【R18】没落令嬢の秘密の花園――秘書官エルスペス・アシュバートンの特別業務

無憂

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第二章

prologue2 *

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 暗闇に追いつかれないように、光のあるうちに歩きなさい。
 暗闇の中を歩く者は、自分がどこへ行くのかわからない。
 光の子となるために、光のあるうちに、光を信じなさい。
           ――ヨハネによる福音書・第十二章


*********************
 腕の中の彼女は本当に小さくて、力を込めたら折れてしまいそうにか細い。
 ついさっきまで、雷に怯えて僕に縋りついていた小さな手は、今は力を失い、額を僕の肩に預けてぐったりともたれ掛っている。洗い立ての、シャボンの香りのする身体。僕は額に口づけて、そのまま唇を彼女の目尻から、頬へと這わせていく。彼女に反応はない。――静かな、規則正しい寝息が聞こえる。

 僕は抱きしめる腕に力を籠め、彼女の肩口に顔を埋めて、彼女の香りを吸い込む。
 腕の中の細い身体は何の抵抗もせず、僕の胸に凭れて完全に眠りに落ちている。

 僕は掌でゆっくりと彼女の身体をなぞる。
 薄い、モスリンの寝間着にはフリルがたっぷり入っている。痩せて凹凸のほとんどない、幼い身体――。
 寝入る直前まで足をバタつかせていたから、寝間着は太ももまでめくれ上がっていた。寝間着の下には、膝までの、やっぱりギャザーをたっぷり寄せたドロワースを穿いている。

 僕は、彼女が目を覚まさないように、そうっと腰のリボンを解き、指を侵入させる。滑らかな肌は少しひんやりとして――。

「ん――」

 彼女が身じろぎし、僕はギクリと手を止める。

「ふ……ふふっ……」

 楽しい夢でも見ているのか、小さく笑いながら、彼女はごろんと寝がえりを打つ。僕はその動きを利用して、するりとドロワースを下ろす。彼女のつるんと丸い尻を撫で、ほっそりした太ももを辿る。すべてが滑らかで、すべすべと柔らかく、瑞々しい果実のよう。

 ――何となく、子供と言うものは絵画に見える天使のように、ぷくぷくと太っているものだと、僕は思い込んでいた。でも、幼児も五、六歳にもなれば手足はすっきりと伸びて、ほっそりと優雅な姿をしているのだと、僕は知った。滑らかな内またを遡って足の間に至れば、そこは当然無毛で、つるりと滑らかだった。
 僕は指先でその場所を軽くなぞる。――僕は、自分がひどく興奮しているのを感じる。息が、少し荒くなり、股間に血が集まり、漲っているのがわかる。

 まだ、たった七歳の彼女を、それ以上どうこうしようとは思わない。僕だって十四歳にしては痩せっぽちで貧弱な身体つきだけれど、彼女は僕の半分くらいの大きさしかないんだから。
 それでも、僕はいつもの秘密の儀式として、こっそりと彼女のその場所に触れる。
 
 秘裂を割ったりはしない。傷つけてしまったら怖い。
 ただ、彼女の肌に直接触れて、せいぜい、漲った欲望を彼女の小さなお尻に擦り付ける程度。それだって、トラウザース越しに、そっと触れるだけ。

 でも、僕は彼女に確かに欲情していて、そして、これは一種の疑似的なセックスだと、僕は意識している。

 こんな幼い、毛も生えていない幼女に欲情するなんて、僕は許されざる変態だし、神聖な彼女を冒涜しているに等しい。でも、どうしても、僕は彼女の肌に触れないではいられなかった。

 今、この瞬間だけでも、彼女を僕だけのものにしたかったから――。






 十四歳の僕は、既にセックスを知っている。相手はいずれも、年上のもっと豊満な身体つきの、王宮のメイドたち。知りたくて知ったわけじゃない。女なんて、抱きたいと思ったことなどない。

 王妃宮に君臨するあの雪の女王は、僕を憎んで、できることなら、僕の存在をこの世から消し去りたいと思っている。第三王子ではあるが、僕は、王妃宮ではいないも同然の扱いを受けている。王妃が僕のことを忘れている間はまだマシだ。時々、僕の存在を思い出しては、意味のわからない理由で鞭打たれたり、食事を抜かれたり、暗い地下室に幽閉されたりする。
 
 強い者にひれ伏すのは、人として当然の理だ。誰もが王妃の顔色を伺っているこの宮殿に、王妃が殺したいほど憎む僕の、居場所なんてありはしない。
 
 でもそんな僕を利用して、持て余した性欲を解消しようという、浅ましい女たちもいる。夢を思い描いて王宮に入ったものの、望むような結婚相手を得ることもできず、このまま王妃の下で老いていくしかない、欲求不満のメイドたち。王妃に虐待されている可哀想な末の王子様は、痩せっぽちで未熟だけれども、セックスの相手としては悪くないんだろう。彼女たちに媚びを売れば、僕への待遇がほんのわずかながら改善されることに気づいたので、誘われれば彼女たちの相手をして、近頃はかなり上手くなったと思う。要するに男娼と同じだ。

 大きな胸を揺らし、僕に跨るあの女たち。本当に、醜くて、吐き気がする。そして、言いなりになるしかない、弱い僕自身にも――。

 ようやく虐待に気づいた父親である国王は、虐待の事実が外に漏れることを恐れ、マックス・アシュバートンを呼び出して僕を押し付けた。マックスは表向きは僕を寄宿学校に入れたことにし、実際には僕の正体を伏せて自分の居城に連れてきた。

 ストラスシャーの、リンドホルム城。荒れ地ムアの畔に聳える、堅牢な古城。
 ――そこには、彼の幼い娘・エルシーがいた。

 僕は、一人で眠るのが怖いというエルシーの幼さを利用して、毎晩、彼女のベッドに忍び込んでいる。
 本当は、夜、一人で眠ることができないのは、悪夢にうなされる僕の方だと言うのに。

 今夜も、僕はエルシーのベッドにもぐりこみ、彼女の小さな身体を抱き締めている。小さくて壊れそうで、可愛い、エルシー。

 まだ幼く、無垢なエルシーは、セックスのこともまるで知らない。醜い欲望の存在も知らないし、僕が夜な夜な、エルシーの肌をこっそり撫でまわしているなんて、想像すらしないだろう。
 
 エルシーの裸を、一度だけ明るい場所で目にした。
 ふざけてはしゃいで噴水に落ちた彼女を、子供部屋に運び込んで風呂に入れた時。

 エルシー付きのメイドのリンダに着替えを準備させ、その間に裸に剥いて、お湯を張った浴槽に入れて――何の凹凸もない、性別すら定かでない裸体。そのまっ平な身体には、しかし女性の部分はちゃんとあって、ただ縦に線が一本入っただけのように、慎ましくぴっちりと閉じられていた。

 無邪気なエルシーには、裸体を隠そうという気すらない。僕の顔の真ん前に尻を向け、足の間から僕を覗き込んできたりする。――もう、何もかも丸見えだ。

 狡猾な僕は、何でもない顔でエルシ―の裸体を洗いながら、無毛のつるんとした秘所の、小さなピンク色の花びらも、余すところなく見た。

 今、その時の様子を思い出しながら、そっとエルシーの秘所に触れる。
 
 無垢なエルシーに欲情し、彼女の幼さにつけ込んで、こっそり彼女の秘密の場所に触れている、僕はなんと罪深いのだろう。心の中で神に許しを乞い、僕はほんの一瞬触れただけで手を離し、そっとドロワースを着せて紐を結ぶ。汚したい思いと、守りたい思いが交錯する。独り占めして、奪って、力の限り抱きしめて、いっそ壊してしまいたい。この世の全ての醜いものから彼女を遠ざけ、美しいものだけを見せて、無邪気な寝顔をただ眺めていたい。どちらの感情も僕のもので、どうしていいかわからなくて、ぼくはいつも、何もできないのだ。

 僕は背後からエルシーを抱き締めて、折れそうな肩口に顔を寄せる。
 彼女の規則正しい呼吸と、トクトクと脈打つ心臓の音を聞きながら、僕は目を閉じる。

 エルシー、愛してる。
 永遠なんて、僕は贅沢は言わない。ただ、今、この瞬間だけでも――。







 僕が、夜毎エルシーのベッドに忍び込んでいたのを、おばあ様に知られてしまった。

 僕は何もしていないと言い張った。雷に怯えるエルシーに添い寝していただけだって。

 幸いにも、おばあ様も僕がそれ以上の欲望をエルシーに抱いているとは、気づいていなかった。何しろ、エルシーは本当に幼かったし、僕も年齢の割に痩せて、晩生おくてに見えていたから。

 でも僕は、リンドホルム城を出て、王都の士官学校にやられることになった。体調も、もう戻っただろうから、王子として社会復帰しなければならない、と。
 僕とリンドホルムとの繋がりは明らかにはできない。表向きは僕は王妃の産んだ嫡子で、アシュバートン家とも、おばあ様とも、何の血の繋がりもないことになっている。

「いいこと、二度と、この城に来てはいけません。お前はアシュバートン家とは、表向きは何の繋がりもないのよ。ここで療養したことも、口にしてはいけない。わたくしとも、もう二度と会うことはない。もちろん、エルシーやビリーともね」
「おばあ様、僕はエルシーのことが好きだ。将来、彼女と結婚したい」

 僕は勇気を奮ってお願いしたけれど、おばあ様は首を振った。

「ダメよ。もう、王家の男は懲り懲り。エルシーをローズ の二の舞のはしたくない。お前にエルシーはやれないわ。……第一、お前は王妃の姪と結婚するのでしょう? そういう、条件だと聞いていますよ。エルシーのことは諦めなさい。……元気で」

 おばあ様は僕にはっきりと拒絶されて、でも、僕自身もそれが仕方のないことだと、わかってはいた。

 全ては、僕を守るためなのだと。でも僕は――。 
 





 雲一つない真っ青な秋空に、色づいた楓並木の黄色が鮮やかだった。

「リジー!」

 最後に聞いた、エルシーの声。

「リジー!いや、行かないで……ずっと側にいるって言ったのに! 嘘つき!」
「エルシー……ごめん……」

 僕はエルシーの耳元で囁いた。亜麻色の髪が揺れ、シャボンの香りが鼻先に漂う。毎晩抱きしめて眠った細い身体。僕の首筋に縋りつく小さな手。

「必ず、また会いに来る。きっと――」

 僕は嘘をついた。おばあ様に禁じられてしまった僕は、もう二度と、エルシーに会うことはできない。

 




 ここが闇の中だと気づくのは、かつてはそこに光があったから。
 ずっと闇の中にいた僕は、エルシーに出会って、光の存在を知った。
 エルシーは、僕にとって光そのもの。ほんの一瞬、僕の人生の闇に差した、一筋の光。
 エルシーを失って、再び僕は闇に閉ざされたけれど、それは今までの闇とは違う。僕の中の彼女の残像が、僕の一番深い場所を照らし続ける。きっと僕のこのくだらない命の火が消える瞬間まで、その小さな光の名残は消えることはない。他の誰も、彼女の代わりになりはしないから。


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