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第2ラウンド
第24話 救世主
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薄暗い部屋の中で妖艶に光る紫の瞳。
「2人で一緒にいいこと、しよっか――――?」
その瞳は寝そべる私をじっと捕えて離さない。ケヴィンはうっとりとした顔を浮かべ、馬乗りで見下ろしていた。子どもとは思えないほどの獣の顔だった。
クソガキがっ……………。
苛立ちが募り、私は穴が開くほど睨みつけるが。
「じゃあ、手始めに愛撫から❤︎」
ケヴィンは私の視線など気にすることなく、堪能するように私の肌に触れ、お腹をさぐり、さらに顔を近づけ縛っている腕をぺろりとなめる。
「うっ……んっ……!!」
さらに、手が沿い、水着の上をこれでもかと何度も触れられた。嫌だとあがくが、手錠が邪魔して、彼の手を払いのけることはできない。
「ん、触る、なっ――――!!」
噛みつこうと、上体を起こすが、ひょいっと体を避けられる。ケヴィンの肌に傷をつけることはできなかった。
「アドヴィナ? なんで、僕を拒絶するの?」
緑色の瞳はもうおかしかった。狂っていた。私が拒絶しない、私が同意する前提なのだろうか、ケヴィンは刃向かう私に困惑していた。
「僕たち、愛し合ってる仲でしょ…………?」
ケヴィンに顎をぎゅっと掴み顔を押さえられる。そして、ひっつくように覆いかぶさられ、さらに耳元で。
「君が溶けるまで………ぐちゃぐちゃになるまで………愛してあげるのに………」
とねっとりした、背筋が寒くなる気持ち悪い声でささやいてきた。
「大丈夫、痛くはしないよ。優しく愛してあげるからね~♥」
――――――――嫌だ。
あの方以外に純潔を奪われるなんて、絶対に嫌だ。
手が水着の下へと入りそうになり、私は暴れ、膝でケヴィンの尻を蹴る。だけど、びくともしない。こちらの力も弱いのだろう。緑の瞳を光らせて、にたぁといやらしい笑みを見せつける。
「じっとしてよ、アドヴィナ。傷ついちゃうよ?」
「っくぅ………」
………誰かに頼るなんてことしたくなかった。彼を頼るなんてしたくなかった。だから、ゲームを始めるまで必死に頑張ってきた。
でも、これでは姉様に笑われてしまう――。
……………これはもう仕方がない。彼に貸しを作ることになってしまうけれど、コイツに乙女を奪われることだけはしたくない。
「セイレーン、来て――――」
口から出た小さな声。近くにいるケヴィンですら、きっと聞き取れなかっただろう。
『何かあったら、僕を呼んで。僕らがどこにいても、いつだって絶対に駆けつけるから』
ゲーム開始前に言われたセイレーンの言葉。だが、たとえ聞こえても、どこにいるか分からない彼が来てくれるという確証はない。
「お願い、来て――――」
でも、それでも………。
私は藁をも掴む思いで呼んだ――――。
「おっけ――――!!」
大きすぎる返事だった。気品のかけらもない返答だった。彼の叫びとともに、入り口のドアがバキッとひびが入り、部屋の端までぶっ飛んで破片が散らばる。
室内にも関わらず鳴り響いていくエンジン音。入り口にはライトを眩しく照らす1台のバイク。
「はーい! 愛しの人に呼ばれて参りましたッ!」
蛍光水色バイクに乗ってやってきた救世主。
「アドヴィナの永遠の奴隷!! セイレーンですッ!」
それは適当なことをほざき、お茶目にウィンクをするドS変人。
バイクに乗っていることはとりあえず置いて…………まさか誰にも聞こえない小さな声で本当にやってくるとは思ってもいなかった。地獄耳なのかしら…………。
「じゃあ、インガーソルくん、アドヴィナから離れてくれるー?」
「やだね」
「そっかー!」
ケヴィンが投げた日本刀。切先はきらめきを放ち、セイレーンの頭へ一直線。しかし、セイレーンは首を傾け、涼しい顔で避けた。
「あーあ、なぁーんにも知らないって怖いなー」
「僕らの邪魔をするな。消えろ、神官」
「だってさ――――」
――――――――一瞬だった。
入り口でバイクに乗っかっていたセイレーンが、気づけばベッドの上にいた。風もなく音もなく、瞬間移動でもしたかのよう。
「――――アドヴィナを襲うなんて、彼にとって地雷だもん!」
水色と黄色の瞳を不気味に光らせ、セイレーンは見下ろしていた。戸惑ったケヴィンも即座に反応、立ち上がり武器を構える。
「アハッ☆ 僕は絶対できないねー。後が怖いもーん」
仕掛ける前に、セイレーンの膝蹴りが腹にぶち込まれるケヴィン。彼の体は吹き飛び、壁へと直撃、奇絶した。直後、手足の自由を奪っていた拘束は解かれ、私はようやく起き上がることができた。
「純潔を捨てられる前に、僕が来てよかったねぇ?」
「…………」
ベッドの上に仁王立ちのセイレーン。彼はドヤ顔で私を見下ろす。
彼に頼る――――心外ではあった。
私が主催者である以上、全て自分の力で乗り越えて楽しんでみせると決意していた。イレギュラーなことでも、対応してみせるつもりでいた。
「僕に何か言うことはー?」
「…………」
だが、セイレーンのおかげで最悪の事態を回避できたのは事実。お礼は当然…………。
「…………………どうもありがとう」
「どういたしまして♡」
短いお礼にも関わらず、満足そうに笑うセイレーン。セイレーンはさらに求めて、「僕をもっと褒めてもいいよ~」と言い寄り始めた。
だが、私はスルー。
絶賛奇絶中で、くるくると目を回すケヴィンを見やって、状況を整理する。
彼は魔法を使えた。しかも2種類の。
このラウンドでは魔法は使えない。
魔法使用不可という条件下でゲームを組んでいるから。そういう設定だから。
魔法薬はあるが、あれだけでは2種類の魔法を使えない。まぁ、もし、あの“当たり”の魔法薬を手に入れていれば、複数の魔法展開は難しくないが………その場合、こちらはその魔法にすぐに気づけた。
ともかく、バグがない限り、魔法使用などできない。でも、バグがないことを確かめた上で、このデスゲームを実行した。準備は完璧だった。
記憶を辿ると、思い出すのは第1ラウンドで出会ったあの機械巨人。魔法薬もなく、自身の体をサイボーグに改変する技術も道具もない第1ラウンド。それにも関わらず、人間だった彼はサイボーグとなっていた。
………………………。
「ナアマちゃん、緊急事態よ。ちょっと耳を貸してくれる」
『はい、いかがされました?』
行動制限をしている中、不可能を可能にする方法を1つだけ思いつく。
それは――――。
「――空間魔法、その他もろもろデスゲームを構築している魔法に干渉しているやつがいるわ」
『………………………………え?』
「どこのどいつかがやったのかは分からないけど、一時的に魔法使用を解除された」
『そ、そんな……ありえない………』
いつも冷静沈着なナアマちゃん。彼女が動揺するほど、イレギュラーな事態となっていた。
この世界の中にいる者はまず展開されている魔法に干渉なんてできない。ましてや、魔法を認識することもできない。
これでも対策を練ってきたのにも関わらず、まさかゲーム設定をいじられるとは。
「もしかして、ナアマちゃん。こっちの映像ちゃんと見えてた?」
『はい、見ていましたよ。アドヴィナ様とそこの奇絶している少年の戦闘を確認していますが…………何かあったのですか?』
「…………」
ああ、違うわ………私とケヴィンは戦っていない。戦う前に、私は魔法をかけられ、拘束された。なるほど、ナアマちゃんの映像まで改竄されたのか。
「まずいわね……………ナアマちゃん、設定した魔法にいじられた痕跡がないか確認してくれる?」
『了解しました。早急に調査いたします』
そうして、ナアマちゃんに指示をしていると、先ほど砲丸投げしてあげたカフカが戻ってきた。見ると、彼女の顔半分に血が垂れ、赤く染まっている。
彼女の帰還と同時に、ケヴィンも意識を取り戻し、体をむくりと起こした。
「どうだったぁ、ケヴィン?」
「はぁ……………失敗しちゃったよ、カフカ」
「そう、それは仕方ないわぁ」
カフカは立ち上がる私を呆れた目で見るなり、はぁと深い溜息をつく。
「アドヴィナの乙女を奪ってぇ、身も心もボコボコにしてあげようと思ってたけど……できなかったのなら、仕方がないわぁ…………まぁ、アドヴィナをボコってぇ、意識がかろうじてあるところでぇ、もう1回すればいい話なのよぉ」
「うん! それもそうだね! カフカはやっぱり天才だね!」
「えへっ★ 私の弟だから、ケヴィンも天才よ!」
「ありがと!」
この口ぶりからするに、カフカはケヴィンの魔法使用を分かっていた。2人の計画はカフカがやられる前提で、尚且つベッドのある部屋で魔法を使うと考えていた。
1人になった――――私が勝ちを確信する瞬間を逃さず、魔法を展開した。
さすが神童さんは他よりも戦略的よね…………。
「それで? あんたたち、どうやって魔法を使えるようにしたわけ?」
「アハッ! 教えてあげるもんですかぁ!」
2人はべっーと舌を出し、下瞼を下げて、あっかんべーを見せつける。完全に煽っていた。
「じゃあ、神官。あんたは私が相手してあげるぅ。邪魔した罰ぅ、ちゃんと与えてあげるわぁ」
「えぇー。僕は戦わないよー? たいさん、たいさーんっと!」
カフカの標的になってしまったセイレーンは、逃れるようにベッドの上からぴょーんとジャンプして、急いでバイクへ戻る。
「アドヴィナ、チャオっ――!! また会おうね――!!」
「クソ神官、逃げてんじゃないわよぉ――――」
そして、セイレーンは私に陽気に手を振ると、マフラー音を響かせ、バイクを飛ばし廊下へ消えていった。彼を追いかけて、カフカも廊下へと姿を消すが、一時して戻ってきた。
「……………乗り物とかムカつく、廊下出たらいなくなってたんだけどぉ」
「あんなに早い乗り物だと僕らの足も追い付かない。アドヴィナが1人になるし、僕たちには有利になる。気にすることないよ」
「そうねぇ。あんな蝙蝠ぃ、相手していてもつまらないわぁ。さぁ、ケヴィン。アドヴィナをボコって――――」
途中でうるさいおしゃべりを止めたカフカ。
油断――――それは絶対にこの世界でやってはいけないこと。さっきの私も油断、というか慢心してしまったので、人のことは言えないけれど。
敵がいる以上、油断するなど絶対にしてはならない。ましてやおしゃべりをして、隙を見せるなど愚行の極み。そんな愚者の1人――カフカは驚きを隠せないのか、緑色の目は見開き。
「…………え」
らしくもなく、困惑の声を漏らしていた。
カフカの視線の先に見えたもの。それは私に自分の弟が刺されるという最悪の光景。ケヴィンの手から日本刀が床に落ち、カランっと金属音が響く。
「あんたたち、意外とバカなんじゃない?」
さっきは魔法があったし、何もできなかった。でも、隙だらけ………魔法無しであれば、速さでは負けない1人のコイツに勝つことなんて余裕。
私の日本刀がケヴィンの腹に刺さり、血が滴る。ケヴィンは緑の瞳を左右に揺らしながらも私を見下ろす。顔をしかめ、嫉視していた。
「クソっ………………」
「アハッ☆ ざまぁ☆」
そんな彼に、私は最高の笑顔を見せつけていた。
――――――
第25話は明日7時頃に更新いたします。よろしくお願いいたします。
「2人で一緒にいいこと、しよっか――――?」
その瞳は寝そべる私をじっと捕えて離さない。ケヴィンはうっとりとした顔を浮かべ、馬乗りで見下ろしていた。子どもとは思えないほどの獣の顔だった。
クソガキがっ……………。
苛立ちが募り、私は穴が開くほど睨みつけるが。
「じゃあ、手始めに愛撫から❤︎」
ケヴィンは私の視線など気にすることなく、堪能するように私の肌に触れ、お腹をさぐり、さらに顔を近づけ縛っている腕をぺろりとなめる。
「うっ……んっ……!!」
さらに、手が沿い、水着の上をこれでもかと何度も触れられた。嫌だとあがくが、手錠が邪魔して、彼の手を払いのけることはできない。
「ん、触る、なっ――――!!」
噛みつこうと、上体を起こすが、ひょいっと体を避けられる。ケヴィンの肌に傷をつけることはできなかった。
「アドヴィナ? なんで、僕を拒絶するの?」
緑色の瞳はもうおかしかった。狂っていた。私が拒絶しない、私が同意する前提なのだろうか、ケヴィンは刃向かう私に困惑していた。
「僕たち、愛し合ってる仲でしょ…………?」
ケヴィンに顎をぎゅっと掴み顔を押さえられる。そして、ひっつくように覆いかぶさられ、さらに耳元で。
「君が溶けるまで………ぐちゃぐちゃになるまで………愛してあげるのに………」
とねっとりした、背筋が寒くなる気持ち悪い声でささやいてきた。
「大丈夫、痛くはしないよ。優しく愛してあげるからね~♥」
――――――――嫌だ。
あの方以外に純潔を奪われるなんて、絶対に嫌だ。
手が水着の下へと入りそうになり、私は暴れ、膝でケヴィンの尻を蹴る。だけど、びくともしない。こちらの力も弱いのだろう。緑の瞳を光らせて、にたぁといやらしい笑みを見せつける。
「じっとしてよ、アドヴィナ。傷ついちゃうよ?」
「っくぅ………」
………誰かに頼るなんてことしたくなかった。彼を頼るなんてしたくなかった。だから、ゲームを始めるまで必死に頑張ってきた。
でも、これでは姉様に笑われてしまう――。
……………これはもう仕方がない。彼に貸しを作ることになってしまうけれど、コイツに乙女を奪われることだけはしたくない。
「セイレーン、来て――――」
口から出た小さな声。近くにいるケヴィンですら、きっと聞き取れなかっただろう。
『何かあったら、僕を呼んで。僕らがどこにいても、いつだって絶対に駆けつけるから』
ゲーム開始前に言われたセイレーンの言葉。だが、たとえ聞こえても、どこにいるか分からない彼が来てくれるという確証はない。
「お願い、来て――――」
でも、それでも………。
私は藁をも掴む思いで呼んだ――――。
「おっけ――――!!」
大きすぎる返事だった。気品のかけらもない返答だった。彼の叫びとともに、入り口のドアがバキッとひびが入り、部屋の端までぶっ飛んで破片が散らばる。
室内にも関わらず鳴り響いていくエンジン音。入り口にはライトを眩しく照らす1台のバイク。
「はーい! 愛しの人に呼ばれて参りましたッ!」
蛍光水色バイクに乗ってやってきた救世主。
「アドヴィナの永遠の奴隷!! セイレーンですッ!」
それは適当なことをほざき、お茶目にウィンクをするドS変人。
バイクに乗っていることはとりあえず置いて…………まさか誰にも聞こえない小さな声で本当にやってくるとは思ってもいなかった。地獄耳なのかしら…………。
「じゃあ、インガーソルくん、アドヴィナから離れてくれるー?」
「やだね」
「そっかー!」
ケヴィンが投げた日本刀。切先はきらめきを放ち、セイレーンの頭へ一直線。しかし、セイレーンは首を傾け、涼しい顔で避けた。
「あーあ、なぁーんにも知らないって怖いなー」
「僕らの邪魔をするな。消えろ、神官」
「だってさ――――」
――――――――一瞬だった。
入り口でバイクに乗っかっていたセイレーンが、気づけばベッドの上にいた。風もなく音もなく、瞬間移動でもしたかのよう。
「――――アドヴィナを襲うなんて、彼にとって地雷だもん!」
水色と黄色の瞳を不気味に光らせ、セイレーンは見下ろしていた。戸惑ったケヴィンも即座に反応、立ち上がり武器を構える。
「アハッ☆ 僕は絶対できないねー。後が怖いもーん」
仕掛ける前に、セイレーンの膝蹴りが腹にぶち込まれるケヴィン。彼の体は吹き飛び、壁へと直撃、奇絶した。直後、手足の自由を奪っていた拘束は解かれ、私はようやく起き上がることができた。
「純潔を捨てられる前に、僕が来てよかったねぇ?」
「…………」
ベッドの上に仁王立ちのセイレーン。彼はドヤ顔で私を見下ろす。
彼に頼る――――心外ではあった。
私が主催者である以上、全て自分の力で乗り越えて楽しんでみせると決意していた。イレギュラーなことでも、対応してみせるつもりでいた。
「僕に何か言うことはー?」
「…………」
だが、セイレーンのおかげで最悪の事態を回避できたのは事実。お礼は当然…………。
「…………………どうもありがとう」
「どういたしまして♡」
短いお礼にも関わらず、満足そうに笑うセイレーン。セイレーンはさらに求めて、「僕をもっと褒めてもいいよ~」と言い寄り始めた。
だが、私はスルー。
絶賛奇絶中で、くるくると目を回すケヴィンを見やって、状況を整理する。
彼は魔法を使えた。しかも2種類の。
このラウンドでは魔法は使えない。
魔法使用不可という条件下でゲームを組んでいるから。そういう設定だから。
魔法薬はあるが、あれだけでは2種類の魔法を使えない。まぁ、もし、あの“当たり”の魔法薬を手に入れていれば、複数の魔法展開は難しくないが………その場合、こちらはその魔法にすぐに気づけた。
ともかく、バグがない限り、魔法使用などできない。でも、バグがないことを確かめた上で、このデスゲームを実行した。準備は完璧だった。
記憶を辿ると、思い出すのは第1ラウンドで出会ったあの機械巨人。魔法薬もなく、自身の体をサイボーグに改変する技術も道具もない第1ラウンド。それにも関わらず、人間だった彼はサイボーグとなっていた。
………………………。
「ナアマちゃん、緊急事態よ。ちょっと耳を貸してくれる」
『はい、いかがされました?』
行動制限をしている中、不可能を可能にする方法を1つだけ思いつく。
それは――――。
「――空間魔法、その他もろもろデスゲームを構築している魔法に干渉しているやつがいるわ」
『………………………………え?』
「どこのどいつかがやったのかは分からないけど、一時的に魔法使用を解除された」
『そ、そんな……ありえない………』
いつも冷静沈着なナアマちゃん。彼女が動揺するほど、イレギュラーな事態となっていた。
この世界の中にいる者はまず展開されている魔法に干渉なんてできない。ましてや、魔法を認識することもできない。
これでも対策を練ってきたのにも関わらず、まさかゲーム設定をいじられるとは。
「もしかして、ナアマちゃん。こっちの映像ちゃんと見えてた?」
『はい、見ていましたよ。アドヴィナ様とそこの奇絶している少年の戦闘を確認していますが…………何かあったのですか?』
「…………」
ああ、違うわ………私とケヴィンは戦っていない。戦う前に、私は魔法をかけられ、拘束された。なるほど、ナアマちゃんの映像まで改竄されたのか。
「まずいわね……………ナアマちゃん、設定した魔法にいじられた痕跡がないか確認してくれる?」
『了解しました。早急に調査いたします』
そうして、ナアマちゃんに指示をしていると、先ほど砲丸投げしてあげたカフカが戻ってきた。見ると、彼女の顔半分に血が垂れ、赤く染まっている。
彼女の帰還と同時に、ケヴィンも意識を取り戻し、体をむくりと起こした。
「どうだったぁ、ケヴィン?」
「はぁ……………失敗しちゃったよ、カフカ」
「そう、それは仕方ないわぁ」
カフカは立ち上がる私を呆れた目で見るなり、はぁと深い溜息をつく。
「アドヴィナの乙女を奪ってぇ、身も心もボコボコにしてあげようと思ってたけど……できなかったのなら、仕方がないわぁ…………まぁ、アドヴィナをボコってぇ、意識がかろうじてあるところでぇ、もう1回すればいい話なのよぉ」
「うん! それもそうだね! カフカはやっぱり天才だね!」
「えへっ★ 私の弟だから、ケヴィンも天才よ!」
「ありがと!」
この口ぶりからするに、カフカはケヴィンの魔法使用を分かっていた。2人の計画はカフカがやられる前提で、尚且つベッドのある部屋で魔法を使うと考えていた。
1人になった――――私が勝ちを確信する瞬間を逃さず、魔法を展開した。
さすが神童さんは他よりも戦略的よね…………。
「それで? あんたたち、どうやって魔法を使えるようにしたわけ?」
「アハッ! 教えてあげるもんですかぁ!」
2人はべっーと舌を出し、下瞼を下げて、あっかんべーを見せつける。完全に煽っていた。
「じゃあ、神官。あんたは私が相手してあげるぅ。邪魔した罰ぅ、ちゃんと与えてあげるわぁ」
「えぇー。僕は戦わないよー? たいさん、たいさーんっと!」
カフカの標的になってしまったセイレーンは、逃れるようにベッドの上からぴょーんとジャンプして、急いでバイクへ戻る。
「アドヴィナ、チャオっ――!! また会おうね――!!」
「クソ神官、逃げてんじゃないわよぉ――――」
そして、セイレーンは私に陽気に手を振ると、マフラー音を響かせ、バイクを飛ばし廊下へ消えていった。彼を追いかけて、カフカも廊下へと姿を消すが、一時して戻ってきた。
「……………乗り物とかムカつく、廊下出たらいなくなってたんだけどぉ」
「あんなに早い乗り物だと僕らの足も追い付かない。アドヴィナが1人になるし、僕たちには有利になる。気にすることないよ」
「そうねぇ。あんな蝙蝠ぃ、相手していてもつまらないわぁ。さぁ、ケヴィン。アドヴィナをボコって――――」
途中でうるさいおしゃべりを止めたカフカ。
油断――――それは絶対にこの世界でやってはいけないこと。さっきの私も油断、というか慢心してしまったので、人のことは言えないけれど。
敵がいる以上、油断するなど絶対にしてはならない。ましてやおしゃべりをして、隙を見せるなど愚行の極み。そんな愚者の1人――カフカは驚きを隠せないのか、緑色の目は見開き。
「…………え」
らしくもなく、困惑の声を漏らしていた。
カフカの視線の先に見えたもの。それは私に自分の弟が刺されるという最悪の光景。ケヴィンの手から日本刀が床に落ち、カランっと金属音が響く。
「あんたたち、意外とバカなんじゃない?」
さっきは魔法があったし、何もできなかった。でも、隙だらけ………魔法無しであれば、速さでは負けない1人のコイツに勝つことなんて余裕。
私の日本刀がケヴィンの腹に刺さり、血が滴る。ケヴィンは緑の瞳を左右に揺らしながらも私を見下ろす。顔をしかめ、嫉視していた。
「クソっ………………」
「アハッ☆ ざまぁ☆」
そんな彼に、私は最高の笑顔を見せつけていた。
――――――
第25話は明日7時頃に更新いたします。よろしくお願いいたします。
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