ファーストキス覚醒 ~無能だからってパーティー追放されたんだけど、再会した幼馴染にキスされ覚醒!? 今更キスをしてと言っても遅いです~

せんぽー

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第2章

28 油断

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 「うーん! 美味しかった!」

 そう言うと、ナターシャはそっとティーカップを机に置いた。

 「おばあさん、ごちそうさまでした。紅茶だけでなくクッキーまでいただいちゃって、ありがとうございます」
 「…………え、ええ。それは良かった」

 どこかぎこちないおばあさん。しかし、ナターシャは珍しい紅茶のことで頭がいっぱいだった。
 おばあさんは息をはぁと吐くと、ナターシャと向かいの席に座った。

 「あんたの名前、ナターシャちゃんといったかね?」
 「はい。そうです」
 「悪いんだがね、もう一つ頼み事をしたいんだが、いいかい?」

 ナターシャは少し悩むと、小さく頷き、

 「はい! 大丈夫です!」

 と答えていた。
 
 「それで私は何をしたらいいですか?」
 「それがね…………運んでほしいものがあってね。ちょっと離れたところにあるのよ」

 「離れたところ…………ですか」
 「離れたところとっても、そこまでじゃないんだけれどね。話しながら行こうじゃないか。私について来てくれるかい。足は遅いけれどもね」

 そうして、ナターシャはおばあさんについていく。
 人通りの少ない、少し不気味な通りを入っていった。
 前を歩くおばあさんは背中を向けたまま、立ち止まった。

 「おばあさん、運んでほしいものはどこに…………」

 その時、サッサッという服の擦れる音が聞こえてきた。
 ナターシャが周囲を見渡すと、黒いローブを着た人たちがいた。
 1人だけでなく複数人おり、ナターシャは彼らによって包囲されていた。

 「おばあさん、この人たちどなた?  知り合い?」
 
 ナターシャが問うても、おばあさんが答える様子はない。
 しかし、おばあさんはゆっくりと振り向く。彼女の顔には笑みがあった。
 
 「おばあさん、何者か知らないけれど、私はそんなに弱くないよ」
 「そうかもねぇ。私、1人だった敵対はしたくないかもねぇ」

 ナターシャはゴクリと唾を飲むと、腰をぐっと低くし構える。
 すると、おばあさんは前に手を伸ばし、

 「やれ」

 と命令。
 おばあさんの声をともに、黒いローブのやつらはナターシャに向かって何かを唱え始めた。
 どの魔法か分からない……………………まさか黒魔法?

 そう考えたナターシャは一応のため、黒魔法対処ができるⅢ級の光魔法を唱えた。
 しかし、少しすると彼女は頭を抑え始める。
 激しい頭痛なのか、唸るナターシャ。
 
 「っく、あ゛!」
 
 さらに時間が経つと、ナターシャは頭ではなく首に両手を当てていた。耐えきれなくなり、彼女は座り込む。
 すると、彼女の首にはチョーカーのような黒いあざが徐々に出現。それを見たおばあさんは甲高い笑い声を上げた。
 
 「お、おばあさ、ん、何をっ…………」

 ナターシャは近づいてきたおばあさんを見上げる。ローブの下には見覚えのある桃色の髪と、紅の瞳があった。

 「さすがのあんたも黒魔法には勝てないようね」

 その声を聞くと、ナターシャは意識を失った。



 ★★★★★★★★



 俺は行きと同じように、屋根を経由してギルドへ帰った。
 ギルドの入り口にはあの2人が入ろうとしていた。途中で俺に気づき、こちらに向かってきた。
 ナターシャがいない…………獣族の子どもたちを帰してあげているのか?

 「あ、スレイズ。あんた、どこほっつき歩いて…………」

 シュナは抱いているベルさんを見ると、ハッと息を飲み、駆け寄る。メイヴも後からついてきていた。
 
 「ベルさん、一体どうしたの?」
 「お前、アル先輩から聞いていないのか?」

 「アル先輩? …………ああ、語尾に『にゃん』ってつける先輩? 私たちまだギルド内にはまだ入っていないから」
 「そうなのか」
 「とりあえずベルさんの手当が優先だわ。スレイズ、シュナ、早く中に入りましょ」
 
 そう促され、俺たちはギルドの建物内へ。
 ベルさんはシュナとメイヴに任し、俺は状況を確認するために彼女の元へ向かうことに。
 俺は彼女がいると思われる広間に向かったのだが。
 そこでは、

 「アハハ!!」
 
 という笑い声が響いていた。その声が聞こえる方には猫耳フードの服を着た少女とおっさんたちが。
 あの人…………呑気に飲んでる。

 「アル先輩、何してんすか」
 「お! スレイズくん、戻ってきたかにゃん!」
 「はい、戻ってきたんすけれど…………さっきの頼み事は…………」

 「ああ! やったにゃーん! 大丈夫にゃーん! やつらは1つの部屋に押し込めたにゃん」
 「え?」

 押し込めた? 
 連中を部屋にほったらかしで、この人は飲んでいるのか?
 
 「何呑気に飲んでるんすか。監視しとかないと、やつらまた何をするか…………」
 「そんなに心配しなくても大丈夫にゃーんよ。部屋は中から開かないよう魔法をかけたし、やつらはスヤスヤと眠ってるから、出ることはないと思うにゃーん」

 …………なら、大丈夫…………なのか。
 俺は納得するように小さく頷く。
 まぁ、ギルマスのパーティにいる人だ。信頼していいだろう。

 「あの、マスターは…………」
 「もうすぐ来ると思うにゃん。今日は家の方で用事があったみたいだけれど、状況が状況だからねぇー。あ、ほら」
 
 入り口にはエステルの姿。彼女はいつになく焦った顔を浮かべていた。

 「スレイズ、アルから少し聞いたけれど、簡単にでいい。状況を説明してもらえる?」

 そして、俺はエステルに今までに起こったことを簡潔に説明する。
 すると、ベルさんの世話を任せていたシュナも集合。
 メイヴの方はまだベルさんを1人にするわけにはいかないため、1人で看病しているようだ。

 「シュナ、ナターシャはどこ行った?」
 「ナターシャ? さぁ…………」
 
 シュナはそんなぎこちない返事をする。
 らしくないな。パンっ、と答えてくれそうなんだが。
 
 「ナターシャは獣族の子どもたちを家に帰しに行ったんじゃないのか?」

 そう尋ねると、シュナは横に首を振った。

 「いええ、もう行ったわ。人数が人数だったし、3人全員で行ったのよ」
 「じゃあ、ナターシャは今どこに?」

 「詳しくは分からないけれど、帰る途中におばあさんと出会ったの。それでナターシャはおばあさんを手伝いに行ったわ」
 「そうか。なら、大丈夫…………」

 ――――――――――――いや、本当に大丈夫か?
 エリィサのことがあったように、身元が分かる人間じゃないと簡単に信用できない。
 エリィサとの交渉時の言葉、
 
 『ベルって女を兄貴に返す代わりに、ナターシャちゃんとエステルっていうギルドマスターを私に引き渡してちょうだい』
 
 も引っかかる。
 それに、このタイミングでおばあさんに声を掛けられた? 
 ……………………俺の心配のしすぎならいいんだが、一応ナターシャが大丈夫か確かめておきたい。

 だから、今すぐナターシャに会わないと。

 「っ!」

 俺が走り出そうとした瞬間、急激な頭痛が襲った。横から丸太でも、ぶつけられたような痛み。
 ……………………これはなんだ?
 俺は響く痛みに耐えれず、しゃがみ込む。

 「「スレイズっ!?」」

 その瞬間、あるものが見えた。
 
 ぼやりと映る誰かの顔。
 あれは……………………ナターシャか? 
 視界が徐々に広がり、ナターシャの全体が見えてくる。誰かに運ばれているようだった。
 
 おばあさんのような姿は一切ない。その代わり黒いローブを着たやつらが周囲にたくさんいた。

 一体、ナターシャはどこにいるんだ?
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