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最終ラウンド

第56話 あなたのための墓場

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「ここがあなたの墓場です、殿下」

 最終ラウンド――――その会場は戦地。
 死体が積み重なり、吐き気を催すような悪臭が漂い、火があるのか煙が上がっている。上を見上げれば曇天の空。

 そんな終焉のような世界で私は笑う。

 死体の中にはこれまで死んでいった生徒たち。それ以外にもエイダンの知人の死体も転がっていた。もちろん、これは偽装だけれど。

きったない世界で死ぬのがお似合いですわ、殿下」

 煽るように笑ってみせたが、無反応のエイダン。元の服に戻っていた彼は、レイピアを片手に立っていた。

「最終ラウンドは普通の殺し合いです。そこらに落ちてる武器、お持ちのレイピア、何だって使用していただいて構いません。ああ、もちろん魔法も大丈夫ですよ」
「いらん。お前を殺すのにはこれで十分だ」

 エイダンは右手のレイピアの先を向ける。彼のレイピアは少し特殊で、魔法も使えるようになっている。付与とかではなく、魔法展開も可能だ。便利な剣。
 
 一方、私は第3ラウンドと同じ杖を使用。
 彼をやるときはこの杖と決めていた。

 ビィ――――。
 ようやく最終ラウンドのサイレンが鳴る。

『最終ラウンド、開始です――――』

 そのナアマちゃんの合図で一斉に走り出す私たち。

 瞬間移動でもしたかのように秒で接近してきたエイダン。彼の刃は首元を狙ってくるが、私は地面をスライディング。耳元をかすめるだけで済んだ。

 さすがエイダン。
 他の者とは比べ物にならないほどの速さね。

 よほど剣で殺したいのか、斬撃をとめどなく放ってくるエイダン。正直魔法中心の今の私は接近戦は少し分が悪い。

「グラキエース・モンス!」

 氷山を生やし、エイダンを空へと上げ、距離を取った。

「フンッ」

 エイダンがただ一歩踏んだだけ。
 それだけで壊される氷山。
 割れながら綺麗にできていたので、壊されたくはなかった。

 ……………でも、まぁいい。
 それはただの足止めだったから。
 
「殿下、シャボン玉お好きでしたわよね―――」

 防御シールドを展開しつつ、そこらかしこにシャボン玉を作る。幼い頃のエイダンはシャボン玉が好きで、可愛らしい一面があった。

 乙ゲーでは主人公ハンナとのデートで見た印象深いスチルがあった。

 彼にとって美しい思い出のかけら。
 それさえも私は汚す。

 死に際で綺麗な思い出なんかに浸らせるもんですか。
 絶望の夢を見て死んで逝け――――。

「アハハッ!! 第1ラウンドの仕返し、今いたしますわっ!!」

 バンっ、バンっ――――。

 連続爆発。
 風船がパンパンと割れるように爆ぜた。
 砂ぼこりが上がり、さらに戦場らしい景色になった。

 だが――――。

「アハハッ!! あんたはこんなのではやられないわよねッ!?」

 煙の上から姿を現したエイダンに思わず叫ぶ。
 橙の眼光を怪しく光らせるエイダンはマジだった。

「――――」

 エイダンが何か小さく詠唱する。すると、重い雲の上からゴゴォと地鳴りのような音が響く。

「ステラ・ストライク――――」

 熱い雲を抜けて、空を駆ける流星。
 七色の光を連れて、落下する。
 それをバックに大ジャンプのエイダン。

 彼のレイピアにも魔法がかけられ、虹の光を放っていた。

「お前はッ!! 殺すッ――――!!」

 ――――ああ、最高の景色。
 最強の敵が私に全力で向かってくる。

「ありがとう。最後まで生き残ってくれて――――」

 爆発するような嬉しさで両手を広げる。大風が吹き、銀色の髪がなびく。銀髪は星の光で虹の光を反射していた。

 廃れた戦場にはあまりにも似合わない星々の輝き。それを背中に連れて降ってくるエイダンはまさに“勇者”の姿――――。

 ああ…………私も本気であなたを殺しましょう。

 全身に流れる魔力をかき集め、杖の魔法石を空の彼に向ける。浮遊する星型十二面体の石が赤と青の星彩を放つ。

 これが本当に最後の戦い――――。

「楽しみましょう――――ッ!! エイダン――――ッ!!」



 ★★★★★★★★



 俺は婚約者としての役割は果たしていなかった。
 だが、彼女も同じだろう。

 彼女は勝手に夢を見て、俺に押し付けて、勝手に好きだと言われ、俺の愛する者を傷つける。そんな奴に同情する気なんてなかった。愛などこれっぽっちもなかった。

 俺はハンナに自分の全てをあげたかった。彼女だけに尽くしたかった。アドヴィナなんて目にも入れたくなった。

『アドヴィナさんは疲れているだけかもしれませんから………きっとアドヴィナさんにも善の心があるはずです』

 嫌がらせをしてくるアドヴィナに、ハンナはそれはもう優しかった。婚約破棄のことを決めた時だって、彼女は悲し気な顔を浮かべていた。

「なのに! なのにお前はッ!!」

 お前はハンナを殺した。
 嘲笑って、操って友人たちを殺させて。
 俺の目の前で、自殺を強制させて――――。

「恨むのなら、俺だけだっただろうが―――ッ!!」

 復讐がしたかったのなら。
 俺が憎くて仕方なかったのなら。

 俺だけをデスゲームに呼べばよかっただろうが――――。




 ★★★★★★★★



 
 高難易度魔法『ステラ・ストライク』を放った後も激戦が繰り広げられた。両者とも魔法と剣の攻撃を絶え間なく与え、しかし、防御も堅く、戦いは拮抗。

 展開魔法も火力勝負となっていき、規模が大きくなっていく。
 
 そのせいで地形は大きく変わっていた。以前作られた地図があったとすれば、もうそれはただの紙切れだろう。

 それでも2人は五体満足。かすり傷などはあるが、動けなくなるほどの傷はない。2人は同等の力を持っていた。

 以前のアドヴィナならありえなかった。
 秒でエイダンにやられていたはずだった。

 アドヴィナの力を再認識したエイダンは、彼女の意識を一瞬だけ、他の者へ移すことにした。

 彼も確信があったわけじゃない。
 直感的にこうかもしれないと思った程度。

 自分の国と敵対するあの者。
 もしかしたら、彼女は彼と繋がっているかもしれない。

 一か八かの賭け。
 追い込まれる中、エイダンは彼の幻影を作る。

 そして、現れたのは――――。

「――――」

 見開かれるアドヴィナの青眼。
 そこに映るは黒髪と赤目を持つ青年。
 大きな角を頭に持つ男。

 勝機――――。

 アドヴィナの動揺が見えたのは一瞬だけ、0.001秒だけ。エイダンはそれを逃さなかった。

「ハアァ――――ッ!!!!」

 レイピアの刃は魔力が宿り、光を帯びる。それはハンナを思い出す光の魔力。星々の灯り。

 愛したハンナと仲間たちの仇のための反撃。
 最後の1人となったエイダン全力の一振り。

「終わりだァ――――ッ!!」

 デスゲームを終えて、元の世界へ戻る。
 ハンナの分まで生きる。

 それが彼女の最後の願いなら、叶えてみせる――――。

 『生存』という願いを託された彼のレイピア。
 その剣先は遂にアドヴィナの首に届く。

「ハアァ――――ッ!!」
「――――っ」

 アドヴィナが反応しても、もう間に合わない。杖で受けるにも魔法で対応するのにも遅かった。

「クソがッ――――」

 悔しさを顔に浮かべ、悪態をつくアドヴィナ。討たれた彼女の首は綺麗に空へと吹き飛んでいた――――。



 ――――――

 明日も更新します。
 残り2話です。最後までお付き合いいただけたらと思います。
 よろしくお願いいたします。
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