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第3ラウンド
第41話 凡人と英雄
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こんな俺にやられるなんて、毛頭なかっただろう。むしろ第1ラウンドで死んでいたとでも思っていたはずだ。俺だってそう思うから――――。
「え?」
「は?」
小さな体だからこそ、鮮明に映る2人の素っ頓狂な顔。
ああ、なんて無様な顔。
これほど滑稽なことはないな。
今の俺にはアドヴィナらは巨人。
自分のよりも何倍の大きさの体だった。
身体的能力は歴然。
パチンと叩かれれば瞬殺。俺は即死。
――――――でも、それは気づいていればの話で。
俺を見つけられなけば、どこからともなく攻撃を受けたのと同じ。困惑は絶対。『誰が、どこから攻撃してきたのか?』――それに全ての意識が持っていかれる。
今の俺は見た目こそ気持ち悪い。
だが、この姿なら、俺が勝者になれる――――。
余裕ぶっていた奴に泡を吹かせる。
反撃を封じたまま、アイツらを狩る。
「これ以上に面白いことはないぜ――――」
この声もアイツらに聞こえないまま―――………。
★★★★★★★★
俺はいつだって中の中だった。
成績は平均点、魔法も平凡、家柄もいたって普通。教科書通りのような普通過ぎる人生。
いや、平凡っていうのも面倒事に巻き込まれないし、普通に幸せよ? 普通には幸せなんだけどな………。
胸の片隅にあったのは、さらに面白さを求める欲望。
――――俺は、ずっと物足りなさを感じていた。スリリングを欲していた。でも、平凡な俺がスリリングを求めたところで、何も起きやしない。
ハードルの高いことに挑んだとしても、予想通りの失敗。運良ければ、「俺、失敗しちゃった」と言ってへらへら笑いながら戻ってこれるし、運悪ければ友人に「アイツ死んだわ(笑)」と他愛のない話をするかのように笑われる。
挑戦するだけ無駄なのは分かっていた。自分が上に立つような人間でないことぐらい、分かってる。
でも、それでも――――。
「そんな俺がここで大番狂わせとか、ちょーかっこよくね――――ッ!?」
凡人がこのデスゲームで勝っちゃったら?
あのアドヴィナを倒しちゃったら?
元の世界に、俺だけが帰っててこれちゃったら?
「俺って英雄じゃね――――ッ!?」
デスゲームの世界の構築――――それだけで大量の魔力を割いている(たぶん笑)。おそらく、外界に干渉する余裕はアドヴィナにない。
そんな余裕があるのなら、デスゲームなど行っていない。俺たちの絶望を味わいたいのなら、アドヴィナ・サクラメントは外部の人間すらもいたっぶるように無残に殺しているはずだ。
だから、アドヴィナは大量の魔力消費が免れられない時魔法は使えない。外の世界の時間は止めれない。デスゲーム世界と外の時間経過は同じだろう。
となると、この騒動を外の世界にいる人間は知っている。少なくとも、俺たちが閉じ込められたことは認知しているはず。場合によっては、デスゲームのことも知っているかもしれない。
状況を読めている尚且つ、覚醒したアドヴィナが俺たちを殺して、自分1人だけが生き残ろうとしている………。
そんな絶望的状況で?
平凡極めてる俺が帰ってきたら?
「英雄扱い間違いなしっしょッ!?」
しかし、アドヴィナを殺した場合、俺は王子たちも屠ることになる。間違いない。
………………あ? なぜ助けないかって?
いや、助けたら、俺が英雄になれないじゃん。
絶対王子に全部手柄を持っていかれるじゃん。
そりゃあ、王子を殺すなんて嫌だけどさ。
デスゲームをなかったことにする―――亜空間の破壊なんて、俺には無理だし(笑)。
王子さんには良くしてもらったけどさ………。
ラッツィンガーさんに助けられたこともあったけどさ………。
――――――――その時はその時だろ?
「アハハッ――――!!」
俺は2人のコアを壊した。それも同時に、だ。
コアの破壊後、俺は通気口を使って移動。
小さな体だからこそ、できることだった。
あと2つずつ壊さなければならない。
だが、大丈夫。ノープロブレムだ。
場所を移して、もう一度光線以外の魔法を使って壊せばいい。どちらかが『勝てる』と感じたその瞬間をかすめ取るんだ。
小さな体で俺は、ほこりまみれの通気口を飛び回る。そして、暗闇から抜けた先には――――。
「あ――――」
世界の全てを見透かすような、かっ開かれた2つの青眼。
海を思い出させる綺麗な碧の瞳に映っていた、自分の醜い姿。
「よくも壊してくれたわね――――?」
それは必死に羽を羽ばたかせる醜いハエの姿だった。
★★★★★★★★
見逃していた、第3者の乱入。もうすぐベンジャミンのコアを壊せる――そんなことで油断した。敵は彼だけじゃないというのに。
目の前で隠していたはずの白いコアが散っていく。
1つも壊させないと誓った私のコアが、私が壊すはずだったベンジャミンのコアが、キラキラと星彩を放ちながら、粉々になっていく。
それから、1秒もなかった。
落ち込む暇も困惑も全て置いて、新たな敵の可能性も算出する。脳はフル回転。感覚も全集中。捕えたのは、光線が放たれた瞬間に、こちらをじっと見ていたハエ。蝶や蛍がいるのだ………ハエが存在することなど普通。不思議なことじゃない。
――――――でも、そいつは笑っていた。
声などは聞こえない。煩わしい虫の音しか聞こえなかった。でも、ハエの口は私たちを明確に嘲笑って、バカにするように通気口へと小さな羽を羽ばたかせた。
どんなやつだろうと、私は殺す。
地獄に落として、現世で嘲笑ってあげるの。
私はやつの行動を読み、ベンジャミンと少しだけ言葉を交わし、別の通気口へとダッシュで移動。そして、待ち構えていると。
「よくも壊してくれたわね――――?」
通気口の入り口の蓋から出てきたのは案の定あのハエだった。
――――――――
すみません。話数変更で、1話増えて全56話になります。
明日の更新も7時です。よろしくお願いいたします。
「え?」
「は?」
小さな体だからこそ、鮮明に映る2人の素っ頓狂な顔。
ああ、なんて無様な顔。
これほど滑稽なことはないな。
今の俺にはアドヴィナらは巨人。
自分のよりも何倍の大きさの体だった。
身体的能力は歴然。
パチンと叩かれれば瞬殺。俺は即死。
――――――でも、それは気づいていればの話で。
俺を見つけられなけば、どこからともなく攻撃を受けたのと同じ。困惑は絶対。『誰が、どこから攻撃してきたのか?』――それに全ての意識が持っていかれる。
今の俺は見た目こそ気持ち悪い。
だが、この姿なら、俺が勝者になれる――――。
余裕ぶっていた奴に泡を吹かせる。
反撃を封じたまま、アイツらを狩る。
「これ以上に面白いことはないぜ――――」
この声もアイツらに聞こえないまま―――………。
★★★★★★★★
俺はいつだって中の中だった。
成績は平均点、魔法も平凡、家柄もいたって普通。教科書通りのような普通過ぎる人生。
いや、平凡っていうのも面倒事に巻き込まれないし、普通に幸せよ? 普通には幸せなんだけどな………。
胸の片隅にあったのは、さらに面白さを求める欲望。
――――俺は、ずっと物足りなさを感じていた。スリリングを欲していた。でも、平凡な俺がスリリングを求めたところで、何も起きやしない。
ハードルの高いことに挑んだとしても、予想通りの失敗。運良ければ、「俺、失敗しちゃった」と言ってへらへら笑いながら戻ってこれるし、運悪ければ友人に「アイツ死んだわ(笑)」と他愛のない話をするかのように笑われる。
挑戦するだけ無駄なのは分かっていた。自分が上に立つような人間でないことぐらい、分かってる。
でも、それでも――――。
「そんな俺がここで大番狂わせとか、ちょーかっこよくね――――ッ!?」
凡人がこのデスゲームで勝っちゃったら?
あのアドヴィナを倒しちゃったら?
元の世界に、俺だけが帰っててこれちゃったら?
「俺って英雄じゃね――――ッ!?」
デスゲームの世界の構築――――それだけで大量の魔力を割いている(たぶん笑)。おそらく、外界に干渉する余裕はアドヴィナにない。
そんな余裕があるのなら、デスゲームなど行っていない。俺たちの絶望を味わいたいのなら、アドヴィナ・サクラメントは外部の人間すらもいたっぶるように無残に殺しているはずだ。
だから、アドヴィナは大量の魔力消費が免れられない時魔法は使えない。外の世界の時間は止めれない。デスゲーム世界と外の時間経過は同じだろう。
となると、この騒動を外の世界にいる人間は知っている。少なくとも、俺たちが閉じ込められたことは認知しているはず。場合によっては、デスゲームのことも知っているかもしれない。
状況を読めている尚且つ、覚醒したアドヴィナが俺たちを殺して、自分1人だけが生き残ろうとしている………。
そんな絶望的状況で?
平凡極めてる俺が帰ってきたら?
「英雄扱い間違いなしっしょッ!?」
しかし、アドヴィナを殺した場合、俺は王子たちも屠ることになる。間違いない。
………………あ? なぜ助けないかって?
いや、助けたら、俺が英雄になれないじゃん。
絶対王子に全部手柄を持っていかれるじゃん。
そりゃあ、王子を殺すなんて嫌だけどさ。
デスゲームをなかったことにする―――亜空間の破壊なんて、俺には無理だし(笑)。
王子さんには良くしてもらったけどさ………。
ラッツィンガーさんに助けられたこともあったけどさ………。
――――――――その時はその時だろ?
「アハハッ――――!!」
俺は2人のコアを壊した。それも同時に、だ。
コアの破壊後、俺は通気口を使って移動。
小さな体だからこそ、できることだった。
あと2つずつ壊さなければならない。
だが、大丈夫。ノープロブレムだ。
場所を移して、もう一度光線以外の魔法を使って壊せばいい。どちらかが『勝てる』と感じたその瞬間をかすめ取るんだ。
小さな体で俺は、ほこりまみれの通気口を飛び回る。そして、暗闇から抜けた先には――――。
「あ――――」
世界の全てを見透かすような、かっ開かれた2つの青眼。
海を思い出させる綺麗な碧の瞳に映っていた、自分の醜い姿。
「よくも壊してくれたわね――――?」
それは必死に羽を羽ばたかせる醜いハエの姿だった。
★★★★★★★★
見逃していた、第3者の乱入。もうすぐベンジャミンのコアを壊せる――そんなことで油断した。敵は彼だけじゃないというのに。
目の前で隠していたはずの白いコアが散っていく。
1つも壊させないと誓った私のコアが、私が壊すはずだったベンジャミンのコアが、キラキラと星彩を放ちながら、粉々になっていく。
それから、1秒もなかった。
落ち込む暇も困惑も全て置いて、新たな敵の可能性も算出する。脳はフル回転。感覚も全集中。捕えたのは、光線が放たれた瞬間に、こちらをじっと見ていたハエ。蝶や蛍がいるのだ………ハエが存在することなど普通。不思議なことじゃない。
――――――でも、そいつは笑っていた。
声などは聞こえない。煩わしい虫の音しか聞こえなかった。でも、ハエの口は私たちを明確に嘲笑って、バカにするように通気口へと小さな羽を羽ばたかせた。
どんなやつだろうと、私は殺す。
地獄に落として、現世で嘲笑ってあげるの。
私はやつの行動を読み、ベンジャミンと少しだけ言葉を交わし、別の通気口へとダッシュで移動。そして、待ち構えていると。
「よくも壊してくれたわね――――?」
通気口の入り口の蓋から出てきたのは案の定あのハエだった。
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すみません。話数変更で、1話増えて全56話になります。
明日の更新も7時です。よろしくお願いいたします。
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