【R18】没落令嬢の秘密の花園――秘書官エルスペス・アシュバートンの特別業務

無憂

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第一章

命令

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 朝っぱらからニコラス・ハートネル中尉の求婚されていたわたしは、たまたま通りかかったアルバート殿下の馬車に拾われ、攫うように司令部に連れてこられた。体調が悪かったので休んでいた、というわたしとハートネル中尉の言い訳を殿下は信じていないのか、馬車の中はとても気まずかった。

「午前中は会議が入っているから話ができないが、午後に俺の部屋に来い」

 いかにも機嫌の悪そうな様子に、わたしは溜息をつきたいのを堪える。――こんなに、ピリピリした殿下は初めてだ。

「立ち眩みを起こしたのは本当です。ハートネル中尉は付き添ってくださっただけで――」
「言い訳は後で聞く」

 ピシャリと切り捨てられて、わたしは口を噤むしかなかった。

 午前中の会議の間、わたしはロベルトさんやクルツ主任から命じられた書類をタイプしたり、必要経費の書類の検算をしたりして過ごす。昼休憩の間も、そのまま自分の席で書類仕事をつづけた。――食堂に行く気も、食欲もなかった。わたしと殿下が特別な関係だという噂は、同輩の事務職員の間でかなり囁かれていて、食堂に行けば嫌でも耳に入ってくる。今朝のハートネル中尉とのやり取りを、他にも目撃した人がいるに違いないから、わたしが顔を出せばきっと妙な注目を浴びて、マリアン・ブレイズからはいろいろ詮索されるだろう。普段ならやり過ごせても、今日は精神的に無理だ。



 ――やがて、会議を終えて戻ってきた殿下が、自分の席にいるわたしを見て、指で来い、と合図をする。ロベルトさんや護衛の方たちも、殿下の機嫌が悪いのを知っているのだろう、気の毒そうな視線を浴びながら、わたしは殿下の執務室へと入った。

「お呼びですか」
「こっちへ来い」

 殿下は軍服の上着をもどかしそうに脱ぎ、執務机の椅子の背に投げ捨てると、シャツとトラウザーズの軽装で、さらに奥の扉を開けた。――奥の部屋は、司令個人の休息室だ。

 不測の事態に司令部に数日泊まり込めるように、寝台とバスルームがある。当然ながらわたしも入ったことはない。部屋で殿下とはいえ、若い男性と二人っきりになるのは恐ろしくて、わたしが入口で躊躇していると、殿下が振り返って行った。

「早く入れ」
「――失礼します」

 わたしが薄暗い部屋に入ると、殿下はバタンと乱暴にドアを閉め、しかも鍵までかけてしまった。わたしが恐怖で立ち尽くしていると、殿下はパチンと電灯のスイッチを入れる。

 部屋はそれほど広くはないが、陸軍のトップが寛げる程度の家具が置いてある。革張りのソファーセットとテーブル、窓際には小さな書きもの机、それから部屋の奥には寝台があった。

 殿下はソファーセットを指さし、わたしに座るように言う。その席だと寝台に背を向けることになり、寝台が目に入らなくなって、わたしは密かにホッとする。

 殿下はわたしの隣に乱暴に腰を下ろすと、冷たい声で尋ねた。

「――何の、話をしていた?」
「えっと――」
「ハートネルと何を話していた?」

 はっきり聞かれて、わたしは観念する。

「結婚を申し込まれました」
「――で?」
「で、と言われましても」
「受けたのか?」
「いえ、返事をする前に、殿下がいらっしゃったので――」
「受けるつもりだったのか?」 

 殿下の声は氷のように冷たくて、わたしの鳩尾が冷える。

「考えてもみなかったので、動顛して――」
「あいつは前から、お前にコナをかけていたんだろう?」
「そうですけど、まさか本気とは思わなくて……」 
「本気だとすると、いい結婚相手かもしれんと、思い始めたわけか」
 
 殿下の手をがわたしの顎を捉え、顔を上に向けさせる。真正面から、殿下の金色の瞳がまっすぐに、ギラギラした異様な煌きを湛えてわたしを見つめていた。殿下の顔は美しいだけに、怒りを露わにしているときの恐ろしさは予想以上で、わたしは恐怖でカタカタと震え始めてしまう。

「あいつが言っていたな、『俺と結婚すれば仕事も辞められる』と。――そんなに仕事を辞めたいのか?」
「いえ、そうでは、なくて――ただ――」

 殿下の整った顔がわたしに下りてきて、強引に唇を塞がれる。熱い舌が咥内に捻じ込まれて、歯列の裏をなぞり、内部を犯される。――それはまるで、征服し、服従させるための、キス。

 散々貪られて抵抗する気力すら奪われてから、ようやく唇を解放される。わたしが肩で息をしていると、殿下が冷たい目でわたしを見て、言った。
 
「『殿下のことは好きじゃないし、ただの仕事だ』――そう、聞こえたが」
「それは――ハートネル中尉が、まるでわたしと殿下が特別な関係のように言うので、違うと否定しただけです」 
「こうして、キスするのは特別な関係じゃないのか」
「秘書官の業務だと、おっしゃったのは殿下です」
「仕事なら――キスするのか」 
「……わたしから、しているわけではありません」

 殿下は不機嫌そうに、凛々しい眉を顰める。

「仕事なら、何でもするのか?」
「――秘書官ですから、仕事だと言われたら、断れません……」
「なら――お前に命ずるがある」
  
 殿下はソファに座りなおし、わたしに、殿下の正面に跪くように命じた。

 わたしは言われるままにソファから降り、殿下が両脚を広げて座る、その間に膝をつく。ソファの前には絨毯が敷いてあるから、膝は痛くはないが、そんな姿勢を取らされることが、すでにショックだった。茫然と見上げるわたしの顔のすぐ側まで殿下の顔が降りてきて、耳元で囁く。耳朶に触れる殿下の息が熱く、くすぐったくて思わず目をつぶった。

「脱がして、抜いてくれ」
「は?」

 脱がす? 抜く? ……何を?
 わたしがポカンとして見上げていると、殿下は形のよい唇をニヤリと歪め、わたしの手を取って、殿下のトラウザーズに導く。両脚の間に何か硬いものがあって、それがトラウザーズを突き上げていた。

「ここにボタンがあるから、それを外せ」

 わたしは男物のトラウザーズなど履いたことはないから、仕組みがよくわかっていない。殿下のトラウザーズは黒で、釣りベルトで吊ってあるが、股上の部分はボタンが開くようになっていると言う。殿下の表情を下から窺えば、金色の瞳がギラギラと危険な光を宿し、まるでわたしを食べようと狙っている肉食獣のようだった。

 ――怖い。

 本能的な恐怖で手が震える。

「早くしろ。仕事なら、断れないのだろう?」

 何をさせられるのか理解できず、トラウザーズのボタンに手をかけるものの、手が震えてボタンがうまく外せない。その様子を、殿下がいかにも面白そうに見下ろしている。背中を、冷たい汗が流れ落ちていく。

 四苦八苦して何とかボタンを外すと――寛げたトラウザーズの下に着た白いシャツの下で、硬い何かが存在を主張していた。

「シャツを捲って、出せ」

 何を言われているのかようやく理解して、わたしは泣きそうになって殿下の顔を見上げ、微かに首を振った。

「い、いや……いやです……」

 でも、殿下は端麗な顔に冷酷な微笑を浮かべて、なおもわたしに命じた。

「いいから出せ。命令を拒むことは許さない。出したら――」

 殿下はわたしの頬を両手で覆うと、大きな親指でわたしの唇をなぞり、無理矢理口の中に親指を押し込んできた。

「この口で慰めろ」 

 
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