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第二章
裏取引
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「どこでローズをお知りになったのですか。彼女はもともとグリージャの貴族の家に生まれ、孤児になってストラスシャーのリンドホルム城に引き取られ、ずっとそちらで育ったはずです」
アルバート殿下が、感情の籠らない声でマールバラ公爵に尋ねる。公爵はパイプを片手に、遠くを見るような視線になった。
「……まず、マックス・アシュバートンは王都の陸軍の士官学校を出て、特務機関に配属され、……わしの部下になった。有能な男でね。彼と縁を結びたいと願う者は多かった。何せ、ストラスシャーの名門だ。だが、許嫁がいるという」
「それが、ローズ……ローゼリンデ・ベルクマン」
「そうだ。母親の従妹の娘で、年の離れた妹のようにかわいがっていた。十七歳でデビューのために王都に来て――彼女を一目見て、わしは閃いたのだ」
マールバラ公爵はわたしの方を見て、目を眇める。
「そう、ちょうど王妃の金髪よりは少しくすんで……ミス・アシュバートンのような髪の色だった。だが、黒髪の国王陛下との子であれば、多少の違いは誤差の範囲内だろう。瞳は青。これも王妃の色に似ている」
「……ただ、髪と瞳の色だけで……?」
わたしは思わず、閣下に聞き返していた。……少し不躾かもしれないけれど、どうせ三人だけの場だ。閣下はわたしの無礼も気にせず首を振った。
「まさか! 外見は前提条件に過ぎない。……もちろん、念入りに調査したさ。彼女の両親、家族。特に両親や家族の病歴には気を使った。せっかく儲けた王子が健康でなかったら、意味がないからな」
「そんな……!」
あまりの言葉に、わたしは唇を噛む。――ローズと言う人を、そしてその子である殿下を何だと思っているのだろう。
「ひどい話だと思うかね? わしだって自覚がないわけじゃない。だがお嬢さん、国を保つために、犠牲はつきものだよ。ローゼリンデ嬢には両親もなく、後見人は田舎住まいの伯爵未亡人で、許嫁である息子は王家に忠実な特務機関の軍人。秘密を守るにはうってつけだった」
「王妃を説得するとか、あるいは離縁して新たな王妃を娶るとか、他にも方法はあったのではありませんか?」
殿下がわたしの膝に手を置いて、宥めるように撫でながら言う。
「その時点で、王妃はすでに三十を越している。産めないわけではないが、そもそもジョージの病が王妃からの遺伝でないという保証はない。王妃は国王陛下の従妹で、それ以前から王家とあの家は婚姻を繰り返している。濃すぎた血が、ジョージの病の原因の一つだとも考えられた。時間と手間をかけて王妃を説得する甲斐はあまりないと、わしは考えた。新たな王妃を迎えるとしても、どうせ、公爵家のどれかからで、血の濃さはどっこいどっこい。新たに嫁いでくる王妃のプレッシャーは計り知れない。……キツイ言い方だが、要するに我々が必要としているのは、王太子の万一の場合に備える、スペアの王子だ。王妃を離縁するほどのリスクは犯せない、それが結論だった」
スペア、と言われた殿下の手にぐっと力がこもる。――マールバラ公爵と言う人は、言葉を選ばない、非常に正直すぎる人なのだ。
「それよりは、庶子を生ませて王妃の子と偽った方が、周囲に及ぼす影響ははるかに少なくて済む。陛下も迷ってはおられたが、わしの案を受け入れた」
淡々と説明するマールバラ公爵に、わたしは気になっていたことを尋ねた。
「ローズは、なぜ国王陛下の御子を生むことを了承したのですか? ……それに父も――いくら王家に忠誠を誓っていても、許嫁を差し出すような人とは思えません」
わたしの問いに、閣下は気の毒そうな表情でわたしを見た。
「もちろん、マックス・アシュバートンは反対し、抵抗した。いくら王家のためとはいえ、騎士道にも、自らの良心にも反する、と。だが――」
閣下はパイプの煙草を詰め直し、言う。
「当時、リンドホルム伯爵家はかなりの財政難でね。原因は、先代伯爵の散財だ。――庭園や美術品にかなりの金をかけて……このままでは城を手放すことになりかねない状態だった。もちろん、マックスは自力で難局を切り抜けるつもりだったろう。ある程度、領地を手放したり、私有地を切り売りして乗り切るつもりだった。しかし、我々はローズに対し、取引を持ち掛けた。陛下の御子を産めば、あるいは産めなくとも、一年間、陛下のお相手を務めれば、リンドホルム領への借財を王家の力で始末しようと」
その言葉に、殿下が低く呻いた。
「卑怯なっ……」
「さよう、我々は卑怯だ。マックスではなく、弱いローゼリンデ嬢に揺さぶりをかけ、果たして彼女は要求を呑んだ。孤児だった彼女を引き取り、我が子同様に慈しみ育て、いずれは息子の嫁にと考えていた伯爵夫人への恩を盾にされて、彼女は我々の要求を突っぱねることができなかった。マックスが気づいた時には、もはやどうにもならないくらい、外堀は埋められていた」
わたしは目を閉じる。父と、ローズがどんな間柄だったのか、わたしは知らない。でも、二人が過ごしたであろう、あの薔薇園をわたしは知っている。ローズが見つけ、手ずから世話して蘇らせた、秘密の花園。わたしの知る限り、父はあの庭には絶対に足を踏み入れなかった。きっとそれは――。
ローズはおばあ様と父と、そしてリンドホルムの城を守りたかった。そのために、二人を裏切り――。
「……ローゼリンデ嬢のために王都郊外の小さな邸を用意し、数か月、国王陛下は密かに通われ、首尾よく子を身籠った。当然、王妃は怒り狂ったけれど、子も産まぬ、産んだ子を我が子とするのさえ拒否するならば、もはや王妃とは認められぬ、離縁する以外にないと言えば、渋々、その子の受け入れを了承した。……いろいろと条件をつけたけれどな。王妃は妊娠を偽って王宮に籠り、口の堅い医師と侍女を配置した。後は、無事に産まれてくるのを待つのみと考えていたが、一つだけ、誤算があった」
「誤算?」
殿下が問いかければ、マールバラ公爵が苦い表情でワインを一口飲む。
「……当初、陛下はマックス・アシュバートンに対し、次のように約束した。男児を産めば、ローゼリンデ嬢との縁は切れ、彼女は何もなかったように、マックス・アシュバートンの妻になる。女児であった場合は、王妃は死産だったと公表し、やはりマックス・アシュバートンの元に嫁ぎ、女児はアシュバートン家の養女とし、王家との縁は切れる、と。だがな――まったく、予想もしなかったのだが、陛下がローゼリンデ嬢を手放したくないと言い出したのだ」
「父上が?」
殿下が目を丸くする。
「さよう。……陛下は、その手の我儘を言うタイプではないと考えていたのだが――名目的にマックス・アシュバートンと結婚させた後、公妾として召し上げると言い出した。だがこれは非常にまずい」
わたしと殿下は顔を見合わせる。
「……王子は、王妃の子として育てるのに、その実の母親が公妾であるのはまずい、ということですか?」
「そうだ。王子とその実の母の縁は、切れているのが望ましい。何かのきっかけで露見する可能性があるし、ましてその母を公妾にするのは危険すぎる。わしは陛下を諫めたが、陛下は彼女に執着して納得しない。そこへ、さらに厄介なことに、王妃が介入した。……思うに、陛下の執着に勘づいたのだ。実母を王子の乳母として召し出せと要求した。こうすれば、少なくとも公妾にはできないし、身近で監視できるからな」
「……それを、父上は飲んだのですか? マックス・アシュバートンとの約束を反故にして」
「公妾にできずとも、せめて乳母として身近に置き、関係を続けたい。わしに言わせれば単なる我儘だが、陛下は押し通した」
「では――」
殿下が愕然とした表情で、マールバラ公爵を見つめる。
「父上とローズはその後も――」
「王宮でその秘密を知る者はごくわずかだ。王妃の監視も厳しく、なかなか機会はなかったようだが、にもかかわらず、陛下は彼女に執着して――ローゼリンデ嬢の死因は、流産のためだと聞いている」
ぐらり、と殿下の身体が傾いで、わたしは慌てて彼を支える。
「リジー……」
「……すまない、大丈夫だ。少し、吐き気がしただけで――」
殿下の大きな体に抱きすくめられるようにして、わたしはマールバラ公爵を見て、尋ねた。
「それに対し、父はなんと?」
「もちろん、マックス・アシュバートンはわしを通じて、陛下に何度もローゼリンデ嬢を戻すように要求した。だが陛下はそれを突っぱね、結局、数年後、マックスが彼女を諦めることで決着した。陛下はマックスには、アシュバートン家の借財を処理した王都の富豪・クリフォード家の令嬢を嫁がせて、そうして、お嬢さん、あんたが生まれたわけだ」
わたしは、思わず殿下の真っ青になった顔を見上げる。縋りつくようにわたしを抱きしめた殿下の、大きな手が小刻みに震えている。殿下と、わたしの年の差は七歳。――おそらく、この七年の歳月が、父がローズを取り戻そうと足掻いた時間なのだ。
そして同時に腑に落ちる。祖母が、わたしの母を認めようとしなかった理由も――。
殿下の手に一瞬、強い力がかかり、わたしがハッとすると、殿下は意を決したようにわたしから離れ、姿勢を正す。そしてマールバラ公爵を見て言った。
「そこまでマックスを踏みつけにして、それでもなお、父上はマックスに頼ったのですか? どうしてそんな――俺は、信じられない。あの人は俺が出征する時にマックスを呼び出して、俺を――」
だが公爵は首を振る。
「陛下は、危険な戦地に末息子をやるのを、最後まで拒んだ。だがあの時、王子を出征させない選択肢はなかった。だから――せめての親心でマックス・アシュバートンに手紙を書き、アルバートの護衛としての出征を頼んだ。表向き勅命の形を取ってはいるが、実際には陛下の懇願にマックスが折れたのだ。その代償としてマックスが挙げた条件が、万一の場合の、娘への代襲相続の勅許だった。たとえ息子が男児を生せなくとも、必ず娘に城と領地を継承させるように、との」
わたしの息が止まる。
瞬間、周囲の音さえも消えた気がした。
なぜ、そんな――どういう、ことなのか――。
アルバート殿下が、感情の籠らない声でマールバラ公爵に尋ねる。公爵はパイプを片手に、遠くを見るような視線になった。
「……まず、マックス・アシュバートンは王都の陸軍の士官学校を出て、特務機関に配属され、……わしの部下になった。有能な男でね。彼と縁を結びたいと願う者は多かった。何せ、ストラスシャーの名門だ。だが、許嫁がいるという」
「それが、ローズ……ローゼリンデ・ベルクマン」
「そうだ。母親の従妹の娘で、年の離れた妹のようにかわいがっていた。十七歳でデビューのために王都に来て――彼女を一目見て、わしは閃いたのだ」
マールバラ公爵はわたしの方を見て、目を眇める。
「そう、ちょうど王妃の金髪よりは少しくすんで……ミス・アシュバートンのような髪の色だった。だが、黒髪の国王陛下との子であれば、多少の違いは誤差の範囲内だろう。瞳は青。これも王妃の色に似ている」
「……ただ、髪と瞳の色だけで……?」
わたしは思わず、閣下に聞き返していた。……少し不躾かもしれないけれど、どうせ三人だけの場だ。閣下はわたしの無礼も気にせず首を振った。
「まさか! 外見は前提条件に過ぎない。……もちろん、念入りに調査したさ。彼女の両親、家族。特に両親や家族の病歴には気を使った。せっかく儲けた王子が健康でなかったら、意味がないからな」
「そんな……!」
あまりの言葉に、わたしは唇を噛む。――ローズと言う人を、そしてその子である殿下を何だと思っているのだろう。
「ひどい話だと思うかね? わしだって自覚がないわけじゃない。だがお嬢さん、国を保つために、犠牲はつきものだよ。ローゼリンデ嬢には両親もなく、後見人は田舎住まいの伯爵未亡人で、許嫁である息子は王家に忠実な特務機関の軍人。秘密を守るにはうってつけだった」
「王妃を説得するとか、あるいは離縁して新たな王妃を娶るとか、他にも方法はあったのではありませんか?」
殿下がわたしの膝に手を置いて、宥めるように撫でながら言う。
「その時点で、王妃はすでに三十を越している。産めないわけではないが、そもそもジョージの病が王妃からの遺伝でないという保証はない。王妃は国王陛下の従妹で、それ以前から王家とあの家は婚姻を繰り返している。濃すぎた血が、ジョージの病の原因の一つだとも考えられた。時間と手間をかけて王妃を説得する甲斐はあまりないと、わしは考えた。新たな王妃を迎えるとしても、どうせ、公爵家のどれかからで、血の濃さはどっこいどっこい。新たに嫁いでくる王妃のプレッシャーは計り知れない。……キツイ言い方だが、要するに我々が必要としているのは、王太子の万一の場合に備える、スペアの王子だ。王妃を離縁するほどのリスクは犯せない、それが結論だった」
スペア、と言われた殿下の手にぐっと力がこもる。――マールバラ公爵と言う人は、言葉を選ばない、非常に正直すぎる人なのだ。
「それよりは、庶子を生ませて王妃の子と偽った方が、周囲に及ぼす影響ははるかに少なくて済む。陛下も迷ってはおられたが、わしの案を受け入れた」
淡々と説明するマールバラ公爵に、わたしは気になっていたことを尋ねた。
「ローズは、なぜ国王陛下の御子を生むことを了承したのですか? ……それに父も――いくら王家に忠誠を誓っていても、許嫁を差し出すような人とは思えません」
わたしの問いに、閣下は気の毒そうな表情でわたしを見た。
「もちろん、マックス・アシュバートンは反対し、抵抗した。いくら王家のためとはいえ、騎士道にも、自らの良心にも反する、と。だが――」
閣下はパイプの煙草を詰め直し、言う。
「当時、リンドホルム伯爵家はかなりの財政難でね。原因は、先代伯爵の散財だ。――庭園や美術品にかなりの金をかけて……このままでは城を手放すことになりかねない状態だった。もちろん、マックスは自力で難局を切り抜けるつもりだったろう。ある程度、領地を手放したり、私有地を切り売りして乗り切るつもりだった。しかし、我々はローズに対し、取引を持ち掛けた。陛下の御子を産めば、あるいは産めなくとも、一年間、陛下のお相手を務めれば、リンドホルム領への借財を王家の力で始末しようと」
その言葉に、殿下が低く呻いた。
「卑怯なっ……」
「さよう、我々は卑怯だ。マックスではなく、弱いローゼリンデ嬢に揺さぶりをかけ、果たして彼女は要求を呑んだ。孤児だった彼女を引き取り、我が子同様に慈しみ育て、いずれは息子の嫁にと考えていた伯爵夫人への恩を盾にされて、彼女は我々の要求を突っぱねることができなかった。マックスが気づいた時には、もはやどうにもならないくらい、外堀は埋められていた」
わたしは目を閉じる。父と、ローズがどんな間柄だったのか、わたしは知らない。でも、二人が過ごしたであろう、あの薔薇園をわたしは知っている。ローズが見つけ、手ずから世話して蘇らせた、秘密の花園。わたしの知る限り、父はあの庭には絶対に足を踏み入れなかった。きっとそれは――。
ローズはおばあ様と父と、そしてリンドホルムの城を守りたかった。そのために、二人を裏切り――。
「……ローゼリンデ嬢のために王都郊外の小さな邸を用意し、数か月、国王陛下は密かに通われ、首尾よく子を身籠った。当然、王妃は怒り狂ったけれど、子も産まぬ、産んだ子を我が子とするのさえ拒否するならば、もはや王妃とは認められぬ、離縁する以外にないと言えば、渋々、その子の受け入れを了承した。……いろいろと条件をつけたけれどな。王妃は妊娠を偽って王宮に籠り、口の堅い医師と侍女を配置した。後は、無事に産まれてくるのを待つのみと考えていたが、一つだけ、誤算があった」
「誤算?」
殿下が問いかければ、マールバラ公爵が苦い表情でワインを一口飲む。
「……当初、陛下はマックス・アシュバートンに対し、次のように約束した。男児を産めば、ローゼリンデ嬢との縁は切れ、彼女は何もなかったように、マックス・アシュバートンの妻になる。女児であった場合は、王妃は死産だったと公表し、やはりマックス・アシュバートンの元に嫁ぎ、女児はアシュバートン家の養女とし、王家との縁は切れる、と。だがな――まったく、予想もしなかったのだが、陛下がローゼリンデ嬢を手放したくないと言い出したのだ」
「父上が?」
殿下が目を丸くする。
「さよう。……陛下は、その手の我儘を言うタイプではないと考えていたのだが――名目的にマックス・アシュバートンと結婚させた後、公妾として召し上げると言い出した。だがこれは非常にまずい」
わたしと殿下は顔を見合わせる。
「……王子は、王妃の子として育てるのに、その実の母親が公妾であるのはまずい、ということですか?」
「そうだ。王子とその実の母の縁は、切れているのが望ましい。何かのきっかけで露見する可能性があるし、ましてその母を公妾にするのは危険すぎる。わしは陛下を諫めたが、陛下は彼女に執着して納得しない。そこへ、さらに厄介なことに、王妃が介入した。……思うに、陛下の執着に勘づいたのだ。実母を王子の乳母として召し出せと要求した。こうすれば、少なくとも公妾にはできないし、身近で監視できるからな」
「……それを、父上は飲んだのですか? マックス・アシュバートンとの約束を反故にして」
「公妾にできずとも、せめて乳母として身近に置き、関係を続けたい。わしに言わせれば単なる我儘だが、陛下は押し通した」
「では――」
殿下が愕然とした表情で、マールバラ公爵を見つめる。
「父上とローズはその後も――」
「王宮でその秘密を知る者はごくわずかだ。王妃の監視も厳しく、なかなか機会はなかったようだが、にもかかわらず、陛下は彼女に執着して――ローゼリンデ嬢の死因は、流産のためだと聞いている」
ぐらり、と殿下の身体が傾いで、わたしは慌てて彼を支える。
「リジー……」
「……すまない、大丈夫だ。少し、吐き気がしただけで――」
殿下の大きな体に抱きすくめられるようにして、わたしはマールバラ公爵を見て、尋ねた。
「それに対し、父はなんと?」
「もちろん、マックス・アシュバートンはわしを通じて、陛下に何度もローゼリンデ嬢を戻すように要求した。だが陛下はそれを突っぱね、結局、数年後、マックスが彼女を諦めることで決着した。陛下はマックスには、アシュバートン家の借財を処理した王都の富豪・クリフォード家の令嬢を嫁がせて、そうして、お嬢さん、あんたが生まれたわけだ」
わたしは、思わず殿下の真っ青になった顔を見上げる。縋りつくようにわたしを抱きしめた殿下の、大きな手が小刻みに震えている。殿下と、わたしの年の差は七歳。――おそらく、この七年の歳月が、父がローズを取り戻そうと足掻いた時間なのだ。
そして同時に腑に落ちる。祖母が、わたしの母を認めようとしなかった理由も――。
殿下の手に一瞬、強い力がかかり、わたしがハッとすると、殿下は意を決したようにわたしから離れ、姿勢を正す。そしてマールバラ公爵を見て言った。
「そこまでマックスを踏みつけにして、それでもなお、父上はマックスに頼ったのですか? どうしてそんな――俺は、信じられない。あの人は俺が出征する時にマックスを呼び出して、俺を――」
だが公爵は首を振る。
「陛下は、危険な戦地に末息子をやるのを、最後まで拒んだ。だがあの時、王子を出征させない選択肢はなかった。だから――せめての親心でマックス・アシュバートンに手紙を書き、アルバートの護衛としての出征を頼んだ。表向き勅命の形を取ってはいるが、実際には陛下の懇願にマックスが折れたのだ。その代償としてマックスが挙げた条件が、万一の場合の、娘への代襲相続の勅許だった。たとえ息子が男児を生せなくとも、必ず娘に城と領地を継承させるように、との」
わたしの息が止まる。
瞬間、周囲の音さえも消えた気がした。
なぜ、そんな――どういう、ことなのか――。
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