具合はいかがかな?』
『はい、次官級の協議ではどうしても乗り越えられない壁があるようです。世界の平和と人類の未来のためにも、妥協点を見出していきたいと思います』
『そちらが、婚約者の――?』
ちらりと、グスタフ殿下がわたしに目を向けた気配を感じるが、わたしは頭を下げたままだ。
『ええ、最愛の女性です。彼女以外と結婚するつもりはありませんので』
こんな場で、そんな余計なことを言わなくても――わたしが思っていると、脇から声がかかる。
『どうぞお楽になさって、顔をあげてくださいまし』
アデーレ妃のお言葉を受け、わたしはちらりと殿下を見て確認していから、ゆっくりと姿勢を戻す。
『……お美しい方ですこと。こちらの言葉はおわかりになって?』
『はい、だいたいは』
『近頃の若い方は貴賤結婚を気にしないのですね』
貴賤結婚、と言われて、アデーレ妃がわたしの身分をあてこすっているとわかったが、すかさずアルバート殿下が鼻で笑った。
『伝統のある国は面倒ですな。何が貴で何が賤か、いったいどこで線を引くのやら。貴族の青い血を尊ぶのはよいが、どんな尊きものも、古くなり過ぎれば腐るのですよ。私が新鮮なものが好きですが、腐りかけのものを好む人間にとやかく言われたくはないですね』
殿下の辛辣な物言いにアデーレ妃が怯み、グスタフ殿下がとりなすように言った。
『……他国のことに口を出すつもりはない』
『ええ、お互い様です』
アルバート殿下は長身を反らすようにして、上から目線でアデーレ妃を睨みつけ、アデーレ妃は一瞬、眉間の皺を深くする。長身のアルバート殿下が中背のグスタフ殿下を見下ろす形になり、どこか狂暴な金色の瞳といい、威圧感が半端ない。
――まるで地獄の番犬、ケルベロスみたい。
溜息をつきたいのを堪えてグスタフ殿下夫妻の御前を辞し、居並ぶ皇族方に目礼して下がる。隣にいた少しひ弱そうな青年が、何か言いたそうにこちらを見ている。アルティニア陸軍の豪華な正装に身を固めた彼の隣には、白いドレスを着た小柄な、まだ幼さの抜けきらない少女が寄り添っている。
「……あれがフェルディナンドだ」
「え……? でも――」
耳元で殿下に囁かれて、わたしは思わずそのカップルを二度見した。
「あれは――」
「俺やジョナサンの予想通り、アルティニア皇家はグリージャの王女を皇后にする気なんかないってことだ」
「じゃあ、彼女はフェルディナンド大公の――?」
「正式な婚約が成立したとは聞いていないが、今日、この場にエスコートしているということは、内々に決まった、ということじゃないのか?」
つまりエヴァンジェリア王女は――。
胸元にはダイヤモンドのビブ・ネックレス、涙型の大粒のダイヤのイヤリングに、ドレスと共布の、肘の上まである長手袋。豪華なフリンジのついた手提げ袋に、銀のハイヒール。やや濃いめの化粧を施されて、わたしは鏡の中の自分に思う。
「……少し、派手じゃないかしら……?」
その呟きをハンナが拾い、言った。
「王族の方も出席する夜会ですから、このくらいのお化粧は必要だと思います。もう、少し濃くてもいいくらいです」
「そうね、ありがとう。……こんな会に出るのは初めてだから……」
「すごくお綺麗です。自信を持ってください」
励ましてくれるハンナが不思議で、つい、首を傾げる。
「……ありがとう?」
「わたしの母はこの町の人間で、父はランデル大使館勤務の外交官でした。母は正妻のつもりだったのに、父は実は、本国に妻がいたんですよ。わたしは愛人の子と馬鹿にされて……父はランデルでは男爵だったのに、母とわたしを捨てて本国に帰ったので、こんな仕事しかできません。世の中、愛人は馬鹿にされますが、好きで愛人になるわけじゃなくて、要するに男が悪いんです」
早口のランデル語で言われて、わたしは思わず目を瞠った。
「……申し訳ありません、個人的なことを……」
目を伏せたハンナに、わたしは首を振る。
「いいえ、気にしないで。あなた立派に働いてるわ。恥じることなんて何もないじゃない。とても感謝しているわ。あなたが付いてくれて、本当によかった」
「わたしも、お嬢様のお手伝いができてよかったです」
六時直前に殿下が戻ってきて、着替えを済ませて、コネクティング・ドアからわたしの部屋に入ってきた。夜会用に正装の軍服を身にまとった姿は、一瞬、息が止まるほど格好よかった。
陸軍の軍服は、普段用はシャツにタイに開襟のジャケットだけれど、正装は黒の詰襟に豪華な襟章、金の飾緒と金釦がついて、さらにいくつもの勲章を胸に飾って、うんと煌びやかになる。
お父様の正装の軍服姿の写真は、とても素敵だった。――残念ながら、実物は見たことがないのだけど。
わたしが殿下の正装姿に見惚れていると、殿下もわたしを点検するようにじっと見て、言った。
「きれいだ、エルシー」
「ありがとうございます。……ハンナのおかげです。馬子にも衣装かしら」
「とんでもない。夜会でいろんな男に見せるのが嫌になるな。閉じ込めておきたいくらいだ」
殿下は白手袋を嵌めた手で、わたしの長手袋を嵌めた手を取り、指先に軽くキスをすると、わたしを腕に捕まらせていった。
「じゃあ、行こうか、エルシー。オズワルド小父様が待っている」
わたしたちは、一緒に玄関へと向かった。
同行するのは、大使夫妻と、講和会議の全権大使であるマールバラ公爵、そしてアルバート殿下の随行員としてはジョナサン・カーティス大尉とジェラルド・ブルック中尉、そして護衛のラルフ・シモンズ大尉。カーティス大尉とブルック中尉は会場まで付きそうので、こちらも正装の軍服、シモンズ大尉は会場には入らないので、普段の軍服。大使とマールバラ公爵はテールコートである。
「行ってらっしゃいませ~」
例によって、社交向きでないロベルトさんは留守番だ。馬車数台に分乗し、グルブラン宮殿に乗り付ける。途中、馬車に同乗したマールバラ公爵は、夜会に参加するであろう、アルティニア皇家や、その他、シュルフト帝国の摂政・アクセル大公についての注意事項を話してくれた。
「アクセル大公は有名な女たらしだ。気をつけろ」
「まさか! わたしなんかに声をかけるとは思えません」
「そういう油断が事故を招くのだ」
「……気をつけます」
マールバラ公爵に窘められ、わたしが殊勝に言えば、殿下は少しばかり心配そうな顔をしていた。
「安心しろ、俺はお前の側を離れない。もし、何かあればジョナサンを側に置いておく」
宮殿前は各国からの参列客の、馬車がひしめき合っていた。金モールのついた豪華なお仕着せの、従僕たちが馬車から降りた賓客たちを広間へと捌いていく。まっすぐ続く赤い絨毯、鏡に反射し、煌くシャンデリア。飲まれそうになるのを、深呼吸して堪える。
「大丈夫だ、今夜、一番綺麗なのは、お前だ。……愛してる、エルシー」
耳元で囁かれ、わたしはハッと殿下を見る。――そう、いつもはあんな言葉遣いだけど、王子の軍服で正装した殿下は、やっぱり本物の王子様だった。
「……途中、靴を脱ぎ捨てて逃げ帰っても、靴を拾って迎えにきてくださる?」
「心配するな。その時は俺がお前を抱き上げて、一緒に逃げ帰るから。邪魔する奴はニ、三発殴り倒してやる。俺は無敵だ」
本当に無敵なら、逃げ帰る必要もないけれど、世の中そうは上手くいかない。殿下だってギリギリのところで立っている。――わたしが、足を引っ張るわけにはいかない。
わたしは腹を括り、殿下の腕に手を添えて、真紅の絨毯の上を一歩踏み出した。
『ランデル国第三王子、アルバート・アーネスト殿下、ご婚約者のリンドホルム伯爵令嬢レディ・エルスペス・アシュバートン、ご到着~』
ざわざわと人波が揺れる。
殿下とレコンフィールド公爵令嬢の婚約が議会の承認を得たというのは、ランデルの情勢に詳しい人なら当然、押えている情報だろうから、婚約者として全く違う名前が呼ばれて、戸惑いが広がる。
だが、ランデル大使夫妻もマールバラ公爵も、平然と入場したので、戸惑いはヒソヒソ声で語られる程度で済んだ。
――マールバラ公爵の後押しがなければ、きっと修羅場だっただろう。殿下も危ない橋を渡る。
殿下は姿勢を正し、わたしの歩調に合わせるようにしっかりとした足取りで、赤い絨毯の上を広間の正面、奥に佇む皇太子グスタフ殿下の前に進み出る。
――皇帝ヨーゼフ七世は敗戦の責任を取って退位し、現在はビルツホルン郊外の離宮に引退しているそうだ。皇太子のグスタフ殿下が名目的に国家元首の地位にあるが、無事、講和条約が締結された後に、皇帝に即位する予定だと言う。今回、ランデルの第三王子であるアルバート殿下が軍縮会議の全権大使として派遣され、急遽、歓迎の夜会を開くことになった、と聞いた。
グスタフ殿下は四十半ばの、立派な髭を生やした紳士だ。ホワイトタイのテールコートに、勲章を下げている。隣に立つのは皇太子妃のアデーレ妃。これも四十は過ぎていらっしゃるはずだが、十分に美しい方だと思う。ただ少しばかり、眉に剣がある。……順調にいけば、グリージャ王女であるエヴァ嬢の姑になるはずだが、あのお花畑の彼女と上手くいくだろうか?
人の心配をしている場合ではないと、わたしは祖母に煩く言われたことを思い出しながら、腰を落として礼をする。――王族に対する礼を教え込まれた時、実際に使う日がくるとは思いもよらなかった。
『わざわざ遠いところをお越しいただいた。軍縮会議の進捗具合はいかがかな?』
『はい、次官級の協議ではどうしても乗り越えられない壁があるようです。世界の平和と人類の未来のためにも、妥協点を見出していきたいと思います』
『そちらが、婚約者の――?』
ちらりと、グスタフ殿下がわたしに目を向けた気配を感じるが、わたしは頭を下げたままだ。
『ええ、最愛の女性です。彼女以外と結婚するつもりはありませんので』
こんな場で、そんな余計なことを言わなくても――わたしが思っていると、脇から声がかかる。
『どうぞお楽になさって、顔をあげてくださいまし』
アデーレ妃のお言葉を受け、わたしはちらりと殿下を見て確認していから、ゆっくりと姿勢を戻す。
『……お美しい方ですこと。こちらの言葉はおわかりになって?』
『はい、だいたいは』
『近頃の若い方は貴賤結婚を気にしないのですね』
貴賤結婚、と言われて、アデーレ妃がわたしの身分をあてこすっているとわかったが、すかさずアルバート殿下が鼻で笑った。
『伝統のある国は面倒ですな。何が貴で何が賤か、いったいどこで線を引くのやら。貴族の青い血を尊ぶのはよいが、どんな尊きものも、古くなり過ぎれば腐るのですよ。私が新鮮なものが好きですが、腐りかけのものを好む人間にとやかく言われたくはないですね』
殿下の辛辣な物言いにアデーレ妃が怯み、グスタフ殿下がとりなすように言った。
『……他国のことに口を出すつもりはない』
『ええ、お互い様です』
アルバート殿下は長身を反らすようにして、上から目線でアデーレ妃を睨みつけ、アデーレ妃は一瞬、眉間の皺を深くする。長身のアルバート殿下が中背のグスタフ殿下を見下ろす形になり、どこか狂暴な金色の瞳といい、威圧感が半端ない。
――まるで地獄の番犬、ケルベロスみたい。
溜息をつきたいのを堪えてグスタフ殿下夫妻の御前を辞し、居並ぶ皇族方に目礼して下がる。隣にいた少しひ弱そうな青年が、何か言いたそうにこちらを見ている。アルティニア陸軍の豪華な正装に身を固めた彼の隣には、白いドレスを着た小柄な、まだ幼さの抜けきらない少女が寄り添っている。
「……あれがフェルディナンドだ」
「え……? でも――」
耳元で殿下に囁かれて、わたしは思わずそのカップルを二度見した。
「あれは――」
「俺やジョナサンの予想通り、アルティニア皇家はグリージャの王女を皇后にする気なんかないってことだ」
「じゃあ、彼女はフェルディナンド大公の――?」
「正式な婚約が成立したとは聞いていないが、今日、この場にエスコートしているということは、内々に決まった、ということじゃないのか?」
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