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最終ラウンド
第57話 憎しみをあなたに
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大遅刻っ――――!! すみません!!
――――――
アドヴィナの首を切り、倒した俺は彼女の頭が地面に転がっていくのを眺めていた。
…………ああ、これで元の世界へ戻れる。
この狂ったゲームは終わったはずだ。
「………………」
しかし、アナウンスは何もない。
ナアマという少女も現れない。
その代わりに――――。
「アハハッ! アハハッ!」
「………………」
地面に転がったアドヴィナの頭は笑っていた。
まるでまだ生きているかのように爆笑。
血管が見えるほど目をかっ開き、大口を開けて笑っていた。
「お前…………なぜ生きている…………」
「なぜかしらッ!! アハハッ!!」
すると、頭だけでなく、切り離された胴体までが動き出し、両手を空に向かってあげる。何かを迎えているような手………首から上はないのに、空を眺めているような姿だった。
「ああ! 絶体絶命の大ピンチっ! その瞬間に見えた魔法の極致っ!」
「………………」
「アハハッ!! できないと思っていた魔法だけど、できちゃったのっ!! アハハッ!! 私ってばて・ん・さ・い♡」
「………………」
「私は生きるッ!! あなたは死ぬ!!」
「…………違う。お前が死ぬ」
頭のアドヴィナにそう答えるも、生じる違和感。
これはなんだ?
俺は………何か見落としているのか?
「アハハッ!! あなたは死ぬ! 私は生きる!!」
狂ったように叫ぶアドヴィナの体は金の粉へと変わっていく。第3ラウンドと同じ退却。頭は首から、胴体は指先から風に吹かれ、砂のように消えていく。
これで全部消えれば、勝利だ――――。
「――――あははぁ、死んだと思ったぁ?」
「――――はっ」
振り返った瞬間、背後にいた女。それは今消えていったはずの彼女。その女は悪魔のような笑みを浮かべていた。
グサッ――――。
「あららぁ? 殿下に刺さちゃったわ?」
下を見れば、自分の腹に刺さった剣。
それはハンナが自害に使ったあの剣だった。
………………なぜだ?
なぜアドヴィナに気づかなかった?
なぜ俺は反応できなかった?
次々に浮かぶ疑問と津波のように襲ってくる焦燥。
服に染み込んでいく血と傷口に感じる激痛。
「この剣で殿下も地獄に落としてあげる♡」
そんな悪魔の声が耳元でささやかれた――――。
★★★★★★★★
「っ――――」
剣で腹を刺した私を、蹴飛ばすエイダン。彼の重い蹴りに私は吹き飛んだが、宙をクルクル回転。手を地面につけ、後ろへ滑りながら着地した。
「あーあ、心臓も刺したかったのに……」
真っ赤に染まった剣を血振り。
ぴしゃりと地面に紅血が弧を描いて散る。
「クソがっ………」
エイダンは判断よく、回復魔法をかけ、腹部を治す。しかし、回復系魔法と相性が悪い彼にとって、誤算な魔力消費。その疲れが顔に現れていた。
「セイレーンに感謝しなければ………クローンがいてくれなければ、私即死でしたわ」
エイダンに首ちょんぱされた私は私ではなく、クローンのアドヴィナ。そして、エイダンの気が緩んだ隙を狙って背後から奇襲。
彼の驚きようといったら…………最高のリアクションだったわ。
回復されてしまったから、大怪我を負わせるほどの攻撃ではなかったけど、楽しかったからOKっていうことにしましょう。
「でも、戦場だけだとやっぱり味気ないですわね………」
戦場は戦場で悪くないのだが、他のラウンドと比べて面白みには欠ける。やはり戦いの場にはあまりふさわしくない、ギャップを感じる可愛い場所で戦いたいわ。
よしっ、エイダンのお墓はあそこにしよう――――。
パチン――――指をはじく音が響く。
音ともに切り替わった景色。
見えたのはすさんだ城の姿。
蔦が壁に張り付き、窓にガラスはなし。
屋根もなく、無人の城。
寂しいそんな城に対して、空は眩しいほどの晴れている。快晴だった。
「静かなフレイムロード国、無人の廃城…………これがあなたたちの国の未来」
両手を広げ、くるくると回る。ガイドツアーのように明るい声で、彼に紹介する。私たちが移動した先は、将来の姿のフレイムロード王国王城。
小鳥のさえずりが響く、静かで誰もいない寂しい王城。ここがエイダンのお墓。
「あなたたちは私たちに敗れて、なくなるんです。みーんな、死んで逝く」
「………………」
「ここが花畑になっているだけマシですね。よかったですね」
エイダンは白けた目を私に送る。
もううんざりしているようだった。
「フンッ、ゲーム管理者は好き放題できるんだな」
「最後ですもの、いいじゃないですか。あ、殿下はどこかご希望がありまして?」
「………………どこだっていい。お前を殺せれば」
「そうですか」
すぅと息を吸いこみ、エイダンと向き合う。
「――――っ」
「――――っ!!」
刹那、私たちは動き出す。
即座に踏み台を作ると、そこへ全力ダッシュ。そして踏み切って、上へと大ジャンプ。自分の体に浮遊魔法をかけ、勢いのままに空へと飛んだ。
「空に逃げても無駄だぞァ――――ッ!!」
背後には鬼の形相で追ってくるエイダン。
そして、私たちは閃光のように空を飛び回り、崩壊寸前の城を破壊し、暴れまわる。エイダンは橙の瞳を燃やし、光、炎、水魔法を付与した斬撃をこれでもかと振ってくる。
ああ、楽しい。
このギリギリの感覚、幸せね――――。
「クソアドヴィナァ――――ッ!!」
怒号を上げ、光線を放つエイダン。ああ、私を追い詰めようとするその積極的な攻撃は悪くない。
でも、でもね――――。
「かわすのは余裕よ」
光線の隙間をぬい、エイダンの腹に向かってドロップキック。粘着魔法をかけていた足にゴムがつき、跳ね返ってきた彼に向かってもう一蹴り。
「はいっ! もういっちょっ!」
「ぐがっ!!」
蹴りと殴りを交互に50発入れると、彼方へと吹き飛ばす。
「こんなのでやれると思ってるのかァ―――!!」
だが、すぐに戻ってきた。やはりしぶとい男だ。
そうして、地を駆け、空を駆け、魔法をぶっぱなし、剣と杖をぶつけ合い、拮抗の戦いが続く。
「っ――――!?」
「あっ!! 引っかかったわぁ!!」
戦いの最中に見えない糸で蜘蛛の巣のような罠を、空に仕掛けていた私。
その罠にエイダンが引っかかり。
「クソがっ!!」
体が糸に捕まっていた。身動きするも離れない糸は、彼の体にしがみついているよう。かなり粘着力は強めにしていたので、そう簡単に離さないだろう。
もちろん、私はその隙を逃さない。
チャンスを離さない。
「殿下ぁ――――!!」
上にいた私は浮遊魔法を解除。
彼の元へ落ちていく。
飛び込むように落下。
風で髪が舞い上がる。
「くっ!!」
動けず焦りを見せるエイダン。
ああ、安心して。
もうやってあげるわ。
この戦いが終わってしまうのは寂しいけれど………。
「うふふっ」
思わず漏れる笑い声。
こんなデスゲームができたのはあなたがいてくれたから。あの人に出会えたのはあなたがいたから。
そこは感謝しよう。ありがとう。
でも、あなたがいなかったら、もっとアドヴィナは私は幸せになれた。無駄な時間を過ごさずに済んだ。
だから――――。
「あなたに感謝を。そして、憎しみをあなたに――――」
杖からハンナの剣を手に持ちかえ、大きく振りかぶる。
一部の糸を振り解き、残りを魔法で振り払って、ようやく体を動かせるようになったエイダン。彼は両手を組み、自分の体を守るようにバリアを張る。
でも、そんなバリアは意味がない。
私が全て破るから――――。
「ハアァ――――ッ!!」
バリアに突きさす刃。
その先の一点に力を、魔法を込め、押し込む。
「ハ゛ァァ――――ッ!!」
そして、ついにひびが入り――――。
パリンっ――――。
破れるバリア。
それと同時にエイダンの胸に差し込んだ剣。
「かはっ」
心臓と肺を刺され、血を吐く彼。私は差し込んだまま、追い込むように回復魔法を無効にさせる魔法をかける。
「死んでください、殿下――――」
「死ぬものかっ、クソがっ………」
エイダンとともに地へ落ちていく私。
彼のあがきはもう意味がない。
これで、彼は死ぬ。
「………………っ?」
落ちていく中、不思議と溢れ出した涙。
ああ…………もしかして、あのアドヴィナが悲しんでいるのだろうか。
その涙が空へと飛んでいく。
宝石のように美しく煌めき、空の彼方へ消えていく。
………………ああ、これで終わりなのね。
私たちの復讐は終わったわよ、アドヴィナ――――…………。
★★★★★★★★
心臓をやられたのにも関わらず、立って私を殺そうと襲い掛かるエイダン。しかし、彼の足はもうフラフラ。歩くのはやっと。
魔力も残っていない。
剣を振ることももうままならない。
彼のが私に当たることはなかった。
「………………」
そして、ようやく力尽き、膝をつくエイダン。
彼の傍にあった花にぽたぽたと血が落ちる。
「ねぇ、殿下」
「……………」
「私が謝った時は優しくしてくれたけど、あれはハンナのためだったのでしょう?」
ハンナが嬉しそうにしていたから。
彼女を悲しませるようなことはしたくなかったから。
でも、本当は私なんて消えてほしくって仕方がなかったのでしょう?
「一度言いましたよね。半年前からのいじめは私がしていたんじゃないって」
「………………」
「なりすましだったんですよ。マリーが私になって、ハンナをいじめていたんです。証言も取れました…………死んでしまいましたけど」
その真実に驚いたのだろう、エイダンは一瞬目を見開く。すぐに虚ろな瞳に戻ったが、そこには後悔が見えたような気がした。
「調べもしない。思い込みで私が犯人だって判断されて………これが恨まないでいられます?」
「………………すまなかった」
「今更ですよ、殿下。あなたの謝罪はもういりません」
今更優しくされても、何を言っても、もう私の心には何も届かない。
「ああ、それとですね…………私、マリーから呪いをかけられていたんですよ。嫌われる呪いを…………それを解いたらどうなったと思います?」
死に際のマリーに話した言葉を思い出す。
『でも、呪いは自力で解いたのよ。でもね――――私、嫌われたままだったの』
解呪しても、私はエイダンたちに蔑まれたままだった。鋭い瞳が向けられたまま。
「何も変わらなかったんですよ。なーんにも」
「………………」
「あなたたちは心の底から私を嫌っていた。汚らわしく思っていた。呪いがあろうとなかろうと」
『あなたって人は本当に嫌われものね!』
そのマリーの言葉に全力で同意する。
私は正真正銘の嫌われ者。
いくら彼に歩み寄ったとしても、私たちの間には埋らないぐらいの深い溝があった。
「だから、あなたたちとはもういたくない。消えてほしかった。私がいたかったのは別の人…………」
「………………あの魔王か」
「ええ」
「…………俺たち、は……出会うべきじゃなかったん、だな………」
「ええ、私もそう思いますわ」
会わなかったら、こんなふうにはならなかった。
エイダンを憎むことも殺し合いをすることもなかった。
でも、たとえ会ったとしても、もう少しいい付き合いができたと思う。
それができなかったのはエイダンのせい。
何も見ようとしなかったあなたのせい。
「殿下、あなたの死は自業自得、ざまぁですわ」
「………………そうか」
私を見上げていたエイダンは下に俯くと、足元にあった花を摘み取った。
その桃色の花はかつて彼女が愛していた花。エイダンはその花を見て、頬に一筋の涙をこぼす。橙の瞳にはハンナが映っているようだった。
「ハンナ…………」
「…………………」
弱々しい声で呟いたエイダン。そうして、彼は座り込んだまま静かに息を引き取った。彼の死体は消えないまま、色とりどりの花々が咲き誇るその中で、彼は銅像と化していた。
ビィ――――。
快晴の空に響く最後のサイレン。
全てのデスゲームの終わりを告げる合図。
「………………これで終了ねっ!! 終わったァ―――!!」
――――宣言通り、パーティー会場にいた生徒を殺した私。達成感が溢れ、嬉しさのあまり万歳。
直接全員を殺すことはできなかったけど、エイダンたちを自分の手で屠れたのはよかった。自分で彼らに罰を与えられた。
本当によかった…………。
「おめでとうございます、アドヴィナ様。アドヴィナ様がデスゲームの勝者です」
気づけば、背後で待機していたナアマちゃん。彼女の腕は治してもらったのか、ぱちぱちと可愛いらしく拍手をしてくれた。
「ありがとう、ナアマちゃん。ナアマちゃんもお疲れ様」
「お気遣いありがとうございます。これからどういたしましょうか、アドヴィナ様」
「あー、帰る前に少しこの世界で遊んでいい?」
「もちろんです。どこに行かれますか?」
「街かしら~。あっちの方あまり見れなかったし………」
「了解いたしました。ご案内いたしましょう」
ナアマちゃんを追いかけ歩き始める。だが、数歩で足と止め、私は振り返り、死体の彼に丁寧にお辞儀をし。
「さようなら、アドヴィナが愛した人」
最後の挨拶をして、花畑を去っていった。
――――――
最終回は今日更新いたします。7時を予定していますが、できなかったらすみません。
エイダンは死んじゃいましたが、最後までよろしくお願いします。
――――――
アドヴィナの首を切り、倒した俺は彼女の頭が地面に転がっていくのを眺めていた。
…………ああ、これで元の世界へ戻れる。
この狂ったゲームは終わったはずだ。
「………………」
しかし、アナウンスは何もない。
ナアマという少女も現れない。
その代わりに――――。
「アハハッ! アハハッ!」
「………………」
地面に転がったアドヴィナの頭は笑っていた。
まるでまだ生きているかのように爆笑。
血管が見えるほど目をかっ開き、大口を開けて笑っていた。
「お前…………なぜ生きている…………」
「なぜかしらッ!! アハハッ!!」
すると、頭だけでなく、切り離された胴体までが動き出し、両手を空に向かってあげる。何かを迎えているような手………首から上はないのに、空を眺めているような姿だった。
「ああ! 絶体絶命の大ピンチっ! その瞬間に見えた魔法の極致っ!」
「………………」
「アハハッ!! できないと思っていた魔法だけど、できちゃったのっ!! アハハッ!! 私ってばて・ん・さ・い♡」
「………………」
「私は生きるッ!! あなたは死ぬ!!」
「…………違う。お前が死ぬ」
頭のアドヴィナにそう答えるも、生じる違和感。
これはなんだ?
俺は………何か見落としているのか?
「アハハッ!! あなたは死ぬ! 私は生きる!!」
狂ったように叫ぶアドヴィナの体は金の粉へと変わっていく。第3ラウンドと同じ退却。頭は首から、胴体は指先から風に吹かれ、砂のように消えていく。
これで全部消えれば、勝利だ――――。
「――――あははぁ、死んだと思ったぁ?」
「――――はっ」
振り返った瞬間、背後にいた女。それは今消えていったはずの彼女。その女は悪魔のような笑みを浮かべていた。
グサッ――――。
「あららぁ? 殿下に刺さちゃったわ?」
下を見れば、自分の腹に刺さった剣。
それはハンナが自害に使ったあの剣だった。
………………なぜだ?
なぜアドヴィナに気づかなかった?
なぜ俺は反応できなかった?
次々に浮かぶ疑問と津波のように襲ってくる焦燥。
服に染み込んでいく血と傷口に感じる激痛。
「この剣で殿下も地獄に落としてあげる♡」
そんな悪魔の声が耳元でささやかれた――――。
★★★★★★★★
「っ――――」
剣で腹を刺した私を、蹴飛ばすエイダン。彼の重い蹴りに私は吹き飛んだが、宙をクルクル回転。手を地面につけ、後ろへ滑りながら着地した。
「あーあ、心臓も刺したかったのに……」
真っ赤に染まった剣を血振り。
ぴしゃりと地面に紅血が弧を描いて散る。
「クソがっ………」
エイダンは判断よく、回復魔法をかけ、腹部を治す。しかし、回復系魔法と相性が悪い彼にとって、誤算な魔力消費。その疲れが顔に現れていた。
「セイレーンに感謝しなければ………クローンがいてくれなければ、私即死でしたわ」
エイダンに首ちょんぱされた私は私ではなく、クローンのアドヴィナ。そして、エイダンの気が緩んだ隙を狙って背後から奇襲。
彼の驚きようといったら…………最高のリアクションだったわ。
回復されてしまったから、大怪我を負わせるほどの攻撃ではなかったけど、楽しかったからOKっていうことにしましょう。
「でも、戦場だけだとやっぱり味気ないですわね………」
戦場は戦場で悪くないのだが、他のラウンドと比べて面白みには欠ける。やはり戦いの場にはあまりふさわしくない、ギャップを感じる可愛い場所で戦いたいわ。
よしっ、エイダンのお墓はあそこにしよう――――。
パチン――――指をはじく音が響く。
音ともに切り替わった景色。
見えたのはすさんだ城の姿。
蔦が壁に張り付き、窓にガラスはなし。
屋根もなく、無人の城。
寂しいそんな城に対して、空は眩しいほどの晴れている。快晴だった。
「静かなフレイムロード国、無人の廃城…………これがあなたたちの国の未来」
両手を広げ、くるくると回る。ガイドツアーのように明るい声で、彼に紹介する。私たちが移動した先は、将来の姿のフレイムロード王国王城。
小鳥のさえずりが響く、静かで誰もいない寂しい王城。ここがエイダンのお墓。
「あなたたちは私たちに敗れて、なくなるんです。みーんな、死んで逝く」
「………………」
「ここが花畑になっているだけマシですね。よかったですね」
エイダンは白けた目を私に送る。
もううんざりしているようだった。
「フンッ、ゲーム管理者は好き放題できるんだな」
「最後ですもの、いいじゃないですか。あ、殿下はどこかご希望がありまして?」
「………………どこだっていい。お前を殺せれば」
「そうですか」
すぅと息を吸いこみ、エイダンと向き合う。
「――――っ」
「――――っ!!」
刹那、私たちは動き出す。
即座に踏み台を作ると、そこへ全力ダッシュ。そして踏み切って、上へと大ジャンプ。自分の体に浮遊魔法をかけ、勢いのままに空へと飛んだ。
「空に逃げても無駄だぞァ――――ッ!!」
背後には鬼の形相で追ってくるエイダン。
そして、私たちは閃光のように空を飛び回り、崩壊寸前の城を破壊し、暴れまわる。エイダンは橙の瞳を燃やし、光、炎、水魔法を付与した斬撃をこれでもかと振ってくる。
ああ、楽しい。
このギリギリの感覚、幸せね――――。
「クソアドヴィナァ――――ッ!!」
怒号を上げ、光線を放つエイダン。ああ、私を追い詰めようとするその積極的な攻撃は悪くない。
でも、でもね――――。
「かわすのは余裕よ」
光線の隙間をぬい、エイダンの腹に向かってドロップキック。粘着魔法をかけていた足にゴムがつき、跳ね返ってきた彼に向かってもう一蹴り。
「はいっ! もういっちょっ!」
「ぐがっ!!」
蹴りと殴りを交互に50発入れると、彼方へと吹き飛ばす。
「こんなのでやれると思ってるのかァ―――!!」
だが、すぐに戻ってきた。やはりしぶとい男だ。
そうして、地を駆け、空を駆け、魔法をぶっぱなし、剣と杖をぶつけ合い、拮抗の戦いが続く。
「っ――――!?」
「あっ!! 引っかかったわぁ!!」
戦いの最中に見えない糸で蜘蛛の巣のような罠を、空に仕掛けていた私。
その罠にエイダンが引っかかり。
「クソがっ!!」
体が糸に捕まっていた。身動きするも離れない糸は、彼の体にしがみついているよう。かなり粘着力は強めにしていたので、そう簡単に離さないだろう。
もちろん、私はその隙を逃さない。
チャンスを離さない。
「殿下ぁ――――!!」
上にいた私は浮遊魔法を解除。
彼の元へ落ちていく。
飛び込むように落下。
風で髪が舞い上がる。
「くっ!!」
動けず焦りを見せるエイダン。
ああ、安心して。
もうやってあげるわ。
この戦いが終わってしまうのは寂しいけれど………。
「うふふっ」
思わず漏れる笑い声。
こんなデスゲームができたのはあなたがいてくれたから。あの人に出会えたのはあなたがいたから。
そこは感謝しよう。ありがとう。
でも、あなたがいなかったら、もっとアドヴィナは私は幸せになれた。無駄な時間を過ごさずに済んだ。
だから――――。
「あなたに感謝を。そして、憎しみをあなたに――――」
杖からハンナの剣を手に持ちかえ、大きく振りかぶる。
一部の糸を振り解き、残りを魔法で振り払って、ようやく体を動かせるようになったエイダン。彼は両手を組み、自分の体を守るようにバリアを張る。
でも、そんなバリアは意味がない。
私が全て破るから――――。
「ハアァ――――ッ!!」
バリアに突きさす刃。
その先の一点に力を、魔法を込め、押し込む。
「ハ゛ァァ――――ッ!!」
そして、ついにひびが入り――――。
パリンっ――――。
破れるバリア。
それと同時にエイダンの胸に差し込んだ剣。
「かはっ」
心臓と肺を刺され、血を吐く彼。私は差し込んだまま、追い込むように回復魔法を無効にさせる魔法をかける。
「死んでください、殿下――――」
「死ぬものかっ、クソがっ………」
エイダンとともに地へ落ちていく私。
彼のあがきはもう意味がない。
これで、彼は死ぬ。
「………………っ?」
落ちていく中、不思議と溢れ出した涙。
ああ…………もしかして、あのアドヴィナが悲しんでいるのだろうか。
その涙が空へと飛んでいく。
宝石のように美しく煌めき、空の彼方へ消えていく。
………………ああ、これで終わりなのね。
私たちの復讐は終わったわよ、アドヴィナ――――…………。
★★★★★★★★
心臓をやられたのにも関わらず、立って私を殺そうと襲い掛かるエイダン。しかし、彼の足はもうフラフラ。歩くのはやっと。
魔力も残っていない。
剣を振ることももうままならない。
彼のが私に当たることはなかった。
「………………」
そして、ようやく力尽き、膝をつくエイダン。
彼の傍にあった花にぽたぽたと血が落ちる。
「ねぇ、殿下」
「……………」
「私が謝った時は優しくしてくれたけど、あれはハンナのためだったのでしょう?」
ハンナが嬉しそうにしていたから。
彼女を悲しませるようなことはしたくなかったから。
でも、本当は私なんて消えてほしくって仕方がなかったのでしょう?
「一度言いましたよね。半年前からのいじめは私がしていたんじゃないって」
「………………」
「なりすましだったんですよ。マリーが私になって、ハンナをいじめていたんです。証言も取れました…………死んでしまいましたけど」
その真実に驚いたのだろう、エイダンは一瞬目を見開く。すぐに虚ろな瞳に戻ったが、そこには後悔が見えたような気がした。
「調べもしない。思い込みで私が犯人だって判断されて………これが恨まないでいられます?」
「………………すまなかった」
「今更ですよ、殿下。あなたの謝罪はもういりません」
今更優しくされても、何を言っても、もう私の心には何も届かない。
「ああ、それとですね…………私、マリーから呪いをかけられていたんですよ。嫌われる呪いを…………それを解いたらどうなったと思います?」
死に際のマリーに話した言葉を思い出す。
『でも、呪いは自力で解いたのよ。でもね――――私、嫌われたままだったの』
解呪しても、私はエイダンたちに蔑まれたままだった。鋭い瞳が向けられたまま。
「何も変わらなかったんですよ。なーんにも」
「………………」
「あなたたちは心の底から私を嫌っていた。汚らわしく思っていた。呪いがあろうとなかろうと」
『あなたって人は本当に嫌われものね!』
そのマリーの言葉に全力で同意する。
私は正真正銘の嫌われ者。
いくら彼に歩み寄ったとしても、私たちの間には埋らないぐらいの深い溝があった。
「だから、あなたたちとはもういたくない。消えてほしかった。私がいたかったのは別の人…………」
「………………あの魔王か」
「ええ」
「…………俺たち、は……出会うべきじゃなかったん、だな………」
「ええ、私もそう思いますわ」
会わなかったら、こんなふうにはならなかった。
エイダンを憎むことも殺し合いをすることもなかった。
でも、たとえ会ったとしても、もう少しいい付き合いができたと思う。
それができなかったのはエイダンのせい。
何も見ようとしなかったあなたのせい。
「殿下、あなたの死は自業自得、ざまぁですわ」
「………………そうか」
私を見上げていたエイダンは下に俯くと、足元にあった花を摘み取った。
その桃色の花はかつて彼女が愛していた花。エイダンはその花を見て、頬に一筋の涙をこぼす。橙の瞳にはハンナが映っているようだった。
「ハンナ…………」
「…………………」
弱々しい声で呟いたエイダン。そうして、彼は座り込んだまま静かに息を引き取った。彼の死体は消えないまま、色とりどりの花々が咲き誇るその中で、彼は銅像と化していた。
ビィ――――。
快晴の空に響く最後のサイレン。
全てのデスゲームの終わりを告げる合図。
「………………これで終了ねっ!! 終わったァ―――!!」
――――宣言通り、パーティー会場にいた生徒を殺した私。達成感が溢れ、嬉しさのあまり万歳。
直接全員を殺すことはできなかったけど、エイダンたちを自分の手で屠れたのはよかった。自分で彼らに罰を与えられた。
本当によかった…………。
「おめでとうございます、アドヴィナ様。アドヴィナ様がデスゲームの勝者です」
気づけば、背後で待機していたナアマちゃん。彼女の腕は治してもらったのか、ぱちぱちと可愛いらしく拍手をしてくれた。
「ありがとう、ナアマちゃん。ナアマちゃんもお疲れ様」
「お気遣いありがとうございます。これからどういたしましょうか、アドヴィナ様」
「あー、帰る前に少しこの世界で遊んでいい?」
「もちろんです。どこに行かれますか?」
「街かしら~。あっちの方あまり見れなかったし………」
「了解いたしました。ご案内いたしましょう」
ナアマちゃんを追いかけ歩き始める。だが、数歩で足と止め、私は振り返り、死体の彼に丁寧にお辞儀をし。
「さようなら、アドヴィナが愛した人」
最後の挨拶をして、花畑を去っていった。
――――――
最終回は今日更新いたします。7時を予定していますが、できなかったらすみません。
エイダンは死んじゃいましたが、最後までよろしくお願いします。
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