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第二章
鉄路
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こんな田舎では、噂は野火のように広がって、たちまち町中を焼き尽くしてしまうだろう。――とりわけ、ヴィクトリアのような火付け役が大騒ぎしている以上、数日内にリンドホルム中に広まるのは間違いなかった。人の多い王都と違い、この田舎では身を隠すこともできない。まして、わたしは以前の領主の娘なのだ。
わたしはスミス夫人との別れもそこそこに、翌日の昼前に出る汽車でリンドホルムを発つことになった。
サイラスは何とも複雑な表情でわたしを見送り、ジェーンおば様はあまりのことに興奮しているようだった。――そりゃそうだろう。王都の噂話で聞いた、王子を篭絡した阿婆擦れ女が、まさか自分の親族だなんて想像もすまい。
一人、ダグラスだけが妙にニヤニヤとわたしを見てきて、隙を見て耳元で囁いた。
「なるほどねー、いい女になったと思ったら、王子様のお仕込みだったとは。……王子に振られたらいつでも戻って来いよ。王子仕込みのテクで、俺にもいい思いをさせてくれ」
反射的に殴ってやろうとしたわたしの手を、ダグラスが掴み、ニヤニヤと握りしめられて、わたしはゾッとする。
「離して!」
その様子を遠くで見ていたリジーこと殿下が、慌てて走り寄ってきて、わたしを背中に庇う。
「なんだ、あんた、王子の女の犬だったのかよ。ざまあねーな」
「この下衆野郎が! エルシーに触るな!」
一触即発で睨み合う二人を、ロベルトさんが間に入って宥める。
「ほらほら、もう出発しますから! お世話になりました!」
慌ただしく馬車に乗り込み、駅へと向かう。昨日の晴天とはうってかわって、朝から小雨がぱらつく寒々しい日だった。
わたしが馬車の窓から懐かしい城を振返れば、殿下がそっと手を握ってくれた。ほぼ葉の落ちた楓並木の向こうに、邸が遠ざかっていく。
「……大丈夫だ、また、戻ってこれる」
そしてわたしの耳元で囁いた。
「俺は必ず、ローズの庭を取り戻す」
曇天の下を、馬車は荒れ野を横切って駅へと走った。
王都行きの一等客車は空いていた。
行きはメアリーとジョンソンも一緒だったけれど、帰りは殿下とロベルトさんと、そしてマクガーニ閣下の四人のはずだったが、一等車両にはラルフ・シモンズ大尉が乗ってきて、わたしはびっくりした。
「実は、リンドホルムの町でいろいろと調べていたんですよ」
シモンズ大尉が肩を竦める。
「いろいろ、怪しいんですけど、よそ者が一日で調べられるもんじゃないですからね。俺の以前からの部下を一人、城下に紛れ込ませるのに成功しました。城内のことは、お嬢さんの執事の人が、ある程度の情報は探り出してくれそうですし」
殿下がわたしに微笑みかける。
「ラルフは特務機関の出で……つまりマックスの直属の部下だったんだ。マックスがもともと教育した部下を引き継いでいるし、任せておけば大丈夫だ」
「……父は、そんな仕事をしていたのですか……」
シモンズ大尉が調べているのは、ビリーの死の真相。
「ジェームズ・アシュバートン少尉のことは、今、問い合わせてますがね。どうも東部戦線にいたみたいですね」
「……東部か。あそこも酷かったらしいからな」
殿下とシモンズ大尉のやり取りを聞きながら、でもわたしは昨日のショックが抜けなくて、ただ窓の外の景色を見ながら汽車の揺れに身を任せていたが、気づけば殿下の肩に凭れて眠っていたらしい。
車掌が熱いお茶を持ってきた、その音で目が醒めて、慌てて身を起こすと、殿下の大きなコートが身体に掛けられていた。
「ああ、目が醒めたのか。ちょうど弁当が来た。コールドチキンとパンだけど。こんなもので悪いな」
「いえ、そんな……」
「はーい、エルスペス嬢、アツアツのお茶だよ!」
ロベルトさんが熱いお茶のカップを手渡してくれて、わたしはそれを両手で受け取る。
「ありがとうございます……」
じーっとロベルトさんに見つめられ、わたしが首を傾げると、ロベルトさんがはあっと溜息をつく。
「寝起きのエルシーたんの色っぽさよ……」
「おい! 誰の許しを得て! 見るな!」
殿下がロベルトさんを睨みつけると、ロベルトさんが手をひらひらさせる。
「減るもんじゃないし~」
「減る!見るな!」
「わたしは見られたくらいでは減りません」
「ダメだ。寝起きのエルシーは俺限定」
「……くだらないことを!」
若者らしい馬鹿話を、マクガーニ閣下が一喝する。
わたしたちは汽車の中で夕食を食べ、熱いお茶を飲んで人心地つく。わたしはお茶のお代わりを貰って飲みながら、恐る恐る尋ねた。
「その……新聞記事ですが……」
「ああ……あれは……」
殿下が忌々しそうに眉を顰める。
「大衆紙なんだけどね。でも名前が出たのは痛いと言えば痛い」
ロベルトさんが最後のパンを口に放り込みながら言う。
「やはり、リークした奴がいるんでしょうな」
ラルフ・シモンズ大尉がどこかの駅で調達してきたらしい、ウィスキーをカップに注ぎ分けながら言う。
「正確な名前と、元のリンドホルム伯爵の娘だという、情報。――心当たりは?」
ウィスキーのカップを手渡されて、殿下が肩を竦める。
「司令部では噂になっていたようだが、新聞社までタレこむような度胸のあるのはそんなにはいまい」
「けっこう、詳しい上に同情的なんですよ、この記事。……病気の祖母を抱えてたとか、父親が戦死したのに代襲相続が認められてないとか……レコンフィールド公爵からの情報リークとは思えないんですよね」
シモンズ大尉が上着の内ポケットから、丸めた新聞を取り出して言う。
「……やはり司令部に関わる何者かが……」
マクガーニ閣下が灰色の眉を顰める。
「王都の、殿下のアパートメントに関しては、伝聞情報のようですね。『購入してもらった』とあります。あそこはあくまで殿下の資産で、ミス・アシュバートンは部屋を提供してもらっていただけです。その辺りは、王都の噂に惑わされているようなので、アパートメントの使用人とか、あるいはロベルトの姉貴とかの方向ではないようですね」
「当たり前だよ! 姉貴はあんなだけど信用商売なんだから!」
シモンズ大尉の言葉に、ロベルトさんが姉を庇って反論する。
「ドレスメーカーが顧客情報を出したら信用に関わるよ。金持ちの愛人のドレスを作ってナンボの商売なんだから! その辺の守秘義務はお針子にも徹底させるし。リーク元は姉貴のメゾンじゃないよ!」
殿下は顎に手を当てて何か考えていたようだったが、わたしと目が合うと、首を振って微笑んだ。
「大丈夫だ、バレてしまったものはしょうがないけれど、俺が全力で守るから――」
「いえ……でも……」
わたしはちらりとマクガーニ閣下を見て、言った。
「この後、しばらくは閣下のお世話になる予定にしていましたが、ご迷惑がかかるようなら、そうもいきません。まだ小さなお子様もいらっしゃるし。……わたしはやっぱり、どこかホテルか下宿にでも――」
「あーそのことなら、気にするな。しばらく王都を離れるから」
「はあ?」
殿下が何でもないことのよう言って、わたしが目を剥く。
「明日の夜行で、東の――ビルツホルンに向かう。講和会議に出ることになったから」
「ビルツホルン? ……ってアルティニア帝国の首都の? 講和会議? 殿下がそれに出席なさるんですか?」
「講和会議ではなくて、軍縮会議ですよ、殿下。……本当は陸軍大臣としてわしが調印式だけ行く予定だったのだが、どうやら交渉が難航して、事務方だけではニッチもサッチもいかなくなったらしい。わしの外遊を早めろ言われたが、そういうわけにもいかず、急遽、全権大使として殿下の派遣が決定したのだ。……というか、わしが国王陛下を半ば脅して決定させたのだよ、エルスペス嬢。駆け落ちされたくなくば、外遊を認めろと」
「脅す? 国王陛下を? 駆け落ち?」
話が読めなくて、わたしが目をぱちぱちさせると、マクガーニ閣下がさらに言う。
「殿下は酒浸りになって我々を誤魔化すその裏で、密かに新大陸への渡航を企て、豪華客船のチケットを手配していたのだよ、二人分!」
わたしが思わず殿下を見れば、殿下が気まずそうに視線を逸らす。ロベルトさんがクスクス笑った。
「マクガーニ大臣も軽ーく恩を売ろうとしてますけど、かなり自己都合じゃないっすか」
殿下がわたしの耳元で囁く。
「実は、ジェニファー夫人がおめでたでね。それで、奥方の側を離れたくないからと、俺を押し込んださ。意外とムッツリだろ?!」
「そうなのですか!」
ムッツリの意味はよくわからないが、ジェニファー夫人がご懐妊はおめでたい。マクガーニ閣下は照れ臭そうに眉を顰めている。
「いや、その……いろいろ調整の結果だ」
マクガーニ閣下は言い訳がましくもごもご言っている。
「……ステファニーとの婚約を覆すのに、少し時間がかかりそうなんだ。議会が承認したばかりの婚約を破棄なんてしたら、議会の面子も丸潰れだと多方面から反対されてどうにもならない。……だが、婚約が既成事実化されると困るから、議会の承認は出たが俺自身は望んだ婚約じゃないとコメントを出した。ところが、エルシーの名前が新聞社にすっぱ抜かれてしまって……今、王都の陸軍司令部は新聞記者どもが殺到して大変なことになっている。リンドホルムも王都に近すぎるし、しばらく国外に出る方がいい。軍縮会議はちょうどいい機会だしな」
殿下が溜息交じりに言う。
「いったん、議会が絡んでしまうと、俺の個人的な問題ですまなくなる。その辺を狡猾なレコンフィールド公爵にしてやられたんだ」
わたしが数日、リンドホルムにいる間に、王都では大騒ぎになっていたらしい。
「……でも、殿下はビルツホルンに向かわれるとして、ではわたしは――」
「お前も一緒に来るに決まってるだろう」
殿下に当たり前のように言われて、わたしはえええっと仰け反った。
「無理ですよ! わたし旅券も持っていませんし!」
わたしはスミス夫人との別れもそこそこに、翌日の昼前に出る汽車でリンドホルムを発つことになった。
サイラスは何とも複雑な表情でわたしを見送り、ジェーンおば様はあまりのことに興奮しているようだった。――そりゃそうだろう。王都の噂話で聞いた、王子を篭絡した阿婆擦れ女が、まさか自分の親族だなんて想像もすまい。
一人、ダグラスだけが妙にニヤニヤとわたしを見てきて、隙を見て耳元で囁いた。
「なるほどねー、いい女になったと思ったら、王子様のお仕込みだったとは。……王子に振られたらいつでも戻って来いよ。王子仕込みのテクで、俺にもいい思いをさせてくれ」
反射的に殴ってやろうとしたわたしの手を、ダグラスが掴み、ニヤニヤと握りしめられて、わたしはゾッとする。
「離して!」
その様子を遠くで見ていたリジーこと殿下が、慌てて走り寄ってきて、わたしを背中に庇う。
「なんだ、あんた、王子の女の犬だったのかよ。ざまあねーな」
「この下衆野郎が! エルシーに触るな!」
一触即発で睨み合う二人を、ロベルトさんが間に入って宥める。
「ほらほら、もう出発しますから! お世話になりました!」
慌ただしく馬車に乗り込み、駅へと向かう。昨日の晴天とはうってかわって、朝から小雨がぱらつく寒々しい日だった。
わたしが馬車の窓から懐かしい城を振返れば、殿下がそっと手を握ってくれた。ほぼ葉の落ちた楓並木の向こうに、邸が遠ざかっていく。
「……大丈夫だ、また、戻ってこれる」
そしてわたしの耳元で囁いた。
「俺は必ず、ローズの庭を取り戻す」
曇天の下を、馬車は荒れ野を横切って駅へと走った。
王都行きの一等客車は空いていた。
行きはメアリーとジョンソンも一緒だったけれど、帰りは殿下とロベルトさんと、そしてマクガーニ閣下の四人のはずだったが、一等車両にはラルフ・シモンズ大尉が乗ってきて、わたしはびっくりした。
「実は、リンドホルムの町でいろいろと調べていたんですよ」
シモンズ大尉が肩を竦める。
「いろいろ、怪しいんですけど、よそ者が一日で調べられるもんじゃないですからね。俺の以前からの部下を一人、城下に紛れ込ませるのに成功しました。城内のことは、お嬢さんの執事の人が、ある程度の情報は探り出してくれそうですし」
殿下がわたしに微笑みかける。
「ラルフは特務機関の出で……つまりマックスの直属の部下だったんだ。マックスがもともと教育した部下を引き継いでいるし、任せておけば大丈夫だ」
「……父は、そんな仕事をしていたのですか……」
シモンズ大尉が調べているのは、ビリーの死の真相。
「ジェームズ・アシュバートン少尉のことは、今、問い合わせてますがね。どうも東部戦線にいたみたいですね」
「……東部か。あそこも酷かったらしいからな」
殿下とシモンズ大尉のやり取りを聞きながら、でもわたしは昨日のショックが抜けなくて、ただ窓の外の景色を見ながら汽車の揺れに身を任せていたが、気づけば殿下の肩に凭れて眠っていたらしい。
車掌が熱いお茶を持ってきた、その音で目が醒めて、慌てて身を起こすと、殿下の大きなコートが身体に掛けられていた。
「ああ、目が醒めたのか。ちょうど弁当が来た。コールドチキンとパンだけど。こんなもので悪いな」
「いえ、そんな……」
「はーい、エルスペス嬢、アツアツのお茶だよ!」
ロベルトさんが熱いお茶のカップを手渡してくれて、わたしはそれを両手で受け取る。
「ありがとうございます……」
じーっとロベルトさんに見つめられ、わたしが首を傾げると、ロベルトさんがはあっと溜息をつく。
「寝起きのエルシーたんの色っぽさよ……」
「おい! 誰の許しを得て! 見るな!」
殿下がロベルトさんを睨みつけると、ロベルトさんが手をひらひらさせる。
「減るもんじゃないし~」
「減る!見るな!」
「わたしは見られたくらいでは減りません」
「ダメだ。寝起きのエルシーは俺限定」
「……くだらないことを!」
若者らしい馬鹿話を、マクガーニ閣下が一喝する。
わたしたちは汽車の中で夕食を食べ、熱いお茶を飲んで人心地つく。わたしはお茶のお代わりを貰って飲みながら、恐る恐る尋ねた。
「その……新聞記事ですが……」
「ああ……あれは……」
殿下が忌々しそうに眉を顰める。
「大衆紙なんだけどね。でも名前が出たのは痛いと言えば痛い」
ロベルトさんが最後のパンを口に放り込みながら言う。
「やはり、リークした奴がいるんでしょうな」
ラルフ・シモンズ大尉がどこかの駅で調達してきたらしい、ウィスキーをカップに注ぎ分けながら言う。
「正確な名前と、元のリンドホルム伯爵の娘だという、情報。――心当たりは?」
ウィスキーのカップを手渡されて、殿下が肩を竦める。
「司令部では噂になっていたようだが、新聞社までタレこむような度胸のあるのはそんなにはいまい」
「けっこう、詳しい上に同情的なんですよ、この記事。……病気の祖母を抱えてたとか、父親が戦死したのに代襲相続が認められてないとか……レコンフィールド公爵からの情報リークとは思えないんですよね」
シモンズ大尉が上着の内ポケットから、丸めた新聞を取り出して言う。
「……やはり司令部に関わる何者かが……」
マクガーニ閣下が灰色の眉を顰める。
「王都の、殿下のアパートメントに関しては、伝聞情報のようですね。『購入してもらった』とあります。あそこはあくまで殿下の資産で、ミス・アシュバートンは部屋を提供してもらっていただけです。その辺りは、王都の噂に惑わされているようなので、アパートメントの使用人とか、あるいはロベルトの姉貴とかの方向ではないようですね」
「当たり前だよ! 姉貴はあんなだけど信用商売なんだから!」
シモンズ大尉の言葉に、ロベルトさんが姉を庇って反論する。
「ドレスメーカーが顧客情報を出したら信用に関わるよ。金持ちの愛人のドレスを作ってナンボの商売なんだから! その辺の守秘義務はお針子にも徹底させるし。リーク元は姉貴のメゾンじゃないよ!」
殿下は顎に手を当てて何か考えていたようだったが、わたしと目が合うと、首を振って微笑んだ。
「大丈夫だ、バレてしまったものはしょうがないけれど、俺が全力で守るから――」
「いえ……でも……」
わたしはちらりとマクガーニ閣下を見て、言った。
「この後、しばらくは閣下のお世話になる予定にしていましたが、ご迷惑がかかるようなら、そうもいきません。まだ小さなお子様もいらっしゃるし。……わたしはやっぱり、どこかホテルか下宿にでも――」
「あーそのことなら、気にするな。しばらく王都を離れるから」
「はあ?」
殿下が何でもないことのよう言って、わたしが目を剥く。
「明日の夜行で、東の――ビルツホルンに向かう。講和会議に出ることになったから」
「ビルツホルン? ……ってアルティニア帝国の首都の? 講和会議? 殿下がそれに出席なさるんですか?」
「講和会議ではなくて、軍縮会議ですよ、殿下。……本当は陸軍大臣としてわしが調印式だけ行く予定だったのだが、どうやら交渉が難航して、事務方だけではニッチもサッチもいかなくなったらしい。わしの外遊を早めろ言われたが、そういうわけにもいかず、急遽、全権大使として殿下の派遣が決定したのだ。……というか、わしが国王陛下を半ば脅して決定させたのだよ、エルスペス嬢。駆け落ちされたくなくば、外遊を認めろと」
「脅す? 国王陛下を? 駆け落ち?」
話が読めなくて、わたしが目をぱちぱちさせると、マクガーニ閣下がさらに言う。
「殿下は酒浸りになって我々を誤魔化すその裏で、密かに新大陸への渡航を企て、豪華客船のチケットを手配していたのだよ、二人分!」
わたしが思わず殿下を見れば、殿下が気まずそうに視線を逸らす。ロベルトさんがクスクス笑った。
「マクガーニ大臣も軽ーく恩を売ろうとしてますけど、かなり自己都合じゃないっすか」
殿下がわたしの耳元で囁く。
「実は、ジェニファー夫人がおめでたでね。それで、奥方の側を離れたくないからと、俺を押し込んださ。意外とムッツリだろ?!」
「そうなのですか!」
ムッツリの意味はよくわからないが、ジェニファー夫人がご懐妊はおめでたい。マクガーニ閣下は照れ臭そうに眉を顰めている。
「いや、その……いろいろ調整の結果だ」
マクガーニ閣下は言い訳がましくもごもご言っている。
「……ステファニーとの婚約を覆すのに、少し時間がかかりそうなんだ。議会が承認したばかりの婚約を破棄なんてしたら、議会の面子も丸潰れだと多方面から反対されてどうにもならない。……だが、婚約が既成事実化されると困るから、議会の承認は出たが俺自身は望んだ婚約じゃないとコメントを出した。ところが、エルシーの名前が新聞社にすっぱ抜かれてしまって……今、王都の陸軍司令部は新聞記者どもが殺到して大変なことになっている。リンドホルムも王都に近すぎるし、しばらく国外に出る方がいい。軍縮会議はちょうどいい機会だしな」
殿下が溜息交じりに言う。
「いったん、議会が絡んでしまうと、俺の個人的な問題ですまなくなる。その辺を狡猾なレコンフィールド公爵にしてやられたんだ」
わたしが数日、リンドホルムにいる間に、王都では大騒ぎになっていたらしい。
「……でも、殿下はビルツホルンに向かわれるとして、ではわたしは――」
「お前も一緒に来るに決まってるだろう」
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