【R18】没落令嬢の秘密の花園――秘書官エルスペス・アシュバートンの特別業務

無憂

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第一章

夜想曲*

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 殿下のアパートメントの居間には立派なピアノがあって、わたしは自由に弾いてもいいと言われていた。わたしはカッスルではピアノが唯一の友達みたいなもので、毎日のように弾いていたが、王都の家にピアノなんてあるわけなく、三年ぶりだったので、最初は指が思うように動かなかった。数日で、勘を取り戻したけれど。

 例の、アイザック・グレンジャー卿に突撃されてから数日後、殿下の意向で、わたしについている護衛の数が増やされて、かなり窮屈な毎日を送っていた。だから、自由な時間もわたしは外出せずにアパートメントに籠り、ピアノを弾く時間が増えた。

 わたしはピアノを弾くといつも、周囲を忘れて没頭してしまう。これは昔からの悪い癖で、何度、祖母からの呼びかけを無視して叱られたか知れない。その夜も、わたしは殿下のお戻りにも気づかずにピアノを弾き続けていた。だから曲が終わって初めて、殿下の存在に気づいて、びっくりして飛び上がった。

「殿下? いつの間に?」
「さっきからいるぞ?」

 殿下はシャツとトラウザーズだけの軽装で、吸っていた煙草をもみ消して立ちあがると、わたしを背後から包み込むようにして抱きしめ、楽譜を覗き込んで言った。

夜想曲ノクターンだったのか?! ずいぶん、独創的な演奏だな。全然、違う曲に聞こえたぞ?」
「そうですか? 楽譜通りに弾くとこんな感じだと思うけど……」
「この曲はもっと抑揚をつけて弾くもんだろ。……もしかして、別の演奏者のを聞いたことがないのか?」
「別の演奏者? あるわけないじゃないですか。 田舎で、ピアノを弾く人なんて、わたしくらいで。亡くなった母と、おばあ様も昔は弾かれたそうですけど、最近は全然ですし」

 子供のころは母に習ったけど、その後は独学だ。父が王都から送ってくれる楽譜だけを頼りに弾いていた。

「抑揚……ですか? あとこの記号の意味がわからなくて……」
「それはペダルを踏むところだ。そんなことも知らずによく弾いてるな」
「え……? もしかしてわたし、下手くそですか?」

 ……いい気分で弾いていたけれど、もしかして失笑ものだったのだろうか。殿下が慌てて首を振る。

「いや、下手というのとは、少し違う。……何というか、楽曲解釈が独創的過ぎてほとんど別の曲というか……」
「殿下もピアノは弾かれるの?」
「子供のころに少しだけ習ったけれど、十年以上弾いてない」 

 わたしは抱きしめられたまま、指で鍵盤をなぞりながら尋ねた。ポロン、ポロンと、フレーズを辿っていく。

「グレンジャーには厳重に抗議をしておいた。……あいつ、お前を売春婦か何かだと思い込んでいたらしい。失礼な話だ。お前の姿を直に見たら、貴族出だとすぐにわかりそうなものなのに」

 殿下が背後から肩口に顔を寄せて言う。

「……思い込みの激しそうな方でしたもの。わたしが伯爵の娘だと聞いたら、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をしてらしたわ。結局何のお話だったのかしら」
「お前を少し脅して、小金でもチラつかせて、俺から手を引かせるつもりだったらしい。不愉快だから絶交を言い渡してきた」

 殿下の声が無意識に尖って、不快感をにじませる。

「俺が、お前にドレスや宝石を貢ぐのが気に入らないらしい。余計なお世話だ。……あいつだって自分の婚約者にそこそこ貢いでいるのにな」
「自分の婚約者とわたしのような女を一緒にするなと言われたわ。……たまたま、彼女の父親が戦死してないだけなのに」
「……そんなことまで言ったのか。クソ、本当に失礼だな。あいつのブサイクな婚約者と、俺の可愛いエルシーを一緒にするなと言いたかったのを、紳士にあるまじき発言だと思って我慢したんだぞ。チクショウ、言ってやればよかった! ……リンドホルム伯爵家は建国以来の名家で、あいつの実家ギルフォード侯爵家より、よっぽど由緒がしっかりしてる、とだけは言っておいたが」

 ……まあでも、伯爵の娘に生まれたのは偶然であって、わたしの努力とは関係ない。失った爵位の話をするのもバカバカしいとわたしは思って、話を変えることにした。

「……このアパートメントには、ピアノも付いていたんですね」
「いや。お前が弾くかと思って、新たに購入したんだが……」

 ……なぜ、わたしがピアノを弾くと知っていたのかしら?

 不思議に思い、尋ねようとしたが、殿下に首筋を唇で優しく食まれて、わたしは思わず息を詰める。前に回された手がわたしの身体をまさぐり、ブラウスの上から胸を優しく揉み込まれ、指が先端をかすめて、わたしの息が上がる。

「はっ……だめっ……」
「続けろ……」
「そんな……ああっ……」

 指はもう、上手く動かなくて、不規則な音を立てる。

「そんな弾き方だと、はしたなく感じてる最中だって、ジュリアンにバレるぞ?」
「じゃあやめて……あんっ……」

 先端の尖りをブラウスの上から摘まれて、わたしの指が不協和音を響かせた。

「そろそろ、部屋に行こう。ピアノを弾いているお前を見ていたら、抱きたくなった」

 そう言って殿下はわたしに口づけてから、わたしをピアノの前から抱き上げた。




 

 わたしは浴室に連れ込まれるとあっと言う間もなく裸に剥かれ、いつものように洗面台の上で脚を開かされた。殿下はまだシャツとトラウザーズと着けたまま、洗面台の前に跪き、ぬるぬるしたクリームの塗り付けて、真剣な表情で剃刀を使う。彼は、いつもこうしてわたしの恥毛を剃るのだ。浴室内は煌々と電灯に照らされて昼間のように明るく、人目にさらすべきでない、恥ずかしい場所を殿下にじっと見られていると思うと、本当に恥ずかしくて死にたくなる。

「ねえ、もうやめて……自分で、剃りますから……お願いです」
「いいから。……動くと怪我するぞ?」
「だって、恥ずかしい……」
「そうやって恥ずかしがるのを剃るのが楽しいんじゃないか。諦めて俺の言う通りにしろ。それに……」

 殿下は剃刀を持つ手を止め、わたしの顔を下から覗き込んで、いやらしい笑みを浮かべた。

「……最近、剃られるだけで濡らすようになっただろう。見られて、感じてるのか?」
「ち、違います!」

 慌てて首を振るけれど、殿下の指がわたしの花弁を割り、早くも濡れそぼった襞の中を辿る。それだけでゾクゾクした感覚が背筋を駆けあがって、わたしの腰が無意識に揺れる。

「動くなって」
「だって……
「ほら、もうすぐ綺麗になる」

 殿下は花弁を広げたり、引っ張ったりしながら、丹念にわたしの恥毛を全てそり落とすと、剃刀の刃を仕舞って、それからわたしの秘所に口づける。熱くぬるついた舌の感触に、わたしが悲鳴を上げた。

「あっ……やあっ……それ、だめっ……ああ、あああっ……」

 見下ろせば、殿下の黒い頭がわたしの足の間にあって、ぴちゃぴちゃといやらしい水音が響く。敏感な場所を容赦なく這いまわる熱い舌のもたらす快感に、わたしは無意識に腰を揺らし、裸の身体を捩り、恥ずかしい喜悦の声を上げ続ける。

「ああっ、あっ……ああっ、やあっ、ああ……」

 一番敏感な尖りに軽く歯を立てられて、甲高い嬌声を上げ、いともたやすく達した。 






 
 自分も裸になった殿下はわたしを抱き上げて浴槽に入り、膝の間に座らせるようにして、お湯の中でわたしを好き放題に弄んだ。殿下は左手の長い指でわたしの花弁を広げ、右手の指でわたしの中を穿ち、突起を弄び、わたしを何度も、絶頂に導いた。彼の指はわたしの感じる場所を知悉していて、わたしの身体を思う通りに支配した。いやだと思っても、わたしの身体はわたしではなく、殿下の指の命令を聞いた。どれだけ抵抗しようとしても、殿下がわたしの感じる場所を同時に刺激して、耳元で「イけ」と囁かれれば、わたしの身体はあっけなく陥落しする。唇は淫らな楽器のように、隠微な音楽を奏で、白い身体は殿下を歓ばす玩具のように、終わりのない快楽に身悶えて淫らなダンスを踊った。

 何度も頂点を極めさせられて、もうこれ以上、イくのは嫌だと、殿下に懇願する。なのに、殿下の指は執拗に、わたしの感じる場所を責め続ける。水面が揺れて陶器のバスタブを叩き、わたしのいやらしい声が浴室に反響する。……きっともうすぐ、快感の波がわたしを襲い、否応なく頂点の高みに押し上げられる――半ば諦めの境地で、わたしはその時を待っていたのに――。

 殿下の愛撫は相変わらず執拗なのに、一向にがやってこない。頂点の見えない快楽は、むしろある種の拷問のようで、わたしは荒い息の下から、とうとう問いかけてしまった。

「でん、か……?」
「どうした? ……何か、足りないか?」

 肩越しに振り返ってみれば、殿下の金色の瞳が悪戯っぽい光を湛えて、わたしを見ている。形のよい唇の口角が上がって、殿下がこの状況を面白がっているのがわかった。――どうして、わざと?

「はっ……はあっ……でん、か? ……なに、を……はあっ」
「そろそろ、イきたいんだろう? 俺が、欲しいか?」

 耳朶を甘噛みされ、熱い息を吹きかけられ、それだけで脳が溶けそうだった。殿下の指が、わたしの中をかかき回し、内部の敏感な場所に触れるたびに腰が跳ね、浴槽が波立つ。でも、まるでわざと絶頂しないよう、絶妙の加減で――。

「強請ったら、イかせてやる」

 そんな恥ずかしいこと!

「いや……違いますっ……そんな……」
「欲しくないのか? もう、手じゃあ物足りないだろう? さっきからヒクヒクして俺の指を締めつけている。俺の、コレが欲しいんだろう?」

 さっきからわたしの背中に当たっていた硬い物が、殿下によって押し付けられて存在を主張する。

 そう言われて、わたしも気づく。わたしの一番深い場所が、殿下の灼熱を求めていることを。だってもう、知ってしまった。その熱が与えてくれる地獄のような快楽を。抱かれるたび、貫かれるたびに、もう逃げられないと思う。殿下の楔は鍵のようにわたしの身体をこじ開け、今まで知らなかった快楽の扉をいくつも開いて、わたしを見知らぬ部屋に引きずり込んだ。もう、帰り道もわからない、いやそもそも、帰り道などないのかもしれない。わたしは永遠に、この淫らな場所から戻ることはできない――。

 でも――。
 飼い馴らされた身体とは別の、わたしの僅かに残った理性がそれを拒否する。
 いやだ。わたしは、わたし。わたしは殿下の、淫らな玩具オモチャじゃない――。

「いや、……そんなの、欲しくないっ!」

 わたしが意地を張って首を振れば、殿下は金色の瞳を見開き、そして少しだけ口元を綻ばせる。

「ほう……そうか、欲しくない、か……」

 殿下の指が、わたしの中から静かに抜け出ていく。
 わたしはホッとして、溜息をつく。だが――。

 殿下は背後から両手をわたしの両の乳房を持ち上げるようにして、やわやわと揉み始めた。長い指の間で挟むように、先端の尖りを弄ばれ、わたしは背筋を貫く快感に、思わず悲鳴をあげた。

「あ、ああっそれも、だめぇ……」

 初めての夜は痛いだけだったその場所は、毎晩のように殿下に愛撫されて、淫らに作り変えられてしまった。二つの乳首を同時に指で抓まれ、クリクリと苛められれば、あまりの快感にわたしは淫らな声を止めることができない。
両胸を持ち上げられるようにして、少し浮いた足の間に、殿下の熱い昂りが挟み込まれる。殿下がゆるゆると腰を揺らして、硬い先端でわたしの花弁をぐじゅぐじゅと刺激して、水面が波立ち、わたしは身体をのけぞらせた。

「ああっ、ああっ……やあっ……やめてぇ……」
「エルシー、俺も、そろそろ限界だ。……挿れたいんだが……欲しくないのか?」
「やあ、そんな、ああっ……ああっ」
「エルシーはズルイな、胸だけでこんなに感じて。……もしかして、胸だけでイくか?」 
「ちが、そんなっ……ああっあっ……もうっ……」

 殿下の雄茎の、先端の笠の部分が、わたしの敏感な尖りを引っ掻けるようにこするたびに、わたしの唇は抑えきれない嬌声をあげる。浴室のタイルの壁にそれが反響して、わたしの脳を犯し、理性を砕いていく。

「エルシー……欲しいんだろう?」

 殿下が耳朶を甘噛みした瞬間、わたしの脳は完全に蕩け切って、わたしの最後の理性の箍が弾け飛んだ。

「ああっ、もうっおねがいっ、ちょうだい、ちょうだい、でんかの……」
「やっとか、この、強情女……俺を、試しやがって……」

 殿下はわたしの腰を両手で掴んで、硬く漲った昂りをわたしの蜜口に宛がい、背後からゆっくりと楔を突き立てる。
 ああ、やっと――わたしは入ってくる殿下を感じて、喉を反らし、電灯に照らされた白いタイルばりの浴室の天井を見上げる。

「あああっ……」
「はあっ……エルシー……」

 一番奥まで満たされて、殿下の腰がわたしの尻に当たる。殿下が両手で、わたしの腰をギュッと抱きしめた。
 耳元で、殿下が囁く。――息が、熱くて、それだけで頭から溶けてしまいそう。

「エルシー……気持ち、いいか?」
「いいっ……いいのっ……ああっ……だめっもうイっちゃう……」

 あまりに気持ち良すぎて、わたしの腰が勝手に動いて、自ら頂点に向かって暴走を始める。お湯がちゃぷちゃぷと跳ね、浴槽から溢れる。

「ちょっと待てエルシー、動くな、勝手に一人でイくつもりか?」
「だって、もう……イく……ああっああああ!」

 わたしは殿下に穿たれただけで、一人で絶頂してしまった。


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