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第2ラウンド
第32話 天の代理者
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澄みきった空色の瞳に、狂愛をやどすサングラスの男。
「フトモモ愛をかけて戦おうではないか――ッ!!」
黙っていれば誰もが腰を抜かすほど美しい彼に、気づけば“太もも愛”とかいうものを勝手にかけて戦うことになっていた。
あはは…………まさかまさか、会長様がこの変態サングラスだったとは。
確かにローマン会長は金髪で青眼で長身だった。筋肉もそれなりにあったと思う。着衣しているのは、サングラスと黒エプロンのみというほぼ全裸という際どい格好に、全部の意識が持っていかれていたが………今思えば、すぐにローマン・ロックウェルだと分かったはずだ。
でも、なぜ分からなかった――――――?
「ねぇ、あなた本当に会長さんなの?」
「ああ、疑いの余地もなく、我は学園生徒会元会長ローマン・ロックウェルである」
「…………あなたも魔法を使ったの?」
「魔法? ああ、そうだな。最初に使わせてもらったな」
「は? 最初?」
「ああ、貴様の認識から外れるという魔法を使わせてもらった。認識阻害魔法というやつだな」
「…………」
なるほど。それで私から自分のことを認識させないようにしていたのか。
「それで、その魔法を使えたのは誰のおかげ? それとも、あなた自身がこのゲームルールを崩そうとしてるの?」
そう問うと、会長は小さく笑って横に首を振る。
「我はただ魔法を使わせてもらっただけである。使用を可能にしたのは我の主だな」
「主ぃ?」
主って誰よ、それ――――。
そう問おうとしたのだが、サングラス男に手で制止させる。
「ゲーム開始時、我はただ絶望していた。参加した時点で負けが確定したデスゲームだったからな」
思い出したのだろう、デスゲームが始まったあの瞬間を悲し気に話す彼だが。
「だが、ゲーム説明中に我に救世主が現れた………我らの世界を救う輝かしい救世主がッ!」
徐々に声に熱がこもり始め、身振り手振り激しく。
「幸運なのことに、我は救世主に導かれたッ! このゲームを変える力を得たッ! 貴殿以外のプレイヤー全員を救う力をッ!」
以前の彼とは明確に違う熱血さ。サングラスの隙間から覗くアイスブルーの瞳は、煌々と燃え。
「我はローマン・ロックウェルッ! 天の使いに使命を与えられ、力を授けられた者ッ!!」
そして、鉈を私に向ける彼は高らかに宣言。
「フトモモを愛する使命を持ち、同時にアドヴィナを倒す使命も、ともにある者ッ!!」
突如サングラス男は関節をガクッガクッと不気味に動かし、西洋人形のように見開く瞳は怪しい光を放つ。
「アドヴィナよッ!! 神の意思の元、死して、我に最高のフトモモを授けたまえッ!!」
………………。
全員を救うから、死ね?
太ももを触りたいから、死ね?
あはは…………………。
――――嫌に決まってんじゃないの。
私は全員を地獄に送るためにゲームを開いた。あんたのおもちゃになるために、私はデスゲームを始めたわけじゃないの。
「にしても、犯人が天使だったとはね…………」
『我はローマン・ロックウェルッ! 天の使いに使命を与えられ、力を授けられた者ッ!!』
彼の言う天の使いは天使………なるほど、ナアマちゃんが対処できなかったはずだ。天使相手だと彼女には少々分が悪い。彼らならナアマちゃんに対抗できなくはない。
でも、意外。彼らが魔法を数回使えるようにするぐらいの力しかないなんて………神の代理者である天使なら、何だってできそうな気がしたのだけど………さすがに私たちのデスゲームは止められなかったのかしら? もしくは降りてきたのは雑魚天使だったのかしら?
「まぁ、どんな天使であれ、彼らにデスゲームを強制終了させられるのも時間の問題ね。早いとこ、天使を探しておかないと―――」
魔法使用を可能にした今、彼らもいつかゲーム設定を解析し終えて、ゲーム自体を崩し始めるはず。そうなれば、私の計画はおじゃんだ。
ああ、そうだ。ナアマちゃんから状況を教えてもらおう。もしかしたら、天使の情報を掴んでいるかも。
心の中で彼女に語り掛ける。
すると、すぐにナアマちゃんの応答があった。
『アドヴィナ様、どうしたしました?』
『今のやり取り見ていたと思うけど、プレイヤーが吐いたわ。ゲーム壊しの犯人は天使みたいよ。ナアマちゃんの方はどう? それらしい人は見つかった?』
『いえ。術式が改変された形跡は見つかっておりません』
『セイレーンは? あいつが犯人という可能性は?』
『それはないかと』
『理由を聞かせてくれる?』
『私の知る限り、天使はあんな奇行をしません』
………………奇行?
『……………今、セイレーンはどうしてる?』
『客室エリアの廊下をバイクで暴走してます。あ、今客室窓から外のストリートにバイクごと飛び降りました』
『……………』
確かにセイレーン=天使ではなさそうね。天使にしてはエンジョイしすぎだし、『デスゲームを止める』という神からの予言があったのにも関わらず、ガン無視で遊び放題。神との関係を持っているけど、犯人ではないだろう。
「我を目の前に考え事とはッ!」
その叫びとともに、テーブルを踏み台にジャンプするローマン。天井のシャンデリアに当たるか当たらないギリギリのとこまで飛び、そして、落下。鉈を振り上げ、私に襲い掛かってきた。
「たははッ! どうだねッ! 我の攻撃はッ! 考える暇もないだろうッ!」
「ええ! そう……ねっ!」
2つの鉈が交互に、時に同時に風を切って、私に襲いかかる。それら全て日本刀で捌き、打打発止が響き、火花が散る。
一見荒々しく見えるけど、俊敏かつ正確な攻撃。力と素早さ、その両方で私に迫るなんて…………これはもしや天使さんからバフもらってます?
「とぅはっ――――!! 白い肌にプルプルとしたフトモモとは!! ぅう~~んッ!! 堪らないッ!!」
机の上をコロコロと転がって避けると、何を興奮したのかオタクのように叫び散らかすローマン。
――――この変態め。
今まで散々変態に会ってきたが、限界オタクみを感じる変態ッ! 国宝級のBLに発狂する腐女子の友人と同じ!
限界突破したフトモモに対する熱狂的なその好意――――。
彼と私は似てるわ。絶望する人間の顔が好き、嫌いな人間が怒り狂うのが好き。地獄へ落ちていく彼らを見ていくのが好き―――その私の熱意と非常に似ている。好きなものに対する真っすぐな彼は自分を見ているかのよう。
それに、武士だった光兼白兎のように、このサングラス男も真っ向から勝負してくれるから、私としては楽しい。
「でも、天の使いってところが厄介なのよねっ!」
お手出し無用――――ここは神が邪魔していい領域ではない。これは私の復讐であり、私たちの戦いであり戦争。
神々が手を出すというのなら、あんたたちもプレイヤーになってちょうだい。それが最低限の礼儀でしょう?
部外者が他者のゲームに手を出すことはあってはならない。戦争であっても、関わる以上はその責任を伴う。
――――――――なのに、なのに!
天から見てるだけって臆病者じゃないのっ!? 神なら最強であり死なない。だから、ゲームをしたところで意味がない? 絶対的勝利?
「ならば、デスゲームに降りてこいッ!! 本当に死なないか確かめてやるッ!」
神の使いである天使と組んだ以上、ローマンもタヒってもらう。変態だからという理由も添えて。
「天使もよ! あんたも地獄に落として、笑ってあげるわ!」
私のゲームの邪魔をする者は問答無用で全員地獄行きだ。
鉈を振り、時にはブーメランのように投げ、攻撃を仕掛けるローマン。私はテーブルの上を、下を、駆け抜け、彼の攻撃を捌く。
ローマンの攻撃は他の人とは段違いの速さ。怪物ジーナと同レベ。ひゅんと鉈が私の耳横をよぎる。目まぐるしく展開していくため、ついていくのは結構キツイ。でも、受けた攻撃は右腕のみ。
「くっ!」
一方、ローマンの体には着実に傷が増えていた。防御装備もないため、出血が増えていく。腕は血だらけだった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
それもあってか、息は上がっている。苦しいのか眉間に皺がより、たらりと額から汗を流している。
「もうばてたの!?」
「いやッ!! まだまだァ――――ッ!!」
「そう来なくっちゃね――――ッ!!」
私はローマンから距離を取り、2階へと壁をつたってよじ登り、シャンデリアに向かって大ジャンプ。シャンデリアの上へと乗っかった。
「ハァァ゛――――ッ!!」
「っ、がッ!!」
そして、シャンデリアと天井を繋げていた鎖を斬撃で壊し、同時に追いかけてきたローマンを先に地へと蹴り飛ばす。
「綺麗な墓標立ててあげるわッ――――!!」
ローマンを飛ばしたダイニング中央は、丁度シャンデリアの落下地点。
「ああ……………」
蹴りと同時に与えた私の斬撃で、彼の足はもう使い物にならない。
もう逃げ道はなかった。
逃げれなかった。
地面に這いつくばったままの彼は、落ちてくる私を見上げて…………いや、正確には私の太ももを見つめて、小さく呟いていた。
「フトモモよ……………」
天国を映す彼のスカイブルーの瞳に魅入られながら、私はシャンデリアの地に落ちる音を聞いた。
★★★★★★★★
シャンデリアの下敷きになって、もう下半身の原型はないにも関わらず、ローマンはまだ生きていた。シャンデリアとともに華麗に降りた私は、彼の前に立ち見下ろす。
ローマンの水色の瞳はほぼ虚ろ。
だけど、最後の力で何とか見上げる。
彼の瞳にもう太ももは映っていない。
私の目を真っすぐ見ていた。
「貴様は神をも敵にするのか……………」
「ええ、そうよ」
「ほう、神を恐れないのか…………」
「ええ、全然」
デスゲームを始めた瞬間から、恐らく私は神(私を転生させた女神は除く)を敵に回した。でも、神なんて怖くない。
「アドヴィナ嬢よ、その道はろくな最期にはならないぞ」
「それ、この前も言われたわ」
ろくなのか、ろくじゃないのか。
いいのか、悪いのか。
幸せなのか、不幸になるのか。
それは、最後まで見ないと分からない。
「心配せずとも大丈夫よ。たとえ、その道がとんでもないものでも、私は進むと決めたから」
私は自分のために生きる。
あの人のために生きる。
復讐を成し遂げるために生きる。
「そうか………では、貴殿の道が良いものであることを我は願おうぞ………」
「ありがとう」
ローマンはそれだけ言うと、静かに息を引き取った。私は彼に背を向け、次の鏡へと歩き出す。
「さてと………」
この太もも変態のおかげで、ようやくルール壊しの犯人の正体を少し掴めた。犯人は天使。それも人間になりすましている天使だ。
一体、プレイヤーの偽装をした天使はどの子なのかしら――――?
「フトモモ愛をかけて戦おうではないか――ッ!!」
黙っていれば誰もが腰を抜かすほど美しい彼に、気づけば“太もも愛”とかいうものを勝手にかけて戦うことになっていた。
あはは…………まさかまさか、会長様がこの変態サングラスだったとは。
確かにローマン会長は金髪で青眼で長身だった。筋肉もそれなりにあったと思う。着衣しているのは、サングラスと黒エプロンのみというほぼ全裸という際どい格好に、全部の意識が持っていかれていたが………今思えば、すぐにローマン・ロックウェルだと分かったはずだ。
でも、なぜ分からなかった――――――?
「ねぇ、あなた本当に会長さんなの?」
「ああ、疑いの余地もなく、我は学園生徒会元会長ローマン・ロックウェルである」
「…………あなたも魔法を使ったの?」
「魔法? ああ、そうだな。最初に使わせてもらったな」
「は? 最初?」
「ああ、貴様の認識から外れるという魔法を使わせてもらった。認識阻害魔法というやつだな」
「…………」
なるほど。それで私から自分のことを認識させないようにしていたのか。
「それで、その魔法を使えたのは誰のおかげ? それとも、あなた自身がこのゲームルールを崩そうとしてるの?」
そう問うと、会長は小さく笑って横に首を振る。
「我はただ魔法を使わせてもらっただけである。使用を可能にしたのは我の主だな」
「主ぃ?」
主って誰よ、それ――――。
そう問おうとしたのだが、サングラス男に手で制止させる。
「ゲーム開始時、我はただ絶望していた。参加した時点で負けが確定したデスゲームだったからな」
思い出したのだろう、デスゲームが始まったあの瞬間を悲し気に話す彼だが。
「だが、ゲーム説明中に我に救世主が現れた………我らの世界を救う輝かしい救世主がッ!」
徐々に声に熱がこもり始め、身振り手振り激しく。
「幸運なのことに、我は救世主に導かれたッ! このゲームを変える力を得たッ! 貴殿以外のプレイヤー全員を救う力をッ!」
以前の彼とは明確に違う熱血さ。サングラスの隙間から覗くアイスブルーの瞳は、煌々と燃え。
「我はローマン・ロックウェルッ! 天の使いに使命を与えられ、力を授けられた者ッ!!」
そして、鉈を私に向ける彼は高らかに宣言。
「フトモモを愛する使命を持ち、同時にアドヴィナを倒す使命も、ともにある者ッ!!」
突如サングラス男は関節をガクッガクッと不気味に動かし、西洋人形のように見開く瞳は怪しい光を放つ。
「アドヴィナよッ!! 神の意思の元、死して、我に最高のフトモモを授けたまえッ!!」
………………。
全員を救うから、死ね?
太ももを触りたいから、死ね?
あはは…………………。
――――嫌に決まってんじゃないの。
私は全員を地獄に送るためにゲームを開いた。あんたのおもちゃになるために、私はデスゲームを始めたわけじゃないの。
「にしても、犯人が天使だったとはね…………」
『我はローマン・ロックウェルッ! 天の使いに使命を与えられ、力を授けられた者ッ!!』
彼の言う天の使いは天使………なるほど、ナアマちゃんが対処できなかったはずだ。天使相手だと彼女には少々分が悪い。彼らならナアマちゃんに対抗できなくはない。
でも、意外。彼らが魔法を数回使えるようにするぐらいの力しかないなんて………神の代理者である天使なら、何だってできそうな気がしたのだけど………さすがに私たちのデスゲームは止められなかったのかしら? もしくは降りてきたのは雑魚天使だったのかしら?
「まぁ、どんな天使であれ、彼らにデスゲームを強制終了させられるのも時間の問題ね。早いとこ、天使を探しておかないと―――」
魔法使用を可能にした今、彼らもいつかゲーム設定を解析し終えて、ゲーム自体を崩し始めるはず。そうなれば、私の計画はおじゃんだ。
ああ、そうだ。ナアマちゃんから状況を教えてもらおう。もしかしたら、天使の情報を掴んでいるかも。
心の中で彼女に語り掛ける。
すると、すぐにナアマちゃんの応答があった。
『アドヴィナ様、どうしたしました?』
『今のやり取り見ていたと思うけど、プレイヤーが吐いたわ。ゲーム壊しの犯人は天使みたいよ。ナアマちゃんの方はどう? それらしい人は見つかった?』
『いえ。術式が改変された形跡は見つかっておりません』
『セイレーンは? あいつが犯人という可能性は?』
『それはないかと』
『理由を聞かせてくれる?』
『私の知る限り、天使はあんな奇行をしません』
………………奇行?
『……………今、セイレーンはどうしてる?』
『客室エリアの廊下をバイクで暴走してます。あ、今客室窓から外のストリートにバイクごと飛び降りました』
『……………』
確かにセイレーン=天使ではなさそうね。天使にしてはエンジョイしすぎだし、『デスゲームを止める』という神からの予言があったのにも関わらず、ガン無視で遊び放題。神との関係を持っているけど、犯人ではないだろう。
「我を目の前に考え事とはッ!」
その叫びとともに、テーブルを踏み台にジャンプするローマン。天井のシャンデリアに当たるか当たらないギリギリのとこまで飛び、そして、落下。鉈を振り上げ、私に襲い掛かってきた。
「たははッ! どうだねッ! 我の攻撃はッ! 考える暇もないだろうッ!」
「ええ! そう……ねっ!」
2つの鉈が交互に、時に同時に風を切って、私に襲いかかる。それら全て日本刀で捌き、打打発止が響き、火花が散る。
一見荒々しく見えるけど、俊敏かつ正確な攻撃。力と素早さ、その両方で私に迫るなんて…………これはもしや天使さんからバフもらってます?
「とぅはっ――――!! 白い肌にプルプルとしたフトモモとは!! ぅう~~んッ!! 堪らないッ!!」
机の上をコロコロと転がって避けると、何を興奮したのかオタクのように叫び散らかすローマン。
――――この変態め。
今まで散々変態に会ってきたが、限界オタクみを感じる変態ッ! 国宝級のBLに発狂する腐女子の友人と同じ!
限界突破したフトモモに対する熱狂的なその好意――――。
彼と私は似てるわ。絶望する人間の顔が好き、嫌いな人間が怒り狂うのが好き。地獄へ落ちていく彼らを見ていくのが好き―――その私の熱意と非常に似ている。好きなものに対する真っすぐな彼は自分を見ているかのよう。
それに、武士だった光兼白兎のように、このサングラス男も真っ向から勝負してくれるから、私としては楽しい。
「でも、天の使いってところが厄介なのよねっ!」
お手出し無用――――ここは神が邪魔していい領域ではない。これは私の復讐であり、私たちの戦いであり戦争。
神々が手を出すというのなら、あんたたちもプレイヤーになってちょうだい。それが最低限の礼儀でしょう?
部外者が他者のゲームに手を出すことはあってはならない。戦争であっても、関わる以上はその責任を伴う。
――――――――なのに、なのに!
天から見てるだけって臆病者じゃないのっ!? 神なら最強であり死なない。だから、ゲームをしたところで意味がない? 絶対的勝利?
「ならば、デスゲームに降りてこいッ!! 本当に死なないか確かめてやるッ!」
神の使いである天使と組んだ以上、ローマンもタヒってもらう。変態だからという理由も添えて。
「天使もよ! あんたも地獄に落として、笑ってあげるわ!」
私のゲームの邪魔をする者は問答無用で全員地獄行きだ。
鉈を振り、時にはブーメランのように投げ、攻撃を仕掛けるローマン。私はテーブルの上を、下を、駆け抜け、彼の攻撃を捌く。
ローマンの攻撃は他の人とは段違いの速さ。怪物ジーナと同レベ。ひゅんと鉈が私の耳横をよぎる。目まぐるしく展開していくため、ついていくのは結構キツイ。でも、受けた攻撃は右腕のみ。
「くっ!」
一方、ローマンの体には着実に傷が増えていた。防御装備もないため、出血が増えていく。腕は血だらけだった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
それもあってか、息は上がっている。苦しいのか眉間に皺がより、たらりと額から汗を流している。
「もうばてたの!?」
「いやッ!! まだまだァ――――ッ!!」
「そう来なくっちゃね――――ッ!!」
私はローマンから距離を取り、2階へと壁をつたってよじ登り、シャンデリアに向かって大ジャンプ。シャンデリアの上へと乗っかった。
「ハァァ゛――――ッ!!」
「っ、がッ!!」
そして、シャンデリアと天井を繋げていた鎖を斬撃で壊し、同時に追いかけてきたローマンを先に地へと蹴り飛ばす。
「綺麗な墓標立ててあげるわッ――――!!」
ローマンを飛ばしたダイニング中央は、丁度シャンデリアの落下地点。
「ああ……………」
蹴りと同時に与えた私の斬撃で、彼の足はもう使い物にならない。
もう逃げ道はなかった。
逃げれなかった。
地面に這いつくばったままの彼は、落ちてくる私を見上げて…………いや、正確には私の太ももを見つめて、小さく呟いていた。
「フトモモよ……………」
天国を映す彼のスカイブルーの瞳に魅入られながら、私はシャンデリアの地に落ちる音を聞いた。
★★★★★★★★
シャンデリアの下敷きになって、もう下半身の原型はないにも関わらず、ローマンはまだ生きていた。シャンデリアとともに華麗に降りた私は、彼の前に立ち見下ろす。
ローマンの水色の瞳はほぼ虚ろ。
だけど、最後の力で何とか見上げる。
彼の瞳にもう太ももは映っていない。
私の目を真っすぐ見ていた。
「貴様は神をも敵にするのか……………」
「ええ、そうよ」
「ほう、神を恐れないのか…………」
「ええ、全然」
デスゲームを始めた瞬間から、恐らく私は神(私を転生させた女神は除く)を敵に回した。でも、神なんて怖くない。
「アドヴィナ嬢よ、その道はろくな最期にはならないぞ」
「それ、この前も言われたわ」
ろくなのか、ろくじゃないのか。
いいのか、悪いのか。
幸せなのか、不幸になるのか。
それは、最後まで見ないと分からない。
「心配せずとも大丈夫よ。たとえ、その道がとんでもないものでも、私は進むと決めたから」
私は自分のために生きる。
あの人のために生きる。
復讐を成し遂げるために生きる。
「そうか………では、貴殿の道が良いものであることを我は願おうぞ………」
「ありがとう」
ローマンはそれだけ言うと、静かに息を引き取った。私は彼に背を向け、次の鏡へと歩き出す。
「さてと………」
この太もも変態のおかげで、ようやくルール壊しの犯人の正体を少し掴めた。犯人は天使。それも人間になりすましている天使だ。
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