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俺は遊園地で目撃してしまうんです

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 朝食を終えた俺は準備をして、茉里奈と樹梨とともに街にある遊園地へとやってきた。
 因みに樹梨は片手にスケッチブックとペンを持っていた。この2つは彼女の仕事に必要だった。俺の妹、樹梨はすでに仕事をしているのだ。
 その仕事とは何か。
 
 「お兄ちゃん、これ見て??」
 「うーん??」
 
 樹梨はスケッチブックをめくり、あるページを見せてくる。
 
 「これ、さっき電車の中で描いたの」
 
 そこに書かれていたのは華やかなミニドレス。精密なレースが施されている。
 そう。彼女、樹梨は「ノルン」という名前でデザイナーをやっていた。
 
 「きれいなドレスだな」
 「この服ね、正面からチャックで開けれるようになっているの」
 「へぇ……………………」
 
 正面にチャックねぇ。珍しいな。
 すると、樹梨は少し頬を赤く染めながら言った。
 
 「これを私が着たら、お兄ちゃん襲いたくなる?? 正面から開けれるんだよ?? ベッドに押し倒した直後、すぐに私の……………………」
 「こ、こんなところで何を言ってるんだ」
 
 樹梨は小悪魔のごとく笑みを浮かべ、「お兄ちゃんだったら、私はいつ襲われてもいいよ」と俺の耳元で小さく呟く。
 本当に何言ってんだよっ!! 俺が妹を襲うなんてっ!!
 
 そして、俺たちは何個ものジェットコースターに乗り、遊園地の端から端まで回った。
 俺、絶叫系はそんなに好きじゃないんだけど。でも、2人が楽しそうにしていたので、なんとか堪えた。

 本当になら、芦ケ谷とお化け屋敷に入って、そして、恐怖で怯える芦ケ谷が俺にハグしてきて、それで……………………。
 現実逃避に芦ケ谷とのデートを想像する。
 ああ。マジで芦ケ谷とデートに行きたかった。理想と現実のギャップに思わずハァと息をつく。
 4つぐらいのアトラクションに乗った後、樹梨が「ちょっと」と声をかけてきた。
 
 「お兄ちゃん、茉里奈ちゃん。お花摘みに行ってくる」
 「ああ、分かった」「迷子にならないでねぇ」
 
 樹梨ににこやかに手を振っていた茉里奈はくるりと翻し、俺の方を向く。彼女はさっきより笑顔になっていた。
 これは……………………何か企んでいないか??
 
 「ねぇ、光汰」
 「おう。なんだ……………………??」
 「私とアレに乗ろう??」
 
 茉里奈はそう言って、あるものに指をさす。彼女の指先に沿って、目線を動かすと、そこには観覧車があった。
 
 「ああ……………………別にいいけど」
 
 そう答えたが、俺には茉里奈に対する警戒心があった。樹梨みたいなことを言ってこないか心配で。
 茉里奈に手を引かれて、俺は観覧車に乗り込む。意外と観覧車の中は狭く、向かいに座る茉里奈との距離がないような気がした。

 観覧車が高い位置までやってくると、街の景色を一望できた。晴れていて、遠くの方まで見渡せた。
 楽しんでるかな??
 俺はちらりと一緒に乗っている彼女の方に目をやる。

 ルンルン気分で座っている茉里奈は景色を眺めることなんてことはなく、ただじっと俺の方を見ていた。ニコニコ笑顔で。
 そんな彼女のスマイルに不覚にも一瞬ドキっとしてしまった俺。
 ふぅーと息をつくと、茉里奈にずっと気になっていたことを尋ねた。
 
 「なんで俺が好きになっちまったんだよ。お前ならもっといい人が……………………」
 「光汰以上のいい人なんていない」
 
 まっすぐな瞳を向けてくる。彼女はいつになく真剣だった。
 
 「絶対にいないわ」
 
 本当にきれいな瞳だな。
 
 「この先の人生で光汰以上の人は現れない。だから、私は諦めないわ。なんとしても光汰を私のものにするの!!」
 
 茉里奈はそう宣言して、にひっと笑う。
 ……………………きっと俺に好きな人がいなかったら、彼女に惚れていたことだろう。

 どう反応したらいいか分からず、「そうか」と呟く。そして、俺は話を逸らすように、関係のない話題を持ち掛け、なんとかその時間を乗り切った。茉里奈はなんともない様子。楽しそうだった。
 そうして、観覧車が一回転し、降りると、彼女が仁王立ちで待ち構えていた。
 
 「茉里奈ちゃん、ズルいよ。お兄ちゃんと観覧車2人きりって」
 
 樹梨は腰を曲げて、俺に顔を近づける。彼女はプクーと頬を膨らませていた。
 
 「……………………お兄ちゃん、キスなんてしていないよね??」
 「はぁ??」
 
 するわけない!! キスは芦ケ谷とするんだ!! ファーストキスを奪われてたまるものか。
 俺は全力で首を横に振る。樹梨は納得したのか「そう」と答えた。
 
 「喉が渇いた。ちょっくら飲み物を買ってくる」
 「……………………お兄ちゃん、逃げないでよ」
 
 俺は妹の言うことを素直に聞くなんてことはなく、自動販売機がある方へ颯爽と向かう。
 妹の怒った顔を思い返す。あれはきっと家で説教をするな。どんな理由で怒られるのかはさっぱりだが。

 俺は缶ジュースを受け取り口から取り出すと、振りかえった。
 すると、少し離れた場所に見覚えのある人がパッと目に入る。目をよく凝らしてみると、黒髪の彼女が立っていた。彼女の艶やかな髪が風でさらりとなびく。
 
 「芦ケ谷……………………」
 
 しかし、彼女の隣には……………………イケメン。身長も高く、顔を完璧に整っている黒髪の男。2人は楽しそうに談笑していた。
 俺はその様子に唖然。声も溜息も出なかった。

 俺と付き合うことができなかったから、別の男に……………………?? そんなバカな。芦ケ谷は俺のことが好きだって言ってくれたじゃないか。
 じっと見つめていると、察したのか芦ケ谷がこちらを向いてきて、
 
 「光汰くん……………………??」
 
 目が合った。かなり離れているが、俺の名前を呟く彼女の声は聞こえたような気がした。
 
 「美野里?? どうしたの??」
 「いや、あの……………………」
 「ん?? あの男がどうしたんだ??」
 
 と2人が会話している声が聞こえる。
 チキンな俺は声をかけることもなく、2人に背を向けて、その場を去った。
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