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第6話 紫炎の美女
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中途半端に後ろでまとめた紅桔梗の髪。
その間から見える煌めくイヤリング。
パンツスーツにサスペンダーが恐ろしいほどに似合うその美女。
「君、鳴海界くんだろう? よければ、私と勝負しないかい――――」
全く知らない美女だった。
相手は俺のことを知っているようだが、見覚えがない。
「あの、どちら様ですか……?」
「ただの美女だ」
「………………鳴海界くんは先に帰ったみたいです。俺、これから用事があるので、他を当たってください」
『知らない人には関わるな』。
その姉さんの教えのもとに、立ち去ろうとすると、慌てて呼び止める美女さん。
「ま、待ってくれ! 君のお姉さんから話は聞いている! 君の魔法のこともだ! 実技試験が悲惨だったことも!」
「…………」
「ああ、私にそんな目を向けないでくれ。昔試験を作ったあのじじいどもが悪いんだ……今年こそ変えようとしたんだけど、引退じじいが邪魔してな……君の能力を正確に測れる試験にできなくって申し訳ない」
と美女は人差し指と人差し指でもじもじしながら、申し訳なさそうに話す。
その瞬間、俺はそれを見つける。
小さすぎて気づかなかった襟先についた銀のバッチ。
描かれていたのはルビナーツ学園の校章。
………………ああ、この人。いや、この先生。
名前を知っているかつ、姉さんから話は聞いているかつ、実技試験の結果を知ってるこの先生。
もしかして、この人――――。
「姉さんの師匠、グラディス・スクウァイア先生ですか」
「いかにも。君のお姉さんを育てたのは、私だ」
へぇー、こんな美女が姉さんの師匠か。
もっとおじいちゃんおじいちゃんしている人だと思っていたのだんだが………。
「それで? 姉さんの師匠先生が俺に何用で?」
「うむ。よくぞ聞いてくれた。鳴海界、君特別試験に挑戦してみないか?」
「特別試験?」
「そうだ。どんな方法でもいい、武器の使用もOKの勝負をしてみないか? もちろん、魔法使用は必須。私に勝ったら、君は今までの試験の結果がどうであれ、入学決定。どうだ、悪い話じゃないだろう?」
確かに悪い話じゃない。
「負けた場合のペナルティはありますか?」
「もちろん、君は私の助手として1年働いてもらう。あ、給料はちゃんと出すから、安心してくれたまえ」
なるほど。
負けても、日本に帰る必要はない、か。
どっちに転んでも、俺にメリットがある。
なら、受けるしかないな。
「よろしくお願いします」
そう答えると、先生はニコッと嬉しそうに笑い、「付いてきてくれたまえ」と言い、俺は先生とともに城に戻っていた。
★★★★★★★★
「体に付けた3つの風船。相手の風船を全部割れば、君の勝ち」
「逆に自分の風船を割られてしまえば、俺の負け」
「その通り」
美女先生こと、先生に案内された先は、競技場ではなく、なぜか地下の部屋。
城の雰囲気とは正反対の部屋は真っ白で、唯一壁にある模様はノートのような黒の罫線。
また、地下とは思わせないような空高い天井。
「ここってあれですか……空間変位魔法をかけてますか」
「ご名答。ここは私の秘密の訓練場さ」
ふーん。
普通の先生がそんな部屋を、ね……。
「あなた、姉さんの師匠って言ってましたけど、もしかして校長だったりします?」
「ほほう、そんなことまで分かるとは」
あ、冗談で言ったのに。本当だったとは。
「どうして分かったんだい? もしやお姉さんから聞いていたかい?」
「だって校長の顔、どこにもないじゃないですか。パンフにも肖像画もない。逆に他の先生は表に出て活躍されている。だけど、俺はあなたの顔を知らない。だから、あなたが“校長”だと判断した」
「なるほど」
「もったいないですよ。先生、モデルぐらい美人なのに」
「え? そ、そうか?」
意外にもキョトンと呆ける先生。
透き通るような白い頬は少しだけ赤く染まっていた。
「はい。なぜ表で活躍されないのか疑問に思ってしまうほど、綺麗ですよ」
「そ、そうか………それはどうもありがとう。でも、自分の顔をどこかに飾っておくのは嫌なんでね」
「学校の顔が、顔を出さなくてどうするんです?」
「私がわざわざ表に出なくとも、顔になることなんてわんさかいるだろう。今回入学してくる生徒だって、学校の顔だ。顔は教員の私たちじゃない。君たちだ。君が学校の顔になる可能性だってあるわけさ」
なるほど。確かにルビナーツ学園出身者の有名人はたくさんいる。
この学園を卒業している四星《カトルエステル》だっていた。
生徒が学園の顔を果たすというのは間違いないかもな。
「話題を自分から言っておいてなんですけど、話を戻しますよ。グラディス先生はどのくらい本気出してくれます?」
「え? 手加減なんてするわけないじゃないか」
さぞ当たり前かのように首を傾げ言ってのける美女先生。
………………俺の事情知ってるよな?
“スベル”しか使えないってことを分かってるよな?
少しぐらい手加減してほしいけれど………。
だが、時すでに遅し。
先生の瞳の奥には業火のごとく燃え滾る紫炎があった。
それはいつでもバトルが始められそうなぐらい真剣だったが。
「でも、その前に」
と言って、先生はパチンと指を鳴らす。
その瞬間、俺の目の前に出現したのは大量の武器。
魔法道具はなかったが、世界中の武器全てがそこにあった。
「この中からどれでもいくつでもいい。好きなものを選んでくれたまえ」
「いいんすか?」
「ああ、試験を見た限りでは、どうやら君には武器が必須のようだからね」
美女先生が用意してくれた多数の武器。
2メートルはある長く鋭い槍に、自分よりも重そうな大剣。
ピンと弧を張る弓に、拳ほどの大きさの魔法石が付けられた杖。
この中からいくらでも使っていいらしい。
そう言われれば、全てを使ってみたくはなるが。
でも、一番なじみにこれにしよう。
俺が取った1つの武器。
それを見て、先生は嬉しそうに「ほぉ」と感心の声を漏らす。
「君らしいな」
俺が取った武器――――それは日本刀。
先生は俺が日本出身だからこそ、「君らしい」と言ったのだろう。
「一応聞いておくよ。それを選んだ理由は?」
「これで風船を割るのも面白いかなと思いまして」
なかなか風船割りに日本刀を使うやつなんていないだろう。
だが、相手は魔法を使う相手。
「さぁ、始めよう。いつでもかかってきてくれたまえ―――」
鳴海家以外、というか姉さんしかまともに戦ったことがない。
戦闘経験数が圧倒的に少ない。
――――――でも、勝ち負けは関係ない。
先生が本気を出すというのなら、こちらも本気になるまで。
全力で行く――――。
そして、日本刀を右手に、俺は美女先生に向かって走り出した。
――――――――
明日も更新します! よろしくお願いします!<(_ _)>
その間から見える煌めくイヤリング。
パンツスーツにサスペンダーが恐ろしいほどに似合うその美女。
「君、鳴海界くんだろう? よければ、私と勝負しないかい――――」
全く知らない美女だった。
相手は俺のことを知っているようだが、見覚えがない。
「あの、どちら様ですか……?」
「ただの美女だ」
「………………鳴海界くんは先に帰ったみたいです。俺、これから用事があるので、他を当たってください」
『知らない人には関わるな』。
その姉さんの教えのもとに、立ち去ろうとすると、慌てて呼び止める美女さん。
「ま、待ってくれ! 君のお姉さんから話は聞いている! 君の魔法のこともだ! 実技試験が悲惨だったことも!」
「…………」
「ああ、私にそんな目を向けないでくれ。昔試験を作ったあのじじいどもが悪いんだ……今年こそ変えようとしたんだけど、引退じじいが邪魔してな……君の能力を正確に測れる試験にできなくって申し訳ない」
と美女は人差し指と人差し指でもじもじしながら、申し訳なさそうに話す。
その瞬間、俺はそれを見つける。
小さすぎて気づかなかった襟先についた銀のバッチ。
描かれていたのはルビナーツ学園の校章。
………………ああ、この人。いや、この先生。
名前を知っているかつ、姉さんから話は聞いているかつ、実技試験の結果を知ってるこの先生。
もしかして、この人――――。
「姉さんの師匠、グラディス・スクウァイア先生ですか」
「いかにも。君のお姉さんを育てたのは、私だ」
へぇー、こんな美女が姉さんの師匠か。
もっとおじいちゃんおじいちゃんしている人だと思っていたのだんだが………。
「それで? 姉さんの師匠先生が俺に何用で?」
「うむ。よくぞ聞いてくれた。鳴海界、君特別試験に挑戦してみないか?」
「特別試験?」
「そうだ。どんな方法でもいい、武器の使用もOKの勝負をしてみないか? もちろん、魔法使用は必須。私に勝ったら、君は今までの試験の結果がどうであれ、入学決定。どうだ、悪い話じゃないだろう?」
確かに悪い話じゃない。
「負けた場合のペナルティはありますか?」
「もちろん、君は私の助手として1年働いてもらう。あ、給料はちゃんと出すから、安心してくれたまえ」
なるほど。
負けても、日本に帰る必要はない、か。
どっちに転んでも、俺にメリットがある。
なら、受けるしかないな。
「よろしくお願いします」
そう答えると、先生はニコッと嬉しそうに笑い、「付いてきてくれたまえ」と言い、俺は先生とともに城に戻っていた。
★★★★★★★★
「体に付けた3つの風船。相手の風船を全部割れば、君の勝ち」
「逆に自分の風船を割られてしまえば、俺の負け」
「その通り」
美女先生こと、先生に案内された先は、競技場ではなく、なぜか地下の部屋。
城の雰囲気とは正反対の部屋は真っ白で、唯一壁にある模様はノートのような黒の罫線。
また、地下とは思わせないような空高い天井。
「ここってあれですか……空間変位魔法をかけてますか」
「ご名答。ここは私の秘密の訓練場さ」
ふーん。
普通の先生がそんな部屋を、ね……。
「あなた、姉さんの師匠って言ってましたけど、もしかして校長だったりします?」
「ほほう、そんなことまで分かるとは」
あ、冗談で言ったのに。本当だったとは。
「どうして分かったんだい? もしやお姉さんから聞いていたかい?」
「だって校長の顔、どこにもないじゃないですか。パンフにも肖像画もない。逆に他の先生は表に出て活躍されている。だけど、俺はあなたの顔を知らない。だから、あなたが“校長”だと判断した」
「なるほど」
「もったいないですよ。先生、モデルぐらい美人なのに」
「え? そ、そうか?」
意外にもキョトンと呆ける先生。
透き通るような白い頬は少しだけ赤く染まっていた。
「はい。なぜ表で活躍されないのか疑問に思ってしまうほど、綺麗ですよ」
「そ、そうか………それはどうもありがとう。でも、自分の顔をどこかに飾っておくのは嫌なんでね」
「学校の顔が、顔を出さなくてどうするんです?」
「私がわざわざ表に出なくとも、顔になることなんてわんさかいるだろう。今回入学してくる生徒だって、学校の顔だ。顔は教員の私たちじゃない。君たちだ。君が学校の顔になる可能性だってあるわけさ」
なるほど。確かにルビナーツ学園出身者の有名人はたくさんいる。
この学園を卒業している四星《カトルエステル》だっていた。
生徒が学園の顔を果たすというのは間違いないかもな。
「話題を自分から言っておいてなんですけど、話を戻しますよ。グラディス先生はどのくらい本気出してくれます?」
「え? 手加減なんてするわけないじゃないか」
さぞ当たり前かのように首を傾げ言ってのける美女先生。
………………俺の事情知ってるよな?
“スベル”しか使えないってことを分かってるよな?
少しぐらい手加減してほしいけれど………。
だが、時すでに遅し。
先生の瞳の奥には業火のごとく燃え滾る紫炎があった。
それはいつでもバトルが始められそうなぐらい真剣だったが。
「でも、その前に」
と言って、先生はパチンと指を鳴らす。
その瞬間、俺の目の前に出現したのは大量の武器。
魔法道具はなかったが、世界中の武器全てがそこにあった。
「この中からどれでもいくつでもいい。好きなものを選んでくれたまえ」
「いいんすか?」
「ああ、試験を見た限りでは、どうやら君には武器が必須のようだからね」
美女先生が用意してくれた多数の武器。
2メートルはある長く鋭い槍に、自分よりも重そうな大剣。
ピンと弧を張る弓に、拳ほどの大きさの魔法石が付けられた杖。
この中からいくらでも使っていいらしい。
そう言われれば、全てを使ってみたくはなるが。
でも、一番なじみにこれにしよう。
俺が取った1つの武器。
それを見て、先生は嬉しそうに「ほぉ」と感心の声を漏らす。
「君らしいな」
俺が取った武器――――それは日本刀。
先生は俺が日本出身だからこそ、「君らしい」と言ったのだろう。
「一応聞いておくよ。それを選んだ理由は?」
「これで風船を割るのも面白いかなと思いまして」
なかなか風船割りに日本刀を使うやつなんていないだろう。
だが、相手は魔法を使う相手。
「さぁ、始めよう。いつでもかかってきてくれたまえ―――」
鳴海家以外、というか姉さんしかまともに戦ったことがない。
戦闘経験数が圧倒的に少ない。
――――――でも、勝ち負けは関係ない。
先生が本気を出すというのなら、こちらも本気になるまで。
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そして、日本刀を右手に、俺は美女先生に向かって走り出した。
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