スベル・スリップ・ライフ ~俺の魔法は“滑る”だけ~

せんぽー

文字の大きさ
上 下
6 / 9

第6話 紫炎の美女

しおりを挟む
 中途半端に後ろでまとめた紅桔梗の髪。
 その間から見える煌めくイヤリング。
 パンツスーツにサスペンダーが恐ろしいほどに似合うその美女。

 「君、鳴海界くんだろう? よければ、私と勝負しないかい――――」

 全く知らない美女だった。
 相手は俺のことを知っているようだが、見覚えがない。
 
 「あの、どちら様ですか……?」
 「ただの美女だ」
 「………………鳴海界くんは先に帰ったみたいです。俺、これから用事があるので、他を当たってください」

 『知らない人には関わるな』。
 その姉さんの教えのもとに、立ち去ろうとすると、慌てて呼び止める美女さん。

 「ま、待ってくれ! 君のお姉さんから話は聞いている! 君の魔法のこともだ! 実技試験が悲惨だったことも!」
 「…………」
 「ああ、私にそんな目を向けないでくれ。昔試験を作ったあのじじいどもが悪いんだ……今年こそ変えようとしたんだけど、引退じじいが邪魔してな……君の能力を正確に測れる試験にできなくって申し訳ない」

 と美女は人差し指と人差し指でもじもじしながら、申し訳なさそうに話す。

 その瞬間、俺はそれを見つける。
 小さすぎて気づかなかった襟先についた銀のバッチ。
 描かれていたのはルビナーツ学園の校章。

 ………………ああ、この人。いや、この先生・・
 名前を知っているかつ、姉さんから話は聞いているかつ、実技試験の結果を知ってるこの先生。
 もしかして、この人――――。

 「姉さんの師匠、グラディス・スクウァイア先生ですか」
 「いかにも。君のお姉さんを育てたのは、私だ」

 へぇー、こんな美女が姉さんの師匠か。
 もっとおじいちゃんおじいちゃんしている人だと思っていたのだんだが………。

 「それで? 姉さんの師匠先生が俺に何用で?」
 「うむ。よくぞ聞いてくれた。鳴海界、君特別試験に挑戦してみないか?」
 「特別試験?」
 「そうだ。どんな方法でもいい、武器の使用もOKの勝負をしてみないか? もちろん、魔法使用は必須。私に勝ったら、君は今までの試験の結果がどうであれ、入学決定。どうだ、悪い話じゃないだろう?」

 確かに悪い話じゃない。

 「負けた場合のペナルティはありますか?」
 「もちろん、君は私の助手として1年働いてもらう。あ、給料はちゃんと出すから、安心してくれたまえ」

 なるほど。
 負けても、日本に帰る必要はない、か。
 どっちに転んでも、俺にメリットがある。
 なら、受けるしかないな。

 「よろしくお願いします」

 そう答えると、先生はニコッと嬉しそうに笑い、「付いてきてくれたまえ」と言い、俺は先生とともに城に戻っていた。



 ★★★★★★★★
 


 「体に付けた3つの風船。相手の風船を全部割れば、君の勝ち」
 「逆に自分の風船を割られてしまえば、俺の負け」
 「その通り」

 美女先生こと、先生に案内された先は、競技場ではなく、なぜか地下の部屋。
 城の雰囲気とは正反対の部屋は真っ白で、唯一壁にある模様はノートのような黒の罫線。
 また、地下とは思わせないような空高い天井。

 「ここってあれですか……空間変位魔法をかけてますか」
 「ご名答。ここは私の秘密の訓練場さ」
 
 ふーん。
 普通の先生がそんな部屋を、ね……。

 「あなた、姉さんの師匠って言ってましたけど、もしかして校長だったりします?」
 「ほほう、そんなことまで分かるとは」

 あ、冗談で言ったのに。本当だったとは。

 「どうして分かったんだい? もしやお姉さんから聞いていたかい?」
 「だって校長の顔、どこにもないじゃないですか。パンフにも肖像画もない。逆に他の先生は表に出て活躍されている。だけど、俺はあなたの顔を知らない。だから、あなたが“校長”だと判断した」
 「なるほど」
 「もったいないですよ。先生、モデルぐらい美人なのに」
 「え? そ、そうか?」

 意外にもキョトンと呆ける先生。
 透き通るような白い頬は少しだけ赤く染まっていた。

 「はい。なぜ表で活躍されないのか疑問に思ってしまうほど、綺麗ですよ」
 「そ、そうか………それはどうもありがとう。でも、自分の顔をどこかに飾っておくのは嫌なんでね」
 「学校の顔が、顔を出さなくてどうするんです?」
 「私がわざわざ表に出なくとも、顔になることなんてわんさかいるだろう。今回入学してくる生徒だって、学校の顔だ。顔は教員の私たちじゃない。君たちだ。君が学校の顔になる可能性だってあるわけさ」

 なるほど。確かにルビナーツ学園出身者の有名人はたくさんいる。
 この学園を卒業している四星《カトルエステル》だっていた。

 生徒が学園の顔を果たすというのは間違いないかもな。

 「話題を自分から言っておいてなんですけど、話を戻しますよ。グラディス先生はどのくらい本気出してくれます?」
 「え? 手加減なんてするわけないじゃないか」

 さぞ当たり前かのように首を傾げ言ってのける美女先生。

 ………………俺の事情知ってるよな? 
 “スベル”しか使えないってことを分かってるよな?
 少しぐらい手加減してほしいけれど………。

 だが、時すでに遅し。
 先生の瞳の奥には業火のごとく燃え滾る紫炎があった。

 それはいつでもバトルが始められそうなぐらい真剣だったが。

 「でも、その前に」

 と言って、先生はパチンと指を鳴らす。
 その瞬間、俺の目の前に出現したのは大量の武器。
 魔法道具はなかったが、世界中の武器全てがそこにあった。

 「この中からどれでもいくつでもいい。好きなものを選んでくれたまえ」
 「いいんすか?」
 「ああ、試験を見た限りでは、どうやら君には武器が必須のようだからね」

 美女先生が用意してくれた多数の武器。
 2メートルはある長く鋭い槍に、自分よりも重そうな大剣。
 ピンと弧を張る弓に、拳ほどの大きさの魔法石が付けられた杖。
 この中からいくらでも使っていいらしい。

 そう言われれば、全てを使ってみたくはなるが。
 でも、一番なじみにこれにしよう。

 俺が取った1つの武器。
 それを見て、先生は嬉しそうに「ほぉ」と感心の声を漏らす。

 「君らしいな」

 俺が取った武器――――それは日本刀。
 先生は俺が日本出身だからこそ、「君らしい」と言ったのだろう。

 「一応聞いておくよ。それを選んだ理由は?」
 「これで風船を割るのも面白いかなと思いまして」

 なかなか風船割りに日本刀を使うやつなんていないだろう。
 だが、相手は魔法を使う相手。

 「さぁ、始めよう。いつでもかかってきてくれたまえ―――」

 鳴海家以外、というか姉さんしかまともに戦ったことがない。
 戦闘経験数が圧倒的に少ない。

 ――――――でも、勝ち負けは関係ない。
 先生が本気を出すというのなら、こちらも本気になるまで。

 全力で行く――――。

 そして、日本刀を右手に、俺は美女先生に向かって走り出した。



 ――――――――

 明日も更新します! よろしくお願いします!<(_ _)>
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...