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第二章
王子の醜聞
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サイラスの懸念に、マクガーニ閣下は冷静に言った。
「いや、明らかな犯罪が関わっていなければ、相続関係は遡及されない。よほどのことがなければ、一度、決定された相続が覆ることはない。……だが、アルバート殿下としては、マックスの娘と母親には相応の補償をしたいと考えておられて、その矢先のウルスラ夫人の死だったので。それゆえに、代理人を派遣されるのでしょう」
「そういうことでしたか……」
サイラスが慌ててハンカチで汗を拭きつつ言う。
「なんだ、アルバート殿下ご本人が来るわけじゃないの」
ヴィクトリアの発言に、思わずわたしが咽てしまう。代理人が来るだけで破格なのに、本人が来たらどんな騒ぎになるか。……結婚式と違って葬儀は招待状を出さないから、こちらからは拒めないのが辛い。マクガーニ閣下が言った。
「いくら何でも、この田舎町に殿下ご自身で足を運ばれれば、周囲の迷惑になる。その辺は弁えておられるよ」
「なんだ、つまらないの」
ヴィクトリアが肩を竦める。
「新聞で読んだわ。アルバート殿下ってすっごい美男子なんでしょ。見てみたかったのに」
「ヴィー、王族の方に対して失礼よ」
「別にいいじゃない、この場にいるわけじゃなし」
ジェーンおば様に窘められても、ヴィクトリアは全く意に介さない。
「アルバート殿下と言えば、最近、レコンフィールド公爵令嬢との婚約が議会に承認されたそうですけど、どうやら早速、婚約を破棄するとか、騒いでいるそうですね。婚約披露の晩餐会にも欠席だとか。体調不良と発表されていたけど、一人で出席した公爵令嬢の方が真っ青で倒れそうだったと、ゴシップ紙が面白おかしく書いてましたよ」
ダグラスが言い出して、わたしの食事の手が止まってしまう。
「そんな噂があるのかね?」
サイラスが話を振ると、ダグラスが意気揚々と王都の噂話を始める。
「ええ、アルバート殿下とレコンフィールド公爵令嬢は、幼馴染でずっと相思相愛で、正式な婚約こそしていなかったけれど、間違いなく、二人は結婚すると誰もが思っていた。ところが、そこに戦争があって、殿下は自分を待たずに結婚するよう、令嬢に言いおいて戦地に向かった。それから四年、けなげにも待っていた令嬢のもとに、殿下はご帰還遊ばされたが、帰ってきた早々、愛人を作ってご令嬢には目もくれない」
ダグラスは皆の注目を浴びて得々と話を続けた。
「しかもその女ってのが、若くて目の覚めるような美女な上に、とんだおねだり上手で、王都の一等地のアパートメントから、流行のドレスから宝石から、あれこれ殿下に買ってもらって好き放題してるらしいですよ」
「んまあ! そんなことが!」
「殿下も戦場が長かったし、要するに若い男ですからね、育ちはいいけど上品で堅苦しいご令嬢より、ちょっとばかり蓮っ葉でも、若い魅力に溢れた女にコロリと参っちまったんでしょう。まあ、いわゆる性的魅力ってやつでしょうかね」
とんでもない言葉が飛び出して、わたしは飲み込みかけたサーモンのムニエルを喉に詰まらせてしまう。この家の正餐室で、そんな言葉を耳にするだなんて!
ゲホゲホと咽せるわたしのグラスに、スミス夫人が水を注いでくれる。
「女性の前で話すべき言葉とも思えんよ。少しは慎みたまえ」
マクガーニ閣下がダグラスを窘め、ダグラスが肩を竦める。
「ああ、失礼。どうしても田舎の家庭の癖が抜けなくて。エルシーには刺激が強すぎたかな?」
「エルシーはガンコなおばあ様に育てられたから、ちょっと異常なほどカタイのよ。……大方、レコンフィールド公爵令嬢って、エルシーみたいな堅物だったんじゃなくて? あれじゃあ殿下もうんざりなさるわ」
「ヴィクトリア、いい加減にしないか。マクガーニ閣下の前で」
さすがにサイラスが姪を注意して、その話は終わるかと、わたしがホッとしたのもつかの間。ダグラスがなおも、マクガーニ閣下に突っかかる。
「閣下はアルバート殿下を直接にご存知なんですよね? どうなんです? 噂通り、殿下は美男子で、相思相愛の婚約者を捨てて、気軽な愛人に溺れてそっちと結婚するなんて、言い出しているんですか?」
マクガーニ閣下の頬がピクリと引き攣り、半ば白くなった眉を大きく歪める。――その表情を見て、ダグラスは王都の噂がかなりの部分で本当だと、察してしまったらしい。
「ええー、やっぱり本当なんですか?! いや、参ったな、僕は王都のゴシップ記事なんて当てにならないと思っていたんだけどな。じゃあ本当に、非の打ちどころのない婚約者を捨てて、股の緩い女に入れあげちゃったんですか!いくら何でも結婚なんて無理ですよねぇ。三男坊とはいえ、かりにも一国の王子が」
ダグラスの大げさな物言いに、ヴィクトリアが同調する。
「あら、でも意外と素敵じゃない。身分よりも何よりも、好きな女を取るだなんて」
「いやでも、王族がそれじゃ困るよ。阿婆擦れ女が王妃になったらどうする。……でも教会としてはどうなんです?婚約ってのはそう簡単に破棄できるものなんですかね、牧師さん」
突如話を振られた牧師様は、飲んでいた赤ワインを吹きそうになる。
「え、い、いや……その……正式に結婚していたわけではないし……あ―……その……」
わたしはとうとう、耐えられなくなって、カトラリーと置くと立ちあがった。
「ごめんなさい、長く汽車に乗って疲れてしまったみたい。ちょっと気分が悪くて……失礼します。……皆さんはお食事を続けてください」
わたしは席を外し、自分の部屋に帰りついた。部屋を片付けていたメアリーが出迎える。
「もう、お食事はお済みで?」
メインの途中で出てきてしまったから、予定よりもかなり早い。
「ええ、食欲がなくて……」
メアリーはわたしを気遣うように言った。
「温かいミルクをお持ちしましょう。お疲れになったのですよ」
「ありがとう。あなたたちもお疲れ様。……おばあ様の柩は教会に?」
「ええ! ジョンソンは今夜はあちらに泊まり込みます」
「本当に、あなたたちには全部よくしてもらって……」
わたしが肘掛け椅子に倒れ込むように座ると、メアリーが首を振った。
「いいえ、奥様にはお世話になりましたし……こんなに急にお別れすることになるとは、思いもよりませんでしたが」
わたしはふと、思いついて尋ねる。
「……おばあ様が亡くなったけれど、あなたたちはこれからどうするの?」
メアリーとジョンソンの夫婦が、ほとんど無給で勤めてくれたのも、祖母への恩があるからだと言っていた。
「……お嬢様は、これからどうなさるおつもりで?」
「わたしは――」
場合によっては、このままストラスシャーで暮らすことも考えていた。でも、やはりこの家に厄介になるのは現実的じゃない。
「わからないわ……たぶん、王都に戻るわね。仕事はやめてしまったけど、女一人だったら、タイピストでもなんでもして、何とか生きられるでしょ」
「お嬢様そんな!」
メアリーもジョンソンも、わたしがどういう手段で祖母の入院費を調達したのか、薄々気づいている。
「……お嬢様、王都で女一人だなんて、不可能ですわ。何より危険です」
「でも、今はマクガーニ閣下のお世話になっているけど、ずっと、ってわけにはいかないわ。おばあ様のお葬式が済んだら出て行かないと」
「……きっと、何かいい方法が見つかりますよ。悲観的にならないでください」
「そうかもしれないわ。……そうじゃないかもしれないけど」
どこか投げやりなわたしの様子を気遣いながら、メアリーは洗濯物を抱え、ホットミルクを入れに出ていった。
一人になって、わたしはもう一度溜息をつく。
――王都の噂話なんて、聞きたくなかった。
わたしは自分が着ている、黒の上品な喪服を見下ろして溜息をつく。祖母が亡くなって、わたしは殿下に別れを告げ、マクガーニ閣下の家に移った。ところが、翌日にはロベルトさんが山のような箱を抱えてやってきた。
『たくさん喪服が必要になるから、殿下が王都中の高級メゾンの、サイズの合いそうな高級既製服をかき集めさせたんだ。ついでに姉の店のお針子も連れてきたから、すぐにサイズを合わせて――』
もう、これ以上殿下のお世話になることはない、と断ったけれど、ロベルトさんも引かず、ジェニファー夫人までが『もらっておいたら?』と口添えしてきて、結局受け取るしかなかった。
靴に帽子に外套に手袋まで。……確かに、全部必要なものばかりで、助かったと言えば助かったのだ。でも――。
『とんだおねだり上手で、王都の一等地のアパートメントから、流行のドレスから宝石から、あれこれ殿下に買ってもらって好き放題してるらしいですよ』
ダグラスの言葉がわたしの中にぐさりと刺さる。
ドレスも靴も、住居までも殿下に与えられて、甘やかされて。殿下と遊びに行って殿下に抱かれて。……誰が見てもだたの愛人だった。
アルバート殿下は非の打ちどころのない婚約者だった公爵令嬢を捨てて、股の緩い女にはまって散財して――。
祖母が死んだ以上、これ以上殿下のお世話になるわけにいかない。殿下の側を離れ、新しい仕事と家を探し、誰にも頼らず一人で――。
わたしはふと、暖炉の上の壁を見る。壁紙が、ちょうど額縁の分だけ、四角く変色していた。……そう、三年前まで、あの薔薇園の絵はここに飾っていた。
リジーの描いた、あの絵。
黒い癖毛の、リジー――。
あの絵を、殿下のアパートメントに置いてきてしまったことを、わたしはようやく思い出す。
そして本物の薔薇園も、サム爺が死んで、荒れ果て、鉄条網の向こうに――。
今さらながら、不安で潰れそう。美しい思い出のすべてが、醜く壊れて、消えていく――。
「いや、明らかな犯罪が関わっていなければ、相続関係は遡及されない。よほどのことがなければ、一度、決定された相続が覆ることはない。……だが、アルバート殿下としては、マックスの娘と母親には相応の補償をしたいと考えておられて、その矢先のウルスラ夫人の死だったので。それゆえに、代理人を派遣されるのでしょう」
「そういうことでしたか……」
サイラスが慌ててハンカチで汗を拭きつつ言う。
「なんだ、アルバート殿下ご本人が来るわけじゃないの」
ヴィクトリアの発言に、思わずわたしが咽てしまう。代理人が来るだけで破格なのに、本人が来たらどんな騒ぎになるか。……結婚式と違って葬儀は招待状を出さないから、こちらからは拒めないのが辛い。マクガーニ閣下が言った。
「いくら何でも、この田舎町に殿下ご自身で足を運ばれれば、周囲の迷惑になる。その辺は弁えておられるよ」
「なんだ、つまらないの」
ヴィクトリアが肩を竦める。
「新聞で読んだわ。アルバート殿下ってすっごい美男子なんでしょ。見てみたかったのに」
「ヴィー、王族の方に対して失礼よ」
「別にいいじゃない、この場にいるわけじゃなし」
ジェーンおば様に窘められても、ヴィクトリアは全く意に介さない。
「アルバート殿下と言えば、最近、レコンフィールド公爵令嬢との婚約が議会に承認されたそうですけど、どうやら早速、婚約を破棄するとか、騒いでいるそうですね。婚約披露の晩餐会にも欠席だとか。体調不良と発表されていたけど、一人で出席した公爵令嬢の方が真っ青で倒れそうだったと、ゴシップ紙が面白おかしく書いてましたよ」
ダグラスが言い出して、わたしの食事の手が止まってしまう。
「そんな噂があるのかね?」
サイラスが話を振ると、ダグラスが意気揚々と王都の噂話を始める。
「ええ、アルバート殿下とレコンフィールド公爵令嬢は、幼馴染でずっと相思相愛で、正式な婚約こそしていなかったけれど、間違いなく、二人は結婚すると誰もが思っていた。ところが、そこに戦争があって、殿下は自分を待たずに結婚するよう、令嬢に言いおいて戦地に向かった。それから四年、けなげにも待っていた令嬢のもとに、殿下はご帰還遊ばされたが、帰ってきた早々、愛人を作ってご令嬢には目もくれない」
ダグラスは皆の注目を浴びて得々と話を続けた。
「しかもその女ってのが、若くて目の覚めるような美女な上に、とんだおねだり上手で、王都の一等地のアパートメントから、流行のドレスから宝石から、あれこれ殿下に買ってもらって好き放題してるらしいですよ」
「んまあ! そんなことが!」
「殿下も戦場が長かったし、要するに若い男ですからね、育ちはいいけど上品で堅苦しいご令嬢より、ちょっとばかり蓮っ葉でも、若い魅力に溢れた女にコロリと参っちまったんでしょう。まあ、いわゆる性的魅力ってやつでしょうかね」
とんでもない言葉が飛び出して、わたしは飲み込みかけたサーモンのムニエルを喉に詰まらせてしまう。この家の正餐室で、そんな言葉を耳にするだなんて!
ゲホゲホと咽せるわたしのグラスに、スミス夫人が水を注いでくれる。
「女性の前で話すべき言葉とも思えんよ。少しは慎みたまえ」
マクガーニ閣下がダグラスを窘め、ダグラスが肩を竦める。
「ああ、失礼。どうしても田舎の家庭の癖が抜けなくて。エルシーには刺激が強すぎたかな?」
「エルシーはガンコなおばあ様に育てられたから、ちょっと異常なほどカタイのよ。……大方、レコンフィールド公爵令嬢って、エルシーみたいな堅物だったんじゃなくて? あれじゃあ殿下もうんざりなさるわ」
「ヴィクトリア、いい加減にしないか。マクガーニ閣下の前で」
さすがにサイラスが姪を注意して、その話は終わるかと、わたしがホッとしたのもつかの間。ダグラスがなおも、マクガーニ閣下に突っかかる。
「閣下はアルバート殿下を直接にご存知なんですよね? どうなんです? 噂通り、殿下は美男子で、相思相愛の婚約者を捨てて、気軽な愛人に溺れてそっちと結婚するなんて、言い出しているんですか?」
マクガーニ閣下の頬がピクリと引き攣り、半ば白くなった眉を大きく歪める。――その表情を見て、ダグラスは王都の噂がかなりの部分で本当だと、察してしまったらしい。
「ええー、やっぱり本当なんですか?! いや、参ったな、僕は王都のゴシップ記事なんて当てにならないと思っていたんだけどな。じゃあ本当に、非の打ちどころのない婚約者を捨てて、股の緩い女に入れあげちゃったんですか!いくら何でも結婚なんて無理ですよねぇ。三男坊とはいえ、かりにも一国の王子が」
ダグラスの大げさな物言いに、ヴィクトリアが同調する。
「あら、でも意外と素敵じゃない。身分よりも何よりも、好きな女を取るだなんて」
「いやでも、王族がそれじゃ困るよ。阿婆擦れ女が王妃になったらどうする。……でも教会としてはどうなんです?婚約ってのはそう簡単に破棄できるものなんですかね、牧師さん」
突如話を振られた牧師様は、飲んでいた赤ワインを吹きそうになる。
「え、い、いや……その……正式に結婚していたわけではないし……あ―……その……」
わたしはとうとう、耐えられなくなって、カトラリーと置くと立ちあがった。
「ごめんなさい、長く汽車に乗って疲れてしまったみたい。ちょっと気分が悪くて……失礼します。……皆さんはお食事を続けてください」
わたしは席を外し、自分の部屋に帰りついた。部屋を片付けていたメアリーが出迎える。
「もう、お食事はお済みで?」
メインの途中で出てきてしまったから、予定よりもかなり早い。
「ええ、食欲がなくて……」
メアリーはわたしを気遣うように言った。
「温かいミルクをお持ちしましょう。お疲れになったのですよ」
「ありがとう。あなたたちもお疲れ様。……おばあ様の柩は教会に?」
「ええ! ジョンソンは今夜はあちらに泊まり込みます」
「本当に、あなたたちには全部よくしてもらって……」
わたしが肘掛け椅子に倒れ込むように座ると、メアリーが首を振った。
「いいえ、奥様にはお世話になりましたし……こんなに急にお別れすることになるとは、思いもよりませんでしたが」
わたしはふと、思いついて尋ねる。
「……おばあ様が亡くなったけれど、あなたたちはこれからどうするの?」
メアリーとジョンソンの夫婦が、ほとんど無給で勤めてくれたのも、祖母への恩があるからだと言っていた。
「……お嬢様は、これからどうなさるおつもりで?」
「わたしは――」
場合によっては、このままストラスシャーで暮らすことも考えていた。でも、やはりこの家に厄介になるのは現実的じゃない。
「わからないわ……たぶん、王都に戻るわね。仕事はやめてしまったけど、女一人だったら、タイピストでもなんでもして、何とか生きられるでしょ」
「お嬢様そんな!」
メアリーもジョンソンも、わたしがどういう手段で祖母の入院費を調達したのか、薄々気づいている。
「……お嬢様、王都で女一人だなんて、不可能ですわ。何より危険です」
「でも、今はマクガーニ閣下のお世話になっているけど、ずっと、ってわけにはいかないわ。おばあ様のお葬式が済んだら出て行かないと」
「……きっと、何かいい方法が見つかりますよ。悲観的にならないでください」
「そうかもしれないわ。……そうじゃないかもしれないけど」
どこか投げやりなわたしの様子を気遣いながら、メアリーは洗濯物を抱え、ホットミルクを入れに出ていった。
一人になって、わたしはもう一度溜息をつく。
――王都の噂話なんて、聞きたくなかった。
わたしは自分が着ている、黒の上品な喪服を見下ろして溜息をつく。祖母が亡くなって、わたしは殿下に別れを告げ、マクガーニ閣下の家に移った。ところが、翌日にはロベルトさんが山のような箱を抱えてやってきた。
『たくさん喪服が必要になるから、殿下が王都中の高級メゾンの、サイズの合いそうな高級既製服をかき集めさせたんだ。ついでに姉の店のお針子も連れてきたから、すぐにサイズを合わせて――』
もう、これ以上殿下のお世話になることはない、と断ったけれど、ロベルトさんも引かず、ジェニファー夫人までが『もらっておいたら?』と口添えしてきて、結局受け取るしかなかった。
靴に帽子に外套に手袋まで。……確かに、全部必要なものばかりで、助かったと言えば助かったのだ。でも――。
『とんだおねだり上手で、王都の一等地のアパートメントから、流行のドレスから宝石から、あれこれ殿下に買ってもらって好き放題してるらしいですよ』
ダグラスの言葉がわたしの中にぐさりと刺さる。
ドレスも靴も、住居までも殿下に与えられて、甘やかされて。殿下と遊びに行って殿下に抱かれて。……誰が見てもだたの愛人だった。
アルバート殿下は非の打ちどころのない婚約者だった公爵令嬢を捨てて、股の緩い女にはまって散財して――。
祖母が死んだ以上、これ以上殿下のお世話になるわけにいかない。殿下の側を離れ、新しい仕事と家を探し、誰にも頼らず一人で――。
わたしはふと、暖炉の上の壁を見る。壁紙が、ちょうど額縁の分だけ、四角く変色していた。……そう、三年前まで、あの薔薇園の絵はここに飾っていた。
リジーの描いた、あの絵。
黒い癖毛の、リジー――。
あの絵を、殿下のアパートメントに置いてきてしまったことを、わたしはようやく思い出す。
そして本物の薔薇園も、サム爺が死んで、荒れ果て、鉄条網の向こうに――。
今さらながら、不安で潰れそう。美しい思い出のすべてが、醜く壊れて、消えていく――。
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